健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定要件には、健康づくり担当者の設置が必須項目として定められています。しかし、「健康づくり担当者って、具体的にどんなことをすればいいの?誰を任命したらいいの?」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
今回は、健康経営を推進するうえで重要な役割を担う健康づくり担当者について、役割や具体的な業務内容、任命、設置の義務、そして健康経営優良法人との関係などをわかりやすく解説します。
健康づくり担当者とは?
健康づくり担当者とは、職場で従業員の健康を守り、より良い健康状態を目指す取り組みを推進する役割を担う人のことを指します。たとえば、健康経営に関する施策の企画や実行をサポートしたり、経営層・産業医・保険者(協会けんぽなど)との連携や情報共有を行ったりと、幅広い業務に関わります。
また、健康診断や保健指導の実施手続き、特定保健指導に関する窓口業務など、実務的な対応を行うケースもあります。
特別な資格や専門知識が求められるわけではなく、多くの場合は総務や人事の担当者がこの役割を兼任しています。実際、健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定申請においても、全事業場に健康づくり担当者を配置することが必須条件とされています。
健康づくり担当者の役割と業務内容
健康づくり担当者は、職場における健康経営の実務を支えるキーパーソンです。その業務は多岐にわたり、単なる事務的な対応にとどまりません。従業員の心身の健康維持を図ることを軸に、組織全体の生産性や働きがいの向上に貢献する役割を担っています。
主な業務は以下の3つの分野に大きく分けられます。
1.健康経営の立案・推進のサポート
健康経営を効果的に進めるためには、まず自社の健康課題を把握し、具体的な取り組みの方向性を定める必要があります。健康づくり担当者はその初期段階から関わり、経営層と連携しながら課題の洗い出しや指標の設定などを行います。
たとえば、社員へのアンケートや健康意識調査の実施、社内研修・セミナーの企画・運営なども業務の一環です。これにより、従業員のヘルスリテラシーを高め、組織全体の健康意識を育むことが期待されます。
2.関係者との連携・情報共有
健康経営を進める上では、社内外の関係者との連携が不可欠です。健康づくり担当者は、経営層への取り組み状況の報告、産業医や保健師との情報共有、協会けんぽなど保険者との連絡調整なども担います。
特に健康経営優良法人の認定を目指す企業では、こうした報告・相談の体制整備が重要視されます。定期的なフィードバックや情報連携を通じて、継続的な改善につなげていくことが求められます。
3.実務対応と制度運用の窓口
実際の業務としては、健康診断や保健指導の実施に関する手続き、特定保健指導に関する連絡窓口なども含まれます。これには予約手配や社内周知、受診状況の管理など、現場レベルでの細やかな対応が必要です。
また、外部専門家(産業医・保健師など)から助言を得るための調整役となることもあり、従業員の健康課題を把握しやすいポジションでもあります。
企業によっては業務量に応じて複数人を配置するケースもあり、特に従業員数が多い場合はチームでの対応が現実的です。
なお、健康経営優良法人(中小規模法人部門)の申請書には、健康づくり担当者がどのような業務を行っているかを記載する項目があります。すべての業務を行っている必要はありませんが、認定を受けるには、少なくともいずれかの取り組みを実施している必要があります。
健康経営優良法人認定と健康づくり担当者の関係
健康経営優良法人認定制度は、経済産業省が創設した制度で、従業員の健康管理や職場環境の改善に積極的に取り組んでいる企業を社会的に評価する仕組みです。
その中でも中小規模法人部門においては、すべての事業場に「健康づくり担当者」を配置することが認定の必須条件となっています。つまり、健康づくり担当者の存在がなければ、認定そのものが受けられないのです。
では、なぜそれほど重要視されているのでしょうか?
健康づくり担当者は推進役
健康経営をただ理念として掲げるだけでは意味がありません。具体的な行動に落とし込むためには、それを推進する人が必要です。健康づくり担当者は、企業が掲げる健康施策を現場で実行し、改善を重ねていく役割を担います。
また、健康づくり担当者は、経営層と現場をつなぐ役割も担うため、認定に向けた準備を進めるうえでも中心的な存在になります。必要な情報を集めたり、取り組みを社内に浸透させたりと、認定に向けた基盤づくりをリードする役目も果たします。
担当者の活動内容が申請書に反映される
健康経営優良法人の申請時には、健康づくり担当者が「どんな取り組みを行っているか」について記載が求められます。たとえば、健康診断の管理、保健指導の対応、社内への健康情報の発信など、実際の行動が評価対象になります。
とりあえず担当者を置いておけばいいというわけではなく、何をしているのか、どう従業員の健康に貢献しているかが重要なのです。
健康づくり担当者の任命と設置義務について
健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定を受けるためには、健康づくり担当者の設置が必須条件となっています。これは、企業が従業員の健康維持・増進に本気で取り組む体制を整えているかどうかを確認するための重要な基準のひとつです。
申請においてはすべての事業場に1人以上の健康づくり担当者を設置することが必須項目として求められています。ここでいう事業場とは、会社全体ではなく、営業所・工場・支店・店舗など、それぞれが独立した拠点として機能している場所を指します。
たとえば、本社のほかに3つの営業所がある企業の場合、それぞれの拠点に1名ずつ、合計4名の健康づくり担当者を配置しなければなりません。1人で複数の事業場を兼任することはできませんので注意が必要です。
ただし、海外にある事業場については設置義務の対象外となります。
健康づくり担当者にはどんな人を任命したらいい?
健康づくり担当者を選ぶ際には、ただ形式的に誰かを割り当てるのではなく、実際に健康経営の取り組みを進められる人を選任することが大切です。
一般的には、総務や人事といった管理部門に所属する社員が任命されることが多く、日頃から従業員の働き方や職場環境に関わっているため、健康施策との親和性も高いとされています。また、衛生管理者や安全衛生推進者、衛生推進者など、職場の安全・衛生に携わっている人も適任といえるでしょう。
実務に携わる人を任命することが重要
健康経営優良法人の認定申請では、健康づくり担当者が実際に健康に関する業務に関与しているかが審査のポイントになります。形式的に肩書きだけを与えても、実務に携わっていない場合は審査通過が難しくなる可能性があります。
たとえば、健康診断の手続き、保健指導の案内、従業員への健康情報の発信、外部機関との連絡窓口など、具体的な業務に関わっていることが求められます。
対等な立場で意見を伝えられる人が理想
もう一つ大切な要素は、「社内のさまざまな立場の人と対等に意見交換できること」です。健康づくり担当者は、経営層・産業医・保険者・健康経営アドバイザーなど、多様な関係者とやり取りをする機会が多いため、遠慮せずに必要な意見を伝えられる姿勢が求められます。
たとえば、「従業員の健康のためにこうした取り組みが必要」と感じたときに、それを経営層にしっかりと提案できるかどうかは非常に重要です。仮に、経営者に対して発言しづらい人が担当になると、組織として健康経営が形骸化してしまうおそれもあります。
おわりに
健康づくり担当者の設置は、健康経営を実現するうえで欠かせないステップです。誰を任命し、どのように機能させるかが、認定取得のカギとなります。自社に合った体制を整え、従業員の健康づくりを着実に進めていきましょう。
参照
健康経営優良法人の申請について(経済産業省)
企業の「健康経営」ガイドブック(経済産業省)
健康経営の推進について(経済産業省)