カスハラとは?意味、クレームとの違いは?【具体例から対処法、対策を徹底解説】

ハラスメント

近年、ニュースやSNSでカスタマーハラスメント「カスハラ」という言葉、耳にする機会が増えたのではないでしょうか?

しかし、「カスハラとは具体的にどのような行為なのか?」
「ただのクレームとは何が異なるのか?」
「どの時点からカスハラとみなされるのか?」

など、カスハラの定義やクレームとの違いについて理解が不十分な方も多いかもしれません。

そこで、本記事ではカスハラについて、以下の内容を分かりやすく解説します。

  • カスハラとは?意味と定義
  • カスハラの現状
  • カスハラとクレームの違い
  • カスハラの具体例
  • カスハラに遭遇したときの対処法
  • カスタマーハラスメントによる影響
  • 企業ができるカスハラ対策

本記事を読むことで、カスハラに関する正しい知識を身につけ、もしもの時に適切な対応ができるようになるでしょう。

カスハラとは?意味と定義

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、単なる顧客からのクレームとは異なります。顧客や取引先からの度を超えた迷惑行為を指す言葉です。顧客等からの商品やサービスに対する正当な改善要求は、企業にとって貴重な声です。しかし、中には、過剰な要求や不当な言いがかりなど、悪質なクレームも存在します。こうした行為が、カスハラとして問題視されています。

カスハラの現状

厚生労働省の調査によると、過去3年間に勤務先でカスタマーハラスメント(以下カスハラ)を一度以上経験した労働者の割合は15.0%に上ります。これは、パワーハラスメント(パワハラ:31.3%)に次いで高い割合であり、決して看過できない問題です。

受けた行為の内容としては、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの)」(52.0%)の解答が最も多く、「名誉棄損・侮辱・ひどい暴言」(46.9%)がそれに続いています。

カスタマーハラスメント対策マニュアル(厚生労働省)

カスハラとクレームの違い

クレームとは、商品やサービスに対して不満や不具合を指摘し、改善や対応を求める意見や要求のことです。
カスハラとクレームは、どちらも顧客からの意見や要望ですが、その内容や目的が大きく異なります。

項目 クレーム カスハラ
目的 商品やサービスの改善 従業員や企業への嫌がらせ、不当な利益の獲得
内容 商品やサービスの不具合、改善要望 暴言、脅迫、不当な要求など
対応 誠実な対応、改善策の提示 毅然とした対応、場合によっては法的措置

 

さまざまな判断基準がありますが、一つの尺度としては以下の観点で判断することができます。

①顧客等の要求内容に妥当性はあるか
②要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲であるか
※妥当性がある場合であっても、その言動が暴力的・威圧的・継続的・拘束的・差別的・性的である場合は、社会通念上不相当であると考えられ、カスタマーハラスメントに該当します。

以下のような基準で判断するという企業もあります。

● 説明責任を十分果たした上で、それでも納得いただけないかで判断している
● 商品に瑕疵がないか、サービス提供側で非がある対応をしていないかで判断している
もしもの時のために業種や、業態、企業文化の違いを踏まえて、あらかじめカスタマーハラスメントの判断基準を定めておくことが重要です。

カスハラの具体例

具体的には、以下のような行為が該当します。

カスタマーハラスメント(カスハラ)の具体的な事例は多岐にわたりますが、ここでは代表的なものをいくつかご紹介します。

1. 暴言・侮辱

  • 「お前なんかクビだ」「役立たず」など、人格を否定する言葉を浴びせる。
  • 差別的な発言や、性的な嫌がらせを行う。
  • SNSやインターネット上で、誹謗中傷や名誉棄損にあたる書き込みをする。

2. 過度な要求

  • 土下座や謝罪の強要。
  • 商品やサービスの無償提供、過剰な割引を要求する。
  • 企業の規則や社会通念を逸脱した要求をする。


    3. 暴力・脅迫

  • 従業員を殴る、蹴るなどの暴行を加える。
  • 「店に火をつける」「家族に危害を加える」などと脅迫する。
  • 従業員を長時間拘束したり、監禁する。
    ※なお、殴る・蹴るといった暴力行為は、直ちにカスタマーハラスメントに該当すると判断できることはもとより、犯罪に該当しうるものです。

4. 執拗なクレーム

  • 同じ内容のクレームを長時間繰り返す。
  • 電話やメールで、何度も執拗にクレームを続ける。
  • SNSやインターネット上で、執拗にクレームを書き込む。

 

5. その他

    • プライベートな情報を詮索したり、ストーカー行為を行う。
    • 従業員の個人的なSNSアカウントに、嫌がらせのメッセージを送る。
    • 勤務時間外に、個人的な連絡を執拗に行う。

カスハラに遭遇したときの対処法

もしカスハラに遭遇してしまったら、一人で抱え込まずに、以下の対応をとりましょう。

  • 上司や同僚に相談する
  • 会社の相談窓口に連絡する
  • 弁護士や労働組合に相談する
  • 警察に相談する

会社によっては、カスハラ対策のマニュアルや相談窓口を設けている場合があります。まずは会社の規定を確認し、適切な対応をとりましょう。

カスハラから身を守るための6つのポイント

  1. チームで対応する:孤立を避ける

一人で対処せず、必ず同僚や上司に立ち会ってもらい、記録を取る役割に分けるなど、複数人で対応しましょう。客観的な証拠を残すことが大切です。

  1. 上司や法務部に相談する:独断で判断しない

状況を正確に把握し、適切な対策を講じるために、上司や法務担当者と連携を取りましょう。専門家の助言が、事態の悪化を防ぐ助けになります。

  1. 安易な妥協は避ける:毅然とした態度を持つ

「早く解決したい」と相手の要求に簡単に応じると、さらなる要求や繰り返しの行為が起こる可能性があります。不当な要求は断固として拒否し、毅然とした姿勢を示しましょう。

  1. 書類作成・署名・捺印は避ける:不用意な証拠を残さない

相手の要求に応じて書類を作成したり、署名・捺印したりすることは避けましょう。特に謝罪文の作成には慎重になり、「上司の判断を仰ぎます」と伝え、その場での対応を控えましょう。

  1. 警察に相談する:ためらわず公的機関へ

「自分たちで解決しなければ」と思う必要はありません。暴行や脅迫が疑われる場合は、迷わず警察に相談しましょう。「いつ・どこで・どのような問題が発生したのか」を整理し、証拠となる写真や動画があれば提出します。

  1. 裁判も視野に入れる:法的手段を検討する

警察が刑事事件として対応しない場合でも、民事訴訟という手段があります。名誉毀損や不当な要求による損害賠償請求など、法的根拠に基づいた主張が可能です。弁護士に相談し、適切な法的措置を検討しましょう。

ポイント:証拠を確保する

カスハラの証拠の確保は、対応を有利に進めるために非常に重要です。

  • 音声や動画を録音・録画する
  • 相手とのメールやSNSのやり取りを保存する
  • 目撃者の証言を得る
  • 診断書や被害状況の記録を残す

違法なカスハラに対しては、決して泣き寝入りする必要はありません。これらの対策を参考に、毅然とした態度で対応し、自分自身を守りましょう。

カスタマーハラスメントによる従業員・企業・他の顧客等への影響

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、従業員、企業、他の顧客に対して深刻な影響を及ぼす問題です。影響として、以下のようなものが挙げられます。

従業員への影響

  • 業務パフォーマンスの低下
  • 健康不良(頭痛、睡眠不良、精神疾患、耳鳴り 等)
  • 現場対応への恐怖、苦痛による従業員の配置転換、休職、退職

企業への影響

  • 時間の浪費(クレーム現場での対応、電話対応、対応方法の検討、弁護士への相談 等)
  • 業務上の支障(顧客対応によって他業務が行えない 等)
  • 人員確保(従業員離職に伴う新規採用、教育コスト 等)
  • 金銭的損失(慰謝料要求への対応、代替え品の提供 等)

他の顧客等への影響

  • 来店する他の顧客の利用環境、雰囲気の悪化
  • 他の顧客がサービスを受けられない 等
  • 利用を控えるようになる

企業におけるカスハラ対策の必要性

カスハラは、従業員の心身の健康を害し、企業の生産性を低下させるだけでなく、企業の社会的責任を問われる可能性もあります。そのため、企業はカスハラ対策に積極的に取り組む必要があります。

企業ができるカスハラ対策

企業は、以下の対策を講じることで、カスハラを防止し、従業員を守ることができます。

カスタマーハラスメント被害に関するヒアリング・アンケートを行う

ヒアリングやアンケートを通じて、従業員が実際にどのようなカスハラ被害に遭っているのか、その頻度や内容、影響範囲などを具体的に把握できます。これにより、企業は自社の現状を客観的に評価し、潜在的なリスクを把握することができます。情報を活用してカスタマーハラスメントにつながる予兆を把握し、未然防止につなげることもできます。

被害状況を分析することで、特に深刻な問題や頻発しているケースを特定し、対策の優先順位をつけることができ、限られたリソースを効果的に活用し、より効果的な対策を講じることができます。

アンケートを通じて、従業員がカスハラに対してどのような不安や不満を抱えているのかを把握でき、従業員のニーズに合った対策を検討し、安心して働ける職場環境づくりに繋げられます。

カスハラ対策を実施した後、再度アンケートを実施することで、対策の効果を検証しましょう。

相談窓口の設置: 従業員が安心して相談できる専門窓口を設置する

専門の相談窓口を設置することで、従業員は早期に相談し、適切な対応を取ることができます。これにより、ハラスメントによる影響の深刻化を防ぎ、メンタルヘルス不調の予防にもつながります。

カスハラ発生時の対応マニュアルを作成する

マニュアルがあることで、従業員はどのように対応すれば良いか具体的な指針を得られ、不安を軽減できます。

マニュアルには、対応例や、安全確保のための具体的な行動指針(例:危険を感じたらすぐに退避、警察への連絡など)を明記することで、従業員を守ることができます。
また、マニュアルに記録すべき内容(日時、場所、具体的な言動、目撃者など)を明記しておくことで、証拠の保全を徹底でき、従業員に対するカスハラに関する教育ツールとしても活用できます。

従業員向けにカスハラに関する研修を実施する

研修で、カスハラに遭遇した場合の具体的な対処法(例:記録の取り方、相談窓口の利用法、身の安全確保など)を学ぶことで、従業員はもしもの時に備え、安心して業務に取り組むことができます。

カスハラは、状況によって様々な対応が求められます。研修を通じて、ロールプレイングや事例検討などを行い、具体的な対応方法を学ぶことで、従業員の対応能力を向上させることができます。企業全体で統一された対応方法を学ぶことで、対応の標準化を図り、組織全体で一貫性のある対応を実現できます。

研修を通じて、カスハラを許さない企業文化を醸成することで、健全な職場環境を維持することができます。また、企業が従業員を守る姿勢を示すことで、従業員のエンゲージメント向上にも繋がります。

カスタマーハラスメント被害者のケア

カスタマーハラスメント発生時における一次対応者の精神的負担を軽減するため、以下の取り組みが重要です。

1. メンター制度の導入:一人で抱え込ませない

  • 一次対応者が安心して相談できるメンターを配置し、精神的なサポート体制を整備しています。
  • メンターは、経験豊富な従業員が担当し、対応後の不安や疑問に寄り添い、適切なアドバイスを行います。

2. 状況確認は管理職が担当:フラッシュバックを防ぐ

  • カスハラ発生時の状況確認は、一次対応者への直接的なヒアリングを避け、現場管理職などが中心となって行います。
  • これにより、一次対応者が再びつらい記憶を呼び起こす(フラッシュバック)ことによる二次被害を防ぎます。
  • 管理職は、客観的な事実に基づき、詳細な状況把握と記録を行います。

3. 専門家によるサポート体制:心のケアを徹底

  • 必要に応じて、臨床心理士やカウンセラーなどの専門家によるカウンセリングを受けられる体制を整えています。
  • これにより、一次対応者の精神的なケアを徹底し、早期回復を支援します。

4. 職場復帰支援:安心できる職場環境づくり

  • カスハラ対応後、一時的に休職した従業員に対しては、職場復帰支援プログラムを提供します。
  • 職場復帰後も、メンターや上司が継続的にサポートし、安心して働ける職場環境づくりに努めます。

まとめ

カスハラ対応においては、お客様への対応と同様に、従業員の心のケアが不可欠です。影響を最小限に抑え、安心して働ける職場環境を提供することが、企業の責任であると考えます。

また、企業においては、カスタマーハラスメント対策をすすめることで、従業員を守り抜くという姿勢を会社組織として示すことができます。また、人材の確保が難しい中、カスタマーハラスメント対策によって職場環境をよくすることで離職者の防止につなげることができます。副次的にこのようなプラスの効果が期待できるなど、カスタマーハラスメント対策に取り組む意義はおおきいと考えられます。

【厚生労働省の関連資料】
あかるい職場応援団:https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
カスタマーハラスメント対策企業マニュアル:https://jsite.mhlw.go.jp/shizuoka-roudoukyoku/content/contents/001104928.pdf

EAP、ストレスチェック、メンタルに強い産業医の選任など
まずはお気軽にご相談ください

お気軽にお問い合わせください

ご利用料金等の資料はこちらから

記事監修

精神科医専門医・日本医師会認定産業医。
川崎医科大学卒、1988年渡辺クリニック(2018年改称)を開設。
その後、厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の在り方検討委員会」委員、内閣府「自殺対策官民連携協働会議」委員、公益財団法人日本精神神経科診療所協会会長など歴任。
現在、医療法人メディカルメンタルケア横山・渡辺クリニック名誉院長、大阪大学医学部神経科精神科非常勤講師、一般社団法人日本精神科産業医協会共同代表理事ほか。
ストレスチェック法制化においても、厚生労働省「ストレスチェック制度に関する検討会」「ストレスチェック項目に関する専門検討会」「ストレスチェック制度マニュアル作成委員会」などの委員を務める。

ハラスメント 人事労務担当者向け
CHR発 well-being コラムWell be

(C) Japan Corporate Health Responsibility Consulting Co.,ltd All Rights Reserved.

タイトルとURLをコピーしました