従業員のワークエンゲージメントを高める方法

従業員のワークエンゲージメントを高める方法 メンタルヘルス

仕事のパフォーマンス向上のためには、従業員が仕事にやりがいを持ち、生き生きと働く職場づくりが重要です。このような職場づくりのためにはどうしたらよいのでしょうか。

そこで近年注目されているのが「ワークエンゲージメント」です。ワークエンゲージメントは仕事に対してポジティブで充実した心理状態のことを示し、従業員のワークエンゲージメントが高ければ、個人も組織も明るく活性化し、生き生きとした職場に繋がります。それでは、従業員のワークエンゲージメントを高めるにはどうしたらよいのでしょうか。

今回は従業員のワークエンゲージメントを高める方法についてお伝えします。

ワークエンゲージメントとは

ワークエンゲージメントは、燃え尽き症候群(バーンアウトシンドローム)研究で有名なユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリが提唱した概念です。シャウフェリは次のようにワークエンゲージメントを定義づけています。

ワーク・エンゲイジメントは,仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり,活力,熱意,没頭によって特徴づけられる.エンゲイジメントは,特定の対象,出来事,個人,行動などに向けられた一時的な状態ではなく,仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である。

(引用「ワーク・エンゲイジメントに注目した個人と組織の活性化」(島津 明人、日本職業・災害医学会会誌第63巻第4号))

すなわちワークエンゲージメントとは、「活力」、「熱意」、「没頭」の3つが満たされた状態をいいます。これら3つの状態は次のような状態を示します。

【活力】
仕事をしていると活力がみなぎり、仕事に対する努力をし続け、困難に直面しても粘り強く対応できる状態
【熱意】
仕事に情熱を持ち積極的に関与し、仕事の誇りとやりがいを感じ、挑戦しようと意欲を感じている状態
【没頭】
仕事に熱心に取り組み、仕事に集中しているときの幸福感や、時間が早く経つ感覚など、仕事への没入感がある状態

このことから、ワークエンゲージメントの高い人は、仕事にやりがいや誇り感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得てイキイキとしているといえます。

従業員のメンタル状況を表す関連概念

図解引用:「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」(厚生労働省)

ワークエンゲージメントの関連概念には、バーンアウトワーカホリズム職務満足感というものがあります。これらは、活動水準(仕事に多くのエネルギーを注いでいるか)仕事への態度・認知(楽しく働いているか)の違いで、分かれます。

それぞれワークエンゲージメントと比較しながら見ていきます。

バーンアウトとの比較

バーンアウト(燃え尽き症候群)とは、それまで何かに没頭していた人が、心身の急激な疲労により燃え尽きたように意欲を失い、社会に適応できなくなってしまう状態をしめします。

バーンアウトは、活動水準も仕事への態度・認知も低い状態を示しており、ワークエンゲージメントと対極に位置づけられます。

ワーカホリズムとの比較

ワーカホリズムは過度に一生懸命強迫的に働く状態であるため、活動水準の高さはワークエンゲージメントと共通しています。

しかし、楽しく働いているかどうかを示す仕事への態度・認知は低くなります。ワーカホリズムにおいては、仕事への動機づけが「仕事から離れると罪悪感や不安を感じ、それらを回避するため仕事をせざるを得ない」となります。

一方、ワークエンゲージメントにおける動機づけは「仕事が楽しい」からというものとなります。

職務満足感との比較

職務満足感とは、仕事や職場において自分の役割などの職務についての満足感を示します。

職務満足感の高さは、仕事への態度・認知は高いものの、仕事への情熱や熱心に取り組むような活動水準が低いという点において、ワークエンゲージメントが高いという状態とは異なります。

ワークエンゲージメントの測定方法

ワークエンゲージメントの測定方法の中で最も広く使われているのが、ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale:UWES)です。

UWESはオランダ・ ユトレヒト大学のシャウフェリらによって開発され、ワークエンゲージメントを構成する「活力」「熱意」「没頭」の3要素に関する17問の質問に答えることで測定するものです。

UWES質問項目
(活力)
①仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
②職場では、元気が出て精力的になるように感じる
③朝に目がさめると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる
(熱意)
④仕事に熱心である
⑤仕事は、私に活力を与えてくれる
⑥自分の仕事に誇りを感じる
(没頭)
⑦仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる
⑧私は仕事にのめり込んでいる
⑨仕事をしていると、つい夢中になってしまう
UWES回答
0点:全くない
1点:ほとんど感じない(1年に数回以下)
2点:めったに感じない(1 ヶ月に1回以下)
3点:時々感じる(1 ヶ月に数回)
4点:よく感じる(1週間に1回)
5点:とてもよく感じる(1週間に数回)
6点:いつも感じる(毎日)

ワークエンゲージメントが高いことのメリット

ワークエンゲージメントが高い状態にあることは、個人においても組織においてもメリットがあるということが調査研究によって明らかになっています。

個人においては、心身の健康状態がよく、心理的苦痛や体調不良も少なく、睡眠の質も良いという傾向があります。仕事や組織に対しては、ワークエンゲージメントが高い従業員は、パフォーマンスや創造性が高く、自発的に学習・行動し、組織へのコミットメントが高く、離職や転職の意思が低くなる傾向があります。

そのため、企業にとって従業員のワークエンゲージメントを高める取り組みは重要といえます。

従業員のワークエンゲージメントを高めるには

従業員一人ひとりが、仕事にやりがいや誇り感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得てイキイキ働くようなワークエンゲージメントが高い職場づくりはどのように行なえばよいのでしょうか。

ワークエンゲージメントを高める要素は「仕事の資源」「個人の資源」であり、この2つを充実させることによって可能になることが調査研究によって明らかとなっています。

仕事の資源|仕事のコントロール、上司・同僚からの資源

仕事の資源とは、仕事へのモチベーションやパフォーマンスを向上させ、ストレス軽減に繋がる組織内の要因のことを言います。

例えば、仕事での裁量範囲や権限、上司・同僚からの支援などが挙げられます。

個人の資源|自尊心、楽観性など個人の心理的資源

個人の資源とは、従業員それぞれの個人が有する心理的資源のことであり、例えば、自己効力感、自尊心、楽観性、レジリエンスなどが挙げられます。

仕事の資源と個人の資源は互いに密接に関係しており、一方が向上すると、もう一方も高まるということが明らかとなっています。

そのためワークエンゲージメントを高める職場づくりのためには、組織と従業員両方へのアプローチが重要となります。まず、個人へのアプローチ方法から見ていきます。

ワークエンゲージメント|個人へのアプローチ

個人の資源を高めるための個人へのアプローチとしては、「ストレスコーピング」と「仕事のモチベーション・生産性を高めるためのスキルアップ」の2つが挙げられます。

ストレスコーピング

ワークエンゲージメントを高めるためには、まずは心身共に健康であることが重要となります。

職業生活においては、私たちは多くのストレスを経験します。それらストレスは心身に様々な影響な影響を与え、体調を崩すことにも繋がりかねません。そのためストレスを解消することが重要です。

ストレスの原因を知り適切に対処することをストレスコーピングと言います。ストレスコーピングについては下記の記事で詳しく説明しています。

仕事のモチベーション・生産性を高めるためのスキルアップ

ストレスコーピングはストレス状態を改善し健康的に過ごすことに役立つセルフケアの方法です。しかし心身共に健康であっても、仕事にやりがいを見出すことができなければ、ワークエンゲージメントが高いとはいえません。

よりワークエンゲージメントを高めるためには、仕事へのやる気などを高めることが大切です。

「やらされている仕事」を「やりがいのある仕事」へ変換する考え方についてはこちらの記事で説明しています。

個人の資源を充実させるためには企業による取り組みが欠かせません。企業としては、研修や情報発信、面談等を通じて、従業員のセルフケアやストレスマネジメントを促す産業保健活動を積極的に行うことが重要です。

ワークエンゲージメント|組織へのアプローチ

ワークエンゲージメントを高めるための組織全体へのアプローチは、ストレスチェックの集団分析結果を用いた職場環境改善が有効です。

既にお伝えしたようにワークエンゲージメントを高めるためには、「組織の資源」と「個人の資源」両方の充実が必要です。組織の資源としては、仕事のコントロールと、上司の支援を挙げましたが、この2つについてはストレスチェックの集団分析によって明らかになります。

ストレスチェックの結果から組織の資源の現状を把握することで、適切な方策を講じやすくなり、効果的な職場環境改善を実現することができます。

ストレスチェックの集団分析結果の見方と職場環境改善のアイデアについては下記の記事にて説明しています。

おわりに

ワークエンゲージメントの内容や従業員のワークエンゲージメントを高める方法についてお伝えしました。

企業全体としてワークエンゲージメントを高めるためには、従業員の心がけや努力だけではなく、企業としての取り組みが欠かせません。従業員の健康状態の向上させ、一人ひとりが仕事にやりがいを感じ生き生きと働くことができる職場作りのためには、職場環境の整備が重要となります。

(参照)
令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」(厚生労働省)
ワーク・エンゲイジメントに注目した個人と組織の活性化」(島津 明人、日本職業・災害医学会会誌第63巻第4号)
健康でいきいきと働くために:ワーク・エンゲイジメントに注目した組織と個人の活性化」(島津 明人、心身健康科学 13巻1号 2017年)


ストレスチェック8年間の経験と40万人の実績がある日本CHRコンサルティングでは、厚労省ストレスチェック制定委員メンバーの精神科産業医が運用を整備し、300社以上のストレスチェック支援経験のある組織コンサルタントが職場環境改善をサポートします。全国対応しております。お気軽にお問い合わせ下さい。

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記事監修

精神科医専門医・日本医師会認定産業医。
川崎医科大学卒、1988年渡辺クリニック(2018年改称)を開設。
その後、厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の在り方検討委員会」委員、内閣府「自殺対策官民連携協働会議」委員、公益財団法人日本精神神経科診療所協会会長など歴任。
現在、医療法人メディカルメンタルケア横山・渡辺クリニック名誉院長、大阪大学医学部神経科精神科非常勤講師、一般社団法人日本精神科産業医協会共同代表理事ほか。
ストレスチェック法制化においても、厚生労働省「ストレスチェック制度に関する検討会」「ストレスチェック項目に関する専門検討会」「ストレスチェック制度マニュアル作成委員会」などの委員を務める。

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