ストレス社会とは?定義・原因・いつから?日本だけと言われる背景を解説

職場環境改善

「ストレス社会」という言葉は、今や日常的に使われていますが、これを単なる個人のメンタルヘルスの問題として片付けていては、組織の持続可能性は保てません。

現代のストレスは、社会構造や職場環境によって慢性的な負荷が生じやすい、構造的な課題です。従業員のメンタル不調、高い離職率、生産性の低下といった経営リスクの背景には、この「ストレス社会」という土壌が深く関わっています。

本稿では、押さえるべきストレス社会の定義、日本特有の原因、および歴史的背景を整理し、組織として取り組むべき視点を解説します。

ストレス社会とは?組織が押さえるべき定義

ストレス社会とは、社会や職場の仕組みそのものが、人々に継続的な心理的・身体的負荷を与えている状態を指します。
 仕事の量や人間関係、情報、経済状況など、さまざまなストレス要因(ストレッサー)が社会構造に組み込まれ、誰もが慢性的に緊張や圧力を受けやすい環境が常態化しているのが現代のストレス社会です。
このあと詳しく触れていきますが、ストレスという言葉はもともと物理学で歪みを意味し、心理学では外部からの刺激(ストレッサー)に対する心身の反応として定義されていますつまり、私たちは外的な刺激を受けることで心身に変化が生じ、その積み重ねがストレス状態として現れます。
このように、ストレス社会の問題は、個人の性格や忍耐力の問題ではなく、制度設計や組織文化、マネジメントのあり方など、構造的な要因によって生み出されます。

「ストレス」概念の再確認とストレッサーの構造

ストレス(Stress)は、もともと物理学の「歪み」の概念に由来します。医学・心理学では、外部からの刺激をストレッサー、それに対する心身の反応をストレス反応と呼びます。

企業活動におけるストレス社会とは、従業員が恒常的に複数のストレッサーにさらされ、心身の不調や業務パフォーマンスの低下(プレゼンティーイズム含む)が起こりやすい状態と定義されます。

重要な視点:個人の問題ではない

ストレス社会の課題は、個人の性格や忍耐力の問題ではなく、組織や環境の設計(制度、文化、マネジメント)に起因するものです。対策は、セルフケアの啓発に留まらず、構造的なストレッサーの低減に軸足を置く必要があります。

データが示す深刻な現状:組織全体のリスク

厚生労働省の「労働安全衛生調査」によると、仕事に関して強い不安・悩み・ストレスを感じている労働者の割合は2022年は82.2%、2023年は68.3%と依然として高水準です。

この数値は、ストレス対策が一部のメンタルヘルス不調者向けの取り組みではなく、大多数の現役社員に対する生産性維持・向上のための基盤整備であることを示しています。この高いストレスレベルが、休職・離職・生産性低下という組織の直接的なコスト増に直結しています。
令和6年版 厚生労働白書(第一章 こころの健康を取り巻く環境とその現状)

なぜ「日本だけ」と言われるのか?構造的ストレスの原因

日本が特にストレス社会として国際的に認識されやすい背景には、複数の構造的ストレッサーが複合的に作用しています。

日本独自の職場文化が生み出す心理的負荷

  • 同調圧力と我慢の文化:「和を重んじる」「空気を読む」といった文化は、集団の調和を保つ一方で、同調圧力を生み出します。従業員は、疑問や不満、体調不良をオープンにしづらく、不調を隠蔽・内在化しやすい傾向があります。これは、ハラスメントの温床となりやすく、また、不調の早期発見(二次予防)を妨げる大きな要因です。
  • メンタルヘルス・リテラシーとスティグマ(偏見):精神的な不調に対するスティグマ(偏見)が根強いことも、日本の特徴です。不調を隠す行動が助長され、結果的に相談・受診が遅れ、症状が重症化し、休職期間が長期化するというリスクを高めています。

経済構造の変化に伴う負荷の増大

  • 少子高齢化による慢性的な人手不足:生産年齢人口の減少は構造的な人手不足を招き、一人あたりの業務量と責任が増大しています。働き方改革後、「短時間で同等以上の成果を出す」という労働の密度に対するストレスが増加しています。
  • 成果主義と国際競争のプレッシャー:終身雇用の崩壊と成果主義の導入は、従業員に恒常的な競争と評価へのプレッシャーを課しています。グローバル競争の激化に伴い、業務のスピードアップと変革への適応が絶えず求められ、心理的な余裕を奪っています。

一方で、国際的なデータを比較すると、日本のストレス水準やメンタルヘルス不調の割合は、必ずしも他国と比べて突出して高いわけではありません。それにもかかわらず日本がストレス社会として認識されやすい背景には、不調や困難を抱えていても声を上げにくい文化的特性が影響しています。不調が可視化されにくく、個人の内側に蓄積されやすいことが、結果として深刻化を招いているのです。

ストレス社会は「いつから」顕在化したのか?歴史的視点

ストレス社会の形成は、日本の戦後経済史における雇用制度と競争原理の変化と密接に関わっています。

年代 構造的特徴 ストレッサーと顕在化したリスク
高度成長期 会社への献身、長時間労働の常態化(モーレツ社員) 過労の蓄積、長時間労働の習慣化
1980年代後半 過労死の社会問題化 労働による健康被害が個人の問題を超えたことを認識
バブル崩壊後 終身雇用の崩壊、リストラ、成果主義の加速 雇用不安、競争プレッシャー、心理的負担の増大
21世紀以降 DX推進、働き方改革、コロナ禍による環境の超高速な変化 変化への適応ストレス、仕事と私生活の境界線の曖昧化、孤独感

特に、過労死問題が社会化し、労働者の心身の健康リスクが経営課題として認識され始めた1980年代後半から1990年代が、現代のストレス社会が本格的に顕在化した時期と言えます。

職場におけるストレッサーの分類と介入施策

ストレスの原因は多岐にわたりますが、組織として特に介入すべきは心理的・社会的ストレッサーです。

ストレッサーの種類 具体的な例とリスク 組織の介入施策
仕事の質・量 業務の過重、役割の曖昧さ、期限の厳しさ ジョブ・デザインの適正化、工数管理(タスクの可視化)、職務権限の明確化
対人関係 ハラスメント、コミュニケーション不足、チーム内の軋轢 ハラスメント防止対策(研修・懲罰規定)、サーベイによる関係性の可視化
コントロール度 裁量権の欠如、業務の進め方や時間配分を決められない 自律性の付与(フレックスタイム、リモートワーク)、高負荷・低裁量の見直し
評価・処遇 評価基準の不透明性、昇進・給与への不満 公平性・透明性の高い評価制度の運用、フィードバックの質向上

ストレス対策は「回復力(レジリエンス)」と「環境改善」の両輪で

ストレスの多い社会では、「ストレスをなくさなければならない」「強くならなければ乗り越えられない」と考えがちです。しかし、実際にはストレスを完全に避けて生活することはほとんど不可能です。

だからこそ大切なのは、無理のない負荷の中で、疲れたらきちんと回復できる力を身につけることです。ストレス対策は我慢ではなく、調整回復を前提に考えることが重要です。

その回復を支えているのは、仕事の場面だけではありません。十分な休息、睡眠、家族や友人との時間、趣味や運動といったライフが整ってこそ、仕事の場面での集中力や生産性、対人対応力といったワークの質は高まります。良いライフがあってこそ、良いワークが生まれるのです。

 

組織レジリエンスの構築:予防・早期発見・支援

頑張り続ける力だけでなく、立ち止まり、整え、また前に進める力が一人ひとりが持つ可能性を活かし、そして組織の安定性と持続的な成長を実現するための鍵となります。組織の安定性(レジリエンス)を高めるには、三次予防(不調者への対応)だけでなく、一次予防(環境整備)に注力する必要があります。

  1. 一次予防(環境改善): 構造的なストレッサー(長時間労働、不適切なマネジメント)を取り除く
    • ハラスメント・リスクの徹底排除
    • 勤務間インターバル制度の導入など、休息を担保する仕組みの整備
  2. 二次予防(早期発見): 不調の兆候を早期に捉え、重症化を防ぐ
    • ストレスチェックの集団分析結果に基づく職場環境改善
    • 管理職に対するラインケア研修の強化
  3. 三次予防(回復支援): 休職・復職後のスムーズな社会復帰を支援する仕組みの整備

組織のレジリエンスは、個人に「強さ」を求めることでは高まりません。回復できる日常を前提とした働き方を組織が設計することで、初めて不調の予防とパフォーマンスの安定が両立します。

回復できる土台の上で活かす「ポジティブなストレス」

ここまで述べてきた一次予防から三次予防までの取り組みは、 ストレスをゼロにすることを目的としたものではありません。

むしろ、過度な負荷や回復不能な状態を防ぎ、 「安心して挑戦できる土台」を整えることにあります。 この土台があってこそ、職場におけるストレスは、 心身をすり減らす要因ではなく、 成長やエンゲージメントにつながる要素として機能し始めます。

ストレスは、すべてが悪いものではありません。
適度な挑戦や明確な目標といった 成長につながるストレスは、 従業員のエンゲージメントを高め、 成長意欲を引き出す重要な要素となります。

たとえば、木は常に穏やかな環境で育つよりも、 風に揺さぶられることで地中にしっかりと根を張り、 倒れにくく成長していきます。まったく風のない環境では、 見た目は育っていても、 いざ負荷がかかったときに折れてしまうことがあります。

職場におけるストレスも同様で、 重要なのは負荷をかけること自体ではなく、その強さとタイミングです。

負荷をかけるべき場面と、 休息や支援を与えるべき場面を適切にコントロールし、 従業員自身が 過度なストレスではなく 成長につながる挑戦だと 受け取れるようにすることが求められます。

そのためには、挑戦の意図や期待値を丁寧に伝えるフィードバックや、 達成可能性を踏まえた目標設定の考え方を、 マネージャー層にまでしっかりと浸透させていくことが重要です。

まとめ

ストレス社会は、社会や組織の仕組み自体が、環境変化や個人の特性に適合できていない状態を示すシグナルです。その本質は企業や社会のシステムが、そこで働く人々の健康と幸福(ウェルビーイング)を維持する設計になっていないことを示しています。

個人のメンタルヘルスケアを推進しつつも、よりマクロな視点で、ストレスを構造的に生み出す要因(長時間労働、曖昧な評価、同調圧力)の是正に取り組む必要があります。

仕組みと文化を見直すことこそが、健康経営を推進し、持続的な企業価値向上を実現するための、最も有効な処方箋となるでしょう。

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