健康管理時間とは?高度プロフェッショナル制度と労働基準法の関係をわかりやすく解説

人事労務担当者向け

健康管理時間とは、対象となる労働者が事業場内で過ごした時間事業場外で実際に働いた時間を合計したもので、従業員の健康リスクを把握・管理するための指標です。

2019年に導入された高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)では、労働時間の規制が適用されない代わりに、企業がこの健康管理時間を客観的に把握することが義務付けられています。
上限は1か月で100時間、3か月で240時間と定められており、勤務間インターバルの確保や医師による健康面談など、健康を守るための措置が必要です。

なお、この健康管理時間の法的な適用対象は、高プロ制度の対象者に限定されており、一般従業員には直接は適用されません。
ただし、一般従業員であっても長時間労働や健康リスクの把握は、労働安全衛生法や36協定に基づく管理が求められます。
そのため、企業にとって健康管理時間の考え方は、すべての従業員の健康維持や働き方改革を進めるうえでも有効な考え方といえます。

今回は、健康管理時間の定義や上限、算出方法、労働基準法との違いを整理し、企業が実務で押さえておくべき管理体制と運用ポイントをわかりやすく解説します。

健康管理時間とは?定義と導入の背景

健康管理時間は、労働時間を直接規制するためのものではなく、従業員の健康を守るために企業が把握すべき時間として定められた新しい考え方です。 特に高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)の導入を機に、企業がどのように従業員の働き方を把握し、健康を維持するかが注目されています。

健康管理時間の基本的な意味

健康管理時間とは、従業員が「事業場内にいた時間」と「事業場外で労働した時間」を合計したものを指します。 これは単なる労働時間の集計ではなく、長時間労働による健康リスクを管理するための指標として設けられています。

たとえば、オフィスでの勤務時間だけでなく、自宅でのリモートワークや出張中の作業時間なども含まれます。 労働時間規制の適用外であっても、健康への影響を見逃さないための仕組みが健康管理時間です。

 健康管理時間は働きすぎを防ぐための時間管理ではなく、健康を守るための観察指標です。 労働時間の制限がない人にも、健康確保の観点から記録が求められる点が特徴です。

制度導入の背景と目的

健康管理時間が注目されるようになった背景には、長時間労働による過労死・健康被害の防止という社会的課題があります。 2019年4月に施行された働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制や有給休暇取得義務と並び、高度プロフェッショナル制度も導入されました。

高度プロフェッショナル制度は、成果や能力で評価される働き方を推進する一方で、労働時間の制限がなくなるという側面を持ちます。 そのため、働き方の自由と健康リスク管理を両立させるために生まれたのが健康管理時間の仕組みです。

厚生労働省は、健康管理時間の把握を義務化することで、制度導入企業における長時間労働の防止と、従業員の心身の健康維持を図っています。

まとめ
・健康管理時間は事業場内+事業場外での労働時間の合計
・労働時間規制外の働き方にも健康リスクを可視化する仕組み
・背景には長時間労働対策と、働き方改革の一環としての健康確保があります

高度プロフェッショナル制度と健康管理時間の関係

高度プロフェッショナル制度は、成果に応じた報酬を重視し、労働時間の制限を適用しない特例制度です。 しかし、時間に縛られない働き方は、裏を返せば健康リスクを見えにくくするという側面もあります。 そこで導入されたのが健康管理時間の把握義務です。

高度プロフェッショナル制度とは

高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)は、労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提として一定の年収要件と専門性を持つ労働者に対し、労働時間や休日、深夜の割増賃金の規定を適用しない制度です。 対象者は主に、金融商品の開発や資産運用、研究開発など、成果で評価される専門職が中心です。

主な条件は次のとおりです。

・職務の範囲が明確に定められていること
・年収が平均給与額の3倍を相当程度上回る水準(おおむね1,075万円以上)であること
・本人の同意と労使委員会での決議があること

この制度の目的は、時間ではなく成果で評価する新しい働き方の実現です。 しかし、時間規制がなくなることにより、長時間労働の常態化という懸念が生じます。 そこで、企業には健康管理時間を把握する責任が課されています。

健康管理時間の上限と健康確保措置

健康管理時間および健康確保措置には、厚生労働省の指針により目安が示されています。

・1か月の健康管理時間の上限:100時間
・3か月間の合計上限:240時間
・健康管理時間が80時間を超えた場合:医師による健康診断を実施
・勤務間インターバル:11時間以上
・深夜業の回数:月4回以内
・年1回以上、継続2週間の休暇を付与

これらの措置は、時間規制のない働き方でも健康を守るための最低限のラインです。 企業は、労使委員会で休憩時間の扱いや事業場外労働の算定方法を決定し、客観的なデータ(入退館記録やPCログなど)で健康管理時間を把握する必要があります。

健康管理時間の算出方法と管理実務

健康管理時間の算出では、以下のようなデータを活用します。

  • 入退館システムやICカードによる滞在時間の記録
  • パソコンのログオン・ログオフ時刻
  • リモートワーク時の業務開始・終了時刻の記録

これらを組み合わせて、事業場内外での実質的な滞在・労働時間を集計します。 単なる自己申告ではなく、客観的な方法で把握することが求められる点がポイントです。

特に在宅勤務では、勤務と私生活の境界が曖昧になりがちです。 そのため、勤務時間のログを自動記録するシステムを導入したり、労使間でルールを明確にしておくことが重要です。

まとめ
・高プロ制度では労働時間規制が適用されない代わりに、健康管理時間の把握が必須
・上限は「1か月100時間」「3か月240時間」
・勤務間インターバル・休暇付与・医師面談など健康確保措置が義務化
・客観的データで記録し、長時間労働を未然に防ぐ仕組みづくりが求められる

労働基準法における労働時間の基本

健康管理時間を正しく理解するためには、まずその前提となる労働基準法における労働時間の基本を押さえておく必要があります。 労働基準法は、すべての労働者の健康と安全を守るために定められた最低限のルールです。 ここを正しく理解しておくことで、健康管理時間がどのような位置づけにあるのかがより明確になります。

法定労働時間・休憩・休日の基準

労働基準法では、1日の労働時間を8時間以内、1週間の労働時間を40時間以内と定めています。 この時間を法定労働時間と呼び、これを超える労働は時間外労働として扱われます。

休憩時間についても基準があり、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与える必要があります。 また、休日は毎週少なくとも1日、もしくは4週間で4日以上設けることが義務付けられています。

一部の業種(例えばサービス業や医療など)では、労働基準法により例外的に週44時間まで働くことが認められています。
この特例は、常時10人未満の労働者を使用する事業場が対象です。

要点整理:
・1日8時間、週40時間が原則の法定労働時間
・休憩は6時間を超えると45分、8時間を超えると1時間以上
・休日は週1回以上、または4週間で4日以上が必須

時間外労働と36協定の仕組み

企業が法定時間を超えて労働をさせる場合、必ず「36(サブロク)協定」を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。 これは、会社と労働者の代表(労働組合など)が「どの程度の残業を認めるか」を協議して取り決めるものです。

時間外労働協定は、労働基準法第36条に定めがあることから、一般に「36(サブロク)協定」とも呼ばれています。

36協定がある場合でも、原則として1か月45時間、年間360時間が上限です。 ただし、繁忙期などやむを得ない事情がある場合には「特別条項付き36協定」を結ぶことができます。

この特別条項を適用しても、時間外労働は年720時間以内複数月平均で80時間以内月100時間未満といった上限が厳格に設定されています。 また、月45時間を超過できるのは年6回までと定められています。

覚えておきたい基準:
・36協定がない残業は違法となる
・特別条項を結んでも上限は「年720時間」「複数月平均80時間」「月100時間未満」
・違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される

長時間労働のリスクと厚労省の基準

長時間労働は、従業員の健康を損なうだけでなく、企業の信頼にも影響を与えます。 厚生労働省では、月80時間を超える時間外労働があった場合には、医師との面談を行うよう努めることを推奨しています。 これは、過労死ラインとして知られる基準値です。

もし企業がこの基準を超える労働を常態化させた場合、法令違反だけでなく、労働災害認定や企業名公表などの社会的リスクにも発展します。 健康を守るためには、時間外労働の管理だけでなく、職場環境の見直しが不可欠です。

この章のまとめ
・労働基準法は「健康を守るための最低基準」
・法定時間を超える場合は36協定の締結が必須
・月80時間超の残業は健康リスクが高まり、医師面談が必要
・長時間労働の放置は企業の社会的信用にも関わる

健康管理時間と労働時間管理の違いを理解する

健康管理時間は、労働時間とは目的が異なります。 労働時間が賃金の支払い・労働契約上の管理に関わるのに対し、健康管理時間は健康リスクを把握するための時間管理です。 この2つを混同すると、制度設計や運用で誤解が生じやすくなります。

健康管理時間=健康リスク把握のための時間軸

健康管理時間は、成果型や裁量労働型の働き方など、労働時間の制限を設けにくい働き方において、従業員の健康状態を見える化するために使われます。 たとえ法律上の労働時間に該当しなくても、身体的・精神的な負荷を考慮するために、事業場内外の滞在時間を計測するのです。

つまり、健康管理時間は法的拘束のある時間ではなく、健康を守るための観測データといえます。 これにより、企業は過重労働の兆候を早期に発見し、必要に応じて医師面談や勤務調整を行うことができます。

・労働時間=契約・賃金・残業管理のための時間
・健康管理時間=心身の健康状態を把握するための時間
・目的が異なるため、運用ルールも別に設ける必要がある

企業が行うべき健康管理時間のモニタリング体制

健康管理時間の管理には、明確な仕組みづくりが欠かせません。 特に成果重視型の働き方を導入している企業では、従業員がどれだけ働いているかを可視化することが難しくなりがちです。

効果的な方法としては、入退館記録やPCログ、在宅勤務システムの稼働データを統合する仕組みが挙げられます。 これにより、勤務状況の客観的把握が可能になります。

また、健康管理時間のモニタリングは人事部門だけでなく、衛生委員会や産業医とも連携して行うのが理想です。 月次レポートとしてデータを共有し、長時間勤務傾向のある社員を早期にフォローアップできる体制を整えることが求められます。

モニタリング実務のポイント:
・入退館・PCログ・勤怠データを組み合わせて可視化
・産業医・衛生委員会と連携し、定期的にレビュー
・長時間化の兆候を見逃さないデータ活用が重要
まとめ
健康管理時間は健康リスクを測るための指標であり、労働時間とは目的が異なる
・客観的データでモニタリングし、過重労働を早期発見
・衛生委員会・産業医と連携し、健康管理体制を整備することが鍵

企業が取るべき健康管理時間への実務対応

健康管理時間を正確に運用するためには、制度理解とあわせて、現場でどう記録・運用するかを明確にすることが欠かせません。

特に入退館やPCログなどの複数データを組み合わせると、精度が高まり、在宅勤務や直行直帰にも柔軟に対応できます。

用開始時には試行期間を設けて記録ルールを検証し、労使委員会の決議と衛生委員会でのモニタリングを連動させることで、より安定した体制を築くことができます。

健康管理時間の制度を形だけで終わらせず、日常業務に落とし込むことがポイントです。
記録ルールはシンプルに、従業員が迷わず入力できるようにし、自己申告を認める場合の条件も明確に定めましょう。
記録データは日次で可視化し、月次でレビューする仕組みにすることで、過重労働の予防と早期改善につながります。

事業場内の滞在時間の把握

事業場内にいた時間は、客観的な方法で記録する必要があります。具体的には、次のような方法が認められています。

  • タイムカードによる打刻記録
  • 勤怠管理システムのログイン・ログアウト記録
  • ICカードによる入退室・出退勤時刻の記録

また、休憩時間など労働していない時間を除外すると決議している場合は、休憩の開始・終了時刻も必ず記録する必要があります。
これを怠ると、決議違反となり制度の法的効力を失うおそれがあります。

事業場外での労働時間の把握

外出や出張など、事業場外での労働時間も原則として客観的に記録する必要があります。
ただし、次のようなやむを得ない場合に限り、本人の自己申告による記録が認められます。

  • 顧客先への直行直帰で打刻ができない場合
  • パソコンを使わない業務(資料確認・打ち合わせなど)を行う場合
  • 海外出張など、勤怠システムにアクセスできない場合

自己申告を認める場合は、その条件や手続きを労使委員会の決議で明確に定めることが必要です。
記録の一貫性を保つため、申告内容は定期的に確認・照合する仕組みを整えると良いでしょう。

休憩時間など労働していない時間の扱い

健康管理時間から休憩などの労働していない時間を除く場合は、その内容と性質を具体的に定め、客観的な記録方法を決めておく必要があります。
手待ち時間を休憩とみなしたり、一律に一定時間を除くことは認められません。
除外時間を明確にすることで、健康管理時間の算出に一貫性が生まれます。

日々・月ごとの記録と集計

企業は、対象労働者ごとに毎日の健康管理時間の開始・終了時刻と時間数を記録し、少なくとも月単位で合計時間を集計する必要があります。
これは、労働安全衛生法に基づく医師面談など、健康リスクの早期発見にも役立ちます。
また、従業員からの求めがあれば、自分の記録内容を確認できるようにしておくことが望ましいです。

労使委員会における対応

高度プロフェッショナル制度を導入する際には、事業場に設置された労使委員会での決議が不可欠です。
委員会では、次のような内容を明確に定め、議事録として残しておく必要があります。

  • 健康管理時間の把握方法
  • 休憩など除外時間の扱い
  • 自己申告を認める条件と手続き
  • 記録開示の方法
  • 健康状態の把握と面談実施の方針

労使委員会の決議が不十分または曖昧な場合、制度の法的効果を失うおそれがあります。
制度導入時には、実務担当者・産業医・システム担当が連携して、決議内容を現場運用に落とし込むことが重要です。

健康管理時間は、事業場内外の労働実態を客観的に把握するための重要な仕組みです。
把握方法・除外時間・自己申告のルールはすべて労使委員会の決議で明確にし、記録は日単位・月単位で管理しましょう。
客観的な記録が整えば、健康リスクの早期発見や医師面談の判断にも活かせます。
勤怠システムの整備や定期的なモニタリング体制を構築することで、法令遵守と働きやすい環境づくりの両立が可能になります。

おわりに

健康管理時間は、単なる制度対応ではなく、これからの時代の働き方を左右する重要な仕組みです。 労働時間の枠を超えて、従業員の健康状態を可視化し、早期に対策を取ることができれば、 企業と従業員の双方にとって持続的な働き方が可能になります。

法令遵守はもちろんのこと、健康管理時間のデータを活かして、 生産性向上・離職防止・人材定着などの経営課題にアプローチすることが、今後の企業に求められます。

参照
高度プロフェッショナル制度の概要(厚生労働省)
高度プロフェッショナル制度の健康管理時間の把握について(厚生労働省)
高度プロフェッショナル制度わかりやすい解説(厚生労働省)
高度プロフェッショナル制度届出にあたって(厚生労働省)
時間外労働の上限規制わかりやすい解説(厚生労働省)

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