2015年の義務化以来、多くの企業で定着したストレスチェック制度。しかし、その実施が「義務を果たしただけ」で終わってしまい、本来の目的である従業員のメンタルヘルス不調の早期発見・予防や職場環境改善に活かせていないという課題が、現場でしばしば聞かれます。
年に一度のストレスチェックを実施するだけでは、組織の健康度は向上しません。従業員のこころの健康を守り、職場を改善していくためには、検査に留まらない継続的かつ専門的なサポート体制の構築が不可欠です。
そこで今、多くの企業が注目し、導入を加速させているのが、EAP(従業員支援プログラム:Employee Assistance Program)とストレスチェックの連携です。EAPと組み合わせることで、メンタルヘルス対策を「点」から「線」、さらには「面」へと広げ、継続的な支援体制を整えることができます。
EAP(従業員支援プログラム)とは?
EAPとは、企業が従業員に対して提供する外部の専門的なメンタルヘルス支援サービスのことです。
従業員が抱える心理的ストレス、家庭問題、職場の人間関係、ハラスメント、キャリアの悩みなど、幅広い課題に対してカウンセラーや公認心理師・臨床心理士などの専門家がサポートします。また、従業員本人だけでなく、上司・人事・組織全体をサポートし、職場のストレス低減とパフォーマンス向上を目的としています。主なサービス内容は以下の通りです。
EAPの主な役割
EAPは、従業員一人ひとりのケアに加えて、組織全体のメンタルヘルス対応力を底上げするための包括的なツールとして機能します。欧米での高い普及率に加え、日本でも健康経営や人的資本経営の視点から導入が進んでおり、現代の企業経営において、欠かせない仕組みとなりつつあります。
ストレスチェックとEAPとの連携がもたらす5つの実効的なメリット
ストレスチェックとEAPを組み合わせると、法令遵守だけでは終わらない実効性あるメンタルヘルス対策が実現します。
ここでは、人事・労務担当者の視点から、導入メリットを5つ紹介します。
高ストレス者への迅速かつ確実なフォローアップ
ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員に対し、EAPの専門カウンセラーへ速やかにつなげることができます。外部機関での利用はプライバシーが厳守されるため、従業員も安心して相談を始められます。これにより、メンタル不調の深刻化や、それに伴う休職・離職といったリスクを最小限に抑え、人事部門の対応負荷も大幅に軽減されます。
受検時の信頼性向上と心理的安全性の確保
EAPという中立的な外部支援先が明示されていることで、従業員は適切なサポートを受けられるという安心感を持てます。この心理的な安全性は、ストレスチェックの受検率を高めるとともに、回答の正直さを促進し、より正確な組織の現状把握につながります。
集団分析を実践につなげる職場改善
単にデータを見るだけで終わらせず、EAPの専門家が集団分析の結果を深く解釈し、具体的な改善アクションへと落とし込みます。ストレス要因(例:業務負荷の偏り、上司とのコミュニケーション不足など)を特定し、管理職への指導や、チーム単位での実践的な改善策を提案。データ分析に留まらない、実践的な行動変容を促します。
休職・復職のプロセスを一貫してサポート
EAPは、休職前の予防から、休職中のサポート、そして復職・再発防止に至るまで、一連の流れを専門的に支援します。復職に際しては、本人の状況と職場の負荷を考慮した段階的な計画を立案し、人事・上司との連携を円滑に進めます。人事部門だけでは難しい、デリケートな状況下での客観的かつ専門的な対応が可能になります。
人事・労務部門の業務負担軽減と対応品質の底上げ
メンタルヘルスに関する対応は、法的・倫理的配慮が求められる非常に繊細な業務です。EAPを導入することで、高ストレス者面談への対応、管理職への指導、休職・復職のケース相談など、専門家の知見に基づいた支援が得られます。これにより、担当者の業務負荷を軽減しつつ、組織全体のメンタルヘルス対応の正確性と質を向上させることができます。
ストレスチェックは、従業員のストレス状況を可視化する最初のステップです。ストレスチェックとEAPを連携させることで、一次予防から復職支援までを一貫して行える体制が整います。
ストレスチェックと連携させて効果を高めるEAP導入ステップ
EAPの導入は、単にサービス契約を結ぶだけでは不十分です。その効果を最大限に引き出すためには、戦略的な準備と運用が求められます。