低気圧で仕事にならない⋯仕事効率低下とプレゼンティーイズム|企業ができる対策とは

低気圧で仕事にならない⋯それはプレゼンティーイズムかもしれません|企業ができる対策とは 健康経営

「台風が近づくと頭痛がする」「暑さで眠れない」「日照時間が短くなると気分が落ち込む」
精神科外来や産業医面談でこうした訴えを耳にする機会が増えています。

2025年度は、猛暑・台風・寒波・大雪など、異常気象ともいえる状況が続きました。これらの気象変動は、従業員のメンタルヘルスや仕事効率に、目に見えない形で影響を与えています。

この記事では、気象変動と職場パフォーマンスの関係を「プレゼンティーイズム」という概念を軸に、精神科産業医の視点から解説します。人事・労務担当者・管理職の方に、明日から活かせる具体的な対策もご紹介します。

精神科医/認定産業医 後藤 剛

この記事でわかること

  1. 「低気圧で仕事にならない」が気のせいではない理由
  2. プレゼンティーイズムとは何か・職場への見えない影響
  3. 企業・管理職ができる3つの具体的対策
  4. 気候変動を前提にした人事戦略の考え方

「低気圧で仕事にならない」は気のせいではない

台風が近づくと頭痛がする、気圧が下がると眠れない、こうした体験を「気のせい」「体が弱いせい」と片付けてはいないでしょうか。実は、これらの症状には明確な生理学的メカニズムがあります。

ホメオスタシス(恒常性)と自律神経

私たちの身体には、体温・血圧・睡眠リズムを一定に保とうとする仕組みがあります。これをホメオスタシス(恒常性)といいます。

気温や気圧が変化しても、自律神経がバランスを保つように働いています。しかし、猛暑・寒波・急激な気圧変動が長期間続くと、この調整作業が慢性的に稼働し続けることになります。この調整には大量のエネルギーが消費されます。

産業医の現場から

「仕事を始める前から、身体はすでにエネルギーを消耗している」これが、異常気象下の職場で起きていることです。出勤してもいつもの自分とは異なるパフォーマンスになってしまうのは、個人の問題ではなく、環境ストレスへの正常な反応です

低気圧・寒暖差が引き起こす主な症状

気象の変化が自律神経に与える影響として、以下のような症状が報告されています。

  • 頭痛・片頭痛(気圧低下による内耳・血管への影響)
  • 倦怠感・睡眠障害(寒暖差による自律神経の乱れ)
  • 気分の落ち込み・意欲低下(日照時間の減少による季節性の変化)
  • 集中力の低下・判断力の鈍化
  • 感情の不安定さ(些細なことでイライラする、涙もろくなる)

これらは単なる「個人の体調管理の問題」ではなく、環境ストレスに対する身体の正常な反応です。

低気圧による気象病の男女比|男性も6割が影響を自覚

低気圧が近づくと頭痛がする、という話はよく耳にします。こうした症状は、どちらかというと女性に多いという印象を持たれている方もいるかもしれません。では、実際のところはどうなのでしょうか。

株式会社ツムラが実施した「第5回 なんとなく不調に関する実態調査」(2024年実施、全国20〜60代男女3,000人対象)によると、気象の変化が体調不良に影響すると回答した割合は次の通りです。

区分 気象の変化が体調に影響すると回答した割合
女性(全年代) 73.0%
男性(全年代) 56.0%
全体 64.5%
注目 20代女性(新入社員・若手層) 81.0%

女性のほうが影響を受けやすい傾向は見られますが、注目すべき点が2つあります。

まず、男性も半数以上(56%)が影響を自覚しているという点です。低気圧や寒暖差による気象病は女性特有の問題ではなく、性別を問わず多くの働く人に影響を及ぼす環境ストレスといえます。

もう一点が、20代女性の数値が81%と突出して高いことです。この年代は、新入社員・若手社員が多く含まれます。入社直後の4〜5月は五月病のリスクと重なり、夏の繁忙期には猛暑による自律神経への負荷も加わります。職場に慣れていない時期に、気象ストレスの影響も最も受けやすい、これは、若手の早期離職や不調の背景を考えるうえで、見落とせない視点です。

2つの「見えにくさ」に注意

男性の場合:不調を自覚していても周囲に言い出しにくい傾向があり、自己申告の数字以上に実態が広がっている可能性があります。

若手・新入社員の場合:「これが普通なのかもしれない」「まだ慣れていないだけ」と自己判断し、不調を見過ごしやすい傾向があります。入社直後ほど、周囲からの声かけが重要です。

(出典)株式会社ツムラ「第5回 なんとなく不調に関する実態調査
実施時期:2024年11月 対象:全国20〜60代男女3,000人 発表日:2025年1月15日

プレゼンティーイズムとは?職場への見えない影響

プレゼンティーイズム(Presenteeism)」。これは、従業員が出勤しているものの、健康上の問題により本来のパフォーマンスを発揮できない状態を指します。

 プレゼンティーイズムとは

出勤しながらも心身の不調により、業務効率や生産性が低下している状態。アブセンティーイズム(欠勤・休職)と対をなす概念であり、見えにくいコストとして近年企業経営でも注目されています。

気候変動とプレゼンティーイズムの関係

気候変動という外的ストレスが、従業員一人ひとりのホメオスタシス機能に負荷をかけます。その結果として、集中力・判断力・感情調節の低下が生じ、それが個人のプレゼンティーイズムとして職場に現れます。

重要なのは、プレゼンティーイズムが「怠け」や「自己管理不足」ではなく、生理学的に説明可能な現象であるという点です。気象ストレスは男女差こそあれ、個人の問題ではなく、組織全体の生産性に影響を及ぼす要因として捉える必要があります。

管理職が感じる職場の空気の変化

産業医面談で、管理職の方から次のような相談を受けることがありました。

  • 「部署の空気が重い」
  • 「会議の質が落ちている」
  • 「部下同士の衝突が増えた」

これを単なるマネジメント力の問題とするのではなく、組織全体が環境ストレス下にある可能性として捉え直すことが重要です。

企業・管理職ができる3つの対策

では、人事・労務担当者や管理職として、具体的に何ができるでしょうか。精神科産業医の立場から、3つの方策をご提案します。

① 季節を前提にした業務設計

夏・冬は自律神経への負荷が高まりやすいという前提で、業務スケジュールや繁忙期・異動時期を設計することは、合理的なリスク管理です。

具体的なアクション例

・夏季・冬季に、業務量のピークを避けるスケジュール調整を行う
・異動・着任のタイミングを、季節変動の少ない時期(春・秋)に集中させる
・台風シーズン・厳冬期に、無理な出張やタイトなスケジュールを入れない

② 「なんとなく不調」を許容する社内風土づくり

診断名がついてから対応するのでは遅い場合があります。部下のいつもと違う様子に上司が早期に気づき、声をかけることが重要です。

「体の調子が悪いわけではないけど、なんとなく本調子じゃない」という状態を申告しやすい文化が、早期対応の第一歩です。

 管理職がすぐできる一言

「最近、調子はどう?無理してない?」
「今週は特に暑かったから、疲れが出てきてもおかしくないよ」

診断名や原因を問いただすのではなく、「気にかけている」というメッセージを伝えることが重要です。

③ 柔軟な働き方の再評価

在宅勤務やフレックスタイム制度は福利厚生ではなく、生産性を守る戦略として捉え直す時期に来ています。

特に、精神疾患の休業歴がある従業員には、夏・冬の変動期に意識的な上司面談や業務配慮を行うことが、再燃予防につながる可能性があります。

人事担当者へのご提案

・気象変動の激しい時期(7〜8月、1〜2月)に、在宅勤務の利用を促進する
・フレックスタイムを活用し、通勤ラッシュや酷暑の時間帯を避けられるようにする
・過去に休職歴のある従業員には、変動期前後に定期的なフォロー面談を設定する

気候変動を折り込んだ人事戦略を

気候変動は、今後も続く前提で考える必要があります。毎年のように異常気象が更新されている現状では、「今年だけ特別だった」という認識は通用しなくなっています。

産業医として現場を見てきた経験から言えば、気候変動の影響を乗り越えている組織には共通点があります。それは、環境の変化を『想定内』として動いていることです。

重要なのは、不調が出てから動くのではなく、負荷が高まる季節が来る前に動いておくことです。業務設計の見直し、管理職へのラインケア周知、在宅勤務ルールの確認など、「備え」として今のうちに整えておける施策は少なくありません。次の変動期が来る前に、できることから一つ、動き始めてみてください。

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