近年、企業内でメンタルヘルスの問題を抱える従業員が増えており、これが組織全体の生産性の低下や他の従業員への負担増加の一因となっています。
そうしたなかで、職場復帰を支援する取り組みが進んでいるものの、復職の可否を判断したり、職場環境を整えるのは容易ではありません。復職後に再発や症状の再燃が多く見られることも大きな課題です。これは、十分に回復していない状態で職場に戻ることや、適切なサポートを提供するのが難しいためです。そこで、職場復帰を成功させ、再発を防ぐための有効な手段としてリワークプログラムがあります。
この記事では、リワークプログラムの支援内容や効果、メリット・デメリット、リワークプログラムを受けられる場所についてや、企業のメリットについても解説いたします。
リワークプログラムとは
リワークプログラムとは、主にメンタルヘルスの問題や精神疾患により休職中の個人が、再び職場に戻ることを助けるための一連のプログラムのことを指します。リワークプログラムの目的は、単に職場に戻ることだけではなく、復職後も再発を防ぎながら安定して働き続けられることにあります。
リワークプログラムの概要
厚生労働省の調査によると、就業において強い不安、ストレス等を感じる労働者は約6割に上っており、労働者全体の0.6%がほぼ毎年メンタル不調が原因で休職しています。
メンタルヘルス不調からの回復後、以前と同じように職場復帰することは容易ではありません。生活リズムの乱れ、集中力や体力の低下、対人関係への不安など、様々な課題が存在します。リワークプログラムは、これらの課題に段階的に取り組み、職場復帰に向けた準備を支援します。
図)過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者割合
参考資料 職場復帰支援の手引き(厚生労働省)
支援内容
リワークプログラムでは、生活リズムの調整、自己管理能力の向上、心身の健康回復、就労スキル習得、コミュニケーションスキルの向上などの支援を行います。
以下に一般的なリワークプログラムの内容を紹介します。
生活リズムの安定
- 毎日決まった時間に通所して、規則正しい生活習慣を整える
- 睡眠・食事・活動量などのセルフモニタリング
体力・集中力の回復
- 軽い運動(ストレッチ、ウォーキング、ヨガなど)
- 作業トレーニング(軽作業や集中力が必要な課題)
認知行動療法などのストレスマネジメント
- ストレスや自分の思考パターンを理解して対処する力をつける
- 感情コントロールやセルフモニタリングの練習
- リラクセーション法(呼吸法、マインドフルネスなど)
コミュニケーショントレーニング
- アサーション(自己主張)の練習
- ロールプレイやグループディスカッション
- 職場での会話の仕方、報告・連絡・相談の練習
職場復帰シミュレーション
- 疑似出勤(定時に来所・作業する)
- 実際の職務内容に近い課題をこなす
- 働く上での自己理解を深める(強み・弱みの整理)
再発予防プランの作成
- 自分のストレスサインを知る
- 調子が悪くなったときの対応策をリスト化する
- 復職後の支援体制や相談先の確認
関係者との連携
- 主治医、産業医、職場の人事との面談練習や三者面談
- 復帰に向けたステップやスケジュール調整
効果とメリット
リワークプログラムには多くの利点があります。参加者はこのプログラムを通じて自身の課題を把握し、メンタルヘルスの回復だけでなく、就業に適応する自信が高まることが期待されます。また、プログラムの導入により、復職後にスムーズに業務に戻れる環境が整います。
リワークプログラムには、以下のような効果が期待できます。
生活リズムが整う
決まった時間に通うことで、自然と朝起きる習慣が身につき、働く準備が整ってきます。働くための基礎体力や集中力の回復も期待できます。
「ストレスパターン」が見えてくる
認知行動療法やセルフモニタリングで、自己理解が深まり自分が調子を崩しやすい状況に気づけるようになります。
コミュニケーションスキルが身につく
報連相、アサーションなど、職場で役立つ対人スキルを練習することで、人間関係の不安を軽減することができます。
職場復帰のスムーズさ
段階的な復職支援が行われるため、急な復帰による不安を軽減し、職場に適応しやすくなります。実際の業務に近い環境での訓練が行われることも効果的です。
社会的なつながり
プログラムを通じて同じような経験を持つ人々と交流する機会が増え、孤立感や不安が軽くなり、前向きな気持ちを維持しやすくなります。
再発リスクを減らせる
ストレス対処法や自己理解(認知行動療法など)を学ぶことで、調子を崩しやすいパターンに気づき、早い対策が取れるようになります。
リワークは、ただ体力をつけるだけではなく、「再び安心して働ける自分」を取り戻す場です。
復職を焦るより、「リワークに通って準備を整える」ことが、長く安定して働くための近道になります。
デメリットと課題
一方で、リワークプログラムにはいくつかの課題も存在します。プログラムが通常3〜4ヶ月間続くため、復職までに時間がかかる点や、参加に伴う費用負担が懸念されます。特に長期の休職状態が続くと、経済的な不安定感が増し、参加者が途中でプログラムから離れてしまうリスクもあるため、事業者や支援者側での理解と配慮が必要です。
リワークプログラムのデメリットは以下の通りです。
費用がかかる場合がある
医療機関や民間のリワークでは、保険適用外のプログラムもあり、自費での参加になるケースもあります。
通所前に「費用・支援制度の有無」を確認しておくと安心です。
時間的な負担がかかる
リワークは毎日〜週数回の通所が基本です。
生活リズムが整う反面、「家から遠い」「体力が戻っていない」場合は通うのが負担になることもあります。
効果には個人差がある
「復職できた」「自信がついた」と感じる人が多い一方で、進み方や成果は人それぞれです。
焦らず、自分のペースで取り組むことが大切です。
リワークプログラムを受けられる場所は?
リワークプログラムを受けられる場所は、主に以下のようなところがあります。
企業内プログラム
勤務先によっては、リワークプログラムを提供している場合があります。人事部門などに確認してみましょう。
医療機関やカウンセリングセンター
長期の病気やメンタルヘルスの回復を支援する専門機関もあります。医師やカウンセラーとの連携が重要です。
公的機関・自治体
一部の自治体では、社会復帰支援を行っています。地域の支援サービスを調べてみましょう。
民間企業や支援団体
民間でもリワークプログラムを提供している団体があります。専門的なサポートを受けたい場合におすすめです。
企業のリワークプログラム導入の効果
リワークプログラムは、従業員本人にとって有益であるだけでなく、企業にとっても多くの利点があります。
休職者のスムーズな復職をサポート
職場復帰の前にリワークで準備を整えることで、復職後のトラブルや再休職のリスクを軽減でき、業務の安定化と生産性の維持につながります。
従業員への支援姿勢を示せる
「人を大切にする姿勢」という印象は、従業員の安心感や定着率アップにもつながります。従業員の安心感が高まり、エンゲージメントや定着率の向上も期待できます。
職場環境改善のきっかけになる
リワークを通じて、従業員が抱えていたストレス要因や課題が明らかになる場合もあります。それを踏まえて対応を検討することで、組織全体の職場環境の改善にもつながります。
採用・ブランディングにも効果的
メンタルヘルスに配慮した制度があることは、企業の信頼性や魅力を高めるポイントになります。
リワークプログラムは、従業員の復職支援にとどまらず、企業の持続的な成長と職場環境づくりの一環として有効な手段です。まずは外部機関との連携や社内制度の整備から検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
リワークプログラムの主な目的は、参加者が自信を持って職場に復帰できるようにすることです。プログラムを通じて、メンタルヘルスの改善や職場への適応力を高めることが期待されます。また、再休職のリスクを低減する役割を果たします。
リワークプログラムを通じた復職が成功すると、職場にも長期的な良い影響があります。従業員の定着率が向上すると、会社全体の生産性が向上し、組織の体制が安定します。また、職場全体のメンタルヘルスへの意識が高まることで、職場環境の改善につながります。