リスペクト・トレーニングとは?心理的安全性を高めるポジティブな職場づくりの新しい研修

研修

「リスペクトトレーニング」という言葉を聞いたことはありますか。

動画配信サービスを行っているNetflixが発祥とされるこの研修は、単なるハラスメント対策に留まらず、社員同士が「心理的安全性」を持って意見を交わせる文化を作るものとして、今大きな注目を集めています。

従来のハラスメント研修などが「ダメなこと」を教える守りの姿勢だったのに対し、リスペクトトレーニングは「どうすればお互いを尊重し、高め合えるか」を学ぶ、極めてポジティブなアプローチが特徴です。

リスペクトトレーニングとは何か?基本の考え方をわかりやすく解説

この章では、リスペクトトレーニングの基本的な考え方や誕生の背景、そして一般的なハラスメント研修との違いを整理して解説します。
まずは「リスペクト」という言葉が示す本来の意味を理解するところから始めましょう。

Netflixが開発した理由と背景

リスペクトトレーニングは、世界的動画配信企業Netflixが開発したワークショップ型の教育プログラムです。2010年代後半、映像業界では撮影現場でのパワハラや暴言、差別的な発言などが問題視されていました。特に、監督やプロデューサーの権限が強い現場では、若手スタッフや出演者が意見を言いづらく、心理的安全性が低い環境が多かったのです。

そこでNetflixは、すべての関係者が安心して意見を交わせる環境づくりのために、「お互いを尊重する文化」を育てるトレーニングを導入しました。Netflixは制作現場でスタッフ・キャストが心理的安全性を高め、安心して働ける環境を作る意図でこのトレーニングを実施しています。

項目 内容
開発企業 Netflix(アメリカ)
目的 ハラスメント防止と心理的安全性の向上
形式 ワークショップ型(ディスカッション中心)
対象

制作現場の全スタッフ

こうした考え方は日本でも広がりつつあり、NHKがリスペクトトレーニングを導入していることからも、その重要性がうかがえます。

「リスペクト」という考え方の本質とは?

リスペクトとは、単なる「礼儀正しさ」や「丁寧な言葉遣い」ではありません。相手を対等な存在として認め、違いを受け入れる姿勢を意味します。

つまり、相手が自分と違う価値観を持っていても、「間違っている」と決めつけずに「そう考える人もいる」と受け止めることが、リスペクトの根幹です。

この考え方が根付くと、組織内で意見を交わしやすい空気が生まれ、意見の多様性が活かされるようになります。

リスペクトの3つの要素 説明
受容 相手の違いをそのまま受け入れること
理解 なぜその考えに至ったのかを理解しようとする姿勢
対話

一方的な否定ではなく、双方向のやり取りを重視する

ハラスメント研修との違い

従来のハラスメント研修は、「何をしてはいけないか」という禁止ルールを中心に進められる傾向があります。一方でリスペクトトレーニングは、「どうすればお互いを尊重し合えるか」という前向きな思考の育成を目的としています。

禁止メッセージではなく、建設的なコミュニケーションを学ぶ点が最大の違いです。このアプローチにより、参加者が疲弊せず主体的に学べる研修として注目を集めています。

比較項目 一般的なハラスメント研修 リスペクトトレーニング
目的 問題行動の防止 尊重し合う文化の醸成
進め方 講義・知識インプット中心 ワークショップ・ディスカッション型
学びの方向性 「してはいけない」行動の理解 「どうすればよいか」の実践思考

従業員エンゲージメントへの影響

リスペクトトレーニングは、従業員エンゲージメントの向上にもつながります。

社員が「この職場では自分が尊重されている」と感じられるようになることで、仕事への前向きさや主体的な関わりが生まれやすくなり、結果として定着にも良い影響を与える傾向があります。

要素 リスペクトトレーニングによる効果
モチベーション 相互理解により「自分の存在が認められている」と実感
離職率 安心して意見が言える環境により定着率が向上
組織文化 前向きで建設的なコミュニケーションの促進

マイナスを減らす対策から、プラスを育てる取り組みへ

多くの企業でハラスメント研修が実施されるようになり、やってはいけない言動や判断基準についての理解は、以前よりも進んできています。
しかし、取り組みが進むにつれて、新たな壁にぶつかる企業も増えています。

  • ハラスメントには該当しないが、職場の雰囲気が重い
  • 正論や業務指示が、人間関係の摩擦を生んでいる
  • 注意や指摘をためらう空気が広がっている

これらは、ハラスメント対策が一定程度進んだ組織だからこそ顕在化してきた課題とも言えます。

ハラスメント研修の次の一手としてのリスペクトトレーニング

  • 無配慮な言動に気づき、減らす
  • 敬意ある関わりを増やし、定着させる

この両輪を回すことで、萎縮せず、攻撃せず、対話できる職場文化が育まれていきます。

組織に必要な心理的安全性とは

心理的安全性という言葉が広く知られるようになりましたが、誤った解釈で、過度な気遣いに陥り、本音を言いづらい雰囲気を作り出してしまうことがあります。

しかし本来の心理的安全性とは、

・意見や疑問を表明しても不利益を被らない
・間違いや不安を共有できる
・立場の違いを超えて対話ができる

といった状態を指します。

一方で、発言を控えて関わりを最小限にすることは、心理的安全性が高い状態とは言えません。この点を踏まえると、ハラスメント防止を目的とした研修だけでは、職場の関係性づくりとしては不十分であることが見えてきます。

心理的安全性を高める効果

リスペクトトレーニングを取り入れた結果、チーム内で心理的安全性が高まったという声も聞かれます。心理的安全性は、Googleの調査でも注目された考え方で、安心して意見を出し合えるチームほど、成果につながりやすいことが示されています。

リスペクトトレーニングでは、相手の話を遮らずに聴くことや、最初から否定せずに受け止める姿勢を、実際のやり取りを通して体感します。こうした関わり方に慣れていくことで、会議や日常のコミュニケーションでも「発言しても大丈夫だ」という感覚が生まれ、自然と意見が出やすくなっていきます。

その結果、これまで表に出にくかった気づきや工夫が共有されやすくなり、チームとしての動きやすさや、組織全体の生産性向上につながっていくのです。

インシビリティ研修との関係

心理的安全性を考えるとき、「何をなくすか」と「何を増やすか」という、二つの方向から整理してみると見えやすくなります。

一つは、無配慮な言動や、悪気はなくても人を傷つけてしまう関わりに気づき、減らしていくこと。インシビリティ研修は、この部分に光を当てる役割を担っています。

もう一つは、敬意を前提とした関わり方を意識的に増やし、職場の当たり前として根づかせていくこと。これが、リスペクトトレーニングの役割です。

マイナスを減らすだけでは、職場の空気は中立に戻るだけかもしれません。プラスを育てる取り組みを重ねることで、安心して声を出せる土壌が、少しずつ育っていきます。

  • マイナスを減らす   インシビリティ研修で無配慮な言動への気づきを
  • プラスを増やす    リスペクトトレーニングで敬意ある関わりの定着を

気づくだけで終わらせず、どう行動すればよいかまで落とし込むことで、現場での実践につながります。

リスペクトを前提にした職場づくりという視点

ハラスメントやインシビリティの対策は、企業を守るために欠かせない施策です。ただ、「何をしてはいけないか」に意識が向きすぎると、職場全体がどこか張りつめた空気になってしまうこともあります。

「対話しやすさ」や「関係性の質」まで育てていくには、別の視点も必要になるのかもしれません。その一つとして注目されているのが、リスペクトを前提とした思考や言動を職場に根づかせていくアプローチです。

リスペクトとは、単に相手に同意することでも、優しく振る舞うことでもありません。

・意見が異なっていても、相手の存在や役割を尊重する
・指摘や注意を行う際も、人格や価値を否定しない
・立場や役割の違いがあっても、対話の余地を残す

こうした姿勢が、日常の言動にどれだけ反映されているかが、職場の安心感や関係性の質を大きく左右します。

リスペクトを浸透させることは、より良い職場文化を意図的につくっていくための積極的な取り組みと言えます。

リスペクトトレーニング導入時の注意点

リスペクトトレーニングは、職場文化を育てる有効なアプローチですが、導入の仕方によっては、期待した効果が十分に得られないこともあります。ここでは、現場に定着させるために事前に押さえておきたいポイントを整理します。

正解を出そうとしない

リスペクトトレーニングで扱うのは、「どちらが正しいか」を決めるテーマではありません。価値観や感じ方の違いといった、明確な正解のない領域を扱うことが前提となります。

そのため、議論の中で正解を導き出そうとすると、「正しいことを言わなければならない」「間違った発言をしてはいけない」という意識が働き、本音や率直な意見が出にくくなってしまいます。

大切なのは、正解を探すことではなく、「Aさんはこういう点を大事にしているのか」「自分とはこんなふうに捉え方が違うのか」といった相互理解を深めることです。

意見が異なった場合も、論破や評価を目的とするのではなく、違いそのものを知り、受け止める姿勢を共有することが、リスペクトの土台となります。

コミュニケーションを支える進行が重要

リスペクトトレーニングでは、参加者同士の対話が中心となります。そのため、単にテーマを提示するだけではなく、安心して意見を出せる場を整えることが欠かせません。そこで重要になるのが、ファシリテーターの役割です。

発言が特定の人に偏っていないか沈黙している参加者はいないか意見の違いが対立に発展しそうになっていないかこうした点に目を配りながら進行することで、多様な考え方や価値観を安全に引き出すことができます。

ファシリテーターの存在は、議論をまとめるためではなく、対話が成立する環境を守るためにあります。

具体的な事例をテーマにする

リスペクトトレーニングでは、テーマ設定も重要なポイントです。

あまりに抽象的なテーマでは、価値観の違いが見えにくく、「なるほど」で終わってしまうことがあります。

効果的なのは、実際に職場で起こった出来事、起こりうるコミュニケーション場面、日常業務の中で迷いやすい判断、といった、具体的な事例を題材にすることです。

具体的な場面をもとに考えることで、「自分ならどう感じるか」「なぜ違和感を覚えたのか」といった内省が生まれ、敬意ある関わり方を現場の行動に結びつけやすくなります。

リスペクトトレーニングのやり方【職場導入の実践手順】

この章では、実際に職場でリスペクトトレーニングを導入する際の進め方を解説します。研修を成功させるには、準備・進行・振り返りの3つの段階を意識することが大切です。

準備段階で決めておくこと(目的・対象・方法)

最初に、研修の目的と対象、実施方法を明確にします。ここで軸がブレると、トレーニングの方向性が曖昧になり、参加者にとっても「なぜやるのか」が見えにくくなります。

目的設定では、「職場の心理的安全性を高めたい」「ハラスメント防止文化を根づかせたい」など、具体的なゴールを定義しましょう。

検討項目 ポイント
目的 何を達成したいのか(例:職場の安心感づくり)
対象 全社員/特定部署/管理職など
方法 集合研修またはオンライン形式
講師 社内ファシリテーターまたは外部専門家

特に重要なのは、研修のファシリテーター(進行役)を誰が務めるかです。社内に心理的安全性を保ちながら意見を引き出せる人材がいない場合は、外部講師の活用を検討しましょう。

トレーニング当日の進め方(構成・時間配分)

リスペクトトレーニングの所要時間は、1回あたり60分程度が一般的です。以下のように「知識インプット」「ディスカッション」「振り返り」の3部構成にすることで、学びを深めやすくなります。

時間 内容
20分 リスペクト・ハラスメントの基礎知識(講義形式)
30分 ケーススタディとグループディスカッション
10分 振り返りと行動目標の共有

ディスカッションでは、実際の職場で起こりそうなケースをテーマに「リスペクトがあるかどうか」を議論します。テーマの例として、「上司が部下をニックネームで呼ぶのはどうか?」など、明確な正解がない場面を扱うと良いでしょう。この形式によって、参加者が自分の価値観を見つめ直す機会を得ることができます。

ファシリテーターの役割とポイント

リスペクトトレーニングの成否を左右するのは、ファシリテーターの力量です。ファシリテーターは、「場をまとめる人」ではなく、「多様な意見を引き出す人」として機能します。意見が対立した際にも、どちらが正しいかを決めるのではなく、「なぜそう思うのか」を引き出す姿勢が求められます。

正解を導くのではなく、理解を深めるための進行がカギです。

役割 求められるスキル
進行の舵取り 中立的な立場を保ち、偏りを防ぐ
質問力 深掘り質問で参加者の思考を促す
傾聴力 参加者の発言を遮らず最後まで聞く

日本企業や組織での導入事例

日本でも、リスペクトトレーニングを取り入れる企業や団体が増えています。

特に注目されたのは宝塚歌劇団での導入です。舞台業界でも、厳しい上下関係や指導文化が問題視される中で、Netflixの考え方を応用したリスペクトトレーニングが実施されました。

またNHKの制作現場では、リスペクトトレーニングの考え方を取り入れた取り組みが行われ、心理的安全性と創造性の向上を目的とした現場づくりに活用された事例があります。

これらの導入事例では、単なるハラスメント防止にとどまらず、組織全体の「対話文化」をつくる手段として機能している点が共通しています。

小企業で応用する際のヒント

リスペクトトレーニングは、大企業だけでなく中小企業でも導入可能です。むしろ、規模が小さい組織ほど、研修効果が現場に直結しやすいというメリットがあります。中小企業で実施する際は、外部講師を呼ばずに社内でファシリテーションを行う方法も効果的です。

例えば、月1回の「リスペクトミーティング」として短時間の対話時間を設けるなど、継続的な習慣づくりが鍵になります。形式よりも継続が成果を生むという点を意識して取り組みましょう。

実践方法 ポイント
月1回の社内対話会 短時間でも継続的に実施する
経営陣の参加 経営層の参加と当事者意識が現場の安心感につながる
テーマ共有シートの導入 議論内容を見える化し、改善サイクルを作る

まとめ|リスペクトトレーニングで尊重し合う職場文化をつくる

リスペクトトレーニングは、単なるハラスメント防止策ではなく、「尊重し合う文化」を根づかせるためのトレーニングです。

Netflixの制作現場で生まれたこの考え方は、映像業界を超えて職場のコミュニケーション改善の考え方としても注目され、日本でも類似の研修や取り組みに応用されつつあります。リスペクトトレーニングの実践を通じて、社員一人ひとりが「相手を理解する力」「自分の意見を伝える力」を身につけることで、心理的安全性の高い職場が生まれます。

その結果、チームの信頼関係が強化され、組織全体のパフォーマンスも向上します。大切なのは、一度きりの研修で終わらせず、継続的な対話の場としてリスペクトを育てていくことです。互いを尊重する文化は、組織にとって何よりの強みになります。

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