50名以上の従業員がいる事業場には、1年に1回の実施が義務付けられているストレスチェック。
ストレスチェックによって、自身のストレス状況について気づきを得ることができますが、「ストレスチェック、受ける意味があるの?」「結果を具体的にどのように活かし、メンタルヘルスの向上に役立てていいのかわからない」という声も聞かれます。
ストレスチェックは自身のストレス状況について気づきを得る重要な機会です。ストレスチェックの結果は、心の健康の向上につながる資料となります。
今回は、なぜストレスチェックに意味がないと感じられてしまうのかその原因を確認し、ストレスチェックの個人結果の見方と、ストレスチェックの結果をセルフケアに生かす方法についてお伝えします。
ストレス対処法についてはこちらの記事もおすすめです。
ストレスチェックに意味がないと感じる理由
従業員が50名以上いる事業場では実施が義務化されているストレスチェックですが、受検者・実施者それぞれで「ストレスチェックに意味がない」と感じる方が少なくはないようです。どのような理由から「ストレスチェックに意味がない」と感じるのか見てみましょう。
従業員(受検者)がストレスチェックに意味がないと感じる理由
従業員がストレスチェックに意味がないと感じる理由はいくつか考えられます。
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結果のフィードバックがない: ストレスチェックの結果が従業員に適切にフィードバックされず、改善策が示されないと感じることが多いようです。
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設問の形式に対する不満: 質問内容が抽象的で、実際のストレス状況を反映していないと感じることがあります。
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プライバシーの懸念: ストレスチェックが個人情報を収集することに対する不安があり、正直に回答できないと感じられる方もいます。
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改善策が示されない: ストレスチェックの結果に基づいた具体的な改善策やサポートが提供されないと、意味を感じにくいようです。
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職場環境改善に繋がらない: ストレスチェックは会社側が実施義務があるからと形式的に実施し、実際の職場環境の改善につながらないから。
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職場文化の影響: 職場全体のストレス管理に対する意識が低い場合、個々のストレスチェックの重要性が感じられないことがあります。
これらの要因が重なり、従業員がストレスチェックに対して「意味がない」と感じることが多いと考えられます。
実施側(企業)がストレスチェックに意味がないと感じる理由
一方企業がストレスチェックに意味がないと感じる理由はどのようなものでしょうか。
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結果の活用が難しい: ストレスチェックの結果をどのように具体的に活用すればよいかが不明確で、実践に結びつかないと感じることがあります。
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コスト対効果の懸念: ストレスチェックの実施にかかるコストに対して、得られる効果が薄いと感じる。
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企業側の改善意欲の欠如: ストレスチェックの実施担当者が職場環境改善に意欲的であっても、企業として職場環境の向上について取り組むことに消極的である場合は、ストレスチェックを実施してもその結果を職場環境改善に活かすことができず、意味を感じられないと思う担当者もいます。
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従業員の協力が得られない: 従業員がストレスチェックに対して消極的で、参加率が低い場合、実施の意義が薄れると感じることがあります。
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形式的な実施: ストレスチェックを義務として実施するだけで、長期的な取り組みとして位置づけられないと、意味を感じにくくなります。
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専門知識の不足: ストレスチェックの結果を分析し、適切な対策を講じるための専門知識が不足している場合、結果を十分に活用できず実施の意義が薄れることがあります。
ストレスチェックの目的
それではストレスチェックのそもそもの目的とはどのようなものでしょうか?改めて振り返ってみましょう。
メンタルヘルスの維持・向上
ストレスチェックは、従業員のストレスの程度やその要因を把握するための重要な手段です。定期的に実施することで、従業員が自分のメンタルヘルスの状態を理解し、早期に問題に気づくことができます。
これにより、必要な支援や対策を講じることが可能となり、メンタルヘルスの維持や向上が図られます。具体的には、ストレスの原因を特定し、必要に応じてカウンセリングや心理的支援を提供することが含まれます。
職場環境の改善
ストレスチェックの結果は、職場全体のストレス要因を分析するための貴重なデータとなります。企業はこのデータを活用して、どのような職場環境や業務プロセスがストレスを生じさせているのかを特定し、改善策を講じることができます。たとえば、業務負担の見直し、コミュニケーションの促進、職場の人間関係の改善などが挙げられます。
これにより、従業員がより働きやすい環境を整えることができ、結果として生産性の向上にもつながります。
従業員の健康管理
ストレスチェックは、従業員自身が自分の健康状態を見つめ直すきっかけとなります。自分のストレスレベルやその影響を理解することで、自己管理の意識が高まり、ストレス対策を自ら講じることができるようになります。
たとえば、リラクゼーション法や趣味の活動、運動など、ストレス解消のための具体的な行動を取ることが促進されます。また、企業側も従業員の健康を支援するためのプログラムやサービスを提供することができ、健康的な職場づくりを推進することが可能となります。
以上、ストレスチェックに意味がないと感じる理由と、ストレスチェックのそもそもの目的について確認してきました。
それでは実際にストレスチェックはどのように活用したらよいのでしょうか?ここでは受検者向けにストレスチェックの結果をセルフケアにどのように活用したらよいのかその方法についてお伝えします。
セルフケアとは何か
「セルフケア」というと文字通り自分自身でケアすることであり、人により様々なイメージが湧くと思います。
ストレスチェック制度における「セルフケア」とは、次のことを言います。
・ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
・ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き
・ストレスへの対処(自発的な相談等)
セルフケアは従業員自らが行うものですが、事業者にもその責任はあります。厚生労働省による『「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(厚生労働省)』では、事業者は従業員に対して、セルフケアが行えるように教育研修、情報提供を行うなどの支援をすることが重要であると示されています。
セルフケアを含めた職場のメンタルヘルスケアの取り組みについてはこちらの記事もおすすめです。
ストレスチェックの結果をセルフケアに生かす具体的な方法
ストレスチェックの個人結果の見方について説明します。
ストレスチェック|個人結果の見方
※「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」の結果をサンプルとして表示しています。
ストレスチェックでは、次の3つについて大まかに評価し、レーダーチャートで結果が示されます。
- ストレスの原因と考えられる因子
- ストレスによって起こる心身の反応
- ストレス反応に影響を与える他の因子
数値が高い程ストレス状況が良くないことを示していますが
★がついている項目については、数値が低い程ストレス状況が良くないことを示しています。
それぞれの内容や項目について詳しく見ていきます。
ストレスの原因と考えられる因子
仕事上でストレスとなる要因や原因についての結果を示しています。
仕事量の多さ、職場の人間関係、環境環境等、何にストレスを感じているのか数値として示されます。
ストレスの原因と考えられる因子は、9項目あります。
項目名 | 説明 |
心理的な仕事の負担(量) |
仕事の量が多いことや時間内に仕事を処理しきれないことによる業務負担のこと |
心理的な仕事の負担(質) |
仕事で求められる注意集中の程度、知識、技術の高さなど質的な業務負担のこと |
自覚的な身体的負担度 |
仕事でからだを動かす必要があるなど身体的な業務負担のこと |
職場での対人関係によるストレス |
部署内での意見の相違、あるいは部署同士の対立など 対人関係に関する負担のこと |
職場環境によるストレス |
騒音、照明、温度、換気などの物理的な職場環境の問題 による負担のこと |
仕事のコントロール度★ |
仕事の内容や予定や手順などを自分で決められる程度のこと |
技能の活用度★ | 持っている技術、知識、技能、資格などが仕事上活用されている度合のこと |
仕事への適性度★ | 仕事の内容が自分に向いている、合っていること |
働きがい★ | 仕事の意義が認識でき、働きがいを感じていること |
★がついている項目については、数値が低い程ストレス状況が良くないことを示しています。
ストレスの原因と考えられる因子|セルフケアの具体的な方法
「ストレスの原因と考えられる因子」の項目は、主に仕事の量的質的負担や、職場環境についての内容となり、従業員自身の力だけでは解決するのが難しいストレス要因です。
その中でもセルフケアを実践する具体的な方法としては、
自分自身の日々の体調やメンタル状態に気づくこと
日常的に無理をしてしまうと、自分自身の体調やメンタルの状態に鈍感になり、本当は感じているはずの心身の苦痛にも気づかなくなる場合があります。
まずは自身のストレスについて気づくことが重要です。
適度な休憩をとる
適度な休憩は、生産性の向上という観点からも有効です。
簡単にできるストレッチなどを取り入れ、定期的にリフレッシュすることをおすすめします。
業務の負担が大きい場合は、上司や同僚に相談する
負担が大きいと感じる場合は、一人で抱え込まず上司や同僚に相談をし共に解決することが重要です。
働きがい、やりがいなどのモチベーションの見直し
現在の仕事にやりがいを感じられない場合、ネガティブな気分に陥りがちです。ストレスと感じている仕事内容に「良い面」はないか、成長できるポイントはないかを見直し、「仕事をやらされている」から「自らやる」と能動的に意識を切り替えるのもストレス回避に役立ちます。
ストレスによって起こる心身の反応
心理的な負担による心身の自覚症状についての結果を示しています。
「心身のストレス反応」に関する項目の評価点の合計が高い場合、最もリスクが高いとされ、高リスク者として選定される可能性が高くなります。
ストレス状況を確認することにおいて、最も重要視されている項目といえます。
項目名 | 説明 |
活気★ | 活気、元気、いきいきなどのポジティブな感情の度合いのことで、必ずしも仕事と関連した活気ではない |
イライラ感 | 怒り、立腹、イライラなどの症状の度合いのこと |
疲労感 |
疲れ、へとへと、だるさなどの疲労に関連した症状の度合いのこと |
不安感 |
気が張りつめている、不安、落ち着かないなどの不安に関する症状の度合いのこと |
抑うつ感 |
憂うつ感、おっくうさ、集中力の低下など、気分と気力の低下に関する症状の度合いのこと |
身体愁訴 |
全般的な身体的な症状の度合いのこと |
★がついている項目については、数値が低い程ストレス状況が良くないことを示しています。
ストレスによって起こる心身の反応|セルフケアの具体的な方法
「ストレスによって起こる心身の反応」の項目でストレス状況が悪い場合、心身に不調が現れているため、医療機関との連携が急がれます。
心身にストレス反応が出ている場合は、最も重要なのは睡眠です。
不眠の原因と対処法についてはこちらの記事で詳しく説明していますのでご参考にしてみてください。
日本人の5人に1人は不眠に悩んでいるといわれるほど、不眠は多くの人々が経験しています。しかし、もし2週間以上ほぼ毎日不眠が続く場合は、医療機関への相談をおすすめします。
ストレス反応に影響を与える他の因子
職場やプライベートでの周囲からのサポート、現在の生活への満足度についての結果を示しています。
項目名 | 説明 |
上司からの支援度★ |
上司が話しかけやすく、頼りになり、相談にのってくれるなど、上司が部下に行う支援の度合いのこと |
同僚からの支援度★ |
同僚が話しをしやすく、頼りになり、相談にのってくれるなど、同僚同士での支援の度合いのこと |
家族・友人からの支援度★ |
配偶者、家族、友人等から受けられる支援の度合いのこと |
仕事や生活の満足度★ |
仕事や家庭生活に関する全般的な満足度のこと |
★がついている項目については、数値が低い程ストレス状況が良くないことを示しています。
セルフケアの具体的な方法
「ストレス反応に影響を与える他の因子」の項目は、職場や家族からのサポートや仕事のコントロールに関するものです。
周囲の支援に欠けていると感じる場合、相談するのが苦手だったり、一人で抱え込み解決しようと頑張りすぎているのかもしれません。仕事での悩み等を同僚や上司と共有し相談することが大切です。もし話すことに苦手意識がある場合は、産業医や保健師等に悩みなどを打ち明けるだけでも、気持ちが整理され、とるべき行動が明確になる場合があります。
誰かと気持ちを分かりあえるというのは、心のエネルギー源です。何でも打ち明けられるような友達を持つことは心の健康に対して重要です。
メンタルヘルス不調の兆候
ストレスチェックの実施期間外でも、日常的に自身のメンタルヘルスの状況に気づくことは重要です。
メンタルヘルス不調の兆候は主に次のような症状です。
□ よく眠れず,目が覚めても,頭がハッキリしない。
□ 疲れやすくて食欲がなく,身体の調子が何となく悪い。
□ 気力がなく,何をするにもおっくうに感じる。
□ 何をしても楽しくない。
□ いつもならできることができず,自分がふがいない。
□ 考えがまとまらず,堂々巡りばかりして,判断がつきにくい。
□ 失敗,悲しみ,失望 などから立ち上がれない。
□ 生きていく自信がない。
□ 電車に乗ったりすると,心臓が苦しく,今にもどうにかなりそうに感じる。
□ いつも緊張していて,手が震える。
□ 他人が自分を監視しているように感じる。
□ 自分が変わってきて,今までの自分とは別の自分がいるような気がする。
上記の中で、最も重要な兆候は「よく眠れず,目が覚めても,頭がハッキリしない」と「何をしても楽しくない」です。
眠れない・好きなことも楽しめないという症状が、ほぼ毎日2週間以上続く場合は産業医などの医師に相談することをおすすめします。
おわりに
ストレスチェックの個人結果の見方と、セルフケアに生かす具体的な方法についてお伝えしました。自分のストレス状況を知り、適切に対処することが重要です。また、一人で抱え込まず、上司や同僚、産業医や専門機関等に相談することも大切です。
参考:
「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(厚生労働省)
『実践!ストレスマネージメント』(渡辺洋一郎)
ストレスチェック8年間の経験と40万人の実績がある日本CHRコンサルティングでは、厚生労働省ストレスチェック制定委員メンバーの精神科産業医によるセルフケアなどのメンタルヘルス研修を実施しております。オンライン開催も実施しており、全国対応しております。お気軽にお問い合わせ下さい。