産業医は、事業者が一定規模以上の事業場において専任される義務があります。しかし、選任義務のない小規模の事業場や中小企業でも、従業員の健康管理体制を整え、組織の活性化と労務リスク削減のためには、産業医の存在はとても役立ちます。
産業医がいない場合、どこで産業医を探せばよいのか迷う企業も多いのが実情です。今回は、産業医の探し方や無料で相談・紹介を受ける方法についてご紹介します。
産業医とは?
産業医とは、会社や仕事場で、労働者の健康管理等を行う役割を担っています。
産業医の職務は、健康診断の実施や長時間労働者に対する面接指導、職場環境の維持管理等、労働安全衛生規則において規定されている職務等が挙げられます。
産業医は、医学的な立場から労働者の健康保持増進や職場環境の改善などについて助言を行い、働く人の健康を守るだけでなく、仕事のやりがいや効率も高める大切な役割をしています。
産業医の選任義務
産業医の選任義務とは、労働基準法に基づき、一定規模以上の事業所において産業医を選任することが義務付けられている制度です。
選任義務がある事業所では、労働者の健康管理や労働環境改善のために産業医を専任することが求められます。
【従業員数と産業医配置人数】
常時雇用の従業員数 | 産業医配置人数 |
50人未満 | 産業医の選任義務なし |
50人以上999人以下 | 1名以上選任(嘱託可) |
1,000人以上3,000人未満(※) | 1名以上選任(専属) |
3,001人以上 | 2名以上選任(専属) |
(※)ただし労働安全衛生規則第 13 条第 1 項第 2 号に定められる特定の業務については、常時 500 人以上の労働者を従事させる場合
選任義務がない中小企業において産業医が必要となる時
産業医の選任義務のない従業員50人未満の中小企業や小規模な事業所においても、次のような場合、産業医が必要となります。
健康診断で異常の所見があった労働者がいる場合
健康診断において異常の所見があった労働者がいた場合、どのような措置が必要か健康診断結果について産業医から意見聴取を受ける必要があります(労働安全衛生法第66条の4)。
ストレスチェックの実施
50人未満の事業場にはストレスチェックの実施義務はありませんが、厚生労働省の調査によると、実際には実施している事業場が多いことがわかりました。例え義務ではないとしても、少人数の事業場では急な休職や退職の対応が難しいため、ストレスチェックを通じてメンタルヘルスの兆候を見逃さないようにする考えが広がっているようです。
ストレスチェックにおいて、高ストレス者への面接指導、集団分析などの際、産業医の専門知識と経験が必要となります。
休職している従業員の復職の判断
産業医面談は、復職時に法律で義務付けられるわけではありませんが、医学的視点と業務内容の照らし合わせがないとリスクが生じる可能性があります。
例えば、復職後すぐに再発する可能性のある怪我や病気がある場合や、メンタルヘルスが十分に回復していない場合、復帰に際して適切な配慮がなければ再発・悪化の可能性があります。
これらの状況では、復職者や企業の双方にとって望ましくありませんし、無理な復帰で症状が悪化すると企業は安全配慮義務違反とされる可能性もあります。
産業医は職場環境と医学的視点から総合的な判断をするため、産業医を介すことで復職の可否や復職の方法についての判定を適切に、またスムーズに行うことにつながります。復職前に産業医面談を実施してリスク対策をすることが重要です。
産業医がいない場合、どこで探せばよいのか?
産業医はどこで探せばよいのでしょうか?それぞれの方法とメリット・デメリットについてお伝えいたします。
地域産業保健センター(地さんぽ)
独立行政法人労働者健康安全機構が運営する地域産業保健センター(地さんぽ)は、労働者数50人未満の小規模事業場の事業者や労働者に対して、労働安全衛生法で定められた保健指導などの以下の産業保健サービスを無料で提供しています。
相談窓口は、各都道府県のさんぽセンターに設置されています。
【詳細はこちらから】さんぽセンターWebひろば
メリット
- 無料・低コストでサービスを受けることができる: 地域産業保健センターを活用することで、医師の面接指導や産業保健サービスを無料で受けられます。面接指導以外にも産業保健指導が無料で受けることができるため、産業保健にかかわる費用を抑えることができます
デメリット
- 利用範囲の制限: 地域産業保健センターは、従業員が50人未満の小規模事業場のみが利用できます。
- 利用回数の制限: 利用できる回数には制約があり、面接指導を行う際に必ずしも同じ産業医が担当するとは限りません。
医師会や健診機関
地域によっては産業医を紹介している医師会もありますので、地元の医師会に産業医を紹介してもらえるか相談してみましょう。また、各健診機関で所属の医師を産業医として紹介してくれる場合がありますので、健康診断を依頼している健診機関に相談してみるという方法もあります。
メリット
- 信頼性の高い医師の紹介: 医師会は地域の医師を把握しているため、信頼性の高い産業医を紹介してもらえる可能性が高いです。
- 地域密着型のサービス: 地元の医師会を利用することで、地域の特性やニーズに合った医師を見つけやすくなります。
- 法令遵守の情報提供: 産業医に関する法律や規制についての最新情報を得ることができる場合があります。
デメリット
- 選択肢の制限: 医師会からの紹介に限定されるため、選択肢が限られることがあります。
- ミスマッチを招く可能性: 紹介された医師が企業の特定のニーズや文化に合わない場合、期待通りの結果が得られないことがあります。
- 手続きの煩雑さ: 医師会を通じた紹介には別途手続きが必要な場合があり、また紹介された産業医の職務内容や報酬などの交渉が必要となるため、手続きが煩雑になる可能性があります。
産業医紹介会社
産業医の紹介会社を活用し、各事業所の特徴に合った産業医を紹介してもらうのも一つの方法です。紹介会社によっては産業医の選任後に事務作業や衛生委員会のサポートなど、産業保健に関連する業務を代行してくれるサービスも提供しています。
メリット
- 多様な選択肢: 医師紹介会社は多くの産業医を揃えているため、企業のニーズに合った医師を見つけやすくなります。
- 適切なマッチング: 企業の特性や要求に基づいて、最適な産業医を紹介してもらえるため、精度の高いマッチングが期待できます。
- 手続きの簡略化: 紹介会社が面接や契約の手続きを代行してくれるため、企業側の負担が軽減されます。
- サポート体制: 専門家によるサポートやアドバイスが受けられるため、産業医の選定に関する不安が軽減されます。
デメリット
- 費用がかかる: 医師紹介会社の利用には手数料が発生するため、経済的な負担が大きくなることがあります。
- 医師との相性が合わない場合も: 紹介された医師が企業の文化や従業員との相性が合わない場合、期待したサポートが得られないことがあります。
- 業者選定が難しい: 産業医紹介会社によって提供されるサービスの内容や料金は異なるため、依頼する会社を選ぶのが難しいと感じることがあるかもしれません。
各社のサービスや特徴は異なるため、事前に自社の課題を把握し、法令順守だけで十分なのか、安全配慮やメンタル対策、健康増進や健康経営推進などの課題にも対応できる産業医が必要なのか、自社の現状を踏まえた上で、紹介会社に相談してみましょう。
産業医の紹介会社の選定ポイント
産業医の紹介会社を利用するにあたり、考慮すべきポイントを紹介します。
会社のニーズに合った産業医を紹介してくれるか
産業医紹介会社が企業の業種や労働環境を理解し、適切な産業医を提案できるか確認しましょう。従業員の健康ニーズに合致した専門知識や経験を持つ産業医を選ぶことが重要です。
料金が適正であるか
産業医に支払う報酬額や紹介会社への紹介料・委託料等が適正であるかを比較検討しましょう。過剰な料金負担を回避するために、複数の業者の料金を比較し、コストとサービスのバランスを考慮して決定しましょう。
実績が豊富か
価格を重視して産業医紹介業者を選定してしまうと、知識や経験が不足している産業医が紹介される可能性があり、効果を期待することは難しいです。そのため、産業医の経歴や実績をしっかりと確認することが重要です。
アフターフォローが万全か
産業医との連携やアフターフォロー体制が整っているかを確認しましょう。業務の調整や相談窓口の提供など、長期的なパートナーシップを築ける産業医紹介会社を選ぶことで、問題発生時の迅速な対応が期待できます。
おわりに
産業医がいない場合、適切な産業医を探す方法について紹介してきました。
適切な産業医の存在は、従業員の健康管理や労務リスクの削減につながり、企業と従業員双方にとって望ましい結果をもたらします。適切な産業医を見つけるために、上記の方法やポイントを参考にしてみてください。