衛生管理者は労働環境の衛生管理を担い、産業医は労働者の健康管理を専門とする医師です。
両者は労働者の健康と安全を守るために重要な役割を果たしていますが、選任条件や業務内容、資格の違いにはどのような違いがあるのでしょうか?また、衛生管理者と産業医は職場巡視を実施しますが、その頻度や内容に違いはあるのでしょうか?
今回は、衛生管理者と産業医にどのような違いがあるか詳しく解説いたします。
衛生管理者とは?
衛生管理者とは、労働安全衛生法に基づき、常に50人以上の労働者を雇っている事業場に設置が義務付けられており、労働衛生に関する専門的な管理を行います。
衛生管理者の人数は、事業場の労働者数に応じて決まります。また、衛生管理者に選ばれるためには、業種に応じた資格が必要です。
衛生管理者の役割
衛生管理者の主な役割は次の通りです。
- 労働者の危険や健康障害を防ぐための対策を講じること。
- 労働者に対する安全や衛生に関する教育を行うこと。
- 健康診断や健康を維持・向上させるための措置を実施すること。
- 労働災害の原因を調査し、再発防止策を考えること。
衛生管理者の職場巡視の頻度・内容
衛生管理者は少なくとも毎週1回、作業場を巡視し、設備や作業方法、衛生状態に問題があれば、すぐに労働者の健康障害を防ぐために必要な措置を取る義務があります。
衛生管理者の職場巡視の頻度 | 衛生管理者の職場巡視の内容 |
少なくとも毎週1回 | 設備や作業方法、衛生状態を確認し 問題があれば必要な措置を取る必要がある |
衛生管理者の職場巡視は、労働安全衛生規則によって企業の義務として定められています。
第11条 衛生管理者は、少なくとも毎週一回作業場等を巡視し、設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
衛生管理者になるための資格
衛生管理者は、次の資格のいずれかを有している人から選任されます。
- 第一種衛生管理者免許
- 第二種衛生管理者免許
- 衛生工学衛生管理者免許
- 医師
- 歯科医師
- 労働衛生コンサルタント
- その他厚生労働大臣が定める者
衛生管理者試験には第一種と第二種がありますが、以下の業種の場合は第二種衛生管理者免許のみの保有者を選任することはできず、第一種衛生管理者免許、第二種衛生管理者免許、衛生工学衛生管理者免許、医師、歯科医師、労働衛生コンサルタント、その他厚生労働大臣が定める者から選任されます。
事業所の規模と選任数
衛生管理者は、常時50人以上の労働者を雇っている事業場に設置が義務付けられていますが、選任する人数は事業所の規模によってことなります。
事業場労働者数 | 選任人数 |
50人以上~200人以下 | 1人以上 |
200人超~500人以下 | 2人以上 |
500人超~1,000人以下 | 3人以上 |
1,000人超~2,000人以下 | 4人以上 |
2,000人超~3,000人以下 | 5人以上 |
3,000人超 | 6人以上 |
専任の衛生管理者が必要な条件
「常時1,000人を超える労働者を雇用する事業場」や、「常時500人を超え、法定の有害業務に30人以上を従事させている事業場」では、衛生管理者の中から少なくとも1人を専任にしなければなりません。
法定の有害業務とは次の通りです。
- 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
- 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
- ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
- 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
- 異常気圧下における業務
- 削岩機、鋲打機等の使用によって身体に著しい振動を与える業務
- 重量物の取扱い等重激なる業務
- ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
- 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これに準ずる有害物の粉じん、蒸気又はガスを発散する場所における業務
- 前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務
産業医とは?
産業医とは、職場で働く人々の健康管理に関して専門的な立場から指導や助言を行う医師のことです。労働安全衛生法に基づき、一定の規模を持つ事業所では産業医を選任することが義務付けられています。
産業医の役割
産業医の役割は、労働安全衛生規則第14条第1項において規定されており、具体的には以下のような職務を担います。
- 健康診断、面接指導等の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置、作業環境の維持管理、作業の管理等労働者の健康管理に関すること。
- 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
- 労働衛生教育に関すること。
- 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。
産業医は、労働者の健康を守る必要があると判断した場合、事業者に対して健康管理に関する適切な勧告を行うことができます。また、産業医は少なくとも毎月1回、作業場を巡視し、作業方法や衛生状態に危険があると感じた場合には、直ちに労働者の健康障害を防ぐための対策を講じることが求められています。
産業医の職場巡視の頻度・内容
産業医の職場巡視の頻度や内容は次の通りです。
産業医の職場巡視の頻度 | 産業医の職場巡視の内容 |
原則は毎月1回以上 (事業者から産業医に所定の情報が毎月提供され、 事業者に同意がある場合、2ヶ月に1回) |
作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態が働く人に有害な影響を及ぼすおそれがないか確認し、問題があった場合は必要な措置を講じる必要がある。 |
産業医の職場巡視は、労働安全衛生規則によって企業の義務として定められています。
第15条 産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
産業医の資格・要件
産業医は、医師であることに加え、法律で定められた一定の専門的医学知識を持っている必要があります。
- 厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者
- 産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指 定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
- 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生である者
- 大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者
事業規模と選任数
産業医の選任は、事業所の規模に応じて義務付けられています。具体的には、常時50人以上の労働者がいる事業所は、産業医を選任する必要があります。選任数は、労働者数に応じて以下のように定められています。
- 労働者数 50 人以上 3,000 人以下の規模の事業場 ⋯⋯ 1名以上選任
- 労働者数 3,001 人以上の規模の事業場 ⋯⋯ 2名以上選任
また、常時1,000人以上の労働者を雇用している事業場や、以下の業務に常時500人以上の労働者を従事させている事業場では、その事業場に専属産業医を選任しなければなりません。
イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
ホ 異常気圧下における業務
ヘ さく岩機、鋲打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
ト 重量物の取扱い等重激な業務
チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
リ 坑内における業務
ヌ 深夜業を含む業務
ル 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り 扱う業務
ヲ 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベン ゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
カ その他厚生労働大臣が定める業務
衛生管理者と産業医の違いとは?
衛生管理者と産業医は、労働者の健康と安全を守るために重要な役割を果たしていますが、それぞれの職務には明確な違いがあります。その他にも、資格、業務内容、選任条件と必要な人数が主に異なります。それぞれ比較して見てみましょう。
資格
衛生管理者 | 産業医 |
第一種衛生管理者免許、第二種衛生管理者免許、衛生工学衛生管理者免許、医師、歯科医師、労働衛生コンサルタント、その他厚生労働大臣が定める者 ※業種によって必要な資格は異なります。 |
医師の資格を持っていることに加え、特定の研修を修了する必要があります。 |
業務内容・職務
衛生管理者は労働環境の衛生管理を担当し、産業医は労働者の健康管理を専門とする医師です。
衛生管理者 | 産業医 |
職場の衛生と安全を管理する役割を担っています。
衛生管理者は、少なくとも週に1回は作業場を巡回し、設備や作業方法、衛生状態に危険がある場合には、すぐに労働者の健康障害を防ぐための適切な対策を取る必要があります。 |
産業医は労働者の健康管理等を行う役割を担っており、その職務は、法律上9つに分類されています。
産業医は、これらの活動に加えて、労働者の実態や現状を理解し、より効果的な健康管理を行うために、毎月1回の職場巡視や衛生委員会への参加、長時間労働者に関する情報の収集が求められます。 |
職場巡視の頻度や内容
衛生管理者と産業医には職場巡視が業務としてありますが、その目的は共通しており、作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態が働く人に有害な影響を及ぼすおそれがないか確認することです。
頻度には違いがあり、衛生管理者には週に1回、産業医には月に1回の実施が義務付けられています。
職場巡視の具体的な内容については、専門性や職場に応じて変わります。
選任条件と必要な人数
衛生管理者 | 産業医 |
常時50人以上の労働者がいる事業者は、その事業場専属の衛生管理者を選任する必要があります。選任の人数は事業場の労働者数に応じて次のように規定されています。
衛生管理者を2人以上選任する場合、衛生管理者の中に労働衛生コンサルタントがいるときは、そのうちの1人については専任でなくても問題ありません。 次のような場合は、衛生管理者のうち、少なくとも一人は専任である必要があります。
2の場合は、衛生管理者のうち一人を衛生工学衛生管理免許所持者から選任する必要があります。 |
常時 50 人以上の労働者がいる事業場においては、従業員数に応じて以下の人数の産業医を選任し、従業員の健康管理などを実施させる必要があります。 労働者数 50 人以上 3,000 人以下の規模の事業場 労働者数 3,001 人以上の規模の事業場 また、常時働く従業員が1,000人以上いる事業所や、特定の有害業務に従事する従業員が常時500人以上いる事業所では、専任の産業医を配置しなければなりません。 ここでの有害業務とは、多量の高熱物体または低温物体を取り扱う業務や、著しく暑熱または寒冷な場所における業務、有害な放射線(例えばラジウム放射線)にさらされる作業などが挙げられます。 |
おわりに
衛生管理者と産業医は、労働者の健康と安全を守るために重要な役割を果たしていますが、それぞれの職務には明確な違いがあります。両者が協力することで、より効果的な健康管理に繋がります。
(参照)
衛生管理者について(厚生労働省)
産業医について(厚生労働省)
中小企業事業者のために産業医ができること(厚生労働省)