静かな退職とは?兆候や原因、企業が取るべき防止策

人事労務担当者向け

「静かな退職(Quiet Quitting)」が、企業の見えないリスクとなっています。

かつてのように声高に退職を宣言することなく、仕事への情熱や主体性を徐々に手放していく。そんな「静かな退職」が、今、職場の生産性やチーム力にじわじわと影響を及ぼしています。

表面的には業務をこなしているように見えるため、上司や同僚もその変化に気づきにくく、組織としても見過ごされがちです。

この現象は、単なる「やる気の低下」ではありません。背景には、過度な業務負荷への疲労感、努力が報われない職場環境、価値観の変化、そして「どうせ言っても変わらない」という諦めや不信感が潜んでいます。

社員が物理的に離職する前に、心理的に「退職」してしまっている、それが、静かな退職の本質です。静かな退職を放置すれば、人材の「見えない離脱」が続き、現場ではミスや停滞が増え、やがては本当の離職へとつながります。

企業にとってのリスクは「人が辞めること」だけではありません。「人が辞める前から、すでに組織の活力が失われている」ことなのです。

静かな退職とは何か

「静かな退職(Quiet Quitting)」とは、形式上は退職していないものの、仕事への熱意や関与が薄れ、必要最低限の業務しか行わなくなった状態を指します。
以下のような状態がよく見られます。

・指示されたことだけを淡々とこなす
・自ら提案や改善に動かなくなる
・周囲とのコミュニケーションが減る

静かな退職は、本人にすら自覚がないまま進行しているケースも少なくありません。

「なんとなくやる気が出ない」「これ以上頑張っても仕方がない」そんな心の声が、知らぬ間に仕事への距離を生んでいくのです。

静かな退職のような「見えない心の離脱」は、すぐには大きな問題として表面化しませんが、放置していると職場の雰囲気の悪化や、生産性の低下につながります。

心が離れている社員が見せる3つのさりげない予兆

退職を申し出るなどの表立った行動がなくても、実は内心では気持ちが離れ始めており、そのサインが日々の言動や態度にごくさりげなく表れることがあります。

こうした小さな変化は見落とされがちですが、注意深く観察することで、社員が抱える違和感や限界の兆しに気づく手がかりになります。

1. 発言の変化

  • 「誰か他の人にお願いします」といった発言が増える

  • 雑談や会話が極端に減る、意見を言わなくなる

2. 行動の変化

  • 会議での発言減少、カメラオフ・ミュート常習

  • 報告・相談が遅れる、または最低限の内容しか伝えてこない

3. 表情や雰囲気の変化

  • 目が合わない・笑顔が減る・視線を合わせない

  • 身なりの乱れ、疲労感のある顔つき

  • ため息や独り言が増える

※これらは「やる気がない」「仕事に飽きた」というよりも、心のエネルギーが尽きかけているサインとも解釈できます。

静かな退職に至る4つの心の動き

「静かな退職(Quiet Quitting)」は、単に「やる気がない人」の話ではありません。多くの場合、そこに至るまでには、以下のような心理的変化や葛藤が存在しています。

諦めと無力感「どうせ頑張っても報われない」

社員は、本来ならば評価され成長できる環境であれば、主体的に行動しようとするものです。しかしながら、

  • 成果を出しても昇給や昇進に結びつかない

  • 上司からのフィードバックがない

  • キャリアの展望が見えない

  • 会社の将来性に不安を感じる

といった経験が積み重なると、「頑張っても意味がない」という学習性無力感に陥ってしまいます。これは、特に若手社員や中堅層のキャリア停滞感にもつながりやすい心境です。

自己防衛と燃え尽き「これ以上すり減りたくない」

長時間労働や感情労働、高すぎる期待が続くと、心身に大きな負荷がかかり、「もう頑張れない」と感じるバーンアウト(燃え尽き症候群)に陥ることがあります。静かな退職は、そうした状態の前兆として表れる場合があります。

  • 過剰なノルマや残業から自分を守る

  • 責任や期待に応えることを避ける

  • 感情を使う仕事に疲れ、感情のスイッチを切る

こうした行動は、一見「やる気がないように見える」かもしれませんが、実際には社員が自分を守るために選んだ「最小限の働き方」なのです。だからこそ、この段階での気づきと対話が、深刻化を防ぐ鍵になります。

価値観の変化と割り切り「仕事が人生のすべてではない」

近年、特に若い世代を中心に「ワークライフバランス」を重視する傾向が高まっています。仕事を自己実現の場として捉えるのではなく、「生活費を得る手段」と割り切る考え方が広がっています。

  • 時間外対応の拒否

  • 趣味や副業、家族との時間を優先

  • 仕事に過度な期待をせず、効率重視で働く

こうした変化は、「ハッスルカルチャー(猛烈に働く文化)」へのカウンターとも言えます。社員が自身の価値観に基づいて働き方を選んでいるとも捉えるべきです。

「静かな退職」という言葉には、やる気の低下やエンゲージメントの喪失といったネガティブな響きがつきまといます。しかし、すべての静かな退職が「問題」とは限りません。

近年の働き方の価値観は、「仕事=人生の中心」から、「仕事は生活の一部へ」という方向にシフトしつつあります。その中で、「必要以上に背負いすぎない」「無理をしすぎない」と線引きをすることは、むしろメンタルヘルスを守るための健全な選択でもあります。

不信感と疎外感「組織と心の距離が離れてしまった」

社員のエンゲージメントは、職場との信頼関係に大きく左右されます。組織との心理的な距離が開いていく過程には、以下のような要因があります。

  • 経営の方向性が見えない

  • 上司との対話が希薄で一方通行

  • 自分の意見が言えない職場風土

  • 仕事の成果が組織にどう貢献しているのか分からない

こうした環境では、社員は「自分は必要とされていない」と感じ、心が組織から離れていきます。

静かな退職の背景には、職場環境や人間関係、評価制度への深い失望や防衛反応が潜んでいます。これは単なる個人の問題ではなく、組織全体の課題を映し出す鏡なのです。

社員の「ちょっとした変化」に気づく視点を

静かな退職状態にある社員は、つらさや違和感を表に出さず抱え込みやすいため、孤独感や無力感からメンタルヘルス不調に陥るリスクがあります。

これを防ぐには、

  • 上司や同僚とのこまめな対話(業務だけでなく心情にも目を向ける)

  • 安心して話せる心理的安全性のある職場づくり

  • 「異変の前」に気づく仕組み(1on1やピアサポートなど)

が有効です。

「静か」であっても、孤立させないことが最大の予防策です。

 1on1や面談では「業務外の雑談」も大切に

  • たとえば「最近どうですか?疲れてませんか?」など、雑談ベースのやりとりを交えた面談を意識することで、相手の本音に触れやすくなります。

  • 「最近ちょっと元気ないね」など、具体的な観察に基づいた声かけも有効です。

無理に引き出さない、でも「相談できる空気」はつくる

  • 話してくれない=問題なし、と判断せず、「何かあればいつでも相談してね」と安心感を与えるひと言を添えることが重要です。

  • 定期的な場を設けることで、社員側も「ここで話してもいいんだ」と感じやすくなります。

仕事内容や環境の見直しを一緒に考える

静かな退職の背景には、「努力しても評価されない」「やりがいを感じない」「過剰な期待に疲弊した」といった思いが潜んでいることもあります。

そうした思いに対し、業務量の調整や役割の見直し、部署の異動といった具体的な支援を会社として検討・提示することが、再び社員のモチベーションを引き出す糸口になります。

社外の相談窓口を活用する選択肢も

ただし、周りが変化に気づいていても、本人からは打ち明けにくいこともあるでしょう。そのような場合、社外の相談窓口を活用することも効果的です。利害関係のない第三者と話せるため、上司や社内では打ち明けにくいキャリアの悩みやプライベートな相談も、安心して行うことができます。
利害関係のない第三者と話せる環境は、キャリアの方向性、働くことへの迷い、心身の不調など、社内では伝えにくいテーマにもつながりやすくなります。

静かな退職と向き合うために、企業ができること

静かな退職は、単なる「個人のモチベーション低下」ではなく、「組織との関係性の変化」「働くことへの価値観の変化」の現れでもあります。だからこそ、企業としても「社員の内面に目を向ける視点」を持ち、「誰もが安心して声をあげられる関係性づくり」が求められます。

企業ができる取り組みとして、たとえば以下のような視点が挙げられます。

  • 評価制度やフィードバックの透明性を見直す

    成果が見える形で正当に評価されることは、社員の納得感とモチベーションにつながります。

  • 心理的安全性のあるチームづくり

    安心して意見を言える、ちょっとした違和感を話せる空気が、早期の変化察知につながります。

  • キャリアや働き方の選択肢を広げる

    ライフステージや価値観に応じた多様な働き方の選択肢を示すことで、「ここで働き続ける意味」を感じやすくなります。

  • 管理職のマネジメント支援

    現場の管理職自身も多忙な中で部下の変化に気づくのは容易ではありません。傾聴や1on1の進め方、心のサインの見つけ方についての支援も必要です。

小さな変化に気づくことから、関係性の再構築へ

たとえば、「最近元気なさそうだけど大丈夫?」「調子どう?」といった、日々のささやかな声かけや気づきの積み重ねこそが、大きな予防策になります。

社員のちょっとした違和感や小さなサインを見逃さない職場は、変化に柔軟に対応でき、相互に支え合える強い組織づくりにつながります。

「辞めていないから問題ない」のではなく、「今、この人の心は組織に向いているか」を意識すること、それが、これからの人材マネジメントに求められる重要な視点です。

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