社員の健康診断は毎年必ず実施されますが健康診断の結果は、従業員の健康を守るための重要なデータであり、企業の安全配慮義務を果たす上でも不可欠な情報です。
労働安全衛生法では健康診断結果の保存が義務付けられており、保存期間を守らなかったり管理が不十分だと、労基署の調査や社員からの閲覧請求に対応できず、企業リスクにつながります。
本記事では、健康診断結果の保存期間のルールと、企業担当者が押さえるべき効率的な健診管理の方法・必須ポイントを整理しました。
さらに、最近注目されている健康管理システムの活用メリットも紹介しています。実務で役立つ内容ですので、ぜひ日々の業務改善にお役立てください。
この記事でわかること
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健康診断結果の保存期間
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効率的な管理方法
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健康管理システム活用のメリット
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実務で押さえる必須ポイント
健康診断結果の保存はなぜ必要?
健康診断の結果は、「単なる健康チェックの記録」ではありません。それは、従業員一人ひとりの健康を守り、ひいては企業の安全と成長を支えるための重要なデータです。
1. 従業員の健康管理と安全配慮義務
健康診断の結果を継続的に記録・分析することで、従業員の健康状態の変化や生活習慣病のリスクを早期に発見できます。これにより、適切な保健指導や就業上の措置を講じることができ、従業員の健康障害を未然に防ぐことにつながります。これは、企業に課せられた「安全配慮義務」を果たす上で不可欠なプロセスです。
2. 法令遵守
労働安全衛生法により、企業は健康診断の結果を一定期間保存する義務が定められています。これを怠ると、罰則の対象となる可能性があります。法令を遵守し、企業としての社会的責任を果たすためにも、適切な保存は必須なのです。
3. 従業員とのトラブル回避
万が一、業務に関連して従業員の健康問題が発生した場合、過去の健康診断記録は重要な証拠となります。適切な記録が残っていれば、労災認定や訴訟など、予期せぬトラブルが発生した際に、企業側の対応が適切であったことを証明する根拠となり得ます。健康診断結果の保存は、従業員の健康を守るだけでなく、企業自身を守るための重要なリスクマネジメントなのです。
保存期間の基本ルール
健康診断結果の保存期間は明確に定められています。
健診種類 | 保存期間 |
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一般健診 | 5年 |
特殊健診(有害業務従事者など) | 5年から40年 |
一般健康診断は5年間
一般健康診断の結果は、労働安全衛生規則第51条に基づき「健康診断個人票」を作成し、5年間保存することが義務付けられています。これは、労働安全衛生法第66条の3および第103条に基づく規定であり、企業は従業員の健康情報を適切に管理する責任を負っています。
保存義務を怠ると、労働基準監督署の調査や、従業員からの閲覧請求に対応できず、法令違反や企業リスクにつながる可能性があります。参考:労働安全衛生規則第51条
労働安全衛生法は、健康診断で記録・保存すべき法定項目を定めており、一般健康診断では以下の11項目が含まれます。
【雇入れ時の健康診断・定期健康診断で行う検査11項目】
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
- 胸部エックス線検査及び喀痰検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
- 心電図検査
※定期健康診断では、医師が不要と判断した場合に限り、一部の項目を省略できます。ただし、この判断は年齢などによる機械的なものではなく、個々の自覚症状や既往歴などを医師が総合的に診て行う必要があります。
参考:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~
特殊健康診断書は5年~40年
健診の種類は従事する業務によって異なり、それぞれに定められた保存期間があります。
健康診断の種類 | 保存期間 |
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鉛健康診断 | 5年 |
有機溶剤健康診断 | 5年 |
特定化学物質健康診断 | 5年(特別管理物質の場合は30年) |
四アルキル鉛健康診断 | 5年 |
高気圧業務健康診断 | 5年 |
じん肺健康診断 | 7年 |
除染等電離放射線健康診断 | 30年 |
電離放射線健康診断 | 30年 |
石綿健康診断 | 40年 |
参考:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう
退職者の健康診断結果の保存期間について
退職すると「もう会社にいないのだから健康診断結果は不要では?」と思われがちですが、そうではありません。退職者であっても、健康診断結果の保存義務は在職中の従業員と同じです。
具体的には、一般健康診断は5年間、特殊健康診断は最長40年間の保存が法律で定められています。
これは、退職後に健康被害が発生した場合、過去の在籍時の記録が重要な証拠になる可能性があるためです。もし保存義務を怠り「退職したから」と処分してしまうと、従業員の健康状態を確認できないだけでなく、法令違反にもなってしまいます。
なお、保存期間を過ぎたデータについては保管義務はなくなるため、個人情報保護の観点からも速やかに廃棄・消去することが求められます。
健康診断結果を管理する方法
健康診断結果は、紙で届くケースもあれば、システムやExcelなどデータで管理するケースもあります。どちらにもメリット・デメリットがあるため、自社の状況に応じた工夫が欠かせません。
紙での管理
ファイリングして保管すれば閲覧が容易ですが、劣化や紛失、保管スペースの確保が課題になります。特に保存期間が長い特殊健診では、書類が増えてしまう傾向があります。
データでの管理
検索性や共有性に優れ、保存スペースも不要です。さらに健診管理システムを導入すれば、一元管理や保存期限の自動チェック、産業医との情報共有がスムーズになります。ただし、情報漏洩リスクがあるため、アクセス制限や暗号化などのセキュリティ対策は必須です。
ハイブリッド運用
現状では「紙で受け取り→データ化して保管」という企業も多いのが実情です。業務フローに合わせて二重管理を最小限にしながら、安全性と効率性を両立させることがポイントです。
効率的な管理は単なる事務作業の効率化にとどまらず、必要なときにすぐ取り出せる安心感や法令違反の防止にも直結します。紙とデータ、それぞれのメリットと注意点を押さえながら、効率的に管理する方法を見ていきましょう。
紙管理
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見やすく、保存性が高い
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検索性が低く保管場所が必要
- 紙媒体ならではの劣化や紛失のリスクがある
データでの管理
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大人数でも一元管理可能
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年次比較や分析が容易
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アクセス制限や暗号化など、セキュリティ対策が必須
健診管理を効率的に運用するには?
健診結果の管理は、ただ保存しておけば良いというものではなく、日々の業務で手間がかかる部分でもあります。担当者の負担を減らしつつ、法令違反や情報漏えいのリスクを防ぐには、効率的な仕組みづくりがポイントです。
効率化の工夫例
1. デジタル管理システムの導入
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健診結果や保存期間を自動で管理できる専用システムやクラウドサービスを活用すると便利です。
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アラート機能で「保存期間が終了するファイル」や「再検査対象者」を自動通知してくれるものもあります。
2. フォーマット・ルールの統一
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Excelや紙台帳で運用している場合は、フォーマットやファイル名を揃えておくと探す手間が減ります。
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「社員番号_年度_健診結果」など、誰が見てもわかるルールを決めておくのがポイントです。
3. 担当者間の情報共有を仕組み化
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引き継ぎ漏れを防ぐため、マニュアルやチェックリストを整備し備えます。
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社内で活用しているツールで「健診管理専用チャンネル」を作り、共有事項を残しておくのも有効です。
4. 産業医・保健師との定期連携
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健診後フォローを毎回「ケースごとにやり取り」するのではなく、定例ミーティングを設けておくと効率的です。
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複数社員のフォローアップをまとめて相談でき、記録もしやすくなります。
5. 社員本人へのフィードバックを自動化
- 健診システムによっては、本人が直接結果を閲覧できる機能があり、担当者が一人ずつ配布する手間を削減できます。
健康管理システムを導入するメリット
最近は紙やエクセルに加え、健康管理システムを導入する企業が増えています。主なメリットは次の通りです。
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効率的なデータ管理
検索・並べ替えが簡単で、過去の健診結果も即確認可能 -
安全性の向上
アクセス権限や暗号化で個人情報を保護 -
健康経営に活用できる
部署や年齢ごとの健康リスク分析を行い施策につなげられる
企業全体の健康管理施策に役立つ -
事務作業の削減
紙ベースやエクセル集計の手間を大幅削減 -
アラート機能で管理漏れ防止
保存期限や未受診者を自動通知
健康管理システムはクラウド型やアウトソーシング型(産業医紹介・メンタルヘルス支援などを含む)があり、月額数千円~利用可能なサービスもあります。
中小企業でも導入が進んでおり、初期コストを抑えつつ効率化が実現できます。
企業担当者が押さえるべき必須ポイント
健康診断の結果は、社員一人ひとりの健康を守る大切な情報であり、企業にとっても法令遵守やリスク管理の面で欠かせないデータです。とはいえ、「どこに保管する?」「誰が管理する?」「もし労基署から求められたら?」など、いざ運用となると迷う場面も多いのではないでしょうか。ここでは、企業担当者が特に押さえておくべきポイントを詳しく解説します。
保管ルールを明確化
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誰が管理するか
→ 人事担当者、総務担当者、または産業保健担当者など、責任者を明確に決める -
どこで管理するか
→ 書庫、ロッカー、社内サーバー、クラウドなど、物理・デジタルの保管場所を明確化 -
どの方法で管理するか
→ 紙・Excel・クラウドシステムなど、管理方法を統一し、フォーマットやファイル名ルールも決める -
運用ルールの文書化
→ 新しい担当者に引き継ぐ際も迷わず運用できるよう、マニュアルやチェックリストとしてまとめておく
曖昧な管理体制は紛失・漏えい・法令違反のリスクにつながります。誰がどこで何を管理するかを明確にすることが基本です。
事後措置の実施
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医師の意見聴取
→ 再検査が必要な社員や、特定の数値が基準を超えた社員に対して、産業医や医師の意見を聴く -
就業上の措置
→ 配置転換や作業制限など、社員の健康を守るための措置を適切に判断 -
記録の保存
→ 実施した措置の内容や日付も記録し、必要に応じて労基署や社員に説明できるようにしておく
健診後のフォローが不十分だと、健康トラブルや労災リスクが増加します。単に結果を保管するだけでは不十分です。
産業医・保健師との連携
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定期的な情報共有
→ 健診結果や傾向を産業医・保健師と共有し、健康施策に反映 -
面談やフォローアップ
→ 高血圧や高脂血症などリスクのある社員への個別面談 -
健康教育や啓発活動
→ 結果に基づくストレスチェックや生活習慣改善の提案
医療専門職との連携があると、企業の健康管理レベルが格段に向上し、社員の安心感も高まります。
調査・閲覧対応
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労基署の調査への即応
→ 健診結果を求められた際に、すぐ提示できる状態に整理しておく -
社員からの閲覧請求対応
→ 個人情報保護法に従い、本人の閲覧要求に対応可能な体制を整備 -
提示・閲覧のログ管理
→ 誰がいつ閲覧したか記録することで、情報漏えいリスクを抑制
見せ方や管理方法が曖昧だと、法令違反や社員からの不信感につながる可能性があります。
実務で役立つ管理の工夫
健康診断結果を効率的に管理するには、単に保存するだけではなく、日々の運用ルールやチェック体制を整えることが重要です。ここでは、企業担当者がすぐに実践できる工夫を具体的に紹介します。
1. 保存期限チェックリストを作り、毎年確認
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健診結果の保存期間は一般健診で5年、特殊健診で40年と長期間です。
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Excelやシステムを使って「保存期限チェックリスト」を作ると便利です。
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毎年、期限が近いデータを担当者がチェックすることで、廃棄漏れや法令違反のリスクを防げます。
異動・退職者のデータ処理ルールを明確化
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社員が異動した場合、部署ごとの責任者で情報共有を行うルールを作りましょう。
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退職者の健診データは、法令に従って保存・廃棄するタイミングを明確化しておきましょう。
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データの処理フローをマニュアルにしておくと、新しい担当者に引き継ぐ際もスムーズです。
年次比較や分析ができるようデータを統一
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健診結果は、部署や年齢ごとに傾向を把握するためにフォーマットを統一しましょう。
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統一されたデータを基に、次のような分析が可能です。
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年齢層ごとの血圧やBMIの変化
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部署別の受診率や再検査率
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健康リスクの傾向把握
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統計やグラフにすることで、産業医との面談や健康施策の立案にも役立ちます。
4. 将来的にシステム導入を検討
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紙やExcel管理では、社員数が増えると管理負荷が急増する懸念があります。
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健康管理システムを導入すれば、
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データの一元管理
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自動集計・分析
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アラート通知(保存期限や未受診者など)
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中小企業でもクラウド型なら初期コストを抑えて効率化可能です。
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システム導入の前に、まず現状の管理フローを整理すると、導入後の運用がスムーズになります。
健康診断結果の保存は、従業員の健康を守るだけでなく、企業の安全配慮義務や法令遵守、さらにはトラブル回避の観点からも非常に重要です。
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保存期間
一般健康診断は5年間、特殊健康診断は業務内容により5年~40年間の保存が義務付けられています。退職者であっても保存義務は同様です。 -
効率的な管理方法
紙の保管は見やすい反面、劣化や紛失のリスクがあり、検索性にも限界があります。一方、コストはかかりしますが、健康管理システムを活用すれば、一元管理や分析、安全性の向上が可能になります。 -
企業担当者が押さえるべきポイント
保管・運用ルールの明確化、健診後のフォローアップ、産業医との連携、調査や閲覧請求への対応など、日常の管理体制を整えておくことが欠かせません。 -
実務での工夫
保存期限チェックリストやデータ統一、退職者の処理ルール整備など、小さな工夫を積み重ねることで、業務効率とコンプライアンスの両立が可能です。
健康診断結果は「記録を残す」こと自体が目的ではなく、従業員の健康を守り、企業の信頼と成長を支える資産です。今回ご紹介したポイントを参考に、自社の健診管理体制を見直し、より安心・安全な管理を築いていきましょう。