近年、仕事による強いストレスが原因で精神障害を発病し、労災認定される労働者が増加の一途をたどり、企業としても従業員のメンタルヘルス対策は重要な課題となっています。
メンタルヘルス対策として具体的な取り組みとしては、産業医面談や産業保健体制の整備が挙げられ、企業のメンタルヘルス対策において産業医の役割は大変重要です。しかし、産業医といっても専門分野は異なるためメンタルヘルス対策において適切なアドバイスができないことも懸念されます。
担当者
すでに産業医がいるけれど、メンタルヘルスが専門外の場合はどうしたらよいでしょうか?
既に産業医がおられる場合には、精神科産業医との2人体制をおすすめします。
既に産業医がおられ、メンタルヘルスが専門外の産業医の場合は、選任の産業医+精神科産業医の2人体制で社内のメンタルヘルス対策を進めることをおすすめします。
その他、社内のメンタルヘルス対策を進めるにあたり、次のような要望や悩みを抱える企業は多いようです。
- 企業としてメンタルヘルス不調に重点的に取り組みたい
- 社内のメンタルヘルス体制づくりを進めたい
- 産業医はいるがメンタルヘルスは専門外でアドバイスがもらえない
- 産業メンタルヘルスに見識のある精神科医を探したい
この記事では、従業員のメンタルヘルス対策を進めるための産業医選びのポイントについてお伝えします。
産業医とは?
産業医とは、事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師を言います。従業員50人以上の事業場において選任することが義務付けられています。
全国の産業医の人数
全国で産業医の選定が義務付けられている事業場は16万以上あります。
一方、産業医資格を持つ医師は約9万人であり、その中で産業医として実働しているのは約3万人です。
このことから多くの産業医は複数の企業を掛け持ちしているということがわかります。さらに、実働している産業医のうち、精神科医はごく少数に留まっているのが現状です。
産業医の役割
産業医の役割は、法律において9つ分類されています。
産業医の職務(安衛則第14条第1項)
- 健康診断の実施とその結果に基づく措置
- 長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置
- ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置
- 作業環境の維持管理
- 作業管理
- 上記以外の労働者の健康管理
- 健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
- 衛生教育
- 労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置
これらを通じ労働者の健康管理等を適切に行うことが産業医の役割となります。
面接指導は産業医として重要な役割です。しかしメンタルヘルスに精通していない産業医が担当した場合、重大な兆候を見落としてしまう可能性もあります。
産業医は治療しない?一般的な医師との違い
産業医は医師免許を持つ医師ですが、医療行為を行う一般的な医師とは異なります。特にその職務として、産業医は労働者の健康管理や職場管理である一方、一般的な医師は患者の治療という点でも大きく異なります。
産業医 | 一般的な医師 | |
対象者 | 事業主、従業員 | 患者 |
活動場所 | 企業 | 病院 |
職務 | 健康管理、助言指導、労働衛生教育 | 検査、診察、治療 |
健康状態の判断基準 | 就労可能か | 日常生活を送ることが可能か |
産業医は労働者が安心して安全に働けることを目的として、労働者個人の健康状態だけではなく、仕事が原因で心身の不調をきたしていないかについて、職場環境等の企業全体を見て判断します。
産業医選びのポイント 〜従業員のメンタルヘルス対策のために〜
従業員のメンタルヘルス対策のために産業医を選ぶポイントとして、不調のある従業員との面談だけではなく、 その上司など周囲の方との面談や、 主治医との連携、 人事労務担当者との健康管理体制の相談なども対応可能かどうかという点が挙げられます。
従業員との面談
- 長時間労働者の面談
- 法定健康診断後の面談
- 本人の希望による面談
- ストレスチェック後の面接指導
- 復職面談
管理職との面談
- ラインケア相談
- 職場環境改善相談
社内研修
一般従業員向け
- セルフケア研修
- ストレスマネージメント研修
産業保健スタッフ向け
- ストレスチェック制度
- 健康管理体制に関する知識
管理監督者向け
- ラインケア研修
- コミュニケーション研修
健康管理体制整備における助言
社内のメンタルヘルス体制を整えるために産業医の役割は多岐にわたります。企業を一緒によくしようという意識と責任感がある産業医を選びたいですね。
● 問題解決能力として解決のための知識や人脈がある
● コミュニケーション能力、アレンジ力がある
● 自分の専門分野以外でもトリアージ(緊急度を判断する)能力がある
● 業務が増えることを拒まない、労力を惜しまない
既に産業医がいる場合は?
それでは既に選任の産業医がいる場合はどうでしょうか?
もしメンタルヘルスが専門外の産業医の場合、メンタルヘルス対策のための役割を産業医に依頼するのは難しくなります。
選任の産業医がいる企業でもメンタルヘルス対策を強化したいという場合は、メンタルヘルスの担当の産業医を契約して、選任の産業医と連携するという方法が考えられます。
選任の産業医と連携しながら、従業員との面談や精神科医の紹介、休職や復職に関する助言、その他メンタルヘルスの体制の状況に応じて必要な支援と問題解決をメンタルヘルスの担当の産業医に依頼することで、社内により効果的なメンタルヘルス体制を築くことができます。
精神科担当の産業医が提供できること
精神科担当の産業医は、医学的知識の他、職場環境を整備するための様々な見識やスキルを有しています。
そのため、精神科担当の産業医は、社内のメンタルヘルス体制を整備するにあたり、様々なアドバイスや支援を提供することができます。
● 健康経営的考えの理解を促すための研修
● 企業のメンタルヘルス体制構築のためのアドバイス等の支援
● 職場におけるメンタルヘルス不調の早期発見と適切な対応を促すための指導と支援
● 職場環境改善のためのアドバイス等の支援
● 職場の人間関係改善のための研修
● 労働者の意慾を高め成長を促すポジティブ心理学的研修
● 良好な人間関係を築くためのノウハウの提供
● 労働法規的知識、人事労務管理的知識の提供
精神科担当の産業医が持つスキル
1)職場風土、職場環境へ働きかけるスキル
①健康経営的考え方の理解と研修スキル
②企業のメンタルヘルス体制構築に関する見識とスキル
・労働者個人と組織、一次、二次、三次予防、など全体を包含した体制構築
2)職場のメンタルヘルス不調の早期発見と適切な対応を促すための指導と支援
①安全配慮義務の視点から管理監督者、人事労務担当者に必要なメンタルヘルスに関する見識の研修、指導のスキルと同時に支援するスキル
②労働者において必要なメンタルヘルスの見識を指導するスキル
3)労働者のより良い職場適応を促進するスキル
①多面的なアセスメント能力
・知的機能、発達特性などの生理因子的視点
・対人関係、行動特性、適性、価値観などのパーソナリティ的視点
・職場の物理的環境、労務管理体制、職務内容、労働形態、人間関係などの環境的視点
②労働者の適性を把握し、能力が十分発揮できる適応場所をみつけるスキル
③関係者全体の精神力動を把握し、調整する集団心理学的な視点とスキル
4)人間関係の良い職場環境つくりを支援するスキル
①上司・部下関係をよくするために役立つコミュニケーション研修スキル
②労働者をふくむ職場全体のコミュニケーションをよくするための研修スキル
5)労働者の健康増進を支援できるスキル
労働者の意慾を高め成長を促すポジティブ心理学的研修のスキル
6)良好な人間関係を築く能力
①労働者、企業関係者と良好な人間関係が築くための社会的常識と企業活動や企業用語の理解
②関係者、関係機関と良好な連携を築くコミュニケーション能力
③医療機関など事業場外資源と有効なネットワークを築くスキル
7)労働法規的知識、人事労務管理的知識
おわりに
職場のメンタルヘルスにおいて産業医に求められる役割は、労働者のメンタルヘルスに積極的に関わり、労働者一人一人が職場で良い適応を果たすよう支援すると同時に、人事、管理職、産業保健スタッフ等それぞれの立場の人たちに必要な支援を提供し、企業の職場環境の改善、結果として業績向上につながるような支援を行うことです。
企業が産業医を選定する際は、意欲と責任感があり、以上のことが実行できる専門性を有する産業医かどうか見極めることが重要です。
(参照)
現行の産業医制度の概要等(厚生労働省)
中小企業事業者の為に産業医ができること(厚生労働省)
【従業員のメンタルヘルス対策を強化する産業保健体制の整備をお手伝いします】
産業医がいる企業様、いない企業様に合わせて、おすすめの体制を支援します。
企業のホームドクターである<産業医>を中心とした産業保健体制の整備をお手伝いします。