「次の動画で最後にしよう」と思っていたのに、気づけば30分、1時間とショート動画を見続けてしまっていた。そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。
TikTokなどのショート動画は、数十秒で気軽に楽しめることから、通勤中や休憩時間などのちょっとした隙間時間の娯楽として広く利用されています。
ショート動画というと若い世代の文化というイメージを持つ人も少なくありません。しかし近年では、利用者の年齢層は大きく広がっています。
博報堂DYホールディングスと博報堂の共同研究プロジェクト「コンテンツビジネスラボ」が実施した「コンテンツファン消費行動調査2025」(全国15〜69歳約1万人対象)によれば、TikTokの利用者はすでに3人に1人に達し、ユーザーの平均年齢は39.2歳にまで上昇しています。若年層だけでなく、中年層を含む幅広い世代に広がっていることが明らかになっています。
このようにショート動画は、いまや特定の世代だけのものではなく、多くの人にとって日常的な娯楽の一つになりつつあります。その一方で、「気づいたら長時間見続けてしまう」「やめようと思っても次の動画を見てしまう」といった声もよく聞かれるようになりました。こうした状態は、近年ショート動画依存と呼ばれることもあります。
もちろん、ショート動画依存症という名称は現時点で医学的な正式診断名ではありません。しかし研究の分野では、短編動画の利用と認知機能や意思決定、メンタルヘルスとの関連についての研究が少しずつ蓄積されています。
今回は、ショート動画がやめにくい理由や、脳や行動への影響について、研究結果をもとに解説します。
また精神科医の視点から、実際の診療の現場で見られる変化や、スマートフォン・ショート動画との付き合い方についてもコメントを交えながら、わかりやすく整理していきます。
ショート動画依存症とは?
ショート動画依存症という言葉は広く使われるようになっていますが、現時点では医学的な正式診断名ではありません。
ただし、依存そのものは、医学や心理学の分野で長く研究されてきた概念です。アルコール依存症やギャンブル依存症などの研究では、やめたいと思っていても行動をコントロールできなくなる状態が特徴として指摘されています。
一般的に依存状態には、次のような共通する特徴が見られるとされています。
・行動を自分でコントロールできなくなる
・利用時間や頻度が徐々に増えていく
・生活や仕事、学業に影響が出る
・やめようとしてもやめられない
ショート動画についても、正式な病名ではないものの、こうした特徴と似た状態が見られる場合があり、近年はショート動画の利用と依存傾向についての研究も増えてきています。
依存症とは
依存症とは、自分の意思ではコントロールできなくなり、やめたいと思っているのにやめられない状態を指します。
たとえばアルコール依存症では、「今日は飲まない」と決めても飲んでしまい、飲酒量が増え、生活に影響が出ても止められなくなります。
ギャンブル依存症でも、「次こそ最後」と思いながら続けてしまい、金銭や人間関係に問題が生じてもやめられなくなります。
これらに共通しているのは、
-
行動を自分でコントロールできなくなる
-
徐々に頻度や時間が増えていく
-
生活に支障が出る
-
やらないと落ち着かない
といった特徴です。
ショート動画の視聴も、使い方によってはこうした状態に近づく可能性があります。
正式な病名ではありませんが、「やめたいのにやめられない」「気づけば時間を大きく奪われている」といった状態は、依存と共通する特徴を持つ行動と考えられることがあります。

ショート動画そのものが必ずしも問題になるわけではありませんが、睡眠時間が削られたり、生活リズムや集中力に影響が出ている場合には、一度スマートフォンの使い方を見直してみることも大切です。
なぜショート動画はやめられないのか?
ショート動画がやめにくい理由は、意志の強さや性格の問題だけで説明できるものではありません。
そこには、脳の仕組みとプラットフォームの設計が関係していると考えられています。
短時間で強い刺激を与える構造と、それを最適化するアルゴリズムが組み合わさることで、長時間視聴しやすい環境が作られているのです。
無限スクロールという終わりのない設計
ショート動画の大きな特徴は、終わりがないことです。
一つの動画が終わると、ほとんど間を置かずに次の動画が再生されます。自分で再生ボタンを押す必要もなく、自然に次へと進んでいきます。
人は、本やテレビ番組のように明確な区切りがあると止まりやすい傾向があります。反対に、区切りがないものは中断のきっかけを失いやすくなります。動画配信サービスの自動再生機能でも同様の現象が見られますが、ショート動画はそれを数十秒単位で繰り返している構造です。
小さな動画が連続することで、気づかないうちに時間が積み重なっていきます。
ドーパミンとランダム報酬の仕組み
面白い動画を見ると、脳ではドーパミンという神経伝達物質が関わる報酬回路が働きます。
ドーパミンは単なる快感物質というより、
「また同じ行動をしたい」という動機づけや学習に関係する物質とされています。
さらに重要なのが、次にどんな動画が表示されるかわからないという点です。
心理学では、予測できないタイミングで報酬が得られる仕組み(変動報酬)は、行動が継続しやすいことが知られています。
ショート動画でも、
-
ときどき強く面白い動画が出てくる
-
次はもっと面白い動画が出るかもしれない
という期待が生まれやすく、視聴が続きやすくなると考えられています。
アルゴリズムとパーソナライズ
ショート動画アプリは、
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視聴時間
-
スキップの速さ
-
いいねやコメント
などの行動データをもとに、ユーザーの好みを学習します。
その結果、使えば使うほど、自分の興味に合った動画が表示されやすくなる仕組みになっています。
このように、自分の関心に近い情報が優先的に表示される現象は、文脈によってはフィルターバブルと呼ばれることもあります。
刺激が自分の好みに最適化されるほど、退屈を感じにくくなり、離れにくくなる可能性があります。
これは個人の意志の弱さというより、利用者の関心を引き続けるよう設計された仕組みが強力であることの表れとも言えるでしょう。

ショート動画は便利で楽しい娯楽ですが、強い刺激が連続する構造のため、長時間視聴しやすい特徴があります。
その仕組みを理解したうえで、意識的に休憩をとることや、デジタル機器と距離を置く時間をつくることが、健康的な付き合い方につながります。
ショート動画は脳を溶かす?
ショート動画について検索すると、「脳が溶ける」という言葉を見かけることがあります。
これは「Brain rot(ブレインロット)」と呼ばれるネットスラングで、直訳すると「脳が腐る」という意味です。医学的に脳が物理的に溶けるということはありません。
この言葉は、SNSや動画サイトの刺激的で短いコンテンツを長時間見続けることで、
-
集中力が落ちる
-
頭がぼんやりする
-
思考が浅くなる感覚がある
といった状態を表す比喩として使われています。
2024年にはオックスフォード大学出版局が「Word of the Year」に選出し、現代社会を象徴する言葉として注目を集めました。
では実際に、ショート動画は脳の働きにどのような影響を与えるのでしょうか。まず指摘されているのが、注意力の低下です。
注意力が下がる可能性
近年の研究では、ショート動画の利用が多い人ほど、
・注意力
・集中力
・抑制力(やめる力)
が低い傾向との関連が報告されています。
たとえば、オーストラリアのグリフィス大学の研究チームが発表した大規模メタ分析では、世界71件、約9万8,000人のデータを統合し、短編動画の利用と認知機能の関連を検討しました。その結果、利用頻度が高い人ほど注意力や自己制御力が低い傾向が確認されています。
なぜそのようなことが起きるのでしょうか。
ショート動画は数秒ごとに強い刺激が入ります。高速でテンポよく切り替わる映像や音に慣れると、ゆっくり進む作業や長文を読むことが退屈に感じやすくなります。
高速刺激に適応した脳が、静かな環境に物足りなさを感じてしまう可能性があるのです。
判断力との関連が指摘されている
ショート動画を長時間見続けることは、判断力に影響する可能性があると指摘する研究もあります。心理学の研究では、ショート動画への依存傾向が高い人ほど、意思決定の際に「損を避けようとする傾向(損失回避)」が弱くなる関連が報告されています。
損失回避とは、人が大きな損を避けようとして慎重に判断する心理的な働きのことです。この働きが弱くなると、リスクを十分に考えずに行動したり、短期的な楽しさや刺激を優先した選択をしやすくなる可能性があります。
ただし、これらの研究は主に関連(を示したものであり、ショート動画の利用が直接判断力を低下させると断定するものではありません。
一方で、ショート動画は数秒ごとに新しい刺激が続くため、深く考える前に次の情報へ注意が移りやすく、思考のスタイルに影響する可能性があるとも指摘されています。
ショート動画を見てると頭がぼーっとする理由
ショート動画を見続けると、頭がぼーっとするように感じる人も少なくありません。これは、短時間で刺激的な映像や情報が次々と流れ込むことにより、脳が常に新しい刺激を処理し続ける状態になるためと考えられています。
ショート動画は数秒ごとに内容が切り替わるため、注意を切り替える作業が繰り返され、脳に負荷がかかりやすくなります。また、面白い場面だけが連続する構成は、脳の報酬系を刺激しやすく、次の動画へと注意を引き続ける仕組みになっています。
このような刺激の連続により、思考や集中を担う脳の働きが一時的に低下し、情報処理の疲れがたまることで「頭がぼんやりする」「何も考えられない」といった感覚につながることがあります。
ショート動画の見すぎを防ぐには?今日からできる対処法
ショート動画は数十秒で次々と新しい動画が表示されるため、気づかないうちに長時間見続けてしまうことがあります。「気づいたら何時間も見ていた」「やめようと思っても次の動画を見てしまう」と感じた場合は、スマートフォンとの付き合い方を少し見直してみることが大切です。完全にやめる必要はありませんが、使い方を意識的にコントロールすることで、視聴時間を減らしやすくなります。
スマホの使用状況を確認する
まずは、自分がどのくらいスマートフォンを使っているのかを把握しましょう。スマートフォンのスクリーンタイム機能を使えば、1日の使用時間やアプリごとの利用状況を簡単に確認できます。実際のデータを見ることで、ショート動画を思った以上に長時間見ていることに気づく人も少なくありません。利用状況を客観的に知ることは、習慣を見直す第一歩になります。
視聴時間の目安を決める
ショート動画を完全にやめるのが難しい場合は、利用時間の目安を決めておく方法も有効です。例えば「夜は見ない」「1日〇分まで」といったルールを設定しておくと、無意識に見続けてしまうことを防ぎやすくなります。アプリの利用時間制限機能を使えば、自動的に利用時間を管理することもできます。
通知を減らして誘惑を減らす
動画アプリやSNSの通知は、スマートフォンを開くきっかけになりやすいものです。通知が届くたびに確認していると、そこから動画視聴が始まり長時間見てしまうこともあります。不要な通知をオフにすることで、スマートフォンを開く回数を減らすことができます。
ショート動画は身近な娯楽ですが、長時間の視聴が習慣になると生活リズムや集中力に影響することもあります。無理にやめるのではなく、自分の生活に合った形で利用時間を調整していくことが大切です。
デジタル・デトックス(DD)
ショート動画やSNSなどのデジタルコンテンツは、私たちの生活に欠かせないものになっています。しかしスマートフォンなどのデジタル機器からは、次々と新しい情報が届くため、私たちは知らないうちに刺激に反応し続けてしまいます。
自分では休んでいるつもりでも、脳は絶えず情報処理を行っている状態になりやすく、結果として脳の疲労がたまりやすいと指摘されています。
こうした状態をリセットする方法として近年注目されているのが、デジタル・デトックス(Digital Detox:DD)という考え方です。
デジタル・デトックスとは、スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器から一定期間意識的に距離を置くことで、脳や心身を休ませる取り組みを指します。
例えば
- スマートフォンを見ない時間をつくる
- 休日の一部をデジタル機器を使わずに過ごす
- 自然の中で過ごす時間や対面でのコミュニケーションを増やす
といった方法があります。
ここで大切なのは、デジタル機器を完全に手放すことではないという点です。
森下彰大氏の著書『戦略的暇』でも指摘されているように、デジタル社会の中で重要なのは、デジタルを排除することではなく、適度に距離を取りながら共存していくことだとされています。
ショート動画を含むデジタルコンテンツと上手に付き合うためにも、こうしたデジタル・デトックスの考え方を取り入れ、脳を休ませる時間を意識的につくることが大切です。

スマホなどのデジタル機器は、今の生活に欠かせないものです。大切なのは使用を避けようとするのではなく、適切な距離感で付き合っていくことなのかもしれません。
ショート動画依存から社員を守るために企業ができること
ショート動画は気軽に楽しめる一方で、強い刺激が次々と続く仕組みによって長時間視聴につながりやすい特徴があります。近年では、過度な視聴が集中力の低下や睡眠不足、判断力の低下などにつながる可能性も指摘されています。こうした影響は個人の問題として片付けるのではなく、職場のメンタルヘルスや生産性の観点からも考えることが大切です。企業としては、社員が健康的にデジタルと付き合える環境づくりを進めることが重要になります。
デジタル依存に関する正しい知識を共有する
まず有効なのが、デジタル依存に関する正しい知識の共有です。ショート動画はアルゴリズムによって次々と興味を引く動画が表示されるため、誰でも長時間視聴してしまう可能性があります。社員向けのメンタルヘルス研修や健康セミナーの中で、スマホやタブレットなどのデジタルデバイスの使い方や情報刺激による脳の疲労などについて理解を深める機会を設けることで、過度な利用を予防する効果が期待できます。
勤務時間中のスマートフォン利用ルールを整える
次に、勤務時間中のスマートフォン利用に関するルールを整えることも重要です。業務中に頻繁にスマートフォンを確認する習慣があると、集中力が分断され、作業効率が下がる可能性があります。休憩時間と業務時間を明確に分ける、会議中はスマートフォンを使用しないといったルールを設けることで、社員が仕事に集中しやすい環境を整えることができます。
睡眠や生活習慣への注意喚起を行う
ショート動画の視聴は夜間に長時間続くことが多く、睡眠不足につながることがあります。睡眠不足は注意力の低下やミスの増加、メンタル不調の要因にもなるため、健康経営の取り組みの一環として睡眠教育やデジタル機器の適切な使い方について情報提供を行うことも有効です。生活習慣の見直しを促すことは、社員の健康維持にもつながります。
相談しやすい環境を整える
さらに、社員が気軽に相談できる環境を整えることも大切です。集中力の低下や生活リズムの乱れなどの変化が見られる場合には、早期に相談できる窓口があることで問題の深刻化を防ぐことができます。ストレスチェックや社外相談窓口(EAP)などの仕組みを活用し、デジタル利用による疲労や生活習慣の悩みについても相談できる体制を整えておくと安心です。
禁止ではなく健康的な付き合い方を支援する
ショート動画は身近な娯楽であり、完全に排除することは現実的ではありません。そのため企業としては、社員が健康的にスマホ等のデジタルデバイスと付き合えるよう支援する姿勢が重要です。
適切な知識の共有と職場環境の整備を通じて、社員の健康とパフォーマンスを守る取り組みを進めていくことが求められます。
おわりに
ショート動画は、数十秒で気軽に楽しめる便利な娯楽であり、多くの人にとって日常の中に自然に入り込んでいるコンテンツです。一方で、無限スクロールやアルゴリズムによるおすすめ機能など、長時間視聴につながりやすい仕組みがあることも事実です。
近年の研究では、ショート動画の利用と注意力や意思決定、メンタルヘルスとの関連が指摘されています。ただし、これらは主に関連を示した研究であり、ショート動画そのものが直接的に脳機能を低下させると断定されているわけではありません。
大切なのは、ショート動画を完全に避けることではなく、自分の生活リズムや健康状態に合わせて使い方を整えていくことです。視聴時間を意識する、スマホから離れる時間をつくる、デジタル・デトックスを取り入れるなど、小さな工夫によってスマホとの付き合い方は大きく変わります。
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