傾聴とは、相手の話したいことに対して深く丁寧に耳を傾け相手に肯定的な関心を寄せ、内容の真意をはっきりさせながら共感的に理解を示すことをいいます。
傾聴は、カウンセリングやコーチングの他、上司による部下への支援を目的としたコミュニケーションなどで広く活用されています。
今回は傾聴の内容の他、練習方法、ビジネスにおける使い方等について具体的な例文を交えながらお伝えします。
傾聴とは?
「きく」と一言に言っても様々あります。
●「聞く」:音が自然に耳に入ってくるような状態
●「訊く」:自分の関心ごとを相手に質問して引き出すこと
●「聴く」:相手の関心ごとに注意を払いながらきくこと
傾聴は、話を耳に入れる「聞く」ことや、こちらが聞きたいことを「聞く」こととは異なります。
相手が言いたいこと、伝えたいこと、願っていることを、自分の価値観を外して、相手の話や気持ちをありのままに受け入れ聴くことが傾聴です。
傾聴の目的
傾聴の目的は、相手の気持ちや考えをありのままに受け入れ、共感し、相手の伝えたいことを聴くことで、相手が自分自身の考えを整理し、さらに納得のいく結論や判断に到達するよう支援することです。
「耳」と「目」と「心」を使って傾聴する
傾聴の基本は、結論を急いだり、聞き手が話の内容をまとめたりせず、しっかりと「耳」を傾け、表情や仕草、さりげない動作を「目」で確認し、相手の言葉の背後にある真意や感情に「心」を配って共感することです。
そうすることで信頼関係を築くことができ、相手が自分自身の考えを整理し、納得のいく結論へ導くことに繋がります。
それでは傾聴はどのように進められるのでしょうか?具体的な例を交えながら見ていきます。
傾聴のやり方
ロジャーズの3原則
傾聴は、アメリカの心理学者でカウンセリングの大家であるカール・ロジャーズによって提唱されました。
ロジャーズは傾聴のことを「積極的傾聴(Active Listening)」と言い、自らが行ったカウンセリング事例を分析し、有効であったカウンセリングに共通していた聴く側の3要素が重要であるといいます。
3要素とは次の通りです。
1.共感的理解(empathy, empathic understanding)
相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする。
2.無条件の肯定的関心 (unconditional positive regard)
相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く。相手の話を否定せず、なぜそのように考えるようになったのか、その背景に肯定的な関心を持って聴く。そのことによって、話し手は安心して話ができる。
3.自己一致(congruence)
聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認する。分からないことをそのままにしておくことは、自己一致に反する。
引用:「メンタルヘルス教育研修担当者養成研修テキスト」(厚生労働省・中央労働災害防止協会)
傾聴のポイント
真実性|正直で嘘がない「〜のふりをしない」
もし相手の話の内容にわからないところがあれば、そのままにせず聴きなおして内容を確かめ、相手に対しても自分に対しても真摯な態度で聴く
・分かったふり、共感しているふり
・怒らせないために・・・という
・喜ばせるために・・・という
・良い人と思われようとして・・・という
受容|ありのままに受け入れる
無条件に、人として敬意をはらい、尊重する
・良いところがあるから認める
・理由があるから認める
・素晴らしい功績があるから認める など、条件付きで承認する
共感的理解|共感的に理解していこうとする
例えば、相手の話の内容が反社会的な内容であったり、倫理的な観点から反したような場合であっても、批判したり否定することなく、何故そのようなことを考えるようになったのか関心を持って聴く。
・「私が若かったころは・・・だった」
・「普通はこんなことしないですよね?」
・「それって普通にあるし、みんな我慢しているんだから、いちいち気にするのはどうかと思う」
傾聴の具体例
課長からひどいことを言われた、もう仕事辞めたい・・・
うんうん。課長からひどいことを言われたんだ。
【受け止めと繰り返し】
そうなんだよ!良かれと思って言ったのに、ひどいよ!
前もそういうことがあって・・・
良かれと思って言ったことで、ひどいこと言われるなんて。
苦しくて辛いよね。
どんないきさつだったのか、少し具体的に教えてくれる?
【相手の感情を明確にし、理解を深めるために質問をする】
うん・・・
(相手が沈黙しても、無理に答えを引き出そうと質問はせず、
相手の話を聴きたいという姿勢を表情等で示す)
上記の場合は、具体的に解決方法が見つからないかもしれません。しかし、話をすることで悩んだり落ち込んだりしている人の気持ちが整理される場合があります。そのためにも傾聴する姿勢はとても大切です。
傾聴の練習方法
傾聴において大切なのは、「相手が本当に伝えたいことは何か」を考えながら聴くことです。上手に話を聴くポイントを意識しながら、周りの人との会話において練習をしてみましょう。
上手に聴く方法|相手がうまく話せるように導く
単純に受け止める
否定や肯定は一切含まず、単純にそのまま受け止める
上手な相槌:「うん、うん」「なるほど」(表情や態度でも話を聞いている姿勢を見せる)
話を促す
話を促すような問いを投げかける
「と言いますと?」「それでどうなりました?」「そこをもう少し話してください」
繰り返し
賛成、反対、解釈等一切しないで相手の言ったことを繰り返します。繰り返す言葉によって、話の展開が変わり、さらに話を掘り下げることにも繋がります。
「もう辞めたいです」⇒「もう辞めたいのですね」→「そうなんです。辞めたら課長の顔を見なくてすみますし」
感情の明確化
相手の言葉にこもっている感情や情緒的な調子から気持ちの表出を促します
●「もう辞めたいです」⇒「苦しくて苦しくてたまらないみたいですね」
→「そうなんです。とてもつらくて・・・」
●「もう辞めたい!!」⇒「怒りを感じられているのですね」
→「そうですよ!腹が立ってもう我慢できません!」
上手に聴く方法|相手が本当に伝えたいことは何かを考えながら聴く
分かったふりをせず、本当に分かるまで聴くことが大切です。
分からないことは尋ね、尋ねてもわからない場合は、分からないということを素直に伝えて掘り下げて尋ねます。
「なるほど、・・・というところまでは分かったのですが、・・・のところをもう少し説明していただけますか?」
傾聴のビジネスにおける使い方
傾聴はビジネスをよりよく進めるためにも活用でき、特に顧客や職場の人間関係の構築において有効といえます。
顧客との信頼関係の構築
傾聴は相手が何を求めているのか、その真意を理解するものであるため、取引先の顧客のニーズを的確に把握することに役立ちます。
真摯に相手の話に耳を傾け理解する姿勢は、顧客と信頼関係を築くことにも繋がります。
職場の人間関係の円滑化
上司と部下、同僚との関係において、傾聴を活用することでコミュニケーションの円滑かや相互理解に繋がり、お互いの信頼関係がより強固となります。
職場において人間関係がより良いものとなれば、それぞれ生き生きと積極的に働くことができる職場となります。
また上司が傾聴法を学び聴き上手になれば、部下は相談しやすくなり、必要な支援を行うことで早期対応が可能となり、メンタルヘルス不調の発生を予防することにも繋がります。
おわりに
傾聴を学び身につけることは、様々な場面での人間関係の円滑化に繋がります。日常的に取り入れ、相互理解を深めることで、今まで気づかなかったことも見えてくるかもしれません。
(参照)
「メンタルヘルス教育研修担当者養成研修テキスト」(厚生労働省・中央労働災害防止協会)
「こころの耳 積極的傾聴法とは」(厚生労働省)
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