第1回 「ストレスチェック50人未満事業場の義務化で何が変わる? 制度の背景とこれから」

ストレスチェック50人未満事業場の義務化で何が変わる? 制度の背景とこれから

2025年5月、ストレスチェック制度に関する法改正が成立し、従業員50人未満の事業場にも制度の義務化が進められる見通しとなりました。厚生労働省では、小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル作成ワーキンググループを設置し小規模事業場ストレスチェック実施マニュアルは2026年度4月以降に公開される予定です(参照:「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」作成ワーキンググループの設置について(厚生労働省))

これまで努力義務とされていた小規模事業場におけるストレスチェックの義務化は、企業にとって何を意味するのでしょうか。

今回は、制度の専門家であり、厚生労働省の関連委員も務める弊社代表で精神科産業医である渡辺に、背景と今後の展望について話を聞きました。

 

── 今回の法改正で、従業員50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化される方針が明確になりました。まず、どのような背景があったのでしょうか?

渡辺 背景として大きいのは、やはり小規模事業所でのメンタルヘルス課題への対策が、これまで十分には届いていなかったという点です。従業員数が少ない職場では、組織的なサポートが行き届きにくく、結果として個人が問題を抱え込んでしまうケースも多くあります。そういった現場の課題を見過ごさないようにするためにも、制度として対象を広げていこうという意図があるのだと思います。

── 制度としての意図はよくわかります。ただ、実際の現場では「どうやって進めればいいのか」という不安の声も多く聞かれます。

渡辺 確かに、50人以上の事業場と比べて体制が整っていないことが多いため、不安を感じるのは自然だと思います。中小企業では産業医がいないことも多いですからね。ただし、ストレスチェックの目的はあくまで「職場環境の改善」にあります。無理に形式的に実施するのではなく、現場にあった方法で働きやすい職場づくりの一環として捉えることが大切ですね。

 

── すべての企業にストレスチェックが義務化されることで、ネガティブに受け取られることもありそうです。どう受け止めるのがよいのでしょうか?

渡辺 たしかに義務というと、プレッシャーを感じるかもしれませんが、本来の趣旨は従業員の健康を守る仕組みを整えるという点にあります。ストレスチェック制度は、実施して終わりではなく、その後の職場環境改善にどうつなげるかがポイントです。制度はやらされるものではなく、職場を良くするためのきっかけとして活用できるはずです。

 

── ストレスチェックを意味あるものにするためには、どういった視点が求められるのでしょうか?

渡辺 一番大切なのは、安心して受検できる仕組みづくりです。たとえば、プライバシーが守られていないと感じれば、正直な回答は得られません。例えば、人事評価に影響があるのではないか?など。そうなると、ストレスチェックの結果も活用できませんよね。そのため、外部委託を活用する、結果の取り扱いに関するルールを明確にする、といった提案も挙がっています。企業側が受けやすい環境を整えていくことが、受検率や信頼性の向上につながります。

── 制度施行までには3年程度の準備期間がありますが、今のうちから取り組んでおくべきことはありますか?

渡辺 まずは制度の意義や目的を、社内全体で共有することです。なぜやるのかが理解されていないと、形だけの運用になってしまいます。また、コストや人的体制への不安を感じている企業も多いと思いますが、そのあたりも柔軟に対応できるよう、今後は簡便な仕組みや支援策も検討されています。たとえば、スマートフォンを活用した受検方法や、クラウド型の運用支援ツールなどが考えられるでしょう。

中小企業にとって導入のハードルが高いという声には、制度としても配慮していく必要があると感じています。ですから、今は備える時期と考えて、制度の趣旨を理解し、少しずつ準備を進めていくことが重要だと思います。

 

制度義務化に対する戸惑いや不安の声がある一方で、ストレスチェックは職場環境の改善や従業員の健康保持といった本来の目的に立ち返ることで、企業にとっても大きな意味を持つ制度となり得ます。安心して取り組める体制を整えながら、今後の制度施行に備えていくことが重要です。

第2回では、「ストレスチェックの本当の意義とは?」をテーマにお届けします。

  • ストレスチェック制度と職場環境改善について
  • どうすればストレスチェックは形骸化することなく、職場環境改善のきっかけになるのか?
  • 従業員の協力を得るために必要なこととは?

産業医の現場ならではの視点を交えて、ストレスチェック制度を活かすためのヒントをお伝えします。

参考図書

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