プレコンセプションケアとは?目的や必要性、取り組みの具体例を解説

健康経営

プレコンセプションケアとは、妊娠や出産を考える前から心身の健康を整える取り組みを指します。近年は晩婚化やライフスタイルの多様化を背景に重要性が高まり、医療だけでなく職場や社会全体での理解と支援が求められるようになってきました。特に2025年度からは健康経営度調査にプレコンセプションケアに関する設問が加わり、組織としての取り組みが注目される領域となっています。

今回はプレコンセプションケアの意味や目的、必要性、具体的な取り組み例について整理して解説します。

プレコンセプションケアとは

プレコンセプションケアとは、将来の妊娠や出産を考える前から、自身の健康を整えておくことを目的とした包括的なヘルスケアです。英語で「preconception(妊娠前)」と「care(ケア)」を組み合わせた言葉であり、単に婦人科検診を受けることにとどまらず、食生活・運動・生活習慣の見直し、さらにはメンタルヘルスや男女双方の健康意識までを含む幅広い概念です。

日本での広がりと現状

日本では大学病院などにプレコンセプション外来が設置され、糖尿病や高血圧など持病を持つ方を中心に妊娠前からの健康支援が行われています。一方で、自治体は若年層を含め幅広い層への啓発活動を担っており、医療機関と役割を分担する形で普及が進められています。

こうした動きは、個人の健康支援にとどまらず、社会全体で妊娠前からの健康づくりを後押しする流れとなり、働く人々の安心感や職場環境づくりにも波及しています。

ドクター渡辺 (精神科医)
ドクター渡辺 (精神科医)

プレコンセプションケアは医療や個人の健康習慣にとどまらず、組織文化にも影響を与えるテーマです。安心して働ける環境を整えることこそが、企業の信頼と成長を支える力になります。

 

プレコンセプションケアの目的

プレコンセプションケアの目的は、大きく分けて「リスクの低減」「母子の健康確保」「キャリアとライフイベントの両立支援」「社会的価値向上」の4つに整理できます。それぞれの目的を詳しく見ていきましょう。

プレコンセプションケアの目的を整理すると、個人の健康づくりにとどまらず、働き続けられる安心感や組織の持続性とも深くつながっていることがわかります。ここでは、その具体的な目的を一つずつ掘り下げてみましょう。

妊娠・出産のリスク低減

妊娠中に起こりやすい高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症や早産のリスクは、生活習慣や既往症と密接に関係しています。例えば、糖尿病を持つ女性が妊娠する場合、血糖コントロールが不十分だと母体・胎児ともに合併症リスクが高まります。

そのため、妊娠前から食生活の改善や適度な運動、禁煙・節酒といった生活習慣の見直しを行うことが、合併症を大幅に軽減する効果につながります。

母子の健康確保

妊娠初期は胎児の脳や心臓など重要な臓器が形成される大切な時期です。しかし多くの場合、妊娠に気づくのはすでに臓器形成が進んだ後です。そのため、妊娠を意識する前から母体の健康状態を整えておくことが、赤ちゃんの健やかな発育につながります。

例えば、感染症予防、ワクチン接種、持病のコントロールは母体と胎児双方の健康を守る重要なポイントです。プレコンセプションケアは、母体だけでなく生まれてくる子どもの健康を見据えた次世代への投資といえます。

キャリアとライフイベントの両立支援

妊娠・出産は体調の変化を伴い、キャリア形成にも影響を及ぼす可能性があります。例えば妊娠中の体調不良による休職や離職は、個人のキャリアだけでなく企業にとっても大きな損失となります。

プレコンセプションケアを社会や企業が支援することで、従業員が妊娠や出産を安心して迎えられる環境を整備できます。結果的に、従業員はライフイベントに不安を抱えることなくキャリアを継続でき、企業にとっても人材の定着や生産性の維持につながります。

健康経営や働き方改革との関連性

従業員がライフイベントに左右されずに働ける職場は、健康経営やダイバーシティ推進の観点から高く評価されます。特に、2025年度からは健康経営度調査にプレコンセプションケアが新設問として加わり、企業の取り組みが可視化されるようになりました。

これは、プレコンセプションケアが単なる個人の健康管理にとどまらず、企業の持続可能な経営戦略の一環と位置づけられたことを意味します。働き方改革や女性活躍推進と合わせて、従業員が安心してライフイベントを迎えられる体制を整えることは、企業のブランド価値や採用力を高める上でも大きなメリットとなります。

ドクター渡辺 (精神科医)
ドクター渡辺 (精神科医)

こうして見ていくと、プレコンセプションケアは従業員一人ひとりの将来を守るだけでなく、組織にとっても人材定着や働きやすい職場づくりにつながる取り組みであることがわかります。日常的な健康支援の延長にこそ、安心して働ける環境や企業の信頼が築かれていくと考えると、経営や人事の視点からも無視できないテーマといえるでしょう。

なぜ必要なのか?プレコンセプションケアの必要性

プレコンセプションケアが求められる背景には、日本社会における少子化や働き方の変化、健康課題の複雑化といった大きな流れがあります。妊娠や出産を個人の問題として片付けるのではなく、社会全体で支えるべきテーマとして認識されるようになってきました。

晩婚化・晩産化と不妊リスク

日本では平均初婚年齢・出産年齢ともに年々上昇しており、妊娠を望む年齢が高くなる傾向にあります。出産年齢の上昇は、不妊や流産のリスク増加と密接に関係しています。

このような背景から、妊娠を希望する前の段階で生活習慣を整え、将来の妊娠に備えておくことが不可欠です。晩婚化・晩産化が進む社会だからこそ、プレコンセプションケアの重要性はますます高まっています。

人生の選択肢が多様化する時代だからこそ、今現在の健康管理が将来の自由度を広げる重要な要素になります。

生活習慣病・メンタルヘルスとの関係

肥満、喫煙、過度の飲酒、強いストレスは、妊娠や出産に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば肥満は妊娠糖尿病や高血圧症候群のリスクを高め、母体だけでなく胎児の発育にも影響します。

また、精神的なストレスやうつ症状も妊娠経過に影響することが指摘されており、妊娠前からのメンタルヘルスケアが大切です。心身の両面から健康を整えることが、母子の安全と安心につながります。

職場における支援不足

妊娠や出産の準備に関する支援は、職場ではまだ十分とはいえません。特に「妊娠前のケア」に焦点を当てた取り組みは限られており、従業員が健康面での不安を抱えながら働き続けるケースも少なくありません。

今後は、健康診断やメンタルヘルスケアの一環としてプレコンセプションケアを組み込み、安心してキャリアを継続できる環境を整えることが課題となります。これは従業員の個人生活を尊重するだけでなく、組織にとっても人材定着や生産性の維持に直結する重要なテーマです。

男女双方の取り組みが必要

プレコンセプションケアは女性だけのものではありません。男性の生活習慣も妊娠や出生児の健康に大きく関わっています。例えば、喫煙や過度の飲酒、肥満は精子の質に影響を与えることがわかっています。また、精子は高温に弱く、日常生活のちょっとした習慣も妊娠率に関係することがあります。

妊娠・出産はパートナーシップで成り立つものであり、夫婦単位・男女双方で取り組むことが必要不可欠です。男性もライフスタイルを見直し、パートナーと一緒に健康づくりに参加する姿勢が求められています。

プレコンセプションケアは女性のための準備ではなく、男女が協力して未来を考える取り組みとして広がりつつあります。

社会全体での必要性

少子化が進む日本において、妊娠や出産に備えた健康づくりは個人の課題にとどまりません。安心して子どもを持てる社会環境を整えることは、持続可能な社会を築くうえでも不可欠です。国や自治体、企業が連携してプレコンセプションケアを普及させていくことが、今後さらに求められるでしょう。

プレコンセプションケアの具体的な取り組み例

プレコンセプションケアは妊娠を望む前からの健康づくりという大枠の考え方ですが、実際には個人・医療機関・職場など、それぞれの立場で取り組める具体的な方法があります。ここでは代表的な実践例を紹介します。

個人レベルでの取り組み

まず大切なのは、自分自身の生活習慣を見直すことです。特別なことではなく、日常の小さな積み重ねが将来の安心につながります。

定期的な健康診断や婦人科検診
妊娠前に持病や隠れた不調を把握しておくことは重要です。例えば貧血や甲状腺機能の異常は妊娠に影響を与える可能性があります。定期的なチェックを習慣化することが第一歩です。

バランスの良い食生活と運動習慣
野菜やたんぱく質を意識した食事、適度な運動は妊娠準備だけでなく生活習慣病予防にもつながります。

禁煙・節酒、十分な睡眠
喫煙や過度の飲酒は不妊や妊娠合併症のリスクを高めます。睡眠不足もホルモンバランスに影響を与えるため、生活リズムの安定が大切です。

ストレスマネジメントやメンタルケア
強いストレスや不安は妊娠率に影響することが報告されています。日記やリラクゼーション法、趣味の時間を持つなど、自分に合った方法で心を整えることがプレコンセプションケアの一部になります。

医療機関での取り組み

次に、専門家のサポートを受ける方法です。医療機関では妊娠前からの健康づくりを支援する体制が整いつつあります。

プレコンセプション外来
一部の大学病院や専門施設では、妊娠を望む方を対象にした相談外来が設けられています。糖尿病や高血圧、甲状腺疾患など持病を持つ方に対して、妊娠前からの健康管理を支援する専門的な取り組みです。

感染症検査やワクチン接種
妊娠や胎児に影響する感染症のチェックは妊娠前に行うことが望まれます。必要に応じてワクチン接種を受けることも重要です。

専門家によるカウンセリング
医師や助産師、管理栄養士が妊娠前の不安や生活習慣の見直しに関する相談に応じます。食生活の改善や持病の管理について専門的なアドバイスを受けることで安心につながります。

職場や組織での取り組み

個人や医療機関だけでなく、職場もプレコンセプションケアに関わることができます。従業員が安心して働きながらライフイベントを迎えられる環境は、組織の持続性にも直結します。

健康経営プログラムに組み込む
健康診断やストレスチェックとあわせて妊娠前からの健康づくりについて情報提供を行うことで、従業員の意識を高めることができます。

セミナーや研修の実施
ライフステージに応じた健康管理をテーマにしたセミナーは、男女問わず役立ちます。知識を持つことで、従業員自身やそのパートナーを支えるきっかけになります。

相談窓口や福利厚生制度の整備
産業医や専門家への相談窓口を設ける、検診費用の補助など福利厚生制度を拡充することは、従業員の安心感につながります。

ライフイベントとキャリアの両立を支援する制度づくり
フレックスタイム制度、在宅勤務、育児休暇制度の柔軟な運用など、妊娠・出産をキャリア断絶にしないための制度整備は、組織全体の信頼性や採用力にも結びつきます。

企業がプレコンセプションケアに取り組むメリット

プレコンセプションケアは、従業員の健康保持にとどまらず、企業にとっても大きな経営的メリットをもたらします。健康経営や人的資本経営が注目されるなか、ライフイベントを支援する施策は単なる福利厚生ではなく組織の持続性を高める戦略として位置づけられるようになっています。

従業員の定着率・エンゲージメント向上

妊娠・出産に伴う不安を軽減することで、従業員は安心してキャリアを継続できます。これは女性従業員だけでなく、パートナーを持つ男性従業員にとっても大きな安心材料になります。組織がライフステージに配慮する姿勢を示すことで、従業員の企業への信頼感が増し、モチベーションやエンゲージメントの向上につながります。その結果、離職率の低下や人材定着にも効果が期待できます。

妊娠・出産期の離職防止

妊娠前からの健康支援は、合併症や不妊のリスクを減らすことにつながり、従業員がキャリアを中断する可能性を下げます。特に、体調不良や不安からの休職・離職は個人だけでなく企業にとっても大きな損失です。

ただし、つわりなど、プレコンセプションケアだけでは避けられない体調の変化も存在します。そのため、健康支援に加えて安心して休める制度や柔軟な働き方を整備することが欠かせません。

プレコンセプションケアと制度の両面で支えることにより、従業員は妊娠や出産という大きな転機を迎えても安心してキャリアを続けやすくなり、結果として離職防止や人材の定着につながります。

企業イメージ向上と採用力強化

従従業員の働き方と暮らしを支える企業という姿勢は、求職者にとって非常に魅力的に映ります。

ダイバーシティや働き方改革が重視されるなかで、従業員の人生設計に寄り添う取り組みは採用活動において強いアピールポイントになります。特に若い世代は働きやすさや将来の安心感を重視する傾向が強いため、プレコンセプションケアの支援は企業ブランディングの一環としても有効です。

プレコンセプションケアは単なる福利厚生にとどまらず、健康経営や人的資本経営においても注目されるようになっています。従業員の安心感や働きやすさを支える取り組みとして、今後ますます重要性が高まっていくでしょう。

おわりに

プレコンセプションケアとは、妊娠前から心身を整え、将来の妊娠・出産や子どもの健康に備えるためのケアです。母子の健康を守るだけでなく、キャリア支援や健康経営の一環としても重要な意味を持っています。

晩婚化・生活習慣病リスクが高まる現代において、男女双方が取り組むことが求められています。

今後は、個人・医療機関・企業が連携し、プレコンセプションケアを職場文化として根付かせることが、安心して働き続けられる社会の実現にもつながっていきます。

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