従業員が産業医面談を拒否する場合の対応は?拒否する理由から考える

産業医面談を拒否された場合の対応は?拒否される理由から考える ストレスチェック

「最近様子がおかしい社員がいるが、産業医など医師への相談を勧めたが断られた」
「ストレスチェックの結果、産業医面談の対象者となった社員から、面談を拒否された」

このような場合、会社としてはどのように対応したらよいのでしょうか?

産業医の面談は、従業員が健康に仕事を続けられるようサポートするための重要な手段の一つです。

しかし、社員が面談を断ることもあり、そのような場合の適切な対応について人事担当者が悩むことも珍しくありません。

面談を拒否された場合、何も対策を講じないと、安全配慮義務違反となるおそれがあります。

今回は、面談拒否の背後にある理由と企業がとるべき対処法について詳しく説明していきます。

従業員の健康と安全を支える産業医面談

産業医による面談は、従業員の健康をチェックし、仕事が原因で起こりうる健康上のリスクを事前に防ぐために重要です。この面談を通じて、従業員の疲労が積み重なるのを避け、健康問題が悪化するのを未然に防ぐことができます。

産業医面談の目的は、適切な労働条件を保持し、健康的な職場環境を維持することにあります。

産業医は面談を利用して従業員に直接指導をするだけでなく、医学的知識に基づくアドバイスを職場に提供し、労働環境の改善を促進する重要な役割を果たしています。

産業医面談を拒否された場合は強制できる?

本産業医面談は労働安全衛生法により企業に義務付けられていますが、従業員には面談を受ける法的義務はありません。

そのため、従業員が面談を希望しない場合は、会社としては面談を強制することはできません。

しかし、面談を拒否された場合には、企業として安全配慮の義務を果たしていないと見なされるリスクがあるため、そのまま放置するのも問題といえます。

また面談を拒否している従業員の健康状態が著しく悪化している可能性もあります。

そのため、企業は適切な対策を検討し、実施する必要があります。

ではどのような場合従業員は産業医面談を拒否するのでしょうか?考えられる理由を見ていきましょう。

従業員が産業医面談を拒否する理由とそれぞれの対応

産業医面談は従業員の健康を支援し職場の安全を確保するために重要ですが、従業員が面談を拒否することがあります。

面談を拒否する理由は人それぞれであるため、まずは従業員の話をしっかり聞き何に不安を感じているのか理解することが重要です。

ここでは、産業医面談を拒否する一般的な理由と対応策を具体的に紹介します。

理由1: 面談のための時間を確保できない

多忙なスケジュールの中で、面談の時間を確保することが困難だと感じる場合があります。

対応法

 面談のスケジュールを柔軟に調整し、必要に応じて業務時間外でも実施できるように配慮することが効果的です。また、面談が短時間で終わることを事前に伝えることも重要です。

時間外に面談をする場合は残業扱いになるかなども説明します。

理由2: 人事評価への影響を懸念

 面談内容が人事評価に影響するのではないかと従業員が心配する場合があります。

対応法

面談は健康管理のためであり、人事評価には影響しないことを明確に伝えます。何を不安に感じているのか聞き取り、面談対象となっている従業員と信頼関係を築くことが重要です。

理由3: プライバシーへの不安

個人の健康情報が他の人に漏れることへの不安を持たれる場合があります。

対応法

産業医の守秘義務を徹底し、どのようにプライバシーが保護されるか、誰が情報内容を知りうるかについて詳しく丁寧に説明することが有効です。

理由4: 面談の効果に対する疑問

面談を受けても問題が解決するとは思えないと従業員が感じている場合があります。

対応法

過去の成功例や具体的な改善事例を紹介し、面談の有益性を具体的に示します。効果的な事例を共有することで、面談への意義を再認識してもらいます。

理由5: 産業医に対する不信感

接する機会がほとんどない産業医に対する不信感や抵抗感があることが原因で拒否する場合があります。

また産業医が会社の都合によって話を進めたり、誘導したりするのではないかと心配する従業員もいることがあります。

対応法

企業は産業医の独立性を強調し、従業員の健康を最優先に考えていることを明確に伝えると共に、産業医の資格や経歴、面談の目的を事前に共有して不安を和らげます。

また、従業員のプライバシーが守られることを保証し、産業医面談では従業員が自由に疑問や懸念を表明できるような環境を整備します。

理由6: 面倒だと感じる

単純に面談が面倒である、または関心が低いために拒否することがあります。

対応法

面談が従業員自身の健康管理と病気の予防にどのように役立つかを具体的に説明します。

オンライン面談など従業員が相談しやすい環境の整備も重要です。

従業員が産業医面談を拒否した場合の対処法

従業員が産業医面談を拒否する代表的な理由とそれぞれの対処法についてみてきました。上記の対処法のポイントについてまとめてお伝えいたします。

拒否している気持ちを否定せず理解する

従業員が面談を拒否した場合、まず重要なのは理解の姿勢を示すことです。

従業員の気持ちに寄り添い、面談を避ける理由を話しやすい雰囲気を作ることが大切です。こうすることで、従業員は自分の気持ちを率直に打ち明けやすくなります。

次に、従業員をよく知る人事担当者や上司が理由を尋ねることが効果的です。その際には、周囲に会話が漏れないように気を配り、プライバシーが守られる環境を整えることが求められます。

また、業務が忙しくて面談の時間を確保するのが難しい場合には、同僚や上司と協力して業務を分担したり、面談のタイミングを調整する具体的な支援を行うことが重要です。このような配慮があれば、従業員も面談を受けやすくなるでしょう。

さらに、もし従業員が上司や会社に自分の健康状態を知られたくないと感じている場合には、その気持ちを尊重し、人目を気にしない場所での面談を提案したり、可能であればオンライン面談の選択肢を考慮することが重要です。これにより、従業員は安心して話すことができます。

産業医に対して抵抗感がある場合には、従業員が自分のかかりつけ医の意見を基に、就業に関する配慮を判断することも可能です。この場合、従業員の希望に応じて、かかりつけ医からの意見を取り入れることができます。ただし、産業医以外の医師との面談を受けた場合には、主治医からの診療情報提供書や意見書の提出が求められることを理解しておく必要があります。

産業医には守秘義務があることを説明する

産業医との面談について、内容が会社に知られることを不安に感じる従業員は少なくはありません。このような不安を和らげるためには、『労働安全衛生法』第105条に基づき産業医には面談で知り得た従業員の秘密を他人に漏らしてはならないという守秘義務が課せられているということを伝えましょう。

さらに、面談がどのように行われるかについても明確に伝えることが必要です。具体的には、面談には上司が同席しないこと、そして産業医と従業員が1対1で行うことを人事担当者や上司から事前に説明しておくと良いでしょう。このような配慮があることで、従業員は自分のプライバシーが守られると感じ、心理的な負担が軽減されるはずです。

また、面談の目的や流れについても説明することが効果的です。産業医との面談は、従業員が健康状態を確認し、働きやすい環境を整えるための重要な機会であることを強調することが大切です。このように、従業員が安心して面談を受けられるような環境を整えることで、より良いコミュニケーションが生まれ、職場全体の健康管理にもつながるでしょう。

産業医面談のメリットを伝える

面談を受けることのメリットを従業員に伝えることは非常に重要です。

従業員が軽い不調を感じている場合でも、その背後には深刻な病気が潜んでいる可能性があります。会社が提供する面談の機会では、医療の専門家から直接アドバイスを受けることができ、自分では気づかない病気を早期に発見し、適切な治療につなげることが可能です。このような早期発見は、従業員自身の健康を維持する上で非常に重要です。

また、かかりつけ医などの医療機関の医師は、従業員の職場環境や具体的な働き方を把握することが難しい場合があります。一方で、産業医との面談では、従業員の働く状況を詳細に理解し、それに基づいた的確なアドバイスを受けることができるため、職場で抱える悩みに対しても柔軟に対応しやすいという特長があります。産業医は、業務内容や環境に応じた健康管理の提案を行うことができるため、従業員にとって非常に有益です。

これらのメリットを、特に人事担当者がしっかりと従業員に伝えることが求められます。面談の重要性を理解してもらうことで、従業員はこの機会を前向きに捉えることができ、健康管理に対する意識も高まります。

どうしても産業医面談を拒否する場合

支援探索型ストレスコーピング

従業員の意向を尊重しても産業医面談を拒否される場合は、次のような措置を講じてみましょう。

従業員の話を聞く

産業員の面談を拒否する場合、従業員には何か不安に思っているということが多いです。

従業員はどういう気持で何を不安に思って産業医の面談を拒否しているのかしっかり話を聞き理解するということが重要です。

理解しようとする姿勢により、従業員も心を開いて本音を話してくれるかもしれません。

看護師や保健師による面談を提案する

産業医面談に抵抗を感じている場合、看護師や保健師との面談を利用するのが効果的な解決策となります。

看護師や保健師は、従業員にとって産業医よりも身近な存在であることが多いため、日常の悩みや不安などを話しやすいかもしれません。

おわりに

産業医面談は企業に課せられた義務ですが、従業員が面談を拒否した場合には、それを強制することはできません。従業員の面談拒否の理由に理解を示し、適切に対応することが求められます。面談のメリットを説明して、従業員の健康保護やメンタルヘルスの問題を早期に発見し、適切な治療へと繋げることが重要です。

面談を拒否する従業員には、放置せずに対策を講じることが大切です。例えば、かかりつけ医の受診を勧めたり、産業保健師との面談を提案するなど、安全配慮義務を果たすための手段を採ることが大切です。また、こうした対応や進行状況を人事や上司が記録し、将来的に参照や証拠として使用できるよう保持することが必要です。

記事監修

精神科医専門医・日本医師会認定産業医。
川崎医科大学卒、1988年渡辺クリニック(2018年改称)を開設。
その後、厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の在り方検討委員会」委員、内閣府「自殺対策官民連携協働会議」委員、公益財団法人日本精神神経科診療所協会会長など歴任。
現在、医療法人メディカルメンタルケア横山・渡辺クリニック名誉院長、大阪大学医学部神経科精神科非常勤講師、一般社団法人日本精神科産業医協会共同代表理事ほか。
ストレスチェック法制化においても、厚生労働省「ストレスチェック制度に関する検討会」「ストレスチェック項目に関する専門検討会」「ストレスチェック制度マニュアル作成委員会」などの委員を務める。

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