産業保健師とは?企業における役割や産業医の違い

産業保健師とは?企業における役割や産業医の違い 産業医

産業保健師は、企業で従業員の健康管理や保健指導、産業医のサポートを行う専門職です。

産業保健師の設置は法的に義務付けられていないため、企業における産業保健師の設置数は少なく、あまりよく知られていないのが現状です。

しかし、健康経営を推進する上で非常に重要な役割を果たす存在として、産業保健師は注目を集めています。

今回は、産業保健師の役割や具体的な業務内容、産業医との違い、さらに企業が産業保健師を設置するメリットについて詳しく紹介します。

産業保健師とは

産業保健師とは保健師のうちの一つです。まず保健師とはどのような役割があるのか見ていきましょう。

保健師とは?

保健師は、「保健師助産師看護師法」に基づいて定義される看護職の一つです。保健師は、看護師とは異なり、病気の予防を目的とした保健指導を行うことが特徴です。

保健師が活動する分野

保健師が活動する領域は、行政、産業、学校、病院の4つで、それぞれの場で人々の健康管理や保健指導を行うのが主な業務です。

さまざまな環境で活躍する保健師の中でも、特に産業保健師は働き方改革の進展により、その需要が高まっています。

産業保健師に必要な資格

産業保健師になるためには、「保健師」と「看護師」の2つの資格が必要です。これらの資格はそれぞれ異なっており、どちらか一方だけでは産業保健師として働くことはできません。

両方の資格を取得するためには、大学や専門学校で学ぶ必要があり、最低でも4年間の学習が求められます。

看護師の資格

産業保健師として働くためには、まず看護師の資格が必要です。この資格を持っていることが、産業保健師に必要な保健師資格を取得するための条件となります。

看護師資格は、看護大学等で必要な教育を受けた後、看護師国家試験に合格することで資格を得ることができます。

保健師の資格

産業保健師には、看護師の資格に加えて保健師の資格も必要です。産業保健師は、従業員の健康管理や生活指導に関わることが多いため、予防医療に関する知識も求められます。

保健師資格を取得する方法は主に2つあります。1つ目は、看護師と保健師の統合カリキュラムを提供している大学や4年制の看護専門学校を卒業し、看護師国家試験と保健師国家試験を同時に受験する方法です。

2つ目の方法は、看護師資格を取得した後に保健師養成学校(1年)や看護系大学の保健師養成課程に編入し、卒業後に保健師国家試験を受ける方法です。

保健師と産業保健師の違い

保健師が役割を担う領域は主に、産業の他、行政、学校、病院が挙げられます。それぞれの保健師について確認してみましょう。

産業保健師

産業保健師は、民間の企業や団体で活動し、産業医や人事部門と連携し、企業で働く人々の心身の健康維持に取り組む役割を担っています。

行政保健師

行政保健師とは、地域の保健センターや保健所、地域包括支援センターなどの公的機関で働く保健師のことであり、その地域に住む様々な世代の人々を対象に、医療や健康に関する取り組みや、社会福祉に関する活動を行っています。

学校保健師

学校保健師は、小中高大学などの教育機関に勤務する保健師で、生徒や教員の健康管理や健康教育等を行います。

病院保健師

病院保健師は、健診センターや地域医療連携室などの医療機関で働く保健師であり、各職場で患者や病院スタッフの健康管理や保健指導を行う重要な役割を担っています。

様々な領域で役割を担う保健師について見てきましたが、保健師と産業保健師の違いは、主に勤務先や役割にあります。保健師は、地域の保健センターや医療機関などで働き、地域住民の健康促進や疾病予防、保健指導を行い、乳幼児から高齢者まで様々な世代を対象に、健康に関する幅広い活動を展開しています。

一方、産業保健師は企業や工場などの職場で勤務し、職場の健康を守るため労働者の健康管理や職場環境の改善に取り組みを行い、従業員の健康維持や向上を図ります。

産業保健師は、企業内で従業員が健康で安全に働ける環境を整えることを専門とする予防のプロフェッショナルであり、従業員の健康とそれに伴う企業活動を支えています。

産業保健師の管理や指導を通じて、従業員の過労やメンタルヘルスの問題を未然に防ぐためには、人事担当者や医療の専門家である産業医との連携が不可欠です。

そのため、産業保健師は人事担当者や産業医との間を取り持つ役割も求められています。

企業における産業保健師の役割

近年、従業員の健康を大切にすることで、経営においても良い成果を得るという健康経営を重視する企業が増えてきています。

これまで、従業員の健康管理は主に人事担当者が行っていましたが、健康経営の推進に伴い、人事担当者だけでは、従業員の健康を十分に管理することが難しくなってきています。そのため産業医や人事担当者の負担を軽減し、より効果的な健康管理を行うために産業保健師の役割が企業において必要とされています。

産業保健師の仕事内容

産業保健師は、企業における従業員の健康管理と職場環境の改善を担う重要な役割を果たしています。産業保健師の業務は多岐にわたり、従業員の心と身体の健康を支えるために欠かせない存在です。以下に、産業保健師の主な業務内容と産業医のサポート活動について詳しく説明します。

健康診断に関する業務

産業保健師は、企業が定期的に実施する健康診断の企画、準備、実施、結果の分析、従業員へのフィードバックを担当します。健康診断の結果から必要に応じて保健指導を行うことがあります。

ストレスチェック

従業員50名以上がいる事業場において1年に1回実施が義務付けられているストレスチェックの実施者は、産業医の他、保健師も担当することができます。

実施者が産業医の場合でも、ストレスチェックに関する業務全般を担います。

健康相談・メンタルヘルス対策

従業員が心身の健康を保つために、健康相談を行うことは産業保健師にとって非常に重要な役割です。

相談内容には、生活習慣病や健康改善に関するものが含まれるだけでなく、近年はハラスメントや過重労働といった職場環境から生じるストレスも大きな問題となっているためメンタルヘルスに関する相談が特に重要視されています。

また、メンタルヘルスを予防するために、従業員向けのセミナーや勉強会を定期的に開催することもあります。さらに、心身の不調で休職していた従業員が復職する際には、面談を行ったり、継続的に状況を確認することにより復職支援を行うことも重要な業務に含まれています。

応急処置

職場での怪我や急病に対して、産業保健師は応急処置を行う重要な役割を担います。迅速かつ適切な対応が求められ、必要に応じて医療機関への搬送を判断することもあります。これにより、従業員の安全を確保し、職場の健康環境を維持します。

復職者支援

心の病や身体的な理由で休職した従業員が復職する際、産業保健師は継続的な観察と支援を行います。復職後のフォローや、再発防止に向けた職場環境の改善提案を行うことで、従業員が安心して働ける環境を整えます。

保健指導

産業保健師は、従業員全体に向けた健康教育や、特定の健康リスクがある従業員への個別指導を行います。例えば、生活習慣病の予防や健康的な食生活に関するセミナーを定期的に開催し、従業員の健康意識を高める取り組みを行います。

職場巡視

定期的な職場巡視を通じて、業務環境や従業員の働き方を確認し、改善点を見つけ出します。この情報を基に、より快適で安全な職場環境の構築に向けた提案を行います。

職場巡視は産業医にとって必要な業務であり、産業保健師に義務付けられているわけではありません。しかし、産業保健師が自ら従業員の働く環境を確認することで、従業員の健康状態をより詳しく理解でき、効果的な職場改善に繋がります。

安全衛生委員会への出席

産業保健師は、安全衛生委員会に参加し、従業員の健康課題や労働環境の改善について意見を述べます。これにより、企業全体の安全衛生意識向上に寄与し、より良い職場環境の実現に向けた活動を行います。

研修等の企画・運営

産業保健師は、従業員の健康を促進するための各種研修等を企画・実施します。例えば、セルフケア研修、ラインケア研修、管理職研修、ハラスメント研修、ストレスチェックの活用法に関する研修等が挙げられます。

このように、産業保健師は企業における従業員の健康を守るために多様な業務を担っています。

産業保健師と産業医の違い

産業保健師と産業医の役割には、業務内容において共通点が多く見られますが、立場や責任には明確な違いがあります。両者はともに従業員の健康を守ることを目的としていますが、それぞれの専門性や職務範囲が異なるため、業務には違いが生じます。

  産業保健師 産業医
設置義務 法的義務なし 従業員50名以上の事業場において
法的義務あり
資格 看護師資格+保健師資格 医師免許

厚生労働省令で定める産業医として必要な要件
業務内容 従業員への健康指導や保健指導、産業医のサポート等を通じて、仕事における健康問題の予防や労働者の健康促進、さらには職場環境の改善を目指します。 健康診断とその結果に基づく措置、治療と仕事の両立支援、ストレスチェックや長時間労働者に対する面接指導を通じて、労働者が健康に就労できるような支援を行う。

産業保健師を企業が導入するメリット

企業が産業保健師を設置することには、さまざまなメリットがあります。

従業員の健康管理の強化

産業保健師は、産業医と連携しながら従業員の健康状態を常に把握する役割を担っています。

産業医は定期的に訪問するものの、頻繁に顔を合わせることができない場合もあります。そのため、産業保健師が常勤でいることで、日々の健康管理が可能になり、従業員の健康リスクを早期に発見し、適切な対応を行うことができます。

これにより、健康問題の未然防止が図られ、従業員の働きやすい環境が整います。

健康経営の推進

健康経営は、企業が従業員の健康を重視し、それを経営戦略に組み込む考え方です。産業保健師がいることで、従業員の健康管理が一層強化され、結果的に医療費の削減や生産性の向上が期待できます。従業員が健康であれば、欠勤や病気による業務の停滞が少なくなり、企業全体のパフォーマンスが向上します。また、健康経営に取り組む企業は、「従業員を大切にする企業」として社会的な評価も高まり、ブランドイメージの向上にも寄与します。

人事労務担当者の負担軽減

企業において、健康診断やストレスチェックの実施は重要な業務ですが、これを人事労務担当者が兼任することは多くの負担を伴います。

産業保健師が常駐することで、これらの業務を専門的に担当できるため、人事労務担当者は本来の業務に専念することが可能になります。これにより、業務効率が向上し、より適切な人事施策を実施できるようになります。

産業医の負担軽減

産業保健師は日常的に従業員の健康を確認し、健康状態に関する情報を整理して産業医に報告します。これにより、産業医は限られた訪問時間を有効に活用し、より専門的な診断や治療に集中できるようになります。結果として、産業医の専門性が最大限に活かされ、企業全体の健康管理が効率化されます。

従業員にとって身近な存在

産業保健師は常勤であるため、従業員と関わることが多く、気軽に相談できる存在になります。このような近しい関係性により、従業員は健康に関する悩みや不安を相談しやすくなり、問題が深刻化する前に適切な支援を受けやすくなります。これにより、職場全体の健康意識が高まり、組織の健全性が保たれます。

社内研修の企画・実施

産業保健師に社内向けのセミナーや講演を依頼することができます。産業保健師は日々の業務を通じて、社内の状況や従業員の健康状態をよく理解しているため、必要な研修内容を的確に把握し、適切な企画を立てることができます。このような背景から、産業保健師には、現場のニーズに応じた研修を効果的に実施する能力が期待されます。

さらに、産業保健師が講師を務めるだけでなく、外部講師を招く場合にも、研修内容の選定や実施に必要なサポートについて深い理解を持っています。これにより、外部講師との連携もスムーズに進み、研修の目的や内容に応じた最適なプログラムを提供できるようになります。

このように、産業保健師が関与することで、社内研修はより効果的かつ実践的なものとなり、従業員の健康管理や職場環境の改善に大きく貢献することができます。

社内担当者のサポート

産業保健師は、管理職や人事労務担当者と密に連携しながら、社内の健康管理に関するさまざまな課題を把握し、改善策を提案します。このように、産業保健師がいることで、健康経営を実現するためのサポートが強化され、社内全体の健康管理が一層効率的に進むことが期待されます。

以上のように、産業保健師を設置することで企業は従業員の健康管理をより効果的に行い、結果として企業全体の生産性向上につながります。健康な職場環境を整えることは、企業にとって長期的な成長を実現するための重要な要素と言えるでしょう。

産業保健師を選ぶポイント

ストレスチェックの結果の閲覧範囲

産業保健師は、企業において従業員の健康管理や保健指導を行う非常に重要な役割を果たしています。設置は法的に義務付けられていないため、企業が産業保健師を導入する際にはいくつかのポイントに注意することが重要です。

コミュニケーション能力

産業保健師を選ぶ際には、専門的な知識だけでなく、高いコミュニケーション能力やカウンセリングスキルも重要です。

産業保健師は、従業員との日常的な健康相談の窓口となるため、従業員が心を開いてコミュニケーションできるような能力が求められます。

信頼される存在であるためには、確かな知識に加えて、適切に傾聴し、効果的な助言を行う能力が必要です。豊富な知識と優れたコミュニケーション能力を持つ産業保健師を選ぶことが、企業の健康管理の質を向上させる鍵となります。

企業での実務経験

産業保健師を選ぶ際には、企業での実務経験があるかどうかも重要なポイントです。

実務経験が豊富な産業保健師は、企業特有の環境やニーズを理解しているため、より迅速かつ効果的に業務に対応できるでしょう。

特に初めて産業保健師を導入する企業にとっては、実務経験のある保健師を選ぶことが望ましいとされています。事前に経験年数や実務内容について確認することが不可欠です。

事務処理能力

産業保健師には、健康診断のデータ管理や各種事務処理の能力も欠かせません。

特に、Excelなどのスキルは健康診断の結果を効率的に管理するために不可欠です。事務処理能力が高い産業保健師は、業務をスムーズに進めることができるため、選任時にはこの点を確認することが重要です。専門知識に加え、事務処理能力を兼ね備えた産業保健師を選ぶことで、より効果的な健康管理が実現します。

信頼ができる人物

産業保健師を選ぶ際には、その人物が信頼できるかどうかを見極めることが重要です。

従業員の健康情報は非常にプライベートなものであり、産業保健師には厳格な守秘義務があります。信頼できる産業保健師を選ぶことで、安心して健康管理を任せることができるでしょう。

以上のポイントを押さえた上で、適切な産業保健師を選任することが、企業の健康管理の向上につながります。

おわりに

産業保健師は、企業内で従業員の健康を守るために非常に重要な役割を担っており、その専門知識や経験は、健康経営を推進する上で欠かせないものであり、職場環境の改善や従業員のメンタルヘルスへの配慮を通じて、企業全体の生産性向上に大きく貢献します。産業保健師の存在は、企業文化をより健康的に変えていく力を持っています。

健康で働きやすい職場を実現するためには、産業保健師が果たす役割の重要性を再確認し、企業全体で健康経営を進めていくことが求められます。このような取り組みが、従業員の健康を守り、企業の持続的な成長につながることでしょう。

記事監修

精神科医専門医・日本医師会認定産業医。
川崎医科大学卒、1988年渡辺クリニック(2018年改称)を開設。
その後、厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の在り方検討委員会」委員、内閣府「自殺対策官民連携協働会議」委員、公益財団法人日本精神神経科診療所協会会長など歴任。
現在、医療法人メディカルメンタルケア横山・渡辺クリニック名誉院長、大阪大学医学部神経科精神科非常勤講師、一般社団法人日本精神科産業医協会共同代表理事ほか。
ストレスチェック法制化においても、厚生労働省「ストレスチェック制度に関する検討会」「ストレスチェック項目に関する専門検討会」「ストレスチェック制度マニュアル作成委員会」などの委員を務める。

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