健康経営における女性の健康課題とは|働き続けられる組織づくりのポイント

健康経営

男女ともに、一人ひとりが個性や能力を最大限に発揮し、持続的に活躍していく社会。その前提となるのは、病気の有無にかかわらず、自分の心身の状態と向き合いながら働き続けられることです。ここでいう「向き合う」とは、常に万全でいることではありません。日々の不調や疲労のサインに気づき、必要に応じて医療や周囲の支援を活用しながら、自分の状態と折り合いをつけていくことです。

しかし、内閣府の『男女共同参画白書』を見ると、多くの働く女性が仕事と家庭の役割の間で揺れ動き、個人の工夫や努力だけでは乗り越えられない状況に置かれていることがわかります。

これは決して個人の問題ではなく、従来型の働き方と家庭責任のあり方がかみ合っていないことによって生じている構造的な負担です。

本記事では、データから見える働く女性の健康課題を整理し、組織の支え方について考えていきます。

健康経営で把握すべき女性の健康課題

まず、持続的な活躍を考える上で見過ごせないのが、男女で異なる不調のピークと時期の差です。統計データからは、特に女性において、キャリア形成期と健康課題が重なりやすい実態が見えてきます。

 働く世代に多い女性の健康問題

男性特有の疾患の多くが50代以降に増加する傾向にあるのに対し、女性特有の疾患は20代から50代にも多く見られるのが特徴です。

【女性特有の疾患】

  • 20代〜40代前半: 月経障害、女性不妊症

  • 30代〜40代: 子宮内膜症、子宮平滑筋腫

  • 40代〜50代: 更年期障害(閉経周辺期障害)、甲状腺中毒症(バセドウ病等)

また、がんの罹患率についても、男性が60代以降に急増するのに対し、女性の「乳がん」や「子宮がん」は30代から増加し始めます。責任ある仕事を任され始めるキャリアの節目と、月経に伴う症状や更年期、家族のケア(介護や育児など)が重なるのは、生物学的・社会的に避けられない側面があります。

引用:令和6年版男女共同参画白書. 内閣府男女共同参画局

見逃されやすい女性の疾患と仕事への影響

働く世代に多い更年期と間違われやすい病気の一つが、甲状腺の病気です。なかでも橋本病(慢性甲状腺炎)は、特に30~40代の女性に発症することが多く、成人女性の約10人に1人、男性でも約40人に1人にみられる比較的頻度の高い病気で、甲状腺機能低下症の原因になります。

ただし、橋本病と診断されても、すべての人が甲状腺ホルモン低下を起こすわけではなく、実際に機能が低下するのは約4~5人に1人とされています。それでも、放置してよい病気ではありません。

更年期症状と似た不調が続くときは「年齢のせい」と決めつけず、一度医師に相談することが大切です。働く世代の女性に多い疾患だからこそ、早めの確認が安心につながります。

女性の健康とメンタルヘルスの関係

内閣府の調査において<最も気になる症状に十分対処できていない>と答えた割合は、女性では就業状況による大きな差は見られませんでした。

しかし、女性の「心理的なストレスの状況」について、就業状況別にみると、働く女性、特に正規雇用の女性が最も高い心理的負荷を抱えている現状が見えてきました。

雇用形態と女性の健康リスク

心理的ストレスの状態を就業別に比較すると、女性は男性と真逆の結果が出ています。

  • 女性のストレスが低い順: 無業者 > 非正規雇用 > 正規雇用

正規雇用で働く女性ほど何らかの理由で、心理的なストレスを感じやすく、仕事の責任や多忙さから、自分のケアを後回しにせざるを得ない「過負荷」な状況が推測されます。

仕事と家庭の両立が女性の健康に与える影響

加えて、健康において最も気になる症状への対処をするために「家事・育児・介護などの時間や量を調整できるか」という問いに対し、興味深い男女差が出ています。

  • 女性: 雇用形態に関わらず調整が難しく、負担が固定化している。

  • 男性: 全体的に調整割合は低いが、20〜39歳の正規雇用男性では女性との差が急速に縮まっている(男性9.8%:女性11.2%)。

若年層を中心に男性の家庭参画は進みつつありますが、働く女性は依然として「仕事の責任」と「調整しにくい家庭の役割」の板挟みにあい、心身ともに余裕を奪われているのが実情です。

小学生以下の子供と同居している場合

小学生以下の子どもと同居していて、最も気になる症状に十分に対処できていない人について、その理由をみると、女性の正規雇用労働者では、「仕事や家事・育児・介護で忙しく、病院に行く時間がない」「病院の空いている時間に行けない・予約できない」と答えた人の割合が、非正規雇用労働者や無業者よりも約10ポイント高くなっています。

また、正規雇用労働者を男女別にみると、「仕事や家事・育児・介護で忙しく、病院に行く時間がない」と答えた割合は、女性40.0%、男性24.6%で、男女差が大きいことがわかります。

この結果から、特に小学生以下の子どもと同居している正規雇用の女性は、仕事と家事・育児の両立に追われ、自身の体調管理を後回しにしやすい状況がうかがえます。また、体調が悪い場合でも「仕事」は優先されがちですが、子どものケアも十分には減らせないため、結果として「仕事」と「家事・育児・介護」の双方に同程度の影響が及んでいると考えられます。
参考:令和6年版男女共同参画白書. 内閣府男女共同参画局

男女の違いから考える健康経営の課題

性別による健康課題や心理的なストレス傾向の違いがある一方で、実は「通院しながら働く人」の割合は、女性40.7%、男性40.6%(2022年時点)とほぼ同程度です。

引用:令和6年版男女共同参画白書. 内閣府男女共同参画局

働く世代の年齢構成の変化もあり、この割合は男女ともに年々上昇しています。今や「何らかの疾病を抱えながら働く」ことは、決して特別なことではなく、誰もが直面し得る共通の課題となっているのです。

体調不良の頻度とパフォーマンス低下

日々の体調の変化に目を向けると、正規雇用労働者について、体調が悪い日が「月に3~4日以上ある」と答えた割合を男女別にみると、女性のほうが高くなっています。

女性では40代が34.1%と最も高く、次いで30代(32.1%)20代(31.8%)50代(28.6%)の順となっています。一方、男性40代・50代が25.5%、30代が24.7%で、いずれの年代でも女性を下回っています。

こうした背景には、女性特有の月経に伴う不調や更年期症状などが影響している可能性が考えられます。

女性の健康問題がマネジメントに与える影響

現在働いている人の「働く上での困りごと」を役職別にみると、管理職、とりわけ女性管理職で課題が顕著です。女性管理職では、非管理職の女性と比べて、

  • 「自分が休もうとしても代わりに任せられる人がいない」

  • 「働きながら治療のために通院しづらい・時間がとれない」

  • 「役職者ほど労働時間や健康状態に気を配れなくなる」

といった声が多くなっています。

男性管理職でも、

  • 「代わりがいない」

  • 「役職者ほど健康に気を配れない」

といった課題は共通してみられます。責任の重さが、休みにくさや自己管理の難しさにつながっている様子が見て取れます。

一方で、正規雇用の非管理職女性では、「月経(生理)の不調など、女性特有の悩みを言い出しにくい」と答える割合が他の区分よりも高くなっています。体調の問題があっても相談しづらい、配慮を求めにくい環境があることも示唆されます。

健康経営としての女性の健康支援の考え方

これまでの日本の雇用慣行は、長時間労働や転勤を前提とする「昭和の文化」が根強く、必ずしも女性特有の身体的特性や健康支援に配慮されていませんでした。しかし、身体のつくりが異なれば、年代ごとに直面する健康課題も異なります。誰もが持続的に活躍するためには、以下の2点が不可欠です。

  • 「特性に応じた支援」を実装する: 画一的な支援ではなく、個々の状況やバイオリズムに合わせた柔軟な健康支援体制を整えること。
  • 「互いの身体的特性」を知る: 自分自身だけでなく、共に働く仲間の健康課題について正しい知識を持つこと。

具体的に組織としてどのようなアプローチが必要なのでしょうか。
以下の図は、経済産業省がまとめた健康経営の観点から推奨される支援策を整理したものです。組織のフェーズやリソースに応じて、「相互理解の促進」という土台づくりから、柔軟な「働き方の調整」、そしてより緻密に実態を把握し「積極投資」へと支援を深めていくことが、質の高い健康経営の鍵となります。

経済産業省:女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について

上記の図で示した通り、支援の質を高めるためには「制度」と「風土」の両面からのアプローチが欠かせません。以下では、組織が取り組むべき4つの重要アクションを具体的に解説します。

健康経営で求められる働き方の整備

支援を実効性あるものにするには、柔軟な制度設計が欠かせません。体調がすぐれないときでも、無理のない範囲で働き続けられる環境を整えることが重要です。テレワークや時間単位で取得できる休暇制度に加え、フレックスタイム制や時短勤務など、多様な働き方の選択肢を用意することで、状況に応じて調整しながら働くことが可能になります。

特に、不妊治療や妊娠・出産、育児に伴う通院は、予定通りにいかないことも少なくありません。働きながら無理なく通院や休養ができる仕組みを整えることが、心身の安定と継続就業の支えになります。

職場運用と評価制度のポイント

未就学児を子育て中の社員にとって避けられないのが、いわゆる「保育園の洗礼」です。保育園に通い始めた子どもは感染症にかかりやすく、短期間に何度も欠勤や早退が発生します。風邪でも一度かかると3~4日休むことも珍しくありません。

こうした状況は本人にとって大きなストレスですが、同時に業務を引き継ぐ側にも急な負担がかかります。フォローを担う社員がきちんと評価される仕組みを整えることが、不満の蓄積を防ぐポイントです。あわせて、休む側も日頃から感謝を伝えることで、「お互いさま」の文化を育てることが重要です。

 健康教育と職場理解の促進

健康課題や性差の理解を深めるための研修は、女性限定にせず、男性も参加できる形で実施することが効果的です。女性特有の健康課題に加え、男性更年期や生活習慣病なども取り上げることで、職場全体の理解が進みます。

十分な知識や共通理解がないまま配慮だけが先行すると、かえって「特別扱い」や「腫れ物に触るような対応」になり、本人にとって新たなストレスを生む可能性もあります。正しい情報を共有し、背景を理解したうえで支え合える環境づくりが重要です。

研修をきっかけに、健康について自然に話せる風土を育てていくことが、実効性のある両立支援につながります。

外部相談窓口の活用と早期対応

「まだ大丈夫」と一人で抱え込む状態が続くと、適応障害や抑うつのリスクが高まります。こうした事態を防ぐうえで、外部相談窓口(EAP)の存在は大きな安心材料となります。

特に女性特有の健康課題には、デリケートな内容が多く、プライバシーへの配慮が欠かせません。社内の上司や人事に知られる心配がない外部窓口であれば、更年期症状や月経トラブル、不妊治療などについても安心して相談することができます。

第三者の専門家によるカウンセリングは、本人の状況を客観的に整理し、必要な医療や働き方の調整へとつなぐ役割を果たします。組織の外に「安心して話せる場所」を用意することは、早期対応と離職防止につながる大切な仕組みです。

持続可能な健康経営のための組織づくり

現在、組織や企業のあり方、そして働き方は変化の途上にありますが、希望するすべての人が生き生きと働き、キャリアアップを目指せる環境を実現するためには、単に制度を整備するだけでは十分とはいえません。

前提として、本当に必要なのは、「不調を抱えながら働くこと」への相互理解がある職場です。体調の波やライフイベントは、誰にでも起こり得ます。女性特有の健康課題も、男性の健康課題も、子育ても、介護も、特別な人だけの問題ではありません。不調を隠さなくてよいこと、支える側も正当に評価されること、そして互いに感謝と配慮を持てること。そうした文化があってこそ、制度は本来の力を発揮します。

まとめ|女性の健康支援は健康経営の基盤になる

とりわけ、女性特有の健康課題は、長期的なキャリア形成に大きな影響を及ぼします。しかしこれは、女性だけの問題ではありません。男女の性差に基づく健康課題を正しく理解し、適切にサポートできる職場づくりは、組織全体の持続性に直結します。こうした取り組みは、従業員のパフォーマンス向上や離職防止につながり、結果として企業にとっても大きな価値を生み出します。
まずは、研修の実施や職場環境の見直しなど、自社でできることから一歩を踏み出してみてください。小さな行動の積み重ねが、働き続けられる組織文化を育てていきます。

人事・労務担当者のための休職・復職支援セミナー
人事・労務担当者のための休職・復職支援セミナー

(C) Japan Corporate Health Responsibility Consulting Co.,ltd All Rights Reserved.

タイトルとURLをコピーしました