2015年12月に従業員50名以上の事業場に実施が義務付けられたストレスチェック。
ストレスチェックが制度化され今年で8年が経過しましたが、改めてストレスチェック制度の義務化の背景、目的や法律、実施の流れについて解説していきます。
ストレスチェックの義務化とは?
ストレスチェックとは、ストレスに関する調査票に労働者が記入し、その結果を受けて、自分のストレス状態を知ることができる検査です。
これにより、メンタルヘルスの問題を軽減することが期待されています。また、検査の結果を集団で分析し、職場環境の改善を図ることで、労働者がメンタルヘルスの問題を抱えることを未然に防ぐことを目指しています。
ストレスチェックは2015年12月から従業員50名以上いる事業場で年1回の実施が義務付けられました。
なぜストレスチェックは義務化されたのでしょうか?その背景について見ていきます。
ストレスチェック義務化の背景
ストレスチェックが制度化され義務化された背景は、精神障害の労災認定件数が3年連続で過去最多を更新するなど、仕事での強いストレスを感じる労働者の割合が高い現状があります。
精神障害の労災認定件数の増加
2019年度の厚生労働省の調査によれば、ストレスなどによる精神障害の労災請求件数は2,060件となり、前年から240件増加し、調査開始以来、過去最高となっています。
精神障害が発症した理由としては「嫌がらせ、いじめ」が最も多く、「仕事内容や量の変化を生じさせる出来事」、「悲惨な事故や災害の体験や目撃」「2週間以上の連続勤務」などが挙げられています。
(参照:「令和元年度『過労死等の労災補償状況』についての報道発表」厚生労働省)
約6割が仕事での強いストレスを感じている
厚生労働省の調査によれば、仕事や職業生活において「強いストレスと感じる事柄がある」労働者の割合は58%であり、高い現状を示しています。
ストレスと感じる内容としては「仕事の質・量」が最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」、「パワハラ・セクハラを含む対人関係」となっています。
仕事や職業生活におけるストレスは近年増加傾向が見られ、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することが益々重要な課題となっていました。
このような背景からストレスチェック制度が創設されました。
(参照:「平成30年 労働安全衛生調査」厚生労働省)
ストレスチェック制度の目的
ストレスチェックは、従業員のストレス状況を把握するための調査そのものが目的ではありません。
調査を通じて、従業員自身のストレスへの気付きを促すとともに働きやすい職場づくりを進め、従業員がメンタルヘルス不調となることを未然に防止すること(一次予防)が主な目的です。
ストレスチェック制度の義務化の対象と内容
ストレスチェックは労働安全衛生法の改正に伴い、2015年12月より、従業員50名以上の事業場を対象に、ストレスチェックを年1回実施することが義務化されました。
義務化の対象や内容について具体的に見ていきます。
労働安全衛生法
(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
第六十六条の十
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
ストレスチェックが義務付けられている企業とは?
常時使用する従業員が50名以上の事業場に対してストレスチェックの実施が義務付けられています。
常時使用する従業員は、一般定期健康診断の対象者と同様、次の要件を満たせば契約社員、パート、アルバイト、派遣社員も含まれます。
① 期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。
② その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。
(引用:『ストレスチェックマニュアル』厚生労働省)
従業員50人未満の事業場の場合|助成金の活用
常時50人未満の従業員を使用する事業場の場合は、ストレスチェックの実施は努力義務となっていますが、「ストレスチェック助成金」等、国からの助成金も設けられており、それらを活用し働きやすい職場づくりの実践をおすすめします。
ストレスチェック助成金についてはこちらのページ(厚生労働省のページ)でご確認いただけます。
企業は何をすることを義務付けられている?
従業員50名以上の事業場に義務付けられている内容は次の通りです。
- ストレス状況について3領域を含む調査の実施
- 従業員への結果の通知
- 高ストレス者対応
- 労働基準監督署への実施報告
ストレス状況について3項目を含む調査の実施
ストレスチェックの調査内容は、次の3つの項目を含む必要があります。
- 仕事でのストレス因子(仕事の量的質的負担や、裁量など)
- 心身のストレス反応(活気、イライラ感、不安や疲労感など)
- 周囲の支援(上司、同僚、家族や友人からの支援など)
上記の内容を含んだストレスに関する調査を実施することが義務付けられています。
労働安全衛生法
(心理的な負担の程度を把握するための検査の実施方法)
第五十二条の九 事業者は、常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次に掲げる事項について法第六十六条の十第一項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査(以下この節において「検査」という。)を行わなければならない。
一 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
二 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
三 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
従業員への結果の通知
ストレスチェック実施後は、その結果について実施者から従業員に直接結果を通知する必要があります。
労働安全衛生法
(検査結果の通知)
第五十二条の十二 事業者は、検査を受けた労働者に対し、当該検査を行つた医師等から、遅滞なく、当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。
高ストレス者対応
調査実施後、実施者により選定された高ストレス者・面接指導対象者から面接の申し出があった場合、企業には面接指導を実施する義務があります。
労働安全衛生法
(面接指導の実施方法等)
第五十二条の十六 法第六十六条の十第三項の規定による申出(以下この条及び次条にお
いて「申出」という。)は、前条の要件に該当する労働者が検査の結果の通知を受けた後、遅滞なく行うものとする。
2 事業者は、前条の要件に該当する労働者から申出があったときは、遅滞なく、面接指導を行わなければならない。
労働基準監督署への実施報告
ストレスチェック実施後は、検査結果の報告書を所轄の労働基準監督署に提出する義務があります。
労働安全衛生法
(検査及び面接指導結果の報告)
第五十二条の二十一 常時五十人以上の労働者を使用する事業者は、一年以内ごとに一回、定期に、心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書(様式第六号の二)を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
ストレスチェック実施義務に反した場合の罰則とは?
以上、ストレスチェックの義務化の内容について見てきましたが、未実施の場合は罰則はあるのでしょうか?
ストレスチェックの未実施そのものについて罰則はありません。
しかし、ストレスチェック実施後は、所轄の労働基準監督署への報告義務があり、それを怠ったたり、虚偽の報告をした場合は、労働安全衛生法120条5項に基づき、最大50万円の罰金が課される可能性があります。
労働安全衛生法 第十二章 罰則
第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
(中略)
五 第百条第一項又は第三項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者
ストレスチェック実施報告書の書き方や提出方法についてはこちらの記事で詳しく説明しています。
以上、ストレスチェックの制度や義務化の背景や内容について説明いたしました。
それではストレスチェックの準備から実施、報告までストレスチェック全体の流れを見ていきましょう。
ストレスチェック実施の流れ
ストレスチェックは、運用準備から、調査実施、高ストレス者対応、職場環境改善、報告書の提出までが一連の流れとなります。それぞれ順を追って説明していきます。
ストレスチェック実施前の運用準備
ストレスチェック制度の責任者は事業者であり、実施前に事業者は制度の導入方針を決定・表明します。運用準備段階においては、実施体制を確認し、実施方法を決定していきます。
事業者による方針の表明
事業者は、ストレスチェックの各種法律、規則、ストレスチェック指針に基づき、ストレスチェック制度に関する基本方針を表明します。
衛生委員会で調査審議
衛生委員会とは、労働安全衛生法施行令9条において常時使用労働者数が50人以上の事業場で設置が義務付けられている組織です。
衛生委員会で審議する内容について「ストレスチェック指針」において提示されています。
・目的と周知方法
・実施体制
・制度担当者、実施者、実施事務従事者の明示
・実施方法
・ ストレスチェック結果に基づく集団ごとの集計・分析の方法
・ストレスチェックの結果の保存
・情報提供の同意取得方法
・集団分析実施について
・受検者対する不利益な取扱いの防止 など
実施方法や体制等の決定後、従業員にストレスチェック実施の説明、スケジュール等の情報提供を行います。
集団分析の実施について
集団分析の実施は義務ではなく努力義務となっています。
実施するか否かについては衛生委員会で審議します。
実施する場合は、集団分析の活用方針や、職場環境改善に生かすための集団集計の単位等(部単位か、課単位かなど)を決定します。
ストレスチェックの実施
対象となる従業員にマークシート・オンライン等でストレスチェックを受検してもらうよう通知し実施します。
オンラインでのストレスチェックについては、「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」を無料で利用できます。
ストレスチェックの受検は従業員にとっては義務ではありません。しかし受検者自身のストレス状況を確認する機会であるため多くの方に受検してもらえるよう、未受検者へは受検勧奨を実施することも可能です。その場合は、従業員に対する不利益な取扱いが行われないことを確保した上で行われることが重要です。
ストレスチェックの受検対象者は?
ストレスチェックの受検対象は正社員に加え、1年以上の雇用継続が見込まれ、所定労働時間が正社員の4分の3以上のパートタイム労働者・アルバイト労働者が対象となります。
ストレスチェックの対象とならない従業員は?
休職者
ストレスチェック実施期間中に休職している労働者や長期の病休者は、ストレスチェックを実施しなくて差し支えないとされています。
長期出張者
業務上の都合ややむを得ない理由でストレスチェックを受けることができなかった者に対しては、別途受検の機会を設ける必要があります。
海外の長期勤務者
海外の現地法人に雇用されている場合は、日本の法律が適用にはならず、ストレスチェックの実施義務はありません。
しかし、日本の企業から現地に長期出張している社員の場合は、ストレスチェックを実施する必要があります(一般健診と同じ扱い)。
在籍出向労働者
ストレスチェックは、労働契約を結んでいる事業者で実施されることになります。ただし、在籍型出向の場合には、出向先の事業者と出向労働者の間に労働契約が存在するかどうかは、実際の労働関係、つまり指揮命令権や賃金の支払いなどを総合的に考慮して判断することが求められています。
そのため、「在籍出向労働者」のストレスチェックを出向元で行うか出向先で行うかは、実態を総合的に考慮して決定する必要があります。
また、集団分析は職場単位で行うことが重要であるため、在籍出向の状況に関わらず、出向先の事業者で出向者も含めてストレスチェックを実施し、その結果を基に集団分析を行うことが望ましいとされています。
派遣社員
派遣労働者に関しては、派遣元の事業者が実施することが求められています。
しかし、集団での分析は職場単位で行うことが重要ですので、派遣先の事業者は派遣労働者も対象に含めて、ストレスチェックの結果を集計・分析することが推奨されます。
この際、派遣労働者は派遣元でも受検の機会が提供されるため、事前に派遣労働者と派遣元事業者に受検への協力をお願いしておくと良いでしょう。
結果を受検者に通知
調査結果を回収し、質問表を元にストレス状況を判定し、実施者から受検者に結果を直接通知します。
ストレスチェックの結果の他、セルフケアに関する助言や指導、面接指導の申出窓口以外のストレスチェック結果について相談できる窓口に関する情報提供が通知されることが望ましいです。
高ストレス者の選定方法
「ストレスチェック指針」において、高ストレス者の選定方法は、次のいずれかの要件を満たす者と示されています。選定基準について実施者の助言を受けながら、決定します。
- 調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が高い者
- 調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が一定以上の者であって、かつ、「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」及び「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」の評価点数の合計が著しく高い者
面接指導の通知について
高ストレス者が面接指導を申し出た場合、ストレスチェックの結果を事業者へ報告することになります。このことについて該当する受検者にはしっかりと伝える必要があります。
個人情報の開示を拒否する方もいますが、その場合は改めてストレスチェックの目的と法の定めるところで情報開示をしなければならない旨を説明することが重要です。
しかし、事業者への報告を拒否し続ける場合は、ストレスチェック実施後の面接指導から、産業保健活動の一環としての相談に切り替えることをおすすめします。産業医の面談の場合は、事業者へ情報開示をする必要はありません。
高ストレス者への医師による面接指導
高ストレス者と選定された受検者から申出があった場合は、医師による面接指導が行われなければなりません。
2017年に公開された『ストレスチェック制度の実施状況』によれば、ストレスチェックを受けた労働者のうち、医師による面接指導を受けた労働者は0.6%。面接指導の申出がなされにくい実情が明らかとなりました。
表5 医師による面接指導を受けた労働者の状況
事業場規模 | 50~99 人 | 100~299 人 | 300~999 人 | 1000 人以上 | 計 |
---|---|---|---|---|---|
医師による面接指導を受けた 労働者の割合 |
0.8% | 0.7% | 0.6% | 0.5% | 0.6% |
『ストレスチェック制度の実施状況』(厚生労働省)
面接指導の申出が無い場合は、面接指導の申出の勧奨や、最終的な意思確認をとることも可能です。しかしその場合、第三者にその社員が面接指導の対象者であることが知られることがないよう配慮する必要があります。
面接指導実施において重要事項
面接指導の実施においては、プライバシー保護等様々な場面で注意が必要です。
- ・面接指導は面接を希望した日から1か月以内に実施することが望ましい
- ・必ず勤務時間内に行われるように調整する
- ・プライバシーが保たれる場所で実施をする
- ・事業場以外で実施する場合は、移動時間のかからない等の配慮が必要
- ・従業員の誤解なく面接指導の重要性を理解してもらうことが大切
- ・面接指導に関わる費用は、事業者が負担
ストレスチェックを職場環境改善につなげる
ストレスチェックを実施する目的は、職場環境をチェックし職場環境改善が目的です。従業員のストレス状況をチェックすることがその目的ではありません。
現在は努力義務となっており、職場環境改善に後ろ向きな企業も少なくはありません。しかし、職場環境改善に取り組むことは、企業にとっても大きなメリットがあります。
職場環境改善することのメリット
職場環境改善することは、従業員、企業双方にとってメリットがあります。従業員の健康度が高まることで全体の生産性のアップや、コスト低下が期待できます。
もし職場環境が悪い場合、従業員のパフォーマンスが低下し、それに伴い生産性も下がる可能性があります。また、従業員の健康リスクを見過ごしてしまうと、休職者の増加に繋がり、復職後も再発のリスクがある状態となります。このことにより会社にとってコストが大きくなってしまいます。
働きやすいよう職場環境改善を行うことは、従業員の健康度がアップすることによる会社にとってのコスト低下や、従業員のパフォーマンス向上による生産性のアップが期待できます。
職場環境改善にとって有用であるストレスチェックは、事業経営にとって重要といえます。
職場環境改善をするために集団分析の何を見るべきか?
ストレスチェックの結果を職場環境改善に生かすためには、集団分析が重要です。
具体的には「仕事のストレス判定図」からストレス要因を確認し、改善ポイントを見出します。
職場環境改善につなげるための集団結果の見方についてはこちらをご参照ください。
結果報告書の提出
ストレスチェック終了後は、報告書を提出する必要があります。未提出の場合は、罰則対象となります。
報告書はオンラインで作成するサービス等が厚生労働省にて公開され、電子申請も可能です。
報告書の書き方、見本、電子申請の方法や提出先等の詳細についてはこちらの記事をご参照ください。
おわりに
ストレスチェック制度義務化の背景から実施の流れまでを解説してきました。
ストレスチェック制度の目的は、従業員のストレス状況をチェックすることではなく、職場環境改善にあります。
現時点においては集団分析の実施や職場環境改善は義務付けられていません。しかし職場環境改善により従業員がいきいきと働くことができ生産性の向上にも繋がります。このことは企業にとっても大きなメリットといえます。
毎年行われるストレスチェック。実施だけで終わらせずより働きやすい職場づくりに生かすことが大切です。
ストレスチェック8年間の経験と40万人の実績がある日本CHRコンサルティングでは、300社以上のストレスチェック支援経験のある組織コンサルタントが職場環境改善をサポートします。全国対応しております。お気軽にお問い合わせ下さい。