レジリエンス研修とは?内容・目的・効果的な運営ポイントを解説!

研修

レジリエンスとは、逆境や困難に直面しても立ち直り、柔軟に適応していく力を指します。近年は従業員のメンタルヘルス課題や離職リスクの増加を背景に、企業内でのレジリエンス研修が注目されています。今回は、研修の内容・目的・効果を整理し、運営ポイントまで解説します。

レジリエンスとは?基礎知識とビジネスでの意味

レジリエンスとは、心理学の分野で使われる言葉で、ストレスや困難に直面したときに気持ちや行動を立て直す力のことです。

落ち込まないことではなく、落ち込んでも立ち直れることに価値があります。最近では働き方や社会の変化が大きいことから、ビジネスの現場で特に注目されるようになっています。

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レジリエンスに必要な力とは

レジリエンスは、特別な才能や強靭な精神力を持つ人だけのものではありません。日常的なスキルの積み重ねで身につけられるものです。大きく分けると、次のような力が関わっています。

状況を冷静に見る力 問題が起きたときに感情に振り回されず、事実を客観的に整理する力です。
気持ちを整える力 不安や焦りを感じても、それを落ち着けて前向きに切り替える力です。深呼吸や短い休憩など、小さな工夫で実践できます。
柔軟に考える力 固定観念にとらわれず、別の方法や視点を試せる柔らかさです。
行動を修正する力 うまくいかないと感じたときに、同じやり方を続けるのではなく、新しい一歩を踏み出せる力です。

これらは一度に身につくものではなく、日常の中で少しずつ高めていくものです。小さな積み重ねが、困難に直面したときに前へ進む力につながります。

職場でのレジリエンスの重要性

事では、予期しないトラブルや業務の変更が日常的に起こります。レジリエンスがある人は、そうした出来事に過剰に振り回されず、学びや改善の機会に変えることができます。その姿勢は周囲にも安心感を与え、チーム全体の信頼関係を深める効果があります。結果として、組織全体の実行力や協力体制の強化につながります。

 

一方で、レジリエンスが十分に備わっていない場合、トラブルが起きるたびに気持ちが不安定になり、冷静な判断が難しくなります。失敗を過度に恐れて挑戦を避けたり、ストレスをため込んで体調や人間関係に悪影響を及ぼすこともあります。チームとしても不安や緊張感が広がりやすく、結果的にパフォーマンスの低下や離職のリスクにつながります。

 

ドクター渡辺 (精神科医)
ドクター渡辺 (精神科医)

職場全体でレジリエンスを育むことは、一人の頑張りに頼らない安心して働ける土台づくりといえます。

ストレスマネジメントとの違い

ストレスマネジメントは、ストレスを和らげたり発散したりする方法に重点を置きます。休養の取り方やリラクゼーションの実践などが代表的です。

これに対してレジリエンスは、困難を避けるのではなく、直面した状況から学びを引き出して次に活かす力を育てます。守りを固めるだけでなく、前向きに進む力を高める点が特徴です。両方を組み合わせることで、心の健康と成長の両立が可能になります。

ストレスマネジメントが守りだとすれば、レジリエンスは攻め。両輪で進むことで安定と成長のバランスが取れます。

レジリエンス研修の目的

レジリエンス研修の目的は、社員一人ひとりが困難やストレスに直面しても力を発揮できるようにすること、そして組織全体が安心して働ける環境を保ちながら成長し続けられるようにすることです。

心理的安全性を高め、離職を防ぎ、生産性を底上げすることに直結するため、人事労務担当者にとっても重要な施策のひとつです。

個人における狙い

レジリエンス研修は、社員が自分自身の状態を理解し、感情や思考の扱い方を身につけることを目的としています。ストレスや予期せぬ出来事に飲み込まれることなく、冷静に判断し、行動を切り替えられるようになることで、業務の質を維持できます。これにより失敗や批判に直面しても立ち直りが早くなり、自己成長の機会に変えていけるようになります。

組織における狙い

レジリエンスが高い社員が増えると、職場の雰囲気にも良い影響が広がります。チーム内の安心感が高まり、情報共有や協働がスムーズになり、不調の早期発見と支援が回るようになります。結果として、業務の効率や品質が安定し、組織全体としての一体感も強まります。また、職場環境そのものが改善され、働きやすさが向上する点も見逃せません。

生産性向上と企業価値への効果

レジリエンス研修は、社員が困難に直面しても力を発揮し続けられるようにすることで、生産性の向上につながります。集中力や判断力が保たれることで成果が安定し、離職防止や定着率の改善にも直結します。

また、エンゲージメントが高まることで組織全体の実行力も強化されます。さらに、こうした取り組みは健康経営や人的資本経営の観点からも評価されやすく、企業価値を高める効果が期待できます。

業務効率の向上

レジリエンスが高い人は、ストレスやプレッシャーを感じても冷静さを保ちやすく、物事を客観的にとらえることができます。そのため、気持ちが乱れて集中できなくなる時間が短く、業務にスムーズに戻ることが可能です。結果として、忙しさや困難に直面しても集中力を維持し、効率的に仕事を進めやすくなります。

さらに、ストレスをうまくコントロールできると心に余裕が生まれ、判断力や発想力といった本来の力が発揮されやすくなります。緊張や不安に押しつぶされずに考えられることで、より質の高い成果や新しいアイデアが生まれやすくなるのです。これは個人の成果だけでなく、チーム全体の生産性やイノベーションにも好影響を及ぼします。

レジリエンス研修は、短期的な効果だけでなく、日々の業務や職場の風土に少しずつ浸透し、組織全体の成長を支える基盤となります。

レジリエンス研修プログラム例

レジリエンス研修は、単なる座学ではなく、日常の仕事にすぐ活かせる実践的なトレーニングを組み込むことが大切です。以下は、代表的なプログラムの流れと内容です。

基本的な理解から始める

まずはレジリエンスとは何かを理解することから始まります。研修では、レジリエンスの意味や仕組みを学び、受講者自身の現状を振り返ります。自分がストレスにどう反応しているかを知ることで、改善の出発点が明確になります。

思考パターンを見直す

困難な状況では、人は「自分には無理だ」「どうせ失敗する」といった否定的な思考に陥りやすくなります。研修では、そうした思考のクセを捉え直し、前向きな解釈に変える方法を学びます。代表的な手法がABCDE理論です。出来事に対する解釈を意識的に変えることで、感情や行動も変わり、より健全な対応ができるようになります。

ABCDE理論とは

ABCDE理論は、アメリカの心理学者アルバート・エリスによって提唱された認知行動療法の考え方です。出来事をどう解釈するかによって、感情や行動が変わることを整理したフレームワークです。

要素 内容
A (Activating Event)
出来事
きっかけとなる出来事 プレゼンで指摘を受けた
B (Belief)
認知・信念
出来事をどう受け止めるか 「自分は評価されない」/「改善点が見つかった」
C (Consequence)
結果
認知に基づいて生じる感情や行動 落ち込んで行動が止まる/次の発表に活かそうと意欲が湧く
D (Dispute)
反論・問い直し
自分の解釈を振り返り、合理的な捉え方に修正するステップ 「本当に評価されなかったのか?」と問い直す
E (Effect)
新しい効果
前向きな認知に切り替えた結果として得られる変化 成長の機会だと捉え直し意欲が高まる

感情のコントロール

感情に振り回されないための具体的な方法も研修で扱います。深呼吸や短い休憩、視点を切り替えるワークなどを実践し、緊張や不安を和らげるスキルを身につけます。

問題解決力と自己効力感の強化

失敗や課題に直面した際に冷静に対応できるよう、問題解決のステップを学びます。また、小さな成功体験を積み重ねることで自分ならできるという自己効力感を高め、困難を乗り越える力につなげます。

実践してみる

ワークショップやグループディスカッション、ロールプレイなどを取り入れることで、知識を行動に移す練習を行います。さらに、研修後のフィードバックや振り返りを行うことで学びを定着させます。

レジリエンス研修のプログラム内容

レジリエンス研修は多様なアプローチがありますが、まず導入しやすく、受講者にとっても実感を得やすい基本的なプログラムとしては次の3つが挙げられます。いずれも現場での反応がよく、日常業務に活かしやすい内容です。

プログラムタイトル 内容 ねらい
レジリエンスの基礎知識 レジリエンスの意味や仕組みを理解し、自分のストレス反応や考え方の傾向を振り返る レジリエンスの全体像を理解し、自己理解を深める
認知行動アプローチによる思考のリフレーミング 認知行動療法の考え方を基盤に、否定的な思考を整理し、前向きな解釈へ切り替えるワークを実施 思考のクセを修正し、柔軟な判断力と行動力を育てる
ABCDE理論とマインドフルネス ABCDE理論を用いた思考の整理と、マインドフルネス実習を組み合わせて実践 感情のコントロール力を高め、落ち着きを保ちながら困難に対応できる力を身につける

レジリエンス研修の効果を高める運営のポイント

プログラム内容を工夫するだけでなく、運営方法によって研修効果は大きく変わります。以下のポイントを押さえることが成功のカギとなります。

受講者の自発性を引き出す

レジリエンスは、単に知識を聞くだけで身につくものではありません。自分の経験を振り返り、考えを整理しながら自分なりの答えを見つける過程が必要です。そのため、グループワークや個人ワークを通じて主体的に取り組める仕掛けを用意することが効果的です。

専門性のある講師を活用する

レジリエンス研修では、ストレスや感情といった繊細なテーマを扱うため、専門知識を持つ講師の存在が不可欠です。産業医、心理士、キャリアコンサルタントなど、経験豊富な専門家に依頼することで、安心感のある学びの場を提供できます。

心理的安全性を確保する

研修中に受講者が安心して意見を出せるようにすることも重要です。講師やファシリテーターが積極的に発言を受け止め、否定せずに尊重することで、心理的安全性が高まり、学びが深まります。

研修後のフォローアップ

研修を一度で終わらせず、30日後・90日後などに振り返りの場を設けると、学んだことが日常に根づきやすくなります。自己評価シートや同僚からのフィードバックを取り入れると、継続的な成長につながります。

効果の可視化

ストレスチェックや業務パフォーマンスの変化を指標として取り入れると、研修の効果を実感しやすくなります。数値で見える成果があることで、受講者のモチベーションや経営層の理解も得やすくなります。

おわりに

レジリエンス研修は、社員が逆境に立ち向かい、立て直す力を育む大切な取り組みです。とはいえ、その力を発揮し続けるためには、安心して働ける環境があってこそ意味を持ちます。

職場の人間関係が悪化していたり、過剰な負荷が日常化している状況では、いくら個人にレジリエンスを求めても限界があります。むしろ頑張って乗り越えるのが当たり前というメッセージになってしまうと、社員にさらなる負担を強いることにもなりかねません。

だからこそ、レジリエンス研修は個人の力を育む施策であると同時に、職場環境改善とセットで取り入れることが重要です。働く人にエネルギーが満ちてこそ、その上にレジリエンスが積み重なり、個人も組織も前に進む力を発揮できるようになります。

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