衛生管理者とは?資格・選任基準・業務内容をわかりやすく解説

衛生委員会

衛生管理者は、働く人の健康を守り、安全で快適な職場づくりを進めるうえで欠かせない存在です。
労働安全衛生法によって定められた国家資格であり、一定規模以上の事業場では必ず選任しなければならないと法律で定められています。

主な役割は、労働災害や健康障害の発生を未然に防ぐことです。職場の衛生環境の点検や労働者の健康管理、衛生教育の実施、衛生委員会の運営など、幅広い業務を担います。

常時50人以上の労働者を使用する事業場では、衛生管理者の選任が義務となっています。従業員数が増えたときや新たに事業所を立ち上げる際など、選任が必要になる場面も多く、急に対応を求められて戸惑う担当者の方も少なくありません。

今回は、衛生管理者の定義や選任の条件、資格の種類、具体的な業務内容をわかりやすく解説します。

衛生管理者とは

衛生管理者は、労働安全衛生法第12条第1項の規定により、事業場の規模に応じて選任が義務づけられています。

特に、常時50人以上の労働者を雇用している事業場では、必ず衛生管理者を選任しなければなりません。

製造業や建設業の現場では、粉じんや騒音、化学物質などによる健康リスクが常に存在します。
一方で、オフィスワーク中心の職場でも、長時間労働やストレス、姿勢の悪さなど、心身に負担をかける要因があります。

衛生管理者はこうしたさまざまな職場環境を把握し、リスクを減らすための改善策を実施する職場の健康管理を担っています。

衛生管理者の役割

衛生管理者の役割は、働く人の健康と安全を守るために、職場の衛生環境を管理・改善することです。
労働安全衛生法では、事業場の衛生に関する技術的な事項を担当する専門職と位置づけられています。
そのため、衛生管理者は現場の状況をよく知り、具体的にどのような改善を行うべきかを判断し、実際の行動に移すことが求められます。

法律で定められた衛生管理者の職務

衛生管理者の職務は、労働安全衛生法第10条第1項に定められた総括安全衛生管理者(事業場全体の安全衛生を統括する責任者)の職務の中から、衛生に関する部分を担うものとされています。
この衛生に係る技術的事項とは、専門的な医療知識や衛生工学に限らず、職場の健康保持・環境整備に関する具体的な取り組み全般を指します。

主な職務は次のとおりです。

健康に異常がある人の発見と対応

従業員の体調変化に気づき、必要に応じて産業医や上司に報告し、就業制限や医療機関受診の指示など適切な措置を取ります。
健康診断の結果や日常の観察から、心身の不調を早期に発見することが大切です。

作業環境の衛生調査

温度・湿度・換気・粉じん・照明など、作業環境の状態を調査します。
問題が見つかれば、環境測定や改善計画を実施し、快適で安全な職場づくりを進めます。

作業条件・施設などの改善

休憩所・トイレ・更衣室などの衛生施設や、作業場の設備に衛生上の不備がないか確認します。
必要に応じて改善を提案し、従業員の快適さと安全性を両立させます。

保護具や救急用具の点検・整備

マスク・防塵メガネ・防音保護具などの労働衛生保護具が正しく使われ、常に清潔で機能的に保たれているかを点検します。
救急箱やAEDなど、緊急時に備えた用具も定期的に確認し、使用期限や在庫を管理することが重要です。

特に、2024年4月の労働安全衛生法改正により、これまで努力義務だった保護具の着用が原則として義務化されました。化学物質による皮膚障害や吸収による健康被害を防ぐ目的で、保護手袋・保護衣・保護眼鏡・履物などの使用が法的に求められています。

衛生教育や健康相談の実施

従業員への衛生教育を企画し、健康に関する意識向上を図ります。
「熱中症対策」「メンタルヘルス」「感染症予防」など、季節や職種に応じたテーマを取り上げ、実践的な内容を伝えます。

労働者の健康データや統計の管理

欠勤や病気・労災などの発生状況を統計的に把握し、再発防止策を検討します。
衛生日誌や記録の整備も重要な業務のひとつです。

他の事業者と同じ場所で作業する際の衛生管理

複数の企業が同じ場所で作業を行う場合には、作業間で衛生上の支障が出ないよう、調整や共通ルールの策定を行います。
たとえば、工事現場などでの粉じん・騒音対策や、休憩スペースの衛生管理などが該当します。

職務上の記録の作成・保管

衛生日誌や巡視記録、教育実施記録など、日々の業務内容を記録・保存します。
これらの記録は、労働基準監督署の調査や企業の安全衛生管理の評価にも役立ちます。

安全衛生に関する方針の策定・周知

会社としての安全衛生方針を明確にし、従業員へ浸透させる支援を行います。
トップのメッセージや行動方針を具体的な取り組みに落とし込む役割です。

危険性・有害性の調査と対策

労働安全衛生法第28条の2や第57条の3に基づき、職場の危険・有害要因を特定し、リスクを低減するための対策を講じます。これは「リスクアセスメント」とも呼ばれ、現場改善の根幹となります。

安全衛生計画の策定・実施・評価・改善

年間計画を立て、実行・評価・改善を繰り返すPDCAサイクルを回します。
職場の安全衛生を継続的に向上させる仕組みをつくることが目的です。

衛生管理者の選任義務と人数の基準

衛生管理者の選任は、常時50人以上の労働者を使用する事業場で義務づけられています。ここでいう常時使用とは、正社員だけでなく、継続的に雇用しているパート・アルバイトなども含まれます。

必要な衛生管理者の人数は、事業場の規模に応じて次のように定められています。

事業場の規模(労働者数) 選任すべき衛生管理者の数
50~200人 1人以上
201~500人 2人以上
501~1,000人 3人以上
1,001~2,000人 4人以上
2,001~3,000人 5人以上
3,001人以上 6人以上

また、常時1,000人を超える事業場や、500人を超えるうち有害業務に常時30人以上が従事している事業場では、少なくとも1名を専任として配置しなければなりません。

選任のタイミングと手続き

総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告(厚生労働省)

従業員数が50人を超えた時点や、新たに事業所を設立した場合には、衛生管理者の選任義務が発生します。

選任後は14日以内に所轄の労働基準監督署へ衛生管理者選任報告書を提出する必要があります。

衛生管理者が病気や出張などで一時的に職務を行えない場合は、同等の資格を持つ者を代理者として選任できます。ただし、代理者の選任については届出義務は原則ありません。

衛生管理者に必要な資格

衛生管理者として選任されるには、労働安全衛生法に基づく免許を取得する必要があります。
衛生管理者の免許は次の3種類があり、事業場の業種や規模に応じて選任できる資格が異なります。

衛生管理者の免許の種類

① 第一種衛生管理者免許
すべての業種で衛生管理者として選任可能な資格です。
製造業や建設業など、有害物質や危険作業を伴う職場にも対応できます。

② 第二種衛生管理者免許
情報通信業や金融業など、有害業務が少ない業種に限定して選任できる資格です。
そのため、製造業や建設業など「有害業務」を行う職場では、この免許だけでは衛生管理者になることはできません。

③ 衛生工学衛生管理者免許
粉じん、騒音、放射線、高温・低温など、衛生工学的なリスクがある職場の管理に必要な資格です。
特に、高度な技術的知識を要する現場や大規模事業場で求められます。

業種別の選任基準

事業場の業種によって、どの資格を持つ人を衛生管理者に選任できるかが決められています。
業種 選任できる資格
農林畜水産業、鉱業、建設業、製造業(加工業を含む)、電気業、ガス業、水道業、熱供給業、運送業、自動車整備業、機械修理業、医療業、清掃業 第一種衛生管理者免許または衛生工学衛生管理者免許、もしくは医師・歯科医師・労働衛生コンサルタントなど
上記以外の業種(情報通信業、金融業、サービス業など) 第一種衛生管理者免許、第二種衛生管理者免許、衛生工学衛生管理者免許、または医師・歯科医師・労働衛生コンサルタントなど
ポイント:
第二種衛生管理者免許しか持っていない場合、製造業や建設業などの有害業務に関わる職場では衛生管理者として選任できません。

衛生工学衛生管理者が必要となる事業場

次のような規模・業務内容の事業場では、衛生管理者のうち少なくとも1名を衛生工学衛生管理者から選任する必要があります。
  • 常時500人を超える労働者を雇用している事業場で、
  • かつ次のような「有害業務」に30人以上が常時従事している場合。

有害業務の例(労働基準法施行規則第18条より)

  • 高温・低温など、極端な温度環境での作業
  • 放射線(ラジウム、エックス線など)にさらされる作業
  • 粉じんや獣毛などが大量に飛散する環境での作業
  • 気圧が異常に高い・低い環境での作業(潜水・高所など)
  • 鉛・水銀・砒素・ベンゼンなどの有害物質を扱う作業
これらの職場では、一般的な衛生管理の知識に加えて、衛生工学や労働衛生の専門的な知識をもつ人材が不可欠です。

専任が求められる衛生管理者の配置基準

次の事業場では、衛生管理者のうち1名以上を専任として配置しなければなりません。
  • 常時1,000人を超える労働者を使用する事業場
  • 常時500人を超える労働者を使用し、かつ有害業務に30人以上が従事している事業場
専任とは:
他の業務と兼務せず、衛生管理業務に専念することを意味します。
大規模な事業場では、安全衛生活動を確実に実施するために、専任体制が求められます。

資格を持つことができる人

  • 都道府県労働局長の免許を受けた者(第一種・第二種・衛生工学)
  • 医師または歯科医師
  • 労働衛生コンサルタント
  • その他、厚生労働大臣が定める者

代理者の選任について

衛生管理者が旅行や病気、事故などやむを得ない理由で一時的に職務を行えない場合は、代理の衛生管理者を選任する必要があります。
代理者は衛生管理者と同等の資格を持つ者が望ましく、短期間であっても衛生管理体制が途切れないようにすることが求められます。

衛生管理者に必要な資格は、職場の規模・業種・リスクレベルによって異なります。
第一種はすべての業種に対応、第二種は比較的安全な業種向け、そして衛生工学衛生管理者は高度な専門知識を必要とする有害業務向けです。

いずれの場合も、職場の安全と健康を守るためには、法令に沿った適正な資格者の選任が欠かせません。
適切な衛生管理者を配置することが、働く人の健康を守り、企業の信頼を支える第一歩となります。

選任を怠った場合の罰則

衛生管理者を選任しなければならない事業場で、義務を怠った場合には労働安全衛生法第120条に基づき、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

また、衛生管理者を配置していない状態で労働災害や健康被害が発生した場合、事業者が安全配慮義務を果たしていないとみなされ、損害賠償を請求されるリスクもあります。従業員数が50人に近づいた時点で、早めに衛生管理者の選任準備を進めておきましょう。

おわりに

衛生管理者は、働く人の健康と安全を守るために欠かせない存在です。

選任や資格の要件はやや複雑に感じるかもしれませんが、目的は一貫して「安心して働ける職場環境をつくること」にあります。

労働者がいきいきと働ける職場づくりのためには、法令遵守だけでなく、日々の職場の小さな変化に気づき、改善を積み重ねることが大切です。

企業の信頼や生産性を高めるうえでも、衛生管理者の役割はこれからますます重要になっていくでしょう。

参考
安全衛生キーワード|衛生管理者(厚生労働省)
衛生管理者について教えて下さい。(厚生労働省)

 

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