ストレスチェックを実施したあと、「点数をどう計算すればいいのか」「高ストレス者の基準はどこで判断するのか」と悩む担当の方は多いのではないでしょうか。
厚生労働省が推奨する職業性ストレス簡易調査票では、点数の出し方に2つの方法があり、それぞれで評価の仕方が異なります。
今回は、ストレスチェックの点数を算出するための単純合計計算法と素点換算法の違いをわかりやすく解説します。また、高ストレス者をどのように判定すべきか、厚生労働省の基準と自社で調整する際のポイントも紹介します。
ストレスチェックとは?計算前に理解しておくべき基本
ストレスチェックの計算方法を理解する前に、まずは制度そのものの目的や法的な位置づけを整理しておきましょう。
ここでは、なぜ企業がストレスチェックを実施するのか、そして結果をどのように扱う必要があるのかをわかりやすく解説します。
ストレスチェックの目的と法的義務
ストレスチェック制度は、労働安全衛生法の改正により2015年12月から義務化された制度です。
従業員のメンタルヘルスを早期に把握し、職場環境の改善につなげることが目的とされています。
対象は原則として常時50人以上の労働者を雇用する事業場であり、年に1回以上の実施が求められています。
ストレスチェックの主な目的は以下の3点です。
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| 一次予防 | 従業員自身がストレスに気づき、セルフケアを促す。 |
| 職場改善 | 職場環境の問題点を把握し、組織的な対策を行う。 |
| 早期支援 | 高ストレス者を早期に把握し、産業医面談などにつなげる。 |
実施後に必要な高ストレス者判定
ストレスチェックを実施した後は、回答結果を点数化して解析し、
その結果から従業員ごとのストレス状態を把握して、高ストレス者を判定します。
このとき計算方法を誤ると、実際のストレス状況を正確に反映できないため、正しい計算ルールを理解しておくことが重要です。
次の項目では、ストレスチェックの点数を構成する「3つの領域」について解説します。
ストレスチェックで評価される3つの領域
ストレスチェックの計算は、厚生労働省が定める「職業性ストレス簡易調査票」をもとに行われます。
この調査票は、従業員のストレス状態を多面的に捉えるために、3つの主要な領域から構成されています。
仕事のストレス要因(領域A)
「仕事の量が多い」「部署内での人間関係がうまくいかない」など、職場環境や業務内容が原因となるストレスを測定します。
具体的には、仕事の量・質・裁量の自由度・職場の人間関係など17項目で構成されています。
| 項目の例 | 測定する内容 |
|---|---|
| 仕事の量 | 時間内に仕事を終えられるかどうか |
| 仕事のコントロール | 自分のペースで仕事ができるか |
| 人間関係 | 上司や同僚との関係の良好さ |
この領域の得点が低い場合、職場環境に起因するストレスが高いと判断されます。
心身のストレス反応(領域B)
「気分が落ち込む」「頭痛がする」などの自覚症状を評価する部分です。
29項目あり、身体的な不調(頭痛・肩こり・食欲不振など)と心理的な不調(不安・イライラ・抑うつなど)を測定します。
| 項目の例 | 内容 |
|---|---|
| 身体的反応 | めまいや疲労感、睡眠障害など |
| 心理的反応 | 意欲の低下、不安感、集中力の低下など |
この領域は高ストレス者の判定で最も重視される項目です。
周囲のサポート(領域C)
「上司や同僚に相談できるか」「家族の支えを感じるか」といった、周囲の人間関係のサポート状況を評価します。
9項目で構成され、職場だけでなく家庭や友人関係も含まれるのが特徴です。
| 項目の例 | 測定する内容 |
|---|---|
| 上司からのサポート | 困ったときに相談できるか |
| 同僚からのサポート | 気軽に話せる関係があるか |
| 家族・友人の支援 | プライベートで支えがあるか |
周囲の支援が不足している従業員は、ストレスが慢性化しやすい傾向があります。
次に、これらの領域を使って点数を算出する「2つの計算方法」を詳しく解説します。
ストレスチェックの点数を計算する2つの方法
ストレスチェックの結果は、回答内容を点数化して数値で評価します。
計算方法には大きく分けて2種類あり、それぞれの特徴を理解しておくことが重要です。
ここでは、単純合計計算法と素点換算法の違いや計算手順を詳しく見ていきましょう。
シンプルに集計できる「単純合計計算法」
単純合計計算法とは、各質問項目の得点をそのまま合計して評価する方法です。
すべての質問に1〜4の点数をつけ、領域ごとに合計します。
ただし、一部の項目は「逆転項目」と呼ばれ、点数を反転させて計算しなければなりません。
| 逆転項目の変換ルール | 点数の変換結果 |
|---|---|
| 4点 → | 1点 |
| 3点 → | 2点 |
| 2点 → | 3点 |
| 1点 → | 4点 |
逆転項目は、点数が低いほどストレスが高いことを示す質問です。
そのため、評価の方向性をそろえるために、上記のように点数を入れ替える必要があります。
単純合計計算法のメリットは計算が簡単で導入しやすいこと。
一方で、項目数が多い領域ほど得点が高くなるという欠点もあります。
そのため、領域ごとの比較には不向きで、傾向をざっくり把握する用途に適しています。
より正確な「素点換算法」の仕組みと手順
素点換算法とは、各項目の点数を換算表に当てはめて評価点を算出する方法です。
厚生労働省が定めた職業性ストレス簡易調査票の換算表「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアルp.44(厚生労働省)」を使用し、5段階で評価します。
評価点の数字が大きいほど、ストレスが少ない状態を示します。
| 評価 | ストレスレベル |
|---|---|
| 1 | 非常に高いストレス状態 |
| 2 | やや高いストレス状態 |
| 3 | 平均的 |
| 4 | やや低いストレス状態 |
| 5 | ストレスが少ない状態 |
計算の流れは以下の通りです。
- ① 各項目の回答を確認する
- ② 換算表に当てはめて尺度ごとの評価点を算出する
- ③ A・B・Cの3領域ごとに合計する
例えば、「心理的な仕事の負担(量)」の3項目で「1,1,2」と回答した場合、計算式は15−(1+1+2)=11となります。
換算表上ではこの素点「11」は評価点「2」に該当し、「やや高いストレス状態」と判断されます。
素点換算法は、個人ごとのストレス傾向をより正確に把握できる高精度な方法です。
高ストレス者の判定基準とは?
ストレスチェックの点数を算出したら、次に高ストレス者をどのように判定するかを決めます。
高ストレス者とは、ストレス反応が一定以上で、業務や健康への影響が懸念される従業員のことです。
ここでは、厚生労働省が定める基準と、企業が独自に設定できるポイントを紹介します。
単純合計計算法による高ストレス者の基準
単純合計計算法の場合は、以下の基準で高ストレス者を判定します。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ① | 心身のストレス反応(領域B)の合計点が77点以上 |
| ② | 心身のストレス反応(領域B)が63点以上かつ、仕事のストレス要因(A)と周囲のサポート(C)の合計が76点 |
これらの条件のいずれかを満たすと、高ストレス者として面接指導の対象になります。
素点換算法による高ストレス者の基準
素点換算法では、各領域の評価点を合計して判定します。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ① | 心身のストレス反応(B)の評価点が12点以下 |
| ② | 心身のストレス反応(B)が17点以下で、仕事のストレス要因(A)+周囲のサポート(C)が26点以下 |
この方法では、数値が低いほどストレスが高いと判定されます。
素点換算法はより精密な分析ができるため、職場全体のメンタルヘルス傾向を把握するのにも適しています。
自社で独自基準を設定する際のポイント
厚生労働省の基準は、全体の約10%を高ストレス者として想定しています。
ただし、業種や職場環境によってストレスの傾向は異なるため、自社で独自に基準を調整しても問題ありません。
| 調整の例 | 目的 |
|---|---|
| 高ストレス者の割合を12%に引き上げ | 休職者増加などのリスクを早期に察知する |
| 特定部署ごとに基準を変更 | 部署間の業務負荷差を考慮する |
ただし、基準の変更や運用には産業医や衛生委員会での協議が必須です。
制度を形骸化させず、実効性ある運用を行うためには、専門家との連携が欠かせません。
どちらの計算方法を選ぶべきか?
これまで見てきたようにストレスチェックの点数を算出する方法には、単純合計計算法と素点換算法があります。
どちらを採用するかは、企業の目的や求める精度によって判断する必要があります。
ここでは、それぞれのメリット・デメリットを比較し、最適な選び方を整理します。
精度を重視するなら素点換算法
素点換算法は、厚生労働省の推奨する標準的な方法です。
質問項目の数や重みを考慮して計算されるため、より正確なストレス評価が可能になります。
特に、抑うつ傾向や心理的負担の分析など、細かなメンタル状態を把握したい場合に適しています。
| 素点換算法の特徴 | 内容 |
|---|---|
| 精度の高さ | 項目の重みを考慮した公平な評価が可能 |
| 適用範囲 | 組織全体の傾向分析や、部署別比較にも有効 |
| デメリット | 計算が複雑で、慣れるまでに時間がかかる |
より精密なデータを得たい企業や、産業医面談を重視する事業場には素点換算法が最適です。
簡便さを重視するなら単純合計計算法
単純合計計算法は、各項目の点数をそのまま合計するシンプルな方法です。
計算の手間が少なく、エクセルや手計算でもすぐに結果を出すことができます。
特に中小企業や導入初期の事業場では、この方法を選ぶケースが多いです。
| 単純合計計算法の特徴 | 内容 |
|---|---|
| 利便性 | 計算が簡単で即日集計が可能 |
| 導入コスト | 専用ツールを使わずに実施できる |
| デメリット | 領域間の点数差が出やすく、分析精度は低下 |
ただし、単純合計計算法では高ストレス者の判定が実際よりも少なく出る傾向があるため注意が必要です。
産業医との連携で最適な判定体制を作る
どちらの方法を採用するにしても、ストレスチェックは「実施後の対応」が最も重要です。
産業医や衛生委員会と協力し、判定基準や面談体制を整備しましょう。
| 検討すべき項目 | 内容 |
|---|---|
| 判定基準 | 厚労省基準+自社独自基準の整合性を確認 |
| 面接指導 | 高ストレス者が希望した際の対応ルール |
| 情報管理 | 個人情報を扱うため、厳格な管理体制を整備 |
制度を形式的に終わらせず、従業員の安心と企業の信頼を高める仕組みづくりが大切です。
ストレスチェックの計算を効率化するツール活用法
ストレスチェックは、数十〜数百人分のデータを集計する必要があるため、手作業ではミスや負担が発生しやすいです。
そこで役立つのが、集計を自動化できる専用ツールやクラウドシステムです。
ここでは、計算作業を効率化するための方法を紹介します。
自動集計ツールやクラウドシステムのメリット
専用ツールを活用することで、点数計算から高ストレス者の抽出までを自動で行えます。
また、データを蓄積して職場全体の傾向分析を行うことも可能です。
| 機能 | メリット |
|---|---|
| 自動集計 | 人的ミスを防ぎ、短時間で正確な結果を出せる |
| グラフ出力 | 職場全体の傾向を可視化できる |
| 匿名分析 | 個人を特定せずに職場改善に活用できる |
ツールを使うことで計算の正確さと分析のスピードを両立できます。
厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム
コストを抑えたい場合は、厚生労働省が無料で提供しているストレスチェック実施プログラムを利用するのも有効です。
無料でも実務レベルで十分に使えるため、小規模事業場では特におすすめです。
データ管理と個人情報保護の注意点
ストレスチェックの結果は、個人の健康情報にあたるため、厳重な管理が求められます。
社内での閲覧範囲や保管期間を明確に定め、第三者が閲覧できないようにしましょう。
| 管理項目 | 対応策 |
|---|---|
| 個人データの保存 | アクセス制限を設けたサーバーやクラウドを使用 |
| 閲覧権限 | 人事担当者や産業医など、必要最低限に限定 |
| 保存期間 | 法令に準じ、不要なデータは適切に削除 |

ストレスチェックの目的は従業員を評価することではなく、健康を守ることです。
その本質を忘れず、ツールを活用して正確で適切な運用を行いましょう。
参照
数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法(厚生労働省)














