ストレスマネジメントとは?具体的なやり方と企業に導入する方法

メンタルヘルス

多くの人を悩ませるストレス。ストレスに対処することについて、まず思い浮かぶのが、気分転換をする、趣味など好きなことに集中するなど、「ストレス解消」が思い浮かぶのではないでしょうか?

確かにそれも有効ではありますが、ストレスの原因から何が問題なのか、それに対応する方法をとることが重要です。

精神的・肉体的に負担となるストレスをいかに処理したらよいのか、その対策が「ストレスマネジメント」といいます。

今回はストレスとは何かを明らかにし、ストレスマネジメントの方法について説明します。

ストレスとは

ストレスとは何か

「ストレスがかかる」の「ストレス」とは、外部の刺激によって心理的・身体的に緊張状態が生じることです。

外部からの刺激をストレッサーといい、ストレッサーに適応しようとして、こころや体に生じた様々な反応をストレス反応と言います。

ストレッサーは主に次の4つに分けることができます。

【物理的ストレッサー】 温度による刺激、騒音などによる刺激
【化学的ストレッサー】 酸素の欠乏・過多、薬害、栄養不足など
【生物的ストレッサー】 病原菌などによる病気によるもの
【精神的ストレッサー】 人間関係のトラブル、精神的な苦痛、怒り、不安、憎しみ、緊張など

このようなストレッサー、すなわちストレスの基に対処することを、ストレスコーピングといいます。

ストレッサーのうち、一般的に「ストレスがたまる」と感じ、人を悩ませている原因のほとんどは「精神的ストレッサー」によるものです。このような精神的・肉体的に負担となるストレスをいかにして処理したら良いのでしょうか。次にストレスマネジメントやストレスコーピングについて説明します。

ストレスマネジメントの具体的な方法

ストレスマネジメントとは、日常生活や仕事の中で避けられないストレスと上手に向き合い、心身の健康を維持するための手法です。適切なストレスマネジメントを行うことで、ストレスが原因で起こる心身の不調を防ぎ、生活の質を向上させることができます。

ここでは、ストレスマネジメントの具体的な方法として 「セルフモニタリング」「ストレスコーピング」 の二つについて詳しく説明します。

セルフモニタリング(自己観察)

セルフモニタリングとは、自分の心や体の状態を意識的に観察し、ストレスの原因や影響を把握する方法です。日常の出来事に対する自分の反応を記録し、客観的に振り返ることで、ストレスを軽減するための対策を立てやすくなります。

セルフモニタリングの具体的な方法

  1. ストレス日記をつける

    毎日の出来事とそれに対する自分の感情や身体の変化を記録することで、どのような状況でストレスを感じるのかを明確にできます。例えば、次のような項目をノートやスマートフォンのメモに記録すると良いでしょう。

    • ストレスを感じた出来事(例:会議でのプレゼン)
    • そのときの感情(例:不安、焦り)
    • 身体の反応(例:動悸、胃の痛み)
    • その後の行動(例:深呼吸をした、甘いものを食べた)
  2. ストレスのパターンを分析する

    記録を続けることで、特定の状況や人間関係、環境がストレスの要因になっていることに気づくことができます。また、特定の時間帯(例:月曜日の朝、仕事終わり)にストレスを感じやすいことも判明するかもしれません。

  3. ストレスの対処法を試し、効果を検証する

    例えば、ストレスを感じたときに「深呼吸をする」「好きな音楽を聴く」「軽く体を動かす」などの対処法を実践し、それが効果的だったかどうかを振り返ることで、自分に合ったストレス解消法を見つけることができます。

ストレスコーピング(対処法)

ストレスコーピングとは、ストレスを感じた際に適切に対処するための方法を指します。ストレスへの対応方法は 「問題焦点型」「情動焦点型」「認知的再評価型」 の3つに分けられます。

問題焦点型コーピング(ストレスの原因を解決する)

問題焦点型コーピングは、ストレスの根本的な原因に働きかけ、問題を解決することでストレスを軽減する方法です。

例えば、仕事の業務量が多すぎてストレスを感じている場合、以下のような対策が考えられます。

  • 業務の優先順位を見直す

    「重要だけど急ぎではない仕事」を後回しにし、最も優先すべき業務に集中する。

  • タスクを細かく分ける

    一度に取り組む作業量を減らし、達成感を得ながら進めることで負担を軽減する。

  • 上司や同僚に相談する

    業務量が限界に達している場合、上司に相談し業務の割り振りを見直してもらう。

  • 作業効率を向上させる

    仕事の進め方を工夫し、効率的に業務をこなすことで時間の余裕を作る。

この方法は、ストレスの原因が明確で、解決可能な場合に特に有効です。

情動焦点型コーピング(感情をコントロールする)

情動焦点型コーピングは、ストレスそのものを直接解決するのではなく、ストレスによって生じた感情を調整し、心の負担を軽減する方法です。

具体的な対処法:

  • リラクゼーション法を取り入れる

    • 深呼吸や瞑想、ストレッチを行うことで、自律神経を整えリラックスする。
    • アロマテラピーや温かいお風呂に入ることで心を落ち着ける。
  • 気持ちを発散する

    • 友人や家族に話を聞いてもらうことで、気持ちを整理する。
    • 好きな音楽を聴く、映画を観る、運動するなど、自分に合ったストレス発散法を見つける。
  • 気分転換をする

    • 仕事や日常生活から一時的に離れ、自然の中で過ごす、旅行に行く、趣味に没頭する。

この方法は、すぐに問題を解決することが難しい場合や、一時的にストレスを軽減したいときに有効です。

認知的再評価型コーピング(考え方を変える)

認知的再評価型コーピングは、ストレスの原因そのものではなく、それに対する「捉え方」を変えることでストレスを和らげる方法です。

具体的な対処法:

  • ネガティブな出来事をポジティブに解釈する

    例えば、「プレゼンがうまくいかなかった」と落ち込むのではなく、「次回の改善点が見つかった」と考える。

  • 自己肯定感を高める

    • 失敗を過度に気にせず、「できたこと」に注目する。
    • 「自分ならできる」と前向きな言葉を自分にかける。
  • ストレスを成長の機会と捉える

    苦手な人と接する場面があるなら、「コミュニケーション能力を高める機会」と考える。

この方法は、ストレスの原因をすぐに変えることが難しい場合でも、心の持ちようを変えることでストレスの影響を和らげることができます。

ストレスマネジメントを実践するためには、まず セルフモニタリング を行い、自分がどのような状況でストレスを感じるのかを把握することが重要です。

その上で、ストレスの状況に応じて 問題焦点型コーピング(原因の解決)情動焦点型コーピング(感情のコントロール)認知的再評価型コーピング(考え方の変化) のいずれかを実践し、自分に合ったストレス対処法を見つけることが大切です。

ストレスと上手に付き合いながら、心身の健康を保ち、充実した生活を送るために、ぜひ自分に合ったストレスマネジメント方法を取り入れてみてください。

ストレスマネジメントの効果

ストレスマネジメントは、個人の健康維持や生活の質の向上に大きく貢献するだけでなく、企業や組織においても生産性や職場環境の改善につながります。ストレスマネジメントがもたらす具体的な効果を個人と組織の観点から詳しく解説します。

個人におけるストレスマネジメントの効果

心身の健康維持

ストレスが過剰にかかると、自律神経が乱れ、身体や精神にさまざまな不調が現れます。しかし、適切なストレスマネジメントを実践することで、以下のような健康効果が期待できます。

身体的な健康維持
ストレスが蓄積すると、頭痛、胃痛、肩こり、倦怠感などの症状が現れることがあります。ストレスを適切に管理することで、こうした不調を未然に防ぐことができます。さらに、免疫力の低下を防ぎ、病気になりにくい体を維持することにもつながります。

精神的な健康維持
ストレスが原因で不安やイライラが増すと、睡眠障害や抑うつ状態を引き起こすことがあります。ストレスマネジメントを活用すれば、心を落ち着かせる習慣が身につき、安定した精神状態を保つことができます。

生活習慣の改善
過度なストレスは、暴飲暴食や喫煙、飲酒といった健康を損なう行動につながることがあります。しかし、ストレス管理を意識すると、規則正しい生活リズムを維持しやすくなり、健康的なライフスタイルの構築が可能になります。

パフォーマンスの向上

適切なストレス管理を行うことで、仕事や学業におけるパフォーマンスが向上します。

集中力の向上
ストレスを感じると脳が過度に緊張し、集中力が低下することがあります。ストレスマネジメントを実践し、適度なリラックスを取り入れることで、集中力が持続しやすくなります。

判断力の向上
強いストレスにさらされると冷静な判断が難しくなり、ミスが増えることがあります。ストレスを軽減することで、冷静な思考が保たれ、的確な判断ができるようになります。

作業効率の向上
ストレスによって疲労感が増すと、作業スピードが低下しがちです。しかし、ストレスを管理することで、体力や気力を維持でき、効率的に業務をこなせるようになります。

人間関係の改善

ストレスが溜まると感情のコントロールが難しくなり、対人関係にも悪影響を及ぼすことがあります。ストレスマネジメントを実践することで、円滑なコミュニケーションが可能になります。

感情の安定
適度にストレスを発散し、リラックスする時間を確保することで、感情が安定しやすくなります。これにより、イライラしにくくなり、対人トラブルを減らすことができます。

共感力の向上
ストレスが過剰な状態では他者の話を冷静に聞くことが難しくなります。ストレスを管理することで余裕が生まれ、相手の話に耳を傾ける姿勢が整います。

ポジティブな人間関係の形成
穏やかな精神状態を保つことで、周囲の人と前向きな関係を築きやすくなります。特に職場や家庭において、良好な関係を維持することができます。

企業・組織におけるストレスマネジメントの効果

生産性の向上

企業や組織においても、従業員のストレス管理が適切に行われると、業務の生産性が向上します。

従業員のパフォーマンス向上

個人レベルでのストレス管理がしっかりできると、仕事のパフォーマンスも向上し、結果として企業全体の生産性が上がります。

集中力の持続

ストレスが軽減されることで、従業員が長時間の業務でも集中力を維持しやすくなり、ミスが減少します。

業務の効率化

ストレスが少ない職場では、従業員同士の協力体制が強化され、スムーズな業務遂行が可能になります。

離職率の低下

職場のストレス環境が改善されることで、従業員の定着率が向上します。

従業員の満足度向上

ストレスが少なく、働きやすい環境が整うことで、従業員の職場満足度が高まり、退職を考える人が減ります。

メンタルヘルス不調による離職の防止

ストレスが原因で精神的に追い詰められ、退職に至るケースを防ぐことができます。特に、職場のサポート体制を強化することで、早期のケアが可能になります。

職場環境の改善

ストレスマネジメントの取り組みが進むと、職場の雰囲気が良くなり、働きやすい環境が形成されます。

コミュニケーションの活性化

従業員同士の関係が良好になることで、意見交換がスムーズになり、チームワークが強化されます。

職場の風通しが良くなる

ストレスの少ない職場では、従業員が率直に意見を言いやすくなり、組織の改善点が見つけやすくなります。

ハラスメントの防止

ストレスが高い職場では、ハラスメントの発生リスクも高まりますが、ストレス管理を徹底することで、職場の健全性を維持できます。

職場の雰囲気が改善される

ストレスが少なくなることで、職場における攻撃的な発言や態度が減り、安心して働ける環境が整います。

従業員の精神的余裕が生まれる

心の余裕が生まれることで、他者に対する配慮や思いやりが増し、ハラスメントの発生を防ぐことができます。

ストレスマネジメントは、個人の健康維持、パフォーマンス向上、人間関係の改善に役立つだけでなく、企業や組織においても生産性向上や職場環境の改善につながる重要な取り組みです。個人と組織の双方がストレス対策を意識することで、より快適で健全な生活と職場環境を実現することができます。

企業にストレスマネジメントを導入するには

企業におけるストレスマネジメントの導入は、従業員の心身の健康維持だけでなく、組織全体の生産性向上や職場環境の改善につながります。

しかし、効果的に運用するためには、現状の把握、適切な体制の構築、職場環境の見直し、EAP等のカウンセリングサービスの導入、継続的な評価が必要です。企業がストレスマネジメントを導入するための具体的なステップを詳しく解説します。

現状の把握と課題の特定

まず、組織内のストレスの実態を把握し、どのような課題があるのかを明確にすることが重要です。従業員のストレス要因を特定し、適切な対策を講じるための基盤を築きます。

具体的な方法

ストレスチェックの実施

労働安全衛生法により、従業員50人以上の事業場では年1回のストレスチェックが義務付けられています。このチェックを活用し、従業員のストレスレベルや主なストレス要因を分析します。

アンケートやヒアリングの実施

ストレスチェックの結果だけでなく、詳細なアンケートや個別のヒアリングを行うことで、業務内容、人間関係、職場環境などの具体的なストレス要因を特定します。

離職率や休職率の分析

過去の離職率や休職率を確認し、ストレスによる影響を把握します。特にメンタルヘルス不調による休職が多い場合、早急な対策が求められます。

ストレスマネジメント体制の構築

現状分析の結果を基に、企業内でストレスマネジメントを推進する体制を整えます。明確な体制を構築することで、継続的かつ効果的な取り組みが可能になります。

具体的な方法

専門チームの設置

人事部門や労務管理部門を中心に、ストレスマネジメント専門のチームを編成します。必要に応じて、外部の専門家や産業医の協力を得ることも検討します。

役割と責任の明確化

各メンバーの責任範囲を定め、ストレスマネジメントの取り組みを体系的に進められるようにします。例えば、人事部が研修の実施を担当し、管理職が部下のメンタルヘルスケアを行うといった役割分担を明確にします。

ストレスマネジメント研修の実施

従業員がストレスに対処するスキルを身につけることで、個々のストレス耐性が向上し、組織全体のストレスレベルが軽減されます。

具体的な方法

セルフケア研修の実施

従業員自身がストレスを管理する方法を学びます。リラクゼーション法、マインドフルネス、適切な休息の取り方などを指導し、日常生活に取り入れやすいストレス対処法を提供します。

管理職向けのラインケア研修

管理職には、部下のストレスサインを察知し、適切に対処するスキルを身につけてもらいます。早期対応を行うことで、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことができます。

メンタルヘルスサポート窓口の設置

従業員が気軽に相談できる窓口を設けることで、ストレスが深刻化する前に対処できる体制を整えます。

職場環境の改善

ストレスの要因を減らすために、職場の環境を整えることも重要です。働きやすい環境を構築することで、従業員のストレスを軽減し、生産性の向上を図ります。

具体的な方法

業務の適正化

長時間労働や業務負担の偏りを見直し、無理のない業務配分を行います。

柔軟な働き方の導入

テレワークやフレックスタイム制度を導入し、従業員が自分に合った働き方を選べるようにすることで、ストレスを軽減します。

職場のコミュニケーションの促進

定期的なミーティングや1on1面談を行い、従業員の意見や悩みを聞く場を設けることで、心理的安全性の高い職場環境を整えます。

カウンセリングサービスの導入

企業内にカウンセリングサービスを導入することで、従業員がストレスを抱え込まずに相談できる環境を整えます。

具体的な方法

産業カウンセラーの配置

企業内に専属の産業カウンセラーを配置し、従業員が気軽にメンタルヘルス相談ができる環境を提供します。

EAP(従業員支援プログラム)の活用

外部のEAPサービスを活用し、専門のカウンセラーによる電話・オンライン相談を導入します。匿名で相談できるため、従業員が安心して利用しやすくなります。

休職・復職支援の強化

メンタルヘルス不調で休職する従業員に対し、適切なサポートを行い、スムーズな復職ができるよう支援体制を整えます。

継続的な評価と改善

ストレスマネジメントの取り組みは、一度導入して終わりではありません。定期的な評価とフィードバックを行い、必要に応じて施策を見直すことで、持続的な効果を得ることができます。

具体的な方法

ストレスチェックの継続実施

年1回のストレスチェックを継続し、その結果を分析して職場環境の改善に役立てます。

従業員からのフィードバック収集

アンケートや面談を通じて、ストレスマネジメント施策の効果や課題を把握し、改善につなげます。

取り組みの効果測定

離職率、休職率、業務効率の変化などを定期的に確認し、ストレスマネジメントの成果を可視化します。

企業にストレスマネジメントを導入するには、現状の把握、体制の構築、研修の実施、職場環境の改善、カウンセリングサービスの導入、継続的な評価の6つのステップが重要です。これらを総合的に進めることで、従業員の健康と企業の生産性向上を同時に実現することができます。

おわりに

以上、ストレスにおける3つの段階と5つのストレスコーピングを中心に、ストレスマネジメントについて説明してきました。

仕事でもプライベートでも私たちの暮らしには、様々なストレッサーが存在します。ストレスを感じるのは当然のことであり、ストレスの原因に応じたストレスコーピングを活用し、心身ともに健康に過ごすことが大切です。

また、楽しめることがない、眠れないなどが続く場合はひとりで悩まず専門医に相談することをおすすめします。

(出典:『実践!ストレスマネージメント』渡辺洋一郎 p.57-67

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