適応障害とは?原因・症状・うつ病との違い

適応障害とは?原因・症状・うつ病との違い メンタルヘルス

職場や学校などの社会生活だけではなく、新型コロナの拡大の影響により、私たちは様々なストレスに晒されています。このような状況において、ストレスが原因となり、心身のバランスを崩し、生活に支障をきたす適応障害で苦しむ方も多くみられます。

今回は、適応障害の原因や症状等についてお伝えします。

適応障害とは?

適応障害とは、日々の様々なストレスにうまく対処することができない結果、さまざまな精神症状や身体症状、あるいは行動面に変化が現れて、仕事や日常生活を通常通りに行うことが困難になる状態です。

ただし、うつ病などの診断がつくレベルにまでは至っていない状態です。

新年度で環境が変わりストレスを感じ、期待ややる気があるにも関わらず、変化に適応できず、日常生活に支障をきたす「五月病」もうつ病などのレベルにまでは至っていなければ適応障害ということになります。

適応障害は甘えではない

適応障害は、特定のストレス要因に対する心理的な反応として現れるものであり、決して甘えではありません。人はさまざまなストレスにさらされる中で、それに適応する能力が異なります。ある人にとっては軽いストレスであっても、別の人にとっては大きな負担となることがあります。

適応障害は、その人が直面している現実のストレスに対する正常な反応の一つと考えられています。重要なのは、症状や苦痛が本人の生活に大きな影響を与えている場合、適切な支援や治療を受けることが必要だということです。

このように、適応障害は個人の心理的な負担や環境への反応であり、軽視されるべきものではありません。理解とサポートが重要です。

適応障害の原因

適応障害は何がきっかけで発症するのでしょうか。適応障害の原因について見ていきます。

適応障害は、環境の変化や日常生活における出来事によるストレスに自身がうまく対処したり適応できないことから生じます。

ストレスとなるものとしては、例えば、入学、入社、転勤、異動、転居などこれまでの環境や状況が大きく変わる出来事や、病気や大切な人との別れなどが挙げられます。また、新型コロナ感染症拡大による社会や生活の変化などもストレスとなりえます。

ネガティブな出来事だけではなく、昇進、結婚、子どもの誕生など一般的に喜ばしい出来事も人間関係や経済的状況、さらには責任が増えるといった内的な負担が高まることもありますからストレスとなることもあります。

何にストレスを感じるのか、どの程度ストレスとして感じるのか、については人それぞれであり、同じ状況においてもある人にとってはストレスを感じず、別の人にとっては耐えられなく感じることもあります。

そのため外的なストレスと同時に、性格やストレス対処能力、相談や支援を受けられるような環境にあるかなどといった個人的な要因とがあいまって適応障害が発症してくると言えます。

したがって、ストレス状況、個人的要素、そして、生じている症状のそれぞれを丁寧に見ていくことが大切です。

適応障害の症状

適応障害の症状は様々ありますが、「からだの症状」「こころの症状」「行動の問題」について一般的な症状を見ていきます。

からだの症状

・睡眠の問題がある (寝つきが悪い、眠れない、途中で何度も目が覚める、熟睡感がない、寝すぎる)
・疲れが取れない、肩こり、 頭痛が続く
・動悸、息苦しさ、めまい、ふるえ

心の症状

・気分が落ち込む
・原因不明な不安が続く
・なぜか涙が出て止まらない
・今まで楽しかったことが楽しめない
・気が焦る、怒りっぽくなる
・仕事や作業に集中できない、 考えがまとまらなくなる

行動の問題

・食欲不振、暴飲暴食
・遅刻・欠勤が増える
・人と会いたくなくなる(電話やメールのやりとりも億劫になる、会話が苦痛に感じられるようになる)
・喧嘩や暴言など攻撃的になる

適応障害が疑われたら

適応障害はストレス要因を取り除いたり、見方を変えてみたり、相談や支援をうけて対処したり、あるいは、上手にストレスを発散することなどから症状が緩和されるケースが多く見られます。

そのため、適応障害についてはストレス状況を把握し、ストレスにうまく対処することがポイントになります。

ストレス対処についての具体的な方法についてはこちらの記事を参照してください。

このような症状がある場合は注意が必要

ストレスの原因が明確にあったとしてもそれがきっかけとなってうつ病になってしまっていることもあります。また、はじめは適応障害であってもその後うつ病に移行することがあります。適応障害はうつ病の一歩手前の危険なサインと考え、そのままにせずしっかり対処することが重要です。

以下のような症状のいずれかがある場合は、うつ病などのレベルに至っている可能性がありますので、医療機関の受診が急がれます。

●何も楽しめない(休日も楽しめない)、眠れない状態が 2 週間以上続く場合
●遅刻・欠勤が増える、あるいは家事も困難となり、社会生活や日常生活に相当支障をきたしている

症状が軽い場合

症状が軽い場合は、運動や趣味、お気入りのリラックス方法を取り入れ、気分転換することも有効的です。

深呼吸をする

呼吸を整えることで血中の酸素を増やし、筋肉の緊張を緩めるので、リラックスに効果的です。5 分ほど同じテンポで深呼吸することでセロトニン (心のバランスを整える神経伝達物質)が分泌されて気分がすっきりします。

ウォーキングなどの軽い運動

体を動かすことで緊張を和らげ、心身をリラックスさせます。また定期的な運動はメンタルヘルス問題の予防にも役立つことが示されています。

友人などとの会話

人に話すことで、ネガティブな気持ちが和らぎ、新しい視点を得るかもしれません。仲の良い友人とのおしゃべり等は、オキシトシン (不安を減らしたりストレスを和らげたりするホルモン)、セロトニン(心のバランスを整える神経伝達物質)の分泌を増やし、心のバランスを整えます。

適応障害とうつ病との違い

適応障害とうつ病は同じような症状のこともあり、混同される場合があります。適応障害とうつ病の大きな違いは、症状の程度にあります。

適応障害はストレスになっていることから離れると速やかに症状が落ち着きます。一方、うつ病に至ってしまっているとストレスから離れてもなかなか改善しません。

うつ病は、ストレスによる影響が心のレベルを通り越して、感情や意欲を司る脳機能までがうまく働かなくなっている状態なのです。したがって、うつ病の場合には環境を変えただけでは症状が回復し難く、医療的ケアが必ず必要となります。

適応障害とうつ病の違い

適応障害はうつ病などの病気の前段階の可能性も

このように適応障害とうつ病は似たような症状を持つことがありますが、適応障害からうつ病に進行してしまう人も多い傾向があります。また、適応障害と診断された後に、経過を観察しているうちにうつ病と再診断されることもあります。

実際、適応障害と診断された人の中で、5年後には40%以上がうつ病などの別の診断名に変更されるという厚生労働省による調査結果もあります。

このことから、適応障害はその後に治りにくい病気に移行する可能性があるため、症状が現れた場合は早めに医療機関を受診することが重要です。

おわりに

ストレスの多い現代社会において適応障害は誰にでも起こりうる身近な心の病です。しかし、ストレスに対して適切に対処せず、「我慢しなければ」「自分の努力で乗り越えよう」とすれば、症状は慢性化し、さらに重篤な疾患を引き起こしかねません。悩みは一人で抱え込まず、相談することが大切です。

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記事監修

精神科医専門医・日本医師会認定産業医。
川崎医科大学卒、1988年渡辺クリニック(2018年改称)を開設。
その後、厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の在り方検討委員会」委員、内閣府「自殺対策官民連携協働会議」委員、公益財団法人日本精神神経科診療所協会会長など歴任。
現在、医療法人メディカルメンタルケア横山・渡辺クリニック名誉院長、大阪大学医学部神経科精神科非常勤講師、一般社団法人日本精神科産業医協会共同代表理事ほか。
ストレスチェック法制化においても、厚生労働省「ストレスチェック制度に関する検討会」「ストレスチェック項目に関する専門検討会」「ストレスチェック制度マニュアル作成委員会」などの委員を務める。

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