従業員の健康や安全を守ることは、企業にとって欠かせない責任です。とくに職場での長時間労働やメンタル不調、生活習慣病のリスクが問題視される今、企業側が主体的に環境を整えていくことが求められています。
そうした中で設置が義務づけられているのが衛生委員会です。
名前は聞いたことがあっても、実際にどんなことをしているのか、なぜ必要なのかを詳しく知る機会は少ないかもしれません。
今回は、衛生委員会の設置義務や目的、役割、構成、そして話し合われるテーマや開催ルールまで、わかりやすく整理して解説していきます。
衛生委員会とは
衛生委員会とは、労働安全衛生法第18条に基づき職場における労働者の健康と安全を守るために設置される組織で、労働安全衛生法にもとづき、常時50人以上の労働者が働く事業場では設置が義務付けられています(労働安全衛生法施行令第9条)。
企業の規模や業種にかかわらず、従業員の心身の健康を守ることは重要な責務であり、衛生委員会はその中核を担う存在です。
衛生委員会の役割と審議事項
衛生委員会の役割は、事業場内の健康障害や衛生に関するリスクを調査・審議し、事業者に意見を述べることです。具体的には、以下のような事項が審議の対象となります(労働安全衛生法第18条第1項)
- 労働者の健康障害を防止するための基本的な対策
- 健康の保持・増進を図る施策
- 労働災害の原因調査や再発防止に関すること(衛生に関するもの)
- 衛生教育や作業環境測定の計画・結果の評価
- 健康診断の結果に対する対応
- 長時間労働やメンタルヘルスへの対策 など
現代の職場では、単にケガや病気の予防にとどまらず、メンタルヘルス対策や働き方改革とも深く関わるテーマが多く取り上げられています。
衛生委員会の構成とメンバー
衛生委員会には、事業者が指名した以下のようなメンバーが参加します(労働安全衛生法第18条第2項から第4項)。
- 経営者層またはそれに準ずる者(委員長)
- 衛生管理者
- 産業医
- 労働者の中から選ばれた衛生に関する知見を持つ者
このうち、労働者側の委員の半数は、労働組合や労働者の代表から推薦された人で構成する必要があります。
つまり、衛生委員会は「会社側」「専門家」「労働者側」がバランスよく関わることで、公正な議論と現場に即した提案が可能となります。
衛生委員会の開催頻度と情報の共有
衛生委員会は月1回以上の開催が原則で、会議の内容は速やかに従業員へ周知しなければなりません。掲示板での掲示や書面配布、PDF等のデジタルツールでの配信など、方法は事業場ごとに異なります。
また、重要な議事内容については記録を作成し、3年間の保存が義務づけられています。
こうした運営体制により、衛生委員会は単なる形式ではなく、実効性のある健康づくりの仕組みとして活用されることが期待されています(労働安全衛生規則第23条)。
衛生委員会と安全委員会との違いとは?
職場の安全や健康に関わる委員会には、衛生委員会と安全委員会があります。どちらも労働安全衛生法にもとづいて設置される組織ですが、目的・対象・設置義務の要件に違いがあります。
衛生委員会と安全委員会の違い一覧
衛生委員会と安全委員会の違いを一言で言えば、衛生委員会=健康対策、安全委員会=事故防止といえるでしょう。下の表でポイントを整理してみましょう。
項目 | 衛生委員会 | 安全委員会 |
---|---|---|
目的 | 労働者の健康障害の防止と健康保持・増進 | 労働災害の防止と安全管理 |
対象となる主な内容 | 健康診断、メンタルヘルス、作業環境の衛生管理、長時間労働対策など | 機械操作、転倒・感電などの事故防止、作業手順や設備の安全対策 |
設置義務の条件は次の通りです。
※衛生委員会は労働者数50人以上の全業種の事業場で設置が必要です。
※ 安全委員会及び衛生委員会の両方を設けなければならないときは、それぞれの委員会の設置に代えて、安全衛生委員会を設置することができます。
※労働者数50人未満の事業場では安全委員会、衛生委員会のいずれも設置の義務はありませんが、委員会を設けている事業場以外の事業者は、安全又は衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければなりません。
両方必要?一本化できる?
衛生委員会と安全委員会の両方の設置義務がある事業場(例:製造業で従業員50人以上)では、安全衛生委員会として一本化することが可能です。
ただし、この場合でも、それぞれの委員会に求められる構成要件や審議事項はしっかりとカバーする必要があります。
一方、事務系のオフィスやIT企業などの非有害業種では、衛生委員会のみの設置で問題ありません。職場の特性や業種に応じて、委員会の設置形態が異なる点には注意が必要です。
まとめ
今回は衛生委員会について、設置が義務づけられる事業場の条件や、設置の目的・役割、構成メンバー、話し合うテーマ、開催ルールに至るまで、制度の全体像を整理して解説しました。
衛生委員会は、職場の健康課題を早期に把握し、従業員の健康障害の防止や、メンタルヘルス・長時間労働への対策を行うための重要な仕組みです。
健康診断や作業環境測定、衛生教育など幅広いテーマを扱い、職場の見えにくいリスクに光を当てる役割を担っています。
また、安全委員会との違いや安全衛生委員会としての一本化についても解説しました。
衛生委員会は主に健康管理・衛生対策を、安全委員会は事故やケガなどの災害防止を主な目的としています。
両方の設置義務がある事業場では、安全衛生委員会として一本化することができますが、その場合でも両方の審議事項をきちんと取り扱う必要があります。
業種や職場の性質によって、どちらの委員会が必要かは異なるため、自社の状況に応じて正しく理解しておくことが重要です。
衛生委員会は制度として設けるだけでなく、実際に機能させ、職場環境をより良くするために活用することが大切です。
(参照)安全衛生に関するQ&A(厚生労働省)
委員会を立ち上げたり、実効性のある運営を継続していくには、専門的な知見や経験が求められる場面も少なくありません。
CHRでは、そんな企業の皆さまを支援するために、衛生委員会コンサルティングサービスをご提供しています。お気軽にご相談ください。