ストレスチェックの高ストレス者を放置するリスクとは?適切な対応方法を解説!

ストレスチェックの高ストレス者を放置するリスクとは?適切な対応方法を解説! ストレスチェック

職場におけるストレス管理は、企業の安全配慮義務の一環として重要な課題です。特に、ストレスチェック制度において高ストレス者と判定された従業員に対する適切な対応を怠ると、企業にとって法的リスクが生じる可能性があります。今回は、高ストレス者を放置するリスクや適切な対応方法について詳しく解説します。

高ストレス者が面接指導を申し出るのは何割?

ストレスチェック制度は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止するため、2015年12月に導入されました。ストレスチェックの主な目的は、労働者自身が自らのストレス状態に気づき、職場環境の改善につなげることです。しかし、制度開始から数年が経過した現在、医師による面接指導の申し出状況には、いくつかの課題が浮き彫りになっています。

面接指導の申し出状況

高ストレスと判定された労働者は、事業者に申し出ることで医師による面接指導を受けることができます。しかし、実際に面接指導を申し出る労働者の割合は5%未満という事業場が多く、非常に低い水準にとどまっています。

この背景には、面接指導を受けることで自分が高ストレス者であることが事業者に知られることへの懸念や、医師との面接に対する心理的なハードルがあると考えられます。

参照:ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて(厚生労働省)

高ストレス者を放置することで生じるリスクとは?

 

高ストレス者を放置することは、企業・従業員双方に深刻なリスクをもたらします。ストレスチェック制度が導入されているにも関わらず適切な対応を怠ると、業務の効率低下や法的責任が発生する可能性もあります。ここでは、企業にとってのリスクと従業員にとってのリスクをそれぞれ詳しく解説します。

企業側のリスク

企業が高ストレス者を放置することは、単に従業員の問題ではなく、組織全体に大きな影響を及ぼします。生産性の低下や人材の流出、さらには企業の評判の悪化など、多方面にわたるリスクが発生する可能性があります。特に、適切なメンタルヘルス対策を講じないことは、法的責任の発生にもつながるため、慎重な対応が求められます。ここでは、企業側が直面する主なリスクについて詳しく解説します。

生産性の低下

高ストレス者は、集中力の低下やモチベーションの低下が生じやすくなります。業務の効率が下がることで、組織全体のパフォーマンスが悪化し、売上や業績にも悪影響を及ぼす可能性があります。

主な影響

  • 業務のミスや遅延が増加し、業務の進行に大きな支障をきたす

  • 部署内の協力関係が悪化し、円滑なコミュニケーションが困難になる

  • 業務の負担が一部の従業員に集中し、さらなるストレスの悪循環を生む

休職・離職者の増加

ストレスを抱え続けた従業員は、心身の不調により長期休職に至るケースが増えます。また、会社のサポートが十分でないと感じた従業員が転職を決意することもあり、人材の流出につながります。

主な影響

  • 休職・離職により人員不足が発生し、業務の負担が特定の従業員に集中することで、さらなるストレスの悪循環を引き起こす。

  • 採用・研修コストの増加に加え、新しく採用された従業員の適応期間が必要になり、即戦力としての活用が難しくなる。

  • 業務の属人化が進み、退職者のノウハウが失われることで、企業の長期的な成長にも支障をきたす。

  • 社内の労働環境が悪化し、さらに高ストレス者を生み出すことで、負のスパイラルが続く可能性がある。

法的リスクの増大

企業には、労働者の健康を守る「安全配慮義務(労働契約法第5条)」があります。これは、労働者が安全かつ健康的に働くことができる環境を確保するために不可欠な義務です。高ストレス者への適切な対応を怠ると、以下のような法的リスクが生じ、企業の責任が問われる可能性があります。

(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
引用:安全配慮義務(労働契約法第5条)
安全配慮義務違反

労働契約法第5条では、企業は従業員の健康や安全に配慮しなければならないとされています。これは、単に健康診断を実施するだけでなく、ストレスチェックや職場環境の改善、適切な休息の確保を含む広範な取り組みを求められるものです。高ストレス者を放置し、適切な対応を行わなかった場合、企業が法的責任を問われるだけでなく、職場全体の信頼性も損なわれることになります。特に、ストレスが原因で従業員が健康被害を被った場合、損害賠償責任が発生する可能性が高くなります。

また、裁判において企業側が不利な立場に置かれるケースも多く、従業員の健康を軽視したと判断されると、多額の賠償金が発生することもあり得ます。これらを回避するためには、ストレスチェックの結果を適切に活用し、医師やカウンセラーの面接指導を積極的に促進することが求められます。

従業員にとってのリスク

職場で高いストレスを抱えたまま過ごすことは、従業員にとって大きな負担となり、心身の健康に深刻な影響を与える可能性があります。ストレスが蓄積すると、精神的・身体的な健康問題に発展するだけでなく、仕事のパフォーマンスや人間関係にも悪影響を及ぼすことがあります。ここでは、従業員が直面するリスクについて具体的に説明します。

メンタルヘルスの悪化

高ストレス状態が続くと、うつ病や不眠症、適応障害を発症し、自律神経の乱れによる精神的負担が増大します。これに伴い、食欲不振や慢性的な疲労、免疫力の低下が見られ、日常業務にも支障をきたします。また、感情のコントロールが難しくなり、職場や家庭でのコミュニケーションが困難となることで、人間関係が悪化し、さらなるストレスの悪循環に陥る可能性があります。

身体的健康の悪化

ストレスはメンタルだけでなく、身体にも大きな影響を及ぼします。慢性的なストレスにさらされることで、自律神経の乱れや免疫機能の低下が生じ、様々な病気のリスクが高まります。

仕事のパフォーマンス低下

ストレスを抱えた状態では、集中力や判断力が低下し、業務に支障をきたします。その結果、評価が下がったり、キャリアの成長が妨げられることもあります。

人間関係の悪化

ストレスを抱えることで、周囲とのコミュニケーションがうまく取れなくなり、人間関係のトラブルが増えることがあります。職場での孤立や対人関係のストレスがさらに悪化する悪循環に陥ることもあります。

高ストレス者が出た場合に企業は何をしたらいいのか?

企業におけるストレスチェック制度は、従業員のメンタルヘルスを守るために重要な役割を果たします。ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定された従業員に対しては、迅速かつ適切な対応を行うことが求められます。以下に、企業が取るべき対応の流れを解説します。

高ストレス者への面接指導申出の勧奨の実施

ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された従業員には、医師による面接指導を受けることを勧奨します。企業側は、対象者に対して面接指導の目的や重要性を丁寧に説明し、受診の意思を確認することが大切です。

なお、面接指導の申出は従業員の自由意志によるものであり、強制することはできません。

医師へ面接指導の実施を依頼

面接指導を希望する従業員がいた場合、企業は産業医または適切な医療機関の医師へ面接指導の実施を依頼します。この際、対象者のストレスチェックの結果や業務状況を医師に提供し、適切なアドバイスができるようにサポートします。

面接対象者と医師との面接スケジュール調整

面接指導の実施に向けて、従業員と医師の間でスケジュールを調整します。企業は、従業員の業務負担を考慮し、無理のない範囲で面接日時を設定できるよう配慮する必要があります。また、プライバシーを尊重し、安心して面接を受けられる環境を整えることも重要です。

医師による高ストレス者への面接指導の実施

面接指導では、医師が高ストレス者の心身の健康状態を確認し、ストレスの原因や業務環境の問題点を把握します。さらに、メンタルヘルスの維持・改善に向けた具体的なアドバイスを行います。

必要に応じ相談機関や専門医への紹介

面接指導の結果、より専門的な対応が必要と判断された場合、企業は従業員に対して適切な相談機関や専門医を紹介します。産業医の意見を踏まえ、メンタルクリニックやカウンセリング機関などの外部サポートを活用することで、より適切なケアが受けられるようにします。

医師から意見聴取

面接指導を担当した医師から、従業員の健康状態や職場環境に関する意見を聴取します。この意見は、従業員のストレス軽減や職場環境の改善につなげるために活用されます。

必要に応じ就業上の措置の実施

医師の意見をもとに、必要に応じて就業上の措置を講じます。具体的には、勤務時間の調整、業務内容の変更、一時的な休職の推奨などが考えられます。企業は、従業員の健康を最優先に考え、長期的な働きやすさを確保するための環境整備を行うことが求められます。

企業が適切に対応することで、高ストレス者の健康を守り、職場全体の生産性向上やメンタルヘルスの維持につながります。ストレスチェック制度を有効活用し、健全な職場環境を整えていきましょう。

高ストレス者から面接指導の申出がなかった場合の対応方法

面接指導を勧奨しても従業員が申出を行わない場合、企業はそのまま放置せず、適切な対応を検討する必要があります。具体的には、以下のような対応が考えられます。

継続的なフォローアップ

面接指導を受けなかった従業員に対しても、定期的な状況確認を行うことが重要です。ストレスの蓄積を防ぐために、適切なタイミングで再度面接指導の勧奨を行い、必要に応じて相談窓口を案内します。従業員が自主的に相談しやすい環境を整えることが、長期的なメンタルヘルスの向上につながります。

職場環境の見直し

高ストレス者が特定の業務や人間関係に負担を感じている場合、業務の割り振りや職場環境の改善を検討します。例えば、労働時間の短縮や業務量の調整を行い、従業員が無理なく働ける環境を提供することが重要です。また、上司や同僚との関係改善のための施策も検討する必要があります。

ストレス軽減のための取り組み

セルフケア研修等の社内研修やメンタルヘルスの啓発活動を実施し、従業員全体の意識向上を図ります。企業文化としてメンタルヘルスを重視し、健康的な職場環境の構築を進めることが求められます。

企業は、従業員の健康を守る責任を果たすためにも、面接指導の申出がなかった場合の対応を適切に行い、働きやすい職場環境の整備に努めることが重要です。

高ストレス者への支援の重要性

企業が高ストレス者に適切な支援を行うことは、単なる法的義務にとどまらず、企業の成長にもつながります。本章では、企業としての責任や利益について説明します。

企業としての社会的責任

従業員の健康を守ることは、企業の社会的責任として欠かせません。健康な職場環境を維持することは、単なる福利厚生ではなく、企業の持続可能性や競争力を高める重要な要素です。労働環境が健全であれば、従業員の満足度が向上し、結果として企業の評判向上や人材確保にもつながります。また、社会全体の健康増進に貢献することで、企業のブランド価値を高めることも可能です。

従業員のメンタルヘルス維持の重要性

従業員の健康が維持されることで、生産性の向上や組織の安定に寄与します。メンタルヘルス不調が原因で業務効率が低下することを防ぐためには、定期的なストレスチェックの実施や、心の健康に関する教育を継続することが不可欠です。加えて、従業員が自身のストレス状態を適切に把握し、早期に対策を講じることができるよう、セルフケアの手法を学ぶ機会を提供することも重要です。

職場環境の整備も、メンタルヘルス維持に大きく貢献します。例えば、柔軟な働き方の導入や、ストレスを軽減するためのリラクゼーションスペースの設置、定期的なメンタルヘルス相談窓口の設置など、様々な施策を通じて従業員の健康を支えることができます。

適切な対策がもたらす企業の利益

メンタルヘルス対策を徹底することで、企業のリスクを軽減し、職場の活性化につながります。具体的には、ストレスによる欠勤や離職のリスクを減らし、職場の人間関係を良好に保つことができます。これにより、従業員のモチベーションが向上し、組織全体のパフォーマンスが向上することが期待されます。

さらに、企業が積極的にメンタルヘルス対策に取り組むことで、優秀な人材の確保や定着率の向上にも寄与します。従業員が働きやすいと感じる環境を整えることで、組織の安定性が高まり、長期的な成長にもつながるのです。また、健康経営に注力する企業は、投資家や顧客からの評価も高まり、ビジネス全体の持続可能性を向上させる要因となります。

おわりに

ストレスチェック制度を適切に運用し、高ストレス者への対応を徹底することは、企業の持続的成長にもつながります。ストレスが長期化すると、従業員の生産性が低下し、組織全体の業務効率にも悪影響を与えます。また、未然に防ぐことができる健康問題が放置されることで、長期的な人材確保の観点からも企業にとって大きな損失となる可能性があります。

企業は高ストレス者を放置することで生じるリスクを回避し、従業員の健康を守るために、積極的な取り組みを進めることが重要です。そのためには、単なるストレスチェック制度の運用にとどまらず、継続的なフォローアップや、職場環境の改善、従業員が気軽に相談できる体制の構築など、多角的なアプローチが求められます。

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記事監修

精神科医専門医・日本医師会認定産業医。
川崎医科大学卒、1988年渡辺クリニック(2018年改称)を開設。
その後、厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の在り方検討委員会」委員、内閣府「自殺対策官民連携協働会議」委員、公益財団法人日本精神神経科診療所協会会長など歴任。
現在、医療法人メディカルメンタルケア横山・渡辺クリニック名誉院長、大阪大学医学部神経科精神科非常勤講師、一般社団法人日本精神科産業医協会共同代表理事ほか。
ストレスチェック法制化においても、厚生労働省「ストレスチェック制度に関する検討会」「ストレスチェック項目に関する専門検討会」「ストレスチェック制度マニュアル作成委員会」などの委員を務める。

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