ハラスメント 相談窓口の効果はある?取り組むべきハラスメント対策と派生効果

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厚生労働省が発表した令和5年度の職場のハラスメントに関する実態調査によると、過去3年間に相談があったと回答した企業割合は、パワハラが64.2%、セクハラが39.5%となっており、令和2年度に比べていずれのハラスメントも増加しています。また、過去3年間に相談があった事例のうち、企業がハラスメントに該当すると判断した事例の有無については、パワハラは73.0%、セクハラは80.9%となっており、こちらも令和2年度と比べてほぼ横ばいから増加傾向にあります。

近年、職場におけるハラスメント問題は、多くの企業が対策に迫られています。ハラスメントは、被害者の心身に大きな傷跡を残すだけでなく、企業の生産性やイメージにも悪影響を及ぼします。

ハラスメント対策として重要な取り組みの一つが、相談窓口の設置です。2022年4月1日に完全に施行された「パワハラ防止法」では、中小企業を含むすべての企業に対して、職場でのハラスメント防止に向けた方針を明確にし、相談窓口を設けることが求められています。また、ハラスメントに関する労使間のトラブルを迅速に解決する体制を整えることも義務付けられています。

この記事では、ハラスメント窓口の効果と、企業が取り組むべきハラスメント対策、その派生効果について詳しく解説します。

職場のパワーハラスメントとは

厚生労働省が定義づけている「職場のパワーハラスメント」とは以下の通りです。

職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

パワーハラスメントの定義 – あかるい職場応援団 – 厚生労働省

パワハラの定義が明確になったことは、ハラスメント防止に繋がる一方で、定義の周知不足や具体例の理解不足は、意図しないハラスメント行為を招く可能性があります。

もし、ハラスメントでつらい思いをしている従業員がいる場合、相談窓口は精神的な支えとなるだけでなく、問題解決に向けた具体的なサポートを提供する存在になり得ます。

ハラスメント対策としての相談窓口の効果を見ていきましょう。

 ハラスメント相談窓口の効果

ハラスメント相談窓口の設置には、ハラスメントに悩む従業員が相談できる場を提供することの他に、以下のような効果を期待できます。

相談者の心理的負担軽減

ハラスメント被害者は、誰かに相談することでつらい気持ちや不安を吐き出すことができ、心理的に楽になることがあります。 また、相談員との対話を通して、気持ちを整理したり、今後の見通しを持つことができ、精神的な安定に繋がります。

問題の早期解決

相談内容に基づいて、ハラスメントの状況や背景を企業が客観的に把握することができます。必要に応じて、ハラスメント行為者への対策や、人事部との連携など、問題解決に向けたサポートをすることができます。

潜在的な問題の顕在化、再発防止

相談窓口の設置により、従業員がハラスメントに関する悩みを相談しやすくなります。これにより、これまで表面化していなかった潜在的なハラスメント事案が顕在化する可能性が高まります。また、相談窓口には、ハラスメントの具体的な事例だけでなく、背景にある人間関係や職場環境に関する情報も集まります。これらの情報は、潜在的な問題の把握に役立ちます。

窓口に寄せられた事例は、企業にとって貴重な情報源となります。これらの事例を分析することで、ハラスメント発生の原因やパターンを把握し、効果的な再発防止策を講じることができます。分析結果に基づいて、ハラスメント防止のための研修内容や社内規定の見直しにもつながります。

企業が取り組むべきハラスメント対策

企業は、ハラスメント相談窓口の設置に加えて、以下の対策を講じる必要があります。

相談窓口の設置と周知

  • 社内相談窓口、外部相談窓口のメリット・デメリットを比較検討し、自社に合った相談窓口を設置しましょう。
  • 相談窓口の場所、連絡先、相談対応時間などを従業員に周知し、相談しやすい雰囲気づくりを行いましょう。
  • 相談者のプライバシー保護を徹底し、安心して相談できる環境を整えましょう。

 

ハラスメント防止策の明確化と周知

  • ハラスメントの定義、種類、具体例などを明確化し、就業規則や社内規定に明記しましょう。
  • ハラスメントに関する方針を定め、従業員に周知・啓発しましょう。
  • 管理職向けの研修を実施し、ハラスメントに対する理解を深めましょう。

相談への適切な対応

  • 相談があった場合は、事実確認を徹底し、関係者へのヒアリングを行いましょう。
  • 加害者には適切な処分を行い、被害者にはメンタルケアなどのサポートを行いましょう。
  • 再発防止策を策定し、従業員に周知しましょう。

 

 

ハラスメント対策の課題と対応策

ハラスメント対策を進める上では、以下の課題があげられます。

ハラスメントの取組を進める上での課題については、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」(59.6%)が最も高く、次いで「管理職の意識が低い/理解不足」と「発生状況を把握することが困難」が同率(23.8%)であり、令和2年度と比べても課題状況は概ね同じである。

職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要(令和5年度厚生労働省委託事業)

ハラスメントかどうかの判断の難しさ

ハラスメントの定義は、法律やガイドラインで示されていますが、抽象的な表現も多く、個々の状況に当てはめて判断することが難しい場合があります。
ハラスメントの判断には、当事者の感じ方や状況、関係性などが大きく影響するため、客観的な基準だけでは判断が難しく、主観的な要素を考慮する必要があるため判断が複雑になります。
また、ハラスメントの捉え方は、時代や社会基準の変化によって変化していく可能性があります。そのため、過去の基準や判例が、現在の状況に必ずしも当てはまるとは限りません。

管理職の意識不足、理解不足

管理職がハラスメントに対する理解不足や無関心な場合、対策が進みません。
まず、ハラスメントの定義や種類、具体的な言動例を理解していない、あるいは問題を軽視する傾向があります。これは、研修不足や意識の低さに起因し、適切な対応を遅らせ、被害の拡大を招く可能性があります。

また、ハラスメント発生時に隠蔽しようとしたり、被害者の訴えを軽視するケースも見られます。これは、組織的な問題として、企業の責任逃れや被害者への二次被害につながる深刻な事態です。さらに、被害者への配慮不足や加害者への甘い対応も問題です。被害者の心情を理解せず不適切な言動をとったり、加害者への処分が甘いと、ハラスメントの再発を招き、職場環境の悪化を招きます。

発生状況の把握困難

ハラスメントは、発生状況を把握することが難しい場合があります。目撃者や物的証拠が少ない場合、事実確認が困難になります。また、被害者が「相談しても何も変わらない」「報復されるかもしれない」といった不信感を持っている場合があります。

課題への対応策

課題を解決するために以下のような取り組みをしましょう。

ハラスメントの定義、具体例を明確化し、判断基準を設ける
管理職向けの研修を定期的に実施し、ハラスメントに対する意識を高める
匿名アンケートや相談窓口の設置など、従業員が安心して声を上げられる環境を整える

ハラスメント対策の派生効果

相談窓口を始めとしたハラスメント予防・解決のための取組を進めたことによる、予防・解決以外の効果として、以下の派生効果も期待できます。

職場コミュニケーションの活性化、風通しの向上

ハラスメント対策が徹底された職場では、従業員は安心して自分の意見や考えを表明できるようになります。これは、心理的安全性を高め、自由な発言や議論を促進する効果があります。

以前は、上司や同僚からのハラスメントを恐れて、意見を言えなかったり、問題を報告できなかったりする状況があったかもしれません。しかし、ハラスメント対策によってそのような不安が解消されれば、従業員は臆することなく、自分の考えを伝えることができます。

企業への信頼感向上

ハラスメント対策をしっかりと行うことは、会社が従業員の安全と健康を重視している、安心して働ける環境を提供することに真剣に取り組んでいると認識されます。

管理職の意識改革による職場環境改善

管理職の意識改革は、ハラスメントの防止、早期発見・対応、部下への適切な指導、相談しやすい環境づくり、公正な評価など、様々な側面から職場環境の改善に貢献することができます。

従業員の仕事への意欲が高まる

ハラスメントのない職場は、従業員にとって心理的に安全な場所となり、安心して仕事に集中できる環境が整うことで従業員のモチベーション向上に繋がります。また、ハラスメント対策が徹底された職場では、個人の能力や成果が公正に評価されることが期待されます。公正な評価と処遇は、従業員のモチベーションを高め、仕事への意欲に繋がります。

ハラスメント抑止効果

研修や相談窓口などのハラスメント対策の存在は、ハラスメントの加害者になりうる従業員にとって抑止力となり、ハラスメントの発生を未然に防ぐ効果も期待できます。

まとめ

ハラスメント対策は、従業員が安心して働くために不可欠な取り組みです。その中でもハラスメント相談窓口の設置は、問題の早期解決や再発防止に繋がる重要な柱の一つであり欠かせません。

ハラスメント対策の効果を最大限に引き出すためには、ハラスメント防止策の明確化、従業員への啓発活動、窓口の環境整備などの対策を総合的に実施することが重要になります。

またハラスメント対策の派生効果は、企業にとって費用・労力を上回る価値を生み出すのではないでしょうか?積極的に対策に取り組むことで、より良い職場環境を実現し、企業の発展に繋げていきましょう。

(参照 職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要(令和5年度厚生労働省委託事業)https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001259093.pdf

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記事監修

精神科医専門医・日本医師会認定産業医。
川崎医科大学卒、1988年渡辺クリニック(2018年改称)を開設。
その後、厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の在り方検討委員会」委員、内閣府「自殺対策官民連携協働会議」委員、公益財団法人日本精神神経科診療所協会会長など歴任。
現在、医療法人メディカルメンタルケア横山・渡辺クリニック名誉院長、大阪大学医学部神経科精神科非常勤講師、一般社団法人日本精神科産業医協会共同代表理事ほか。
ストレスチェック法制化においても、厚生労働省「ストレスチェック制度に関する検討会」「ストレスチェック項目に関する専門検討会」「ストレスチェック制度マニュアル作成委員会」などの委員を務める。

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