春になると、くしゃみや鼻水、目のかゆみなどの症状に悩まされる人が増えます。
花粉症は日本では非常に身近な疾患で、調査によれば日本人の4人に1人がスギやヒノキなどの植物の花粉が原因で生じるアレルギー症状抱えているとも言われています。一見すると個人の体調問題のように思われがちですが、近年は企業の生産性に影響するプレゼンティーイズムの要因としても注目されています。
本記事では、人事・総務担当者の方に向けて、花粉症によるプレゼンティーイズムの実態と、企業として取れる具体的な対策を解説します。
参考:厚生労働省補助事業<アレルギー情報センター事業>アレルギーの手引き2026
プレゼンティーイズムとは何か
プレゼンティーイズムとは、「出勤しているにもかかわらず、体調不良や健康上の問題により本来の能力を発揮できていない状態」を指します。欠勤(アブセンティーイズム)と対比される概念で、近年の健康経営において特に重視されています。
従業員が「休めない」「休むと迷惑をかける」という意識から、体調不良のまま出勤するケースは少なくありません。しかし実際には、体調不良の状態での出勤は、生産性を大幅に低下させるだけでなく、ミスや事故のリスクも高めます。
花粉症がもたらすプレゼンティーイズムの実態
花粉症は日本人の約4割が罹患していると言われており、もはや「国民病」とも呼ばれています。毎年2〜4月の花粉シーズンになると、多くの職場でパフォーマンスへの影響が生じています。
花粉症は、出勤しているにもかかわらず生産性が著しく低下する「プレゼンティーイズム(presenteeism)」の主要な要因のひとつです。くしゃみ・鼻水・目のかゆみが集中力を奪い、判断力や作業効率を大幅に下げることが研究によって明らかになっています。
研究では、アレルギー性鼻炎による生産性低下は、欠勤よりもプレゼンティーイズムの影響が大きいことが指摘されています。
では、実際に企業はどのような対策を講じているのでしょうか。経済産業省が実施した健康経営度調査(2023年度・回答3,523社)では、企業の花粉症対策の実態が明らかになっています。
企業における花粉症への具体的な支援(経済産業省 令和5年度健康経営度調査 n=3,523社)
| 空気清浄機の設置など職場での花粉症対策を実施している | 56.5% |
| 対症療法(服薬など)に対する補助・支援をしている | 24.0% |
| 花粉症に関するセミナー等教育を実施している | 20.2% |
| 花粉症に合わせた柔軟な働き方を認めている(在宅勤務推奨等) | 19.6% |
| 根治療法(免疫療法など)に対する補助・支援をしている | 5.0% |
| 特に行っていない | 24.8% |
約4社に1社(24.8%)がいまだ「特に行っていない」と回答しています。職場での花粉症対策は、健康経営における明確な差別化ポイントです。多くのビジネスパーソンが花粉症に悩まされる中で、企業がこの問題に正面から向き合う姿勢は、従業員への配慮や理解を示すメッセージにもなり、エンゲージメント向上にも寄与すると考えられるでしょう。
花粉症が引き起こすプレゼンティーイズム
特に花粉症が引き起こすプレゼンティーイズムとして報告されているのは以下のような症状です。これらの症状は欠勤には至らないものの、仕事の効率や質を低下させる「プレゼンティーイズム」の典型例といえます。本人は出勤していても、本来発揮できるパフォーマンスが十分に出せない状態が続いてしまうのです。
- 集中力・注意力の低下(くしゃみ、鼻づまりによる呼吸困難)
- 眠気・だるさ(睡眠の質の低下、抗ヒスタミン薬の副作用)
- コミュニケーション能力の低下(声が出にくい、対面でのやりとりが困難)
- 判断力の低下(薬の副作用による認知機能への影響)
- モチベーションの低下(慢性的な不快感・疲労感)
花粉症はメンタル不調とも関係する
花粉症の影響は、鼻や目といった身体症状にとどまりません。近年の研究では、アレルギー疾患とメンタルヘルスには密接な関連があることが報告されています。花粉症を「単なる身体の不調」として片付けてしまうと、心理面へのダメージを見落とすことになります。
-
抑うつ気分
-
イライラ
-
集中力低下
といった心理的な変化が起きやすいことが報告されています。
その背景には、いくつかの要因が考えられます。
睡眠の質の低下
鼻づまりは気道を狭め、睡眠中の酸素供給を妨げます。「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」「朝起きても疲れが取れない」といった訴えは花粉症患者に多く、慢性的な睡眠不足がそのまま日中の気分・判断力・対人関係に影響します。
持続的な不快症状
花粉症では、くしゃみや鼻水、目のかゆみといった不快症状が長く続きます。こうした状態が続くことで、慢性的なストレス状態に陥りやすくなります。些細なことで苛立ちやすくなることもあります。
人事・総務が取るべき具体的なアクション
花粉症によるプレゼンティーイズムへの対策は、個人任せにするのではなく、組織としてサポートする仕組みを整えることが重要です。先ほどの経産省調査でも、先進企業の「その他の取組」として以下のような事例が報告されています。
先進企業の花粉症対策事例(経済産業省調査 自由回答より)
| 産業保健スタッフによる社内SNS・社内報での花粉症対策情報の発信 | 情報啓発 |
| 花粉アレルギー検査への補助 | 医療費支援 |
| 社内診療所に耳鼻咽喉科や内科を設置し、移動時間短縮で受診できる環境整備 | 受診促進 |
| 花粉飛散量の情報提供(社内共有) | 環境情報 |
これらの事例を参考に、貴社でも取り組める施策を検討してみてください。
- 空気清浄機・高性能エアフィルターの設置
- 換気タイミングを花粉飛散の少ない時間帯に変更
- 入口での花粉対策グッズの整備
- 花粉シーズン中のテレワーク推奨・拡大
- フレックスタイム制の活用
- 体調不良時の早退・有給取得促進
- 早期治療・受診を促す社内周知(1〜2月が理想)
- 舌下免疫療法などの情報提供
- 花粉情報サービスの社内共有
- 産業医・保健師との連携による相談体制
- EAPカウンセリングでの生活習慣サポート
- 高リスク従業員へのプロアクティブな支援
管理職が知っておくべきこと
プレゼンティーイズム対策において、直属の管理職の役割は非常に重要です。人事・総務部門は、以下のような点を管理職向けに研修・周知することをお勧めします。
- 見た目で判断しない:花粉症の症状は外見からわかりにくい場合がある
- 気づいて声をかける:体調不良そうなメンバーへの一声が早期対処につながる
- コンディションに合わせた働き方を推奨する:テレワークや時差出勤などの選択肢を積極的に認める
- セルフケアの重要性を周知する:早めの受診や適切な服薬、睡眠の確保など、従業員自身が症状を管理するセルフケアの重要性を伝える
花粉症は我慢して働き続けてしまう人も多く、結果としてプレゼンティーイズムにつながりやすい症状です。
管理職が「無理をしないこと」「早めに対処すること」を職場で伝えることは、従業員がセルフケアを実践しやすい環境づくりにもつながります。
職場における花粉症対策
非常に多くの人が悩まされている花粉症を個人の問題として放置することは、企業にとっても損失です。出勤しているのにパフォーマンスが発揮できない状態=プレゼンティーイズムは、チーム全体の生産性にも影響します。
花粉症の厄介なところは、症状の重さに個人差が大きく、周囲から「たいしたことない」と見られやすい点にあります。重症の人は慢性的に症状に悩まされ、薬の副作用で頭がぼんやりしたまま出勤しています。それでも「花粉症で休むのは申し訳ない」と無理をしているケースが少なくありません。
職場としてできることは、「見えない辛さ」を組織として可視化し、柔軟なサポートの仕組みをつくることです。


