「空気が読めない」「話がかみ合わない」
「やたらと細かい部分にこだわる」「何度注意しても同じミスを繰り返す」
このような言動をとる人を見て、「やる気がないのでは?」「協調性がないのでは?」と感じる方もいるかもしれません。
しかし実はその背景に、発達障害が存在している可能性があります。
発達障害というと「子どものうちにわかるもの」「特別支援学級の話」と思われがちですが、近年では大人になってから気づかれる発達障害(いわゆる大人の発達障害)が注目されています。本人も周囲のひとも発達障害に気づかないまま成長し、社会人として働き、さまざまな困難にぶつかって初めて実は発達障害だったと診断されるケースが少なくありません。
今回は、そもそも発達障害とは何か?という基礎から、ASD(自閉スペクトラム症)・ADHD(注意欠如多動症)・SLD(限局性学習症)といった主な3タイプの特徴、そして職場での具体的な対応方法まで、わかりやすく解説していきます。
発達障害とは?できないのではなく偏りがある
発達障害とは、生まれつきの脳機能の障害により、認知や行動に偏りが生じて独自の特性が現れ、社会生活を送る上で支障がある状態をいい、医学的には「神経発達症群」に分類されています。
いずれのタイプも情緒面や行動面の様々な特徴をもちますが、同じ障害であっても人によって特徴や程度は異なり、また複数の発達障害が併存している場合もあります。
発達障害の大きなポイントは、何かができないのではなく、できることと苦手なことに大きな偏りがあるということです。つまり、ある分野では苦手さが目立つ一方で、他の分野では突出した能力を発揮する人も少なくありません。
たとえば⋯⋯
- 口頭の指示は理解しづらいが、文字情報には強い
- 雑談や暗黙のルールが苦手でも、作業の正確性や集中力は抜群
- 数字や文章を扱うのが苦手でも、視覚的な情報には秀でている
発達障害は、必ずしも知的発達症(全体的な知能の遅れ)を伴うわけではありません。むしろ、知的能力は標準的、あるいは一部で非常に高い場合があるのにもかかわらず、能力のバランスが著しく偏っている(能力に凹凸がある)のが大きな特徴です。
そのため、勉強中心の学生時代までは凹凸が目立たなかった人でも、高度な対人スキルやマルチタスクが求められる社会人になった途端、本来の能力を発揮できず、強い自己否定や精神的な不調に陥るケースが少なくありません。
「なぜ同じところでつまずくのか」「どうして周囲とうまく噛み合わないのか」といった違和感が続き、医療機関への相談につながることもあります。
こんな困りごとありませんか?職場で見かける行動例
職場の中で「なんとなく関わりづらい」「説明したはずなのにうまく伝わっていない」そんなシーンに出くわしたことはありませんか?
実は、発達障害のある方が周囲に理解されずに誤解されやすいのは、困りごとや特性が周囲から気づかれにくいためです。仕事は真面目に取り組んでいるのに、どこかちぐはぐで、噛み合わない。それが、周囲とのすれ違いや摩擦の原因になってしまうのです。
ここでは、職場でよくある「行動」と「その背景にあるかもしれない特性」を具体的にご紹介します。
※以下はあくまでよく見られる傾向の例であり、これだけで特定の診断を行うものではありません。
| 見られる行動例 | 背景の可能性 |
|---|---|
| 指示通りに動けない、伝えた内容が抜けている | 注意欠如多動症(ADHD)による不注意、記憶保持の困難 |
| 報連相が極端に少ない・唐突な発言が多い | 自閉スペクトラム症(ASD)のコミュニケーションの苦手さ |
| 書類作成や数字の扱いにいつも苦戦している | 限局性学習症(SLD)による読み書き・計算の困難 |
| いつも同じ話題ばかりを一方的に話し続ける | ADHDやASDにみられる、興味への過集中や関心の切り替えの難しさ |
| 急な予定変更にパニックになったり、固まる | ASDの「見通しが立たないこと」への不安反応 |
なお、同じ行動であっても背景となる特性は一つとは限らず、ADHDとASDの特性が重なっている場合も少なくありません。このような行動を個人の能力や姿勢の問題と決めつけるのではなく、どうしてこうなるのだろう?と背景に目を向ける視点を持つことが、発達障害への理解の第一歩です。
発達障害の特徴
発達障害と一口に言っても、その特徴の表れ方はさまざまです。ここでは、代表的な3タイプの特性と職場での強みについて、わかりやすく整理していきます。
自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症は、対人関係や社会的コミュニケーションの取り方に独自の特徴が見られる発達障害です。
主な特徴
- 相手の表情や場の空気を読み取るのが難しい
- 言葉を文字どおりに受け取りやすい
- 曖昧な指示や抽象的な表現が苦手
- こだわりが強く、決まった手順やルールを好む
- 音や光、温度などの感覚刺激に敏感
得意なこと
- 集中力が高い
- 正確さを求められる作業が得意
- ルーティン業務を安定してこなせる
- 興味のある分野では高い専門性を発揮する
職場では、曖昧な指示や急な変更が続くと混乱しやすい一方、見通しが立つ環境では力を発揮しやすいタイプといえます。
注意欠如多動症(ADHD)
ADHDは、不注意、多動性、衝動性といった特徴が組み合わさって現れる発達障害です。大人になると、多動性よりも不注意の側面が目立つことが多くなります。
よく見られる特徴
- うっかりミスや忘れ物が多い
- 時間管理や段取りが苦手
- 集中が続きにくい一方で、過度に集中することもある
- 思ったことをすぐ口にしてしまう
得意なこと
- 行動力がある
- アイデアや発想が豊か
- 決断が早い
- 変化への対応が比較的得意
ADHDの特性は、仕事の進め方や環境次第で、短所にも長所にもなり得るのが特徴です。
限局性学習症(SLD)
限局性学習症は、話すことや理解する力に問題はないものの、読む、書く、計算するといった特定の能力に著しい困難がある状態です。
よく見られる特徴
- 文章を読むのに時間がかかる
- 文字を書くのが極端に遅い、誤字が多い
- 数字の桁を間違えやすい
- グラフや表の理解が苦手
得意なこと
- 口頭での説明理解は得意
- 空間把握や直感的な発想に強い
- 創造性やアイデア力が高い
SLDは本人の努力不足と誤解されやすい特性ですが、ツールや評価方法を工夫することで、負担を大きく軽減できるケースが多い発達障害です。
発達障害と決めつけず、グレーゾーンの苦しさにも目を向けて
ここまで代表的な発達障害の特性について紹介してきましたが、大切なのは「〇〇っぽいから発達障害だ」と安易にラベルを貼ってしまわないことです。
発達障害は診断の有無で線引きされるものではなく、誰しもが何らかの特性をグラデーションの中で持っているとも言われています。
実際には、診断がつかないグレーゾーンにいる人こそ、「苦しいけど説明がつかない」「支援につながれない」と悩みを抱えやすい傾向もあります。
そのため、発達障害について考える際は当事者・非当事者という分け方ではなく、誰もが抱える生きづらさの一部として捉える視点がとても大切です。診断名をつけることよりも、「今、どんな困りごとが起きているのか」に目を向けることが支援の出発点になります。
職場や家庭で「あの人ちょっと変わってる?」と感じたときも、決めつけるのではなく、何か困っていることがあるのかも知れないと想像するだけで、関係性や支援のあり方は大きく変わってきます。
二次障害というリスク〜誤解され続けることがもたらす心の問題~
発達障害のある人が最も苦しむのは、特性そのものよりも、周囲とのすれ違いや誤解される経験の積み重ねです。
例えば、ADHDによる忘れ物や遅刻が続いたとき、「なぜ同じミスを何度もするの?」「反省してないの?」と叱られることが増えるかもしれません。しかし本人はそのたびに、やってはいけないと分かっているのに、どうしてもできないという自分への苛立ちと罪悪感を抱えています。
ASDの場合も、雑談に入れなかったり、言葉を額面通りに受け取ってしまって空気を壊してしまったりすることで、付き合いにくい、気が利かないと距離を置かれやすくなります。
こうした努力しても伝わらない、自分ばかり注意されるといった体験が積み重なると、次第に自己肯定感が低下し、心の健康にも悪影響が及びます。
このように、発達障害による生きづらさを抱えたまま過ごすことで、うつ病や不安障害、適応障害、さらにはパニック症や摂食障害といった二次障害を発症するケースも少なくありません。
二次障害は一見すると発達障害とは関係のない症状に見えるため、発達障害の本質的な特性に気づかないまま、対処が後手になってしまうこともあります。
だからこそ、本人の努力不足ではなく、認知や感覚の違いに根本の原因があるかもしれないという視点を持つことが、当事者を守る大きな第一歩となります。
発達障害|会社ができる対応・配慮とは?
発達障害のある社員が職場で安心して働くためには、日々のちょっとした配慮や工夫が非常に重要です。
厚生労働省が紹介している実際の企業事例から、現場で実践されている対応を見てみましょう。
指示やコミュニケーションの工夫
- 口頭だけでなく、紙やホワイトボードに指示内容を可視化
- 「だいたい」「なるべく早く」といった曖昧な表現ではなく、具体的な数値や期限を伝える
- 作業が多段階にわたる場合は、一つひとつ工程を区切って順番に指示
こうした対応は、ASDの人にとっては混乱を防ぎ安心できる工夫であり、ADHDの人にとっても抜けやすいポイントを明確化できるサポートになります。
環境調整と働き方の柔軟さ
- 周囲の視覚刺激で集中できない場合、パーテーションで仕切りを設ける
- 感覚過敏がある人のために、静かな席・空調の調整・照明の工夫
- 昼休みに雑談が負担になる場合、一人で食事ができる場所を用意
職場での快適さは、業務効率だけでなく、ストレスや二次障害の予防にも直結します。
周囲との関係づくり
- 上司が定期的に「困っていることはないか?」と声をかける
- 指示内容は復唱してもらい、お互いに確認してズレを防ぐ
- 希望があれば、本人の了承のもとで職場全体に理解を促す研修を実施する企業も
本人が無理なく働ける環境を作ることは、結果的に周囲のストレス軽減にもつながります。
発達障害|どのようにサポートしたらよいのか
発達障害のある人と関わるとき、多くの人が「どう接すればいいのかわからない」と戸惑いを感じます。もしかすると、「なるべく目立たないように距離を取っておこう」「特別扱いしすぎても逆に失礼かも」といった気遣いから、かえって壁を作ってしまっているかもしれません。
しかし本当に大切なのは、何とかしてあげようという一方通行の関わりではなく、どんな工夫をすればお互いに働きやすくなるかを一緒に考える姿勢です。
一人ひとりの中に他の人と違う認知や感覚の世界があり、だからこそ戸惑いもあれば、工夫の余地もあります。
たとえば⋯⋯
- 指示が通らないとき、「なぜできないの?」ではなく「どう伝えれば伝わるだろう?」と考える
- 書類の誤字が多い部下に、チェックリストを作るなどのを提案する
- 空気が読めない発言があったときも、悪気があるわけではないと理解して受け止める
発達障害のある人も、うまくやっていきたいという思いを持っています。ただ、そのための方法が、いわゆる一般的なやり方とは少し異なることがあります。だからこそ、周囲に理解してもらえると、関係性もぐっと良い方向へ変わっていきます。
特別な配慮を強調しすぎるのではなく、かといって無関心になるのでもなく、適度な距離感と支援の姿勢を保つことが大切です。一度で理解できることを前提とせず、相手の状況に応じて必要なサポートを検討するような柔軟な関わり方が、発達障害のある方との信頼関係を築くうえで有効です。
おわりに
大人の発達障害は、周囲からは気づかれにくいことが多く、そして、多くの場合、本人すら長くその特性に気づかず、「なぜうまくいかないのか」に苦しみ続けています。
発達障害は、できないことが多い人ではなく、できることとできないことの差が大きい人です。
だからこそ、本人が特性に合った環境ややり方を見つけられれば、その能力は職場にとって大きな戦力にもなり得ます。
私たちが発達障害について正しく知ることで
- これまでうまくいかなかった理由に納得できる
- 接し方や伝え方を変える工夫ができる
- 本人も周囲も、無用なストレスを減らせる
結果的に、それは人を活かせる組織や働きやすい社会へとつながっていきます。






