EAPとは、従業員支援プログラム(Employee Assistance Program)の略称であり、企業が従業員の心身の健康を維持・向上のためサポートする様々なサービスのことです。
具体的なサービスとしては、相談窓口やメンタルヘルスケアプログラムの社内研修等が挙げられます。
今回は、EAPを検討する際に気をつけるべき内部EAPと外部EAPの違いや、メリット・デメリットをまとめて解説します。
従業員のメンタルヘルス支援が重要な理由
はじめに厚生労働省が発表した「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)」の結果を見てみましょう。この調査によると、「現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスを感じる事柄がある」と回答した労働者の割合は全体の53.3%に達しています。(出典:厚生労働省「令和3年 労働安全衛生調査」)
強いストレスや不安となっていると感じる事柄について、その具体的な項目は以下の通りです。
項目 | 割合 |
仕事の量 | 43.2% |
仕事の失敗、責任の発生など | 33.7% |
仕事の質 | 33.6% |
対人関係(セクハラ・パワハラを含む) | 25.7% |
会社の将来性 | 20.8% |
役割・地位の変化等(昇進・昇格、配置転換等) | 17.9% |
顧客、取引先等からのクレーム | 17.7% |
雇用の安定性 | 11.9% |
その他 | 11.6% |
強いストレスと感じる事柄がない | 46.5% |
この調査では、「主なもの3つ以内を選択」しているため、実際には、個人が複数のストレスを抱えている場合が多くあるでしょう。このような要因で、従業員のメンタルヘルスに影響が生じると、休むことが増えるだけでなく、出勤しても集中できずに最大限の能力を発揮することができず仕事の生産性も低下します。
また、従業員のメンタルヘルス不調は、他の従業員にもさまざまな影響を及ぼします。チーム全体の士気の低下や負担の増加などが、悪循環を生じさせやすくし、メンタルヘルスの問題は個人だけでなく、組織全体に影響を及ぼすため早期の対処が重要です。
EAPの役割
メンタルヘルスの不調による休職者の増加や離職率の上昇、生産性の低下といった企業の課題解決の糸口として、EAPは有効な選択肢となります。EAPを活用することによって従業員が抱える問題を早期に発見し、解決に向けて支援することができます。
また、特に近年、パワハラ防止法や労働安全衛生法に対する対応が必須となっており、企業においても福利厚生の一部としてだけでなく、法的リスクマネジメントの観点からも注目されています。ストレスチェックやハラスメント相談窓口の設置など、法令に則った施策を一括で導入できるのがEAPサービスの特徴です。
内部EAPと外部EAPの違いとは?
EAPには、社内で実施する内部EAPと、外部に依頼する外部EAPの2種類があります。内部EAPでは、企業が専門のカウンセラー等を雇い、従業員の問題に直接対処します。一方、外部EAPでは、外部のサービス提供企業や専門機関と契約し、相談業務を委託します。
内部EAPのメリットとデメリット
内部EAPでは、企業の状況や文化に精通しているスタッフの対応が可能であり、相談から問題解決までの流れがスムーズです。さらに、企業の文化や方針に合ったサポートを提供できるため、長期的な視点での従業員支援が実現します。産業医や保健師、人事、労務など社内の関係者と連携しやすく関係者とのコミュニケーションを円滑に行えるでしょう。
内部EAPでは、社内に相談場所を設置するのが一般的です。そのため、相談先に出向く手間を省けるという利点があり就業中にも相談することができます。また、緊急性の高い問題にも迅速に対応できることも大きな利点です。
ただし、相談場所が社内にあることで他の従業員に見られるリスクが高まり、相談をためらう要因にもなり得ます。また、スタッフを常駐させるためには、一般的に高いコストがかかることがあり、設置も本社などに限られることがあります。
メリット
- 相談から問題解決までの流れがスムーズ
- 長期的な視点での従業員支援が実現
- 関係者とのコミュニケーションを円滑に行える
デメリット
- 社内にあるため従業員が気軽に利用しにくい
- コストがかかるのがネック
- 設置場所が限られる場合、全国の事業場で活用できない
外部EAPのメリットとデメリット
外部EAPは、社外の機関であるため、他の従業員の目を気にすることなく利用でき、相談場所も社外になるため気軽に相談できる環境が整っています。また、相談員を常駐させないため、利用頻度によってはコストを抑えることが可能です。サービスによっては、相談後に医療機関の紹介などのフォローが提供されることもあります。
多様な専門職による広範な相談対応が可能であり、社内で専門職を雇うよりもコスト効率に優れている点が特徴です。また、客観的な視点からのアドバイスを受けることで、新たな気づきや発見が得られる可能性があります。従業員のプライバシーを守りながら、専門的なサポートを受けることができます。
また、内部EAPは予算の都合上、本社にしか設置できないケースがありますが、外部EAPであれば、全国の事業所に対応できる点も導入のメリットです。
外部EAPのデメリットには、相談員が企業の特有の文化や状況を理解できていなければ適切な対応とならないことがあります。また、緊急時の迅速な対応が難しいケースがあること、従業員が外部機関に相談することに対して抵抗を感じる場合は利用率が低くなることがあります。
メリット
- 外部の機関であるため従業員のプライバシーが守られる
- 医療機関の紹介などの付帯サービスを得られる
- 利用頻度によってはコストを抑えられる
- 多種多様な分野の専門家への相談サービスを低コストで利用できる
- 全国の事業所に対応できる
デメリット
- 相談員が企業の文化や状況を十分に理解できていない場合がある
- 緊急時の迅速な対応が難しいケースがある
- 従業員が外部機関に相談することに対して抵抗を感じる場合がある
これらのメリット・デメリットを踏まえた上で、自社の目的や傾向にあうEAPの導入を検討することが重要です。
EAP導入のポイントは?
EAPの一環として外部相談窓口を設けることで、匿名性が高く、従業員が相談しやすい環境を整えることができます。従業員のプライバシーを守りつつメンタルヘルスの問題を未然に防ぎ、早期対応することが可能になります。外部相談窓口を選ぶポイントについては以下の点にも注意してみましょう。
24時間、365日対応のサービス
外部相談窓口が電話やメールで24時間365日対応しているため、従業員は自分の都合に合わせていつでも相談できます。緊急時や思いついたときにすぐに利用できるので、問題を抱えたまま長時間悩むことを防ぎ、早期の解決が期待できます。また、就業時間外に相談することも可能です。
相談員が保健師、公認心理師等の専門家や有資格者
専門家にいつでもアクセスできるため、質の高いサポートを受けることができます。
メンタルヘルスだけでなく、様々な悩みについても相談可能
従業員のメンタルヘルスだけでなく、身体の健康や人間関係、キャリア、家庭問題、プライベートな悩みなど、さまざまな悩みについて相談することができます。
従業員だけでなく、その家族も使えるか
従業員だけでなく、その家族も利用することができれば、 家族が心の健康を保つことで、従業員のメンタルヘルスにも良い影響が与えられ、職場環境の改善につながります。また、従業員は、家族がサポートを受けられることで、安心感を持つことができます。
これらのサービスにより、従業員のメンタルヘルスや健康管理において効果的なサポートが提供されることが期待されます。
その他、以下のポイントも押さえておきましょう。
個人情報の扱い
EAPでは、相談内容や個人情報は厳重に管理されており、プライバシーは守られます。個別の相談については、本人の同意がない限り、原則として企業に報告されることはありません。
ただし、生命に関わる緊急な状況の場合には、企業に連絡することがあります。また、相談件数や傾向に関する統計データなどは企業に提供されますが、その中には個人を特定できる情報は含まれません。企業は、これら得られたデータを基に職場環境の改善を進めることが重要です。
社内周知・定着への取り組みも支援されているか
外部相談窓口としてEAPを導入した後は、従業員に対してEAPカウンセリングの存在とその利用方法を広く知らせ、利用を促すことが大切です。社内ネットワークや社内報、ポスターなどを活用し、定期的にEAPに関する情報を提供したり、新入社員研修や管理職研修の機会を利用して、EAPの目的や利用法を説明することも効果的です。さらに、相談事例や、利用者の感想などを匿名で紹介することで、サービスの有用性を具体的に示し、利用しやすい環境を整えることができます。外部EAPのサービスで、活用できる告知ツールの有無や、社内周知の支援方法についても確認しておきましょう。
まとめ
労働人口の減少が深刻化し、生産性の向上が急務の課題となった現在、企業には従業員のメンタルヘルスを考慮した予防的な取り組みが求められています。
EAPを導入し、メンタルヘルスケアを推進することで、企業全体でメンタルヘルスに対する理解が深まると、職場の環境が向上します。従業員が活き活きと働くようになることで、企業イメージの向上にも繋がっていきます。また、不調者が減少することで、企業が負担する医療費の削減にも寄与します。EAPの導入には一定の費用がかかりますが、その投資がもたらすメリットは大きいのです。
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