ストレスチェック制度は、労働安全衛生法に基づき、労働者のストレス状態を定期的に把握し、メンタルヘルス不調の未然防止と職場環境の改善を目的として導入された制度です。
もともとは常時50人以上の労働者を使用する事業場で義務付けられていましたが、今後はすべての企業での実施が義務化されることが決定しており、すでに一定規模以上の職場では実施が義務化されています。
ストレスチェック制度では、質問票によって従業員のストレス状態を可視化し、高ストレス者への医師による面接指導や、集団分析を通じた職場環境の改善を行います。
今回は、ストレスチェックの目的、実施方法、そして実務の流れ(準備→実施→結果通知→面接指導→集団分析→報告)を、初めての担当者でも迷わないようにやさしく解説します。制度のポイントを押さえ、従業員のセルフケアの促進と職場の生産性向上につなげていきましょう。
ストレスチェックとは何か

ストレスチェック制度は、労働安全衛生法に基づいて導入された、働く人のストレス状態を定期的に確認するための検査制度です。2015年12月の法改正により始まり、当初は常時50人以上の労働者を抱える事業場で実施が義務付けられていました。現在では、一定規模以上の職場では年1回の実施が義務化されており、今後はすべての企業を対象に段階的に義務化が進む予定です。
この制度の目的は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぎ、職場環境を改善することにあります。質問票に回答することで、従業員は自分のストレスの度合いや要因を客観的に把握でき、必要に応じて医師による面接指導を受けることができます。
ストレスチェックでは、厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」(全57問)などが広く用いられており、仕事の負担(量やコントロールのしやすさ)・職場の人間関係・心理的ストレス反応などを多面的に評価します。回答内容は専門家によって集計・分析され、その結果は本人に直接通知されます。
また、個々の結果を踏まえるだけでなく、職場単位での集団分析も実施されます。これにより、部署やチームごとのストレス傾向を把握し、業務量の偏りや人間関係の問題など、組織的な課題の改善につなげることができます。
このようにストレスチェック制度は、単なるアンケートではなく、従業員が自分のストレス状態に気づくセルフケアのきっかけとなり、企業が職場環境を見直す組織改善のツールとして活用できる、双方にとって重要な仕組みです。
このように、ストレスチェックは、一人ひとりの気づきと職場全体の改善を同時に促す仕組みとして機能し、誰もが安心して働ける環境を維持・発展させるための重要な制度となっています。

ストレスチェックの目的と重要性
近年、多くの労働者が職場で強いストレスを抱えており、メンタルヘルスの問題が深刻化しています。厚生労働省の「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事や職業生活に関して強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者の割合は82.7%にも上ると報告されています。また、具体的なストレス要因として「仕事の失敗、責任の発生等」(39.7%)、「仕事の量」(39.4%)、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」(29.6%)などが挙げられており、多くの労働者がさまざまな理由でストレスを抱えていることが分かります。
さらに、メンタルヘルス不調により1か月以上の休業や退職に至る労働者も増加傾向にあり、企業にとっても深刻な課題となっています。このような背景のもと、職場におけるストレスを軽減し、労働者の健康を守るために導入されたのがストレスチェック制度です。本制度は、労働者が自身のストレス状態を把握し、適切な対策を講じることで、メンタルヘルス不調の未然防止を図ることを目的としています。
ここでは、ストレスチェック制度の主な目的とその重要性について詳しく解説します。
労働者のメンタルヘルス不調の未然防止
ストレスチェック制度の最も重要な目的の一つは、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことです。職場でのストレスは、長時間労働、人間関係の問題、業務量の増加など、さまざまな要因によって引き起こされます。こうしたストレスが放置されると、うつ病や適応障害などの精神的な疾患に発展する可能性があります。
ストレスチェックを通じて、労働者自身が自身のストレス状態を客観的に把握し、早期に対処することが可能になります。例えば、ストレスレベルが高いと判定された場合には、医師や産業カウンセラーといった専門家による相談の機会を提供することが推奨されます。また、企業側も、ストレスの高い労働者がどのような問題を抱えているのかを把握し、適切なサポート体制を整えることが求められます。
職場環境の改善
ストレスチェックは個人のストレス状態を把握するだけでなく、職場環境の改善にも大きく貢献します。ストレスチェックの結果を集団ごとに分析することで、特定の部署やチームでストレスが高まっている傾向があるかどうかを判断することができます。
例えば、ある部署で多くの労働者が高ストレス状態にある場合、その部署では業務量の偏りがある、上司とのコミュニケーションが不足している、労働環境が過酷であるといった問題が潜在的に存在する可能性があります。
こうしたデータを基に、企業は労働環境の改善に向けた具体的な施策を講じることができます。その結果、職場のストレス要因を減らし、従業員が安心して働ける環境を構築することが可能になります。
労働者のセルフケア意識の向上
ストレスチェック制度は、労働者自身のセルフケア意識を高める役割も果たします。多くの人は、日常的にストレスを感じていても、それがどの程度深刻なものなのかを把握できていない場合があります。
しかし、ストレスチェックを受けることで、現在の自分のストレスレベルを数値や評価として確認でき、必要な対策を講じるきっかけとなります。
また、企業側も従業員がストレスを自己管理できるよう、メンタルヘルス研修やカウンセリングの機会を提供することで、より健康的な職場づくりをサポートすることが求められます。
ストレスチェック制度には、
- 労働者のメンタルヘルス不調の未然防止
- 職場環境の改善
- 労働者のセルフケア意識の向上
という3つの大きな目的があります。これらの目的を達成するためには、企業と労働者双方が協力し、適切な対策を講じることが不可欠です。
労働者がストレスを早期に把握し、適切なケアを行うことで、健康的で働きやすい職場環境が実現します。企業にとっても、従業員の健康を守ることは生産性の向上や離職率の低下につながるため、ストレスチェックを積極的に活用し、メンタルヘルス対策に取り組むことが求められます。
ストレスチェックの実施方法と流れ
ストレスチェックは、労働者のメンタルヘルスを維持・向上させるために重要な制度です。適切な手順で実施することで、労働者自身がストレス状況を把握し、職場環境の改善にもつながります。以下に、ストレスチェックの実施手順と流れを詳しく解説します。
下記の図は、ストレスチェック実施の流れを図解したものです。実施前の運用準備から、調査実施、高ストレス者対応、職場環境改善、報告書の提出までが一連の流れとなります。それぞれ順を追って説明していきます。
ストレスチェック図解フロー
ステップ1:実施前の準備
ストレスチェックを正しく運用するためには、まず実施体制と方針を整える必要があります。
実施方針の策定
衛生委員会などで、次の項目を中心に検討します。
- ストレスチェックの目的と周知方法
- 実施時期や実施媒体(紙・オンラインなど)
- 実施者・実施事務従事者の選定
- 高ストレス者の判断基準
- 集団分析の実施方針(どの単位で集計するか など)
- 結果の保存方法と管理ルール
- 個人情報保護の取り扱い、同意取得の方法
決定した内容は社内規程として文書化し、従業員にも分かりやすく説明します。
実施者・実施事務従事者の役割
ストレスチェックの実施者になれるのは、医師・保健師・公認心理師などの専門資格を持つ者に限られます。
実施事務従事者は、調査票の配布・回収、データ入力、結果の出力・保存などの事務作業を担当します。
いずれの立場であっても、人事権を持つ職員は個人結果に関与できません。
人事評価や配置転換などに結果が使われないことを明確にしておくことが大切です。
ステップ2:質問票(調査票)の選定
ストレスチェックには複数の質問票がありますが、一般的には厚生労働省が示す「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」が広く用いられています。
この調査票では、主に次の3つの領域を評価します。
- 仕事のストレス要因(仕事量、仕事のコントロールなど)
- 心理的・身体的なストレス反応(不安、抑うつ、身体症状など)
- 周囲からのサポート(上司・同僚などの支援状況)
職場の実情に合わせて設問を追加したり、別の形式の質問票を用いたりすることも可能ですが、
衛生委員会で内容を審議し、実施者の意見を踏まえて選定することが望まれます。
ステップ3:ストレスチェックの実施
準備が整ったら、実際に従業員にストレスチェックを受検してもらいます。
実施方法(紙・オンライン)
- 紙媒体で実施する場合
質問票を配布し、記入後に回収します。回答が他者に見られないよう、封筒に入れて提出する、折りたたんで回収箱に入れるなどの配慮が必要です。 - オンラインで実施する場合
専用サイトやシステムにアクセスして回答します。自動集計ができ、大規模事業場でも効率的に運用できます。
どの方法を選ぶ場合でも、従業員が安心して正直に回答できる環境づくりが重要です。
回答内容を、実施者・実施事務従事者以外の第三者(特に人事権を持つ者)が見られない仕組みを徹底します。
なお、ストレスチェックの受検は従業員の義務ではありませんが、
自分のストレス状態を把握する良い機会であることを丁寧に説明し、未受検者には不利益がないことを前提に受検を勧奨します。
ステップ4:結果の通知と高ストレス者の選定
受検者への結果通知
実施者は回答結果を評価し、その結果を受検者本人に直接通知します。
結果とあわせて、セルフケアのポイントや社内・社外の相談窓口などの情報を添えると、実際の行動につながりやすくなります。
高ストレス者の選定
高ストレス者の選定方法は、厚生労働省のストレスチェック指針において次のように示されています。
- 「心身の自覚症状」に関する評価点数の合計が高い者
- 「心身の自覚症状」の合計が一定以上であり、かつ
「仕事のストレス要因」と「周囲のサポート」に関する評価点数の合計が著しく高い者
具体的な基準値は、実施者の助言や衛生委員会での審議を踏まえ、事業場ごとに決定します。
職場の特性によっては、補足的な面談結果なども参考にしながら高ストレス者を判断することもあります。
- 調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が高い者
- 調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が一定以上の者であって、かつ、「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」及び「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」の評価点数の合計が著しく高い者
ステップ5:高ストレス者への医師による面接指導
高ストレスと判定された従業員から申し出があった場合、事業者は医師による面接指導を実施する義務があります。
2017年に公開された『ストレスチェック制度の実施状況』によれば、ストレスチェックを受けた労働者のうち、医師による面接指導を受けた労働者は0.6%。面接指導の申出がなされにくい実情が明らかとなりました。
表5 医師による面接指導を受けた労働者の状況
| 事業場規模 | 50~99 人 | 100~299 人 | 300~999 人 | 1000 人以上 | 計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 医師による面接指導を受けた 労働者の割合 |
0.8% | 0.7% | 0.6% | 0.5% | 0.6% |
『ストレスチェック制度の実施状況』(厚生労働省)
面接指導の申出が無い場合は、面接指導の申出の勧奨や、最終的な意思確認をとることも可能です。しかしその場合、第三者にその社員が面接指導の対象者であることが知られることがないよう配慮する必要があります。
面接指導の運用で重要なポイント
- 申出があってからおおむね1か月以内に面接指導を実施する
- 勤務時間内に受けられるよう配慮する
- プライバシーが守られる静かな場所で実施する
- 面接にかかる費用は事業者が負担する
- 面接で得た情報は守秘義務を前提に扱う
面接指導で得られた医師の意見をもとに、必要に応じて就業上の措置(業務量の調整、労働時間の短縮、部署異動など)を検討します。
ステップ6:集団分析と職場環境改善
ストレスチェックの結果は、個人のケアだけでなく、職場全体の傾向を把握するためにも活用できます。
部署やチームごとに集計し、「どのグループでストレスが高いのか」「どの要因が負担になっているのか」を見ていきます。
集団分析からは、例えば次のような課題が見えてきます。
- 特定部署で業務量や残業時間が突出している
- 上司・同僚からのサポートが乏しい
- 職場のコミュニケーションが不足している
こうした結果を踏まえ、勤務体制の見直し、業務分担の調整、管理職研修、コミュニケーション施策など、
具体的な職場環境改善策につなげていくことが重要です。
ステップ7:労働基準監督署への報告と記録の保存
ストレスチェックを実施した事業場は、所定の様式により、年1回、所轄の労働基準監督署に結果を報告します。
報告を怠ったり虚偽の報告を行ったりした場合は、労働安全衛生法に基づき罰則が科される可能性があります。
また、ストレスチェック結果および面接指導記録は、原則として5年間保存する必要があります。
紙・電子媒体のいずれの場合も、第三者が容易に閲覧できないよう、適切な管理体制を整えることが求められます。
実施して終わりではなく活用までがストレスチェック
ストレスチェックは、従業員が自分のストレス状況に気づき、早めに対処するきっかけになるだけでなく、
組織として職場環境の課題を見直すための重要な材料にもなります。
適切な手順で実施し、その後の面接指導や集団分析、職場環境改善まで一貫して取り組むことで、
従業員の健康と企業の生産性向上の両方を支える仕組みとして、ストレスチェック制度を有効に活用していくことができます。
ストレスチェックを実施する際の注意点

以上、ストレスチェックの実施の流れについて説明いたしました。ストレスチェックを実施する際には、適切に運用するための重要なポイントがいくつかあります。ここでは、特に注意すべき点について詳しくまとめました。
個人情報の保護
ストレスチェックの結果は、労働者のプライバシーに関わる重要な情報です。そのため、結果の管理や保存は厳重に行い、個人情報が漏洩しないよう細心の注意を払う必要があります。また、結果を事業者に提供する際には、必ず労働者本人の同意を得ることが求められます。
不利益な取り扱いの防止
ストレスチェックの結果や、面接指導を希望したことを理由に、解雇や降格などの不利益を受けることがあってはなりません。労働者が安心して受検できる環境を整えることが、企業の責任として重要です。
実施体制の整備
ストレスチェックを適切に実施するには、医師や保健師などの「実施者」と、事務手続きを担う「実施事務従事者」の役割を明確にし、適切な体制を整えることが必要です。
労働者への周知と教育
ストレスチェックの目的や意義、受検の流れについて、労働者に十分な説明を行い、理解を深めてもらうことが大切です。これにより、受検率の向上や、結果の効果的な活用につながります。
結果の活用と職場環境の改善
ストレスチェックの結果を集団ごとに分析し、職場のストレス要因を明確にすることで、適切な改善策を講じることができます。これにより、労働者のメンタルヘルスの向上や、業務の生産性向上が期待できます。
これらのポイントを踏まえ、適切にストレスチェックを実施し、その後の対応をしっかり行うことで、労働者の健康維持と職場環境の改善につなげていきましょう。
参照
ストレスチェック実施マニュアル(厚生労働省)
令和5年労働安全衛生調査(実態調査)(厚生労働省)
ストレスチェック実施後の報告書の提出について(厚生労働省)









