従業員のメンタル不調を未然に防ぐことを主な目的として実施されているストレスチェック。標準的に行われているのは「職業性ストレス簡易調査票」(以下、「ストレスチェック57項目版」)ですが、近年「新職業性ストレス簡易調査票」(以下、「ストレスチェック80項目版」)が注目されており、多くの企業で実施されています。
今回はストレスチェック80項目版を実施することのメリットや、内容について解説します。
ストレスチェックの項目数について
ストレスチェックの項目数については規定がなく、何項目にするは事業場に委ねられています。
但し、次の3領域に関する項目「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」をすべて含まなければいけません。また、選定する項目に一定の科学的な根拠が求められます。
② 心身のストレス反応:心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目。
③ 周囲のサポート:職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目。
これらの領域を理解し、調査票の項目数や構成を検討する際の注意点について説明します。
3つの領域に関する項目はすべて含む必要がある
ストレスチェックを実施する際、設問の数に関わらず、「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3つの領域を必ず含める必要があります。ここでは、それぞれの領域について詳しく説明していきます。
仕事のストレス要因
これは、職場における心理的な負担の原因を指します。具体的には以下の要素が含まれます:
- 心理的な仕事の量的負担:業務量が多すぎる、時間内に仕事を終えるのが難しいなど。
- 心理的な仕事の質的負担:業務内容が複雑で高度な注意や技術を要する。
- 身体的負担:肉体的に疲労を感じる業務が多い。
- コントロール:仕事の進め方やペースを自分で調整できるか。
- 対人関係:職場での人間関係の良し悪し。
- 職場環境:作業環境の快適さや安全性。
- 技能の活用:自身のスキルや能力を十分に活かせているか。
- 適性度:自分の適性に合った仕事かどうか。
- 働きがい:仕事にやりがいや満足感を感じているか。
これらの要因を評価することで、従業員がどのようなストレス要因に直面しているかを把握できます。
心身のストレス反応
これは、ストレスによって生じる心理的および身体的な反応を指します。具体的には次の通りです。
心理的ストレス反応
- 活気:エネルギッシュで前向きな気分。
- イライラ感:些細なことで苛立つ。
- 疲労感:常に疲れていると感じる。
- 不安感:漠然とした不安や心配。
- 抑うつ感:気分が落ち込む、興味や喜びの喪失。
身体的ストレス反応
- 頭痛、肩こり、胃の不調などの身体的症状。
これらの反応を評価することで、ストレスが従業員の心身にどのような影響を及ぼしているかを理解できます。
周囲のサポート
これは、職場や家庭における支援の程度を指します。具体的には次の通りです。
- 上司からのサポート:上司が相談に乗ってくれる、助言をくれる。
- 同僚からのサポート:同僚が協力的である、助け合える関係。
- 家族や友人からのサポート:家庭や友人関係での支援や理解。
周囲からのサポートが充実していると、ストレスの緩和や対処が容易になります。
ストレスチェックの項目数と構成について
ストレスチェックの質問項目数は、事業所の裁量で決定できます。しかし、前述の「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3領域をすべて含める必要があります。
一般的な調査票として、厚生労働省が推奨する57項目版(職業性ストレス簡易調査票)があります。これは、約10分で回答でき、労働者のストレス状態を総合的に評価できます。
質問項目を増やす際の注意点
調査票の項目を追加・修正することは可能ですが、以下の点に注意が必要です。
-
科学的根拠のある項目を選定する:追加する項目は、信頼性と妥当性が確認されたものであることが望ましいです。
-
回答者の負担を考慮する:項目数が多すぎると、回答者の負担が増し、正確な回答が得られにくくなる可能性があります。適切な項目数を維持することが重要です。
-
プライバシーへの配慮:個人情報やプライバシーに関わる質問は避け、回答者が安心して回答できる環境を整えることが重要です。
以上の点を踏まえ、ストレスチェックの設問は、事業所ごとの課題に応じて柔軟に設計しつつ、科学的根拠のある項目を採用し、回答者の負担やプライバシー保護にも配慮することが重要です。適切な項目数と構成を意識することで、より実態に即したストレス評価を行い、労働環境の改善につなげることができます。
ストレスチェック57項目版
57項目版の質問内容は厚生労働省のホームページから確認することができます。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/dl/stress-check_j.pdf
57項目からなる調査票は、ストレスチェックに必要な3つの重要な領域—仕事のストレス要因、心身のストレス反応、そして周囲のサポート—をすべて包括的にカバーしています。
このように多面的なアプローチを採ることで、従業員のストレス状況を全体的に把握することができ、企業におけるストレス管理の基盤を形成するのに非常に役立ちます。
具体的には、各領域の評価を通じて、企業全体のストレス状況を明らかにし、どの部分に改善の余地があるのかを特定することが可能になります。これにより、経営者や人事担当者は、効果的な改善策を策定し、従業員の健康や働きやすい環境づくりに向けた具体的なステップを踏むことができます。
しかしながら、この調査票にはいくつか不足している部分もあります。特に、具体的なストレス要因や特定のストレス反応についての詳細な情報を得るには、やや不十分な内容となっています。つまり、全体の状況を把握するには適していても、個々の従業員が直面している具体的な問題や反応を深く理解するためには、追加の調査や分析が必要となるでしょう。
ストレスチェック23項目版
ストレスチェック23項目版は、57項目版の簡略版です。23項目版にも必要な質問3領域が含まれ、職場や受検者のストレス状況について最低限把握することができます。
23項目版の質問内容は厚生労働省のホームページから確認することができます。
ストレスチェック80項目版とは?57項目版との違い
ストレスチェック80項目版とは、標準版のストレスチェック57項目版に追加の23問を加えた、80項目からなるストレスチェックです。80項目版の最大のメリットは、職場のストレス状況をより詳細に把握することができるため、効率的な職場環境改善につなげることができることです。
ストレスチェック80項目版と57項目版との違いとは、設問数の違いだけでなく、評価の詳細さや目的にも大きな違いがあります。
57項目版は、厚生労働省が推奨する標準的なストレスチェックツールであり、主に職場のストレス状況を簡単に把握することを目的としています。
一方、80項目版は、57項目版の基本的な評価項目に加えて、より詳細な要素を調査し、職場環境の改善につながる深い分析を可能にするツールです。
まず、調査内容の違いについて説明すると、57項目版は以下の3つの領域を中心に評価します。
- 仕事のストレス要因:業務量の多さ、仕事の裁量権の有無など。
- 心身のストレス反応:ストレスによる心理的・身体的な症状。
- 周囲のサポート:上司や同僚からの支援がどの程度受けられるか。
これに対して、80項目版では、上記3つの領域に加えて、より多角的な視点から職場環境を分析するための設問が追加されています。具体的には、以下のような項目が含まれます。
- 感情的負担や役割葛藤:職務上の矛盾した要求や感情的なストレスの程度。
- 職場環境の詳細な評価:職場の公平性や上司のリーダーシップ、仕事の意義の感じ方など。
- ワーク・エンゲージメント:仕事への熱意や誇り、活力のレベル。
- ソーシャルキャピタル(職場の一体感):職場の協力関係や、働きやすさの要因。
- ハラスメントの有無:いじめやパワハラの状況についての調査。
次に、所要時間と実施負担の違いについてですが、57項目版は回答時間が約5分程度と短く、手軽に実施できるため、企業にとって導入しやすい利点があります。
そのため、初めてストレスチェックを実施する企業や、簡単に従業員のストレス状況を把握したい場合には適しています。一方、80項目版は約10分ほどの回答時間が必要となるものの、より詳細なデータを取得できるため、職場の具体的な問題点を特定し、組織全体のストレス環境を改善するための施策を立てるのに有効です。
また、活用目的の違いも重要なポイントです。
57項目版は、労働安全衛生法に基づいた最低限のストレスチェック義務を果たすために適しています。一方で、80項目版は、より詳細な分析を行うことで、企業が積極的に従業員のメンタルヘルス対策を推進し、長期的な職場改善につなげるためのデータを得ることができます。特に、企業がメンタルヘルスの向上を経営戦略の一環として重視する場合には、80項目版を活用することで、より的確な施策を打ち出すことができます。
総じて、57項目版は「簡便で基本的なストレスチェック」、80項目版は「より詳細な分析を可能にするストレスチェック」と言えます。企業の目的や人員体制、従業員のストレス状況に応じて、適切な調査方法を選択することが重要です。
ストレスチェック57項目版と80項目版の違いについて次のようにまとめることができます。
項目 | 57項目版 | 80項目版 |
---|---|---|
実施の手軽さ | 約5分で回答でき、従業員の負担が少ない | 約10分かかり、回答の負担がやや大きい |
導入のしやすさ | 厚生労働省推奨で、多くの企業が導入しやすい | 導入・運用のハードルが高め |
コスト | 負担が少なく、手軽に実施可能 | 分析に時間とコストがかかる |
評価内容 | 仕事のストレス要因・心身の反応・周囲のサポートを評価 | さらにハラスメント、ワーク・エンゲージメントなども分析可能 |
活用目的 | 義務対応に適し、簡単なストレス状況の把握向け | 職場環境の詳細分析・改善に最適 |
ストレスチェック80項目版で追加された尺度
ストレスチェック57項目版の尺度と80項目版で追加された尺度は次の通りです。
区分 | 57項目版の尺度 | 80項目版で追加された尺度 |
仕事の負担 | 量的負担 質的負担 身体的負担度 対人関係 職場環境 |
情緒的負担 役割葛藤ワークセルフバランス (ネガティブ) |
作業レベル資源 | 仕事のコントロール 仕事の適性 技能の活用 仕事の意義 |
役割明確さ 成長の機会 |
部署レベル資源 |
上司のサポート |
経済地位・尊重・安定報酬 |
事業場レベル資源 |
経営層との信頼関係 ワークセルフバランス |
|
アウトカム | 心理的ストレス反応 身体的ストレス反応 仕事の満足度 家庭の満足度 |
従業員のいきいき 職場の一体感 職場のハラスメント |
参照:現行および新職業性ストレス簡易調査票尺度一覧(厚生労働省)
ストレスチェック80項目版のメリット
標準的なストレスチェック57項目版では、従業員や職場のストレス要因やストレス反応が測定されてきました。しかし、従業員のストレスやメンタルヘルスはより広い職場要因によって影響を受けていることから、様々な職場環境による影響を測定するためにも、ストレスチェック80項目版を用いる企業が多くなってきています。
ストレスチェック80項目版のメリットは、42個の尺度(推奨尺度セット)で集団分析が可能となりより細かく職場環境の実態把握ができることです。それにより今まで以上に職場環境改善策に繋がりやすくなります。
さらにそのほかのメリットについてもまとめてお伝えします。
ストレス状況の理解を深める
80項目からなる調査票の最も大きな利点は、職場におけるストレス状況をより詳細に把握できることです。この調査票は、具体的な業務要因や従業員一人ひとりの症状を詳しく特定することができるため、全体のストレス要因を明らかにしやすくなります。
たとえば、業務の負担、職場の人間関係、労働環境など、さまざまな要因を分析することで、どの部分に問題があるのかを把握できるのです。このような深い理解に基づいて、具体的で効果的な改善策を計画し、実施することが可能になります。
集団分析の精度向上につながる
この調査票では、「働きがい」や「ハラスメント」、さらに「ワークエンゲージメント」といった情報を57項目版よりも多く収集することができます。このため、集団分析の精度が大幅に向上します。より多くのデータを取得することで、組織全体のストレス状況をより正確に把握でき、特定の部門やチームにおけるストレスの傾向を明らかにすることができます。これにより、必要な対策を講じる際に、より効果的かつ的確なアプローチが可能になります。
職場環境改善・生産性の向上につながる
ストレスを軽減することは、ワーク・エンゲージメント—つまり、仕事に対する熱意や没頭感、活力といった心理状態—を高める重要な要因となります。ストレスが減少することで、従業員はより集中して業務に取り組むことができ、仕事に対する満足感が向上します。これにより、企業全体の生産性が向上し、従業員は仕事を通じてより充実した生活を送ることが期待できます。結果として、従業員の定着率も向上し、企業の持続的な成長に寄与することに繋がります。
ストレスチェック80項目版の内容やわかることは?
ストレスチェック80項目版では、57項目版の結果プラス次のことがわかります。
●仕事の負担について情緒的負担や役割葛藤を測定
●職場環境要因をより広く測定
仕事の資源について多角的に分析
・作業レベル(仕事の意義、役割明確さ、成長の機会など)
・部署レベル(仕事の報酬、上司のリーダーシップなど)
・事業場レベル(経営層との信頼関係、人事評価の公正さ、個人の尊重など)
●労働者の仕事へのポジティブな関わり(ワーク・エンゲイジメント)
●職場の一体感(職場のソーシャルキャピタル)
●職場のハラスメント など
ストレスチェック80項目版はより詳細な職場環境について分析し現状を把握し、職場環境改善に役立てることができます。
ストレスチェック80項目版の質問内容
57番目までは、ストレスチェック57項目版と共通です。
A.あなたの仕事についてうかがいます。最もあてはまるものに○をつけてください(4段階から選択)。
1. 非常にたくさんの仕事をしなければならない
2. 時間内に仕事が処理しきれない
3. 一生懸命働かなければならない
4. かなり注意を集中する必要がある
5. 高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ
6. 勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない
7. からだを大変よく使う仕事だ
8. 自分のペースで仕事ができる
9. 自分で仕事の順番・やり方を決めることができる
10. 職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる
11. 自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない
12. 私の部署内で意見のくい違いがある
13. 私の部署と他の部署とはうまが合わない
14. 私の職場の雰囲気は友好的である
15. 私の職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない
16. 仕事の内容は自分にあっている
17. 働きがいのある仕事だ
B.最近1か月間のあなたの状態についてうかがいます。最もあてはまるものに○を付けてください(4段階から選択)。
18. 活気がわいてくる
19. 元気がいっぱいだ
20. 生き生きする
21. 怒りを感じる
22. 内心腹立たしい
23. イライラしている
24. ひどく疲れた
25. へとへとだ
26. だるい
27. 気がはりつめている
28. 不安だ
29. 落着かない
30. ゆううつだ
31. 何をするのも面倒だ
32. 物事に集中できない
33. 気分が晴れない
34. 仕事が手につかない
35. 悲しいと感じる
36. めまいがする
37. 体のふしぶしが痛む
38. 頭が重かったり頭痛がする
39. 首筋や肩がこる
40. 腰が痛い
41. 目が疲れる
42. 動悸や息切れがする
43. 胃腸の具合が悪い
44. 食欲がない
45. 便秘や下痢をする
46. よく眠れない
C.あなたの周りの方々についてうかがいます。最もあてはまるものに○を付けてください(4段階から選択)。
次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか?
47. 上司
48. 職場の同僚
49. 配偶者、家族、友人等
あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか?
50. 上司
51. 職場の同僚
52. 配偶者、家族、友人等
あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらいきいてくれますか?
53. 上司
54. 職場の同僚
55. 配偶者、家族、友人等
D.満足度についてうかがいます。最もあてはまるものに○を付けてください(4段階から選択)。
56. 仕事に満足だ
57. 家庭生活に満足だ
E.あなた自身のお仕事について、もう少し詳しくうかがいます。最もあてはまるものに○をつけてください(4段階から選択)。
58. 感情面で負担になる仕事だ
59. 複数の人からお互いに矛盾したことを要求される
60. 自分の職務や責任が何であるか分かっている
61. 仕事で自分の長所をのばす機会がある
F.あなたが働いている職場についてうかがいます。最もあてはまるものに○をつけてください(4段階から選択)。
62. 自分の仕事に見合う給料やボーナスをもらっている
63. 私は上司からふさわしい評価を受けている
64. 職を失う恐れがある
65. 上司は、部下が能力を伸ばす機会を持てるように、取り計らってくれる
66. 上司は誠実な態度で対応してくれる
67. 努力して仕事をすれば、ほめてもらえる
68. 失敗しても挽回(ばんかい)するチャンスがある職場だ
G.あなたの働いている会社や組織についてうかがいます。最もあてはまるものに○をつけてください。
69. 経営層からの情報は信頼できる
70. 職場や仕事で変化があるときには、従業員の意見が聞かれている
71. 一人ひとりの価値観を大事にしてくれる職場だ
72. 人事評価の結果について十分な説明がなされている
73. 職場では、(正規、非正規、アルバイトなど)いろいろな立場の人が職場の一員として尊重されている
74. 意欲を引き出したり、キャリアに役立つ教育が行われている
75. 仕事のことを考えているため自分の生活を充実させられない
76. 仕事でエネルギーをもらうことで、自分の生活がさらに充実している
H.あなたのお仕事の状況や成果についてうかがいます。最もあてはまるものに○をつけてください(4段階から選択)。
77. 職場で自分がいじめにあっている (セクハラ、パワハラを含む)
78. 私たちの職場では、お互いに理解し認め合っている
79. 仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
80. 自分の仕事に誇りを感じる
参照:職業性ストレス簡易調査票を用いたストレスの現状把握のためのマニュアル (厚生労働省)
おわりに
以上、ストレスチェック80項目版のでわかることやメリットについて説明してきました。80項目版を採用することにより、職場環境を多角的に分析把握でき、会社全体のメンタルヘルス向上や生産性向上に繋がります。