男性更年期障害について知ってますか?症状と職場でできる支援策
働く男性の健康課題として注目される「男性更年期」。企業ができる支援をまとめました。
「更年期障害」と聞くと女性の疾患というイメージが強いかもしれませんが、近年、働く男性の健康課題として男性更年期障害が注目されています。
2025年6月、政府は「骨太の方針」に男性更年期障害への対応を初めて明記し、調査・啓発を強化する方針を示しました。欠勤などによる経済損失は年間約1.2兆円と試算され、企業や社会全体での対策が求められています。
女性の更年期障害は社会的認知が広く進んでいますが、男性の場合は症状や原因が十分に理解されておらず、職場で気づかれにくい傾向があります。身体症状や精神的な不調が生じ、仕事のパフォーマンスにも影響を与えることがあるため、企業として適切に認識し支援する体制づくりが求められています。
男性更年期障害とは何か
男性更年期障害は、加齢に伴うテストステロンの低下によって生じる医学的状態で、「LOH症候群:ロー症候群」とも呼ばれ中高年男性の6人に1人が隠れ更年期の可能性があると言われています。しかし、男性更年期は認知度が低く、社会的理解が進んでいないのが現状です。
女性の更年期が急激なホルモン低下に起因するのに対し、男性の場合は緩やかで、加齢だけでなくストレスや生活習慣の影響を受けやすいことが特徴です。
男性更年期は、テストステロン(男性ホルモン)の低下によって生じる身体・精神・性機能の変化で、加齢だけでなく過労・人間関係・環境ストレスが大きな要因になります。
代表的な症状として、次のようなものが挙げられます。
代表的な症状
- 意欲低下や気分の落ち込み
- イライラ感や怒りっぽさ
- 集中力・判断力の低下
- 性欲低下やED症状
- 疲労感や全身の倦怠感
- 睡眠障害(不眠傾向)
これらの症状は、生産性や人間関係に影響を与え、本人も周囲も原因に気づきにくいことがあります。特に働き盛りの年代では、年齢や性格のせいだと捉え、放置してしまうケースも見受けられます。
重症化を防ぐために個人ができること
男性更年期障害は適切な対策によって改善することが期待できます。重要なことは、症状を放置せず、自身の変化に気づきやすい環境を整えることです。生活習慣の見直しやストレス管理は基本的な対策であり、飲酒や喫煙、運動不足はホルモン低下を促す要因となるため注意が必要です。
- ⚪ 生活習慣の見直し(運動・睡眠・栄養)
- ⚪ 飲酒・喫煙の抑制
- ⚪ ストレス管理(休息や相談)
- ⚪ 症状が長引く場合は泌尿器科や専門外来を受診
症状が継続する場合には、泌尿器科や男性更年期専門の外来を受診し、医療的アプローチを検討することが望ましいと考えられます。判断に迷う場合は、まず相談してみることが大切です。
職場における男性更年期障害の影響
男性更年期は30代後半〜50代の働き盛りに発症しやすいことから、企業にとって以下のリスクにつながります。
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生産性低下(集中力の低下、ミス増加)
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管理職の疲弊、意思決定の質低下
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パワハラ・感情的対応の増加
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メンタルヘルス不調・退職
しかし、本人に自覚がなく相談につながらないことが多く、職場の影響が「見えにくい」点が特徴です。
男性更年期障害は個人の健康だけではなく、組織全体のパフォーマンスにも影響を及ぼす可能性があり、特に役職者やリーダー層に症状が生じる場合、意思決定の遅れやコミュニケーションの不調和につながることがあります。
症状を本人が自覚しにくく、職場への申告も行われにくいため、企業としては潜在的なリスクとして認識しておくことが大切です。
企業として取り組むべき支援策
男性更年期障害への対応は、従業員の健康保持増進の観点だけでなく、心理的安全性の確保や職場の生産性向上にも関係します。企業施策として次の取り組みが考えられます。
情報提供と啓発
男性更年期障害に関する基本的な知識を周知し、症状や原因、受診のタイミングについて情報提供することが重要です。正しい理解が広がることでセルフケアが促進され、早期相談につながる可能性があります。
相談しやすい環境づくり
悩みを抱えたまま業務を続けることは、精神的な負担につながります。産業保健スタッフや外部相談窓口を活用し、気軽に相談できる環境を整備することが望ましいと考えられます。
ストレス関連施策の強化
ストレスはテストステロン低下に影響を与えるため、過重労働の是正やコミュニケーション改善、マネジメント支援などの施策は、男性更年期障害の予防にも寄与します。また、管理監督者研修などでLOH症候群の知識を共有しておくことで、当事者になった場合、症状に気づくきっかけにつながります。
役割や居場所、やりがいの支援
自分の存在が認められる居場所や、仕事の中にやりがいを見いだせる役割を持つことは、男性更年期障害の改善に重要であると考えられています。前向きに取り組める対象や、自分の存在が認められる環境は、メンタル面の安定やストレス軽減につながるとされています。
テストステロンとの直接的な関係は明確ではありませんが、こうした心理的支援は間接的に症状緩和を後押しする可能性があります。
企業における役割や居場所の確保は、通常のメンタルヘルス施策とも重なる重要な取り組みです。適切な仕事の割り当てや裁量権の付与、成果の承認などにより、従業員の心理的ウェルビーイングを支えることができます。特に中高年層においては、キャリアや役割の再設計が必要となるケースもあります。
更年期障害への取り組みは、組織文化を育てる取り組み
更年期障害は、男女問わず働く年代に広く見られる健康課題であり、決して特殊な問題ではありません。個人としてセルフケアを行うと同時に、企業として情報の提供を行い、支援環境を整えることで、症状の悪化を予防できる可能性があります。
役割や居場所の確保、心理的安全性の向上、キャリア支援などの取り組みは、男性更年期障害への支援として有効であると同時に、組織全体のエンゲージメント向上にもつながる重要な要素です。
男性更年期障害に関する理解と支援を進めることは、特別な対応をするというよりも、従業員の多様なライフステージを尊重し、誰もが安心して働ける環境を整えていく取り組みと言えます。男性更年期障害は、まだ十分に認知されていない領域ではありますが、企業が柔軟に対応することで、従業員が「安心して働き続けられる組織」を実感できるようになると考えられます。
