心理的安全性を高める方法・低い職場の原因・測定方法とは?

職場環境改善

心理的安全性とは“Psychological safety”の日本語訳であり、チームや組織において、メンバーが安心して自分の意見や考えを表明できる状態を指します。近年、心理的安全性の重要性が注目されており、多くの企業がその向上に取り組んでいます。

「心理的安全性」はなぜ注目されている?

「心理的安全性」が注目されるようになった背景には、米国のGoogleが2012年から実施した「プロジェクト・アリストテレス」という生産性向上の取り組みがあります。このプロジェクトでは、自社の数百のチームを対象に分析を行い、高い生産性を持つチームの特徴を探りました。

その結果、チームメンバーの能力や働き方だけでなく、他者への配慮や意見を自由に言える環境が生産性に大きく影響していることが分かりました。「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」のほうが重要であると結論づけられたのです。

2016年にこの研究結果が発表されて以来、心理的安全性への関心が高まっています。特に、Googleの研究成果が注目を集めたことに加え、テクノロジーの急速な進展に伴い、多くの企業が効率的かつ生産性の高い働き方を求めるようになったことも影響しています。

参照:「効果的なチームとは何か」を知る|Google re:Work

なぜ心理的安全性が必要なのか

心理的安全性が高いと組織に以下のような効果が生まれます。

1.エンゲージメントとやる気が向上する
2.よりよい意思決定につながる
3.継続的な学習と改善の文化が育まれる

これらの要素は、企業のパフォーマンス向上や持続的成長に寄与します。

心理的安全性がもたらすメリット

一人ひとりの個性が活かせる

自由な発想や意見交換が活発になることで、個々の能力を最大限に発揮できます。また、率直なフィードバックが飛び交うことで、個人の成長やスキルアップにもつながります。

エンゲージメントの向上

心理的安全性の高い組織では、自分の意見や存在が尊重されることで、メンバーは組織やチームへの帰属意識を高めます。これにより、メンバーのエンゲージメントが向上し、組織への貢献意欲も高まります。

人材の定着率向上

心理的安全性の高い職場では、メンバー間の人間関係の質が良くなり人材の定着率が向上します。組織全体の離職防止対策となることにより、企業は採用や育成にかかるコストを削減し、安定性を高めることができます。

心理的安全性が高まれば、生産性が高まり、組織は安定する。これは、多くの企業が目指す理想的な状態ですが、実際にそれを実現することは簡単ではありません。具体的にどのような要因が心理的安全性を低下させるのでしょうか?

心理的安全性を低下させる要因

心理的安全性の重要性は理解されているものの、理想と現実の間には多くの課題が存在します。では、どのような要因が心理的安全性を低下させ、組織やチームの機能に悪影響を及ぼすのでしょうか?

エイミー・エドモンドソン氏は、心理的安全性を低下させる要因として「4つの不安」(無知と思われる不安・無能と思われる不安・邪魔と思われる不安・ネガティブと思われる不安)をあげています。

  • 無知だと思われる不安
    →質問や相談をすることで、自分が無知だと思われることへの不安
  • 無能だと思われる不安
    →ミスや失敗、欠点を認めることで、自分が無能だと思われることへの不安
  • 邪魔をしていると思われる不安
    →発言や提案をすることで、自分が邪魔をしていると思われることへの不安
  • ネガティブだと思われる不安
    →発言や提案をすることで、他人を否定していると思われることへの不安

心理的安全性が低い職場に起こり得ること

心理的安全性が低い職場では、従業員は上記のような様々な不安を抱え、発言や提案を控える傾向があります。これは、組織全体の活性化を阻害し、創造性や生産性の低下につながる深刻な問題です。

心理的安全性が低いチームでは、以下のような様々な問題が発生する可能性があります。

1. コミュニケーションの低下

  • 率直な意見やアイデアが出にくくなり、表面的な情報共有に終始する。
  • 質問や相談がしづらくなり、問題が潜在化しやすい。
  • 誤解や認識のズレが生じやすく、チーム内の連携がスムーズにいかない。
2. パフォーマンスの低下
  • 新しいことへの挑戦やリスクを取ることを避け、現状維持に留まりやすい。
  • ミスや失敗を隠蔽しやすく、改善や学習の機会を逃す。
  • 創造性やイノベーションが生まれにくく、チーム全体のパフォーマンスが低下する。
3. メンタルヘルスの悪化
  • 常に周囲の目を気にしたり、批判を恐れたりすることで、精神的なストレスが大きくなる。
  • 不安や孤独感を感じやすく、メンタルヘルスの不調につながる。
  • 最悪の場合、うつ病などの精神疾患を発症するリスクも高まる。
4. 組織全体の悪影響
  • 上記のような問題が積み重なることで、組織全体の生産性や創造性が低下する。
  • 優秀な人材の流出を招き、組織の競争力を損なう。

これらの問題は、チームの目標達成を阻害するだけでなく、メンバー一人ひとりの心身にも悪影響を及ぼします。心理的安全性を高めることは、チームのパフォーマンスを向上させ、メンバーのウェルビーイングを促進するために不可欠です。

では、現実にはどのような問題が生じるのか、具体的なケースを通して考えてみましょう。

具体的に起こる問題の例

せっかくアイデアを思いついても、どうせ周りの人たちに否定されるだけだし…

例1)製品開発チームで、メンバーが自分のアイデアを自由に発言できない雰囲気の場合、競合他社に先駆けて革新的な製品を開発するチャンスを逃してしまう。

初めての作業で、手順間違えたかもしれない、このミスが原因で、ラインが止まったらどうしよう…

例2)製造現場で、作業員がミスを報告することを恐れる場合、小さなミスが大きな事故につながり、人的・物的損失が発生する。

この前、ちょっと違う意見を言ったら、相手がすぐに感情的に反発してしまったから、もう発言するのはやめておこう…

例3)従業員が新しい事業アイデアを提案することを躊躇する場合、市場の変化に対応できず、事業機会を失ってしまう。

心理的安全性の欠如は、目に見えない損失を生み出し、組織全体の成長を阻害してしまうのです。

心理的安全性が低い職場の診断方法

では、心理的安全性はどのようにして測れるのでしょうか?
エイミー・エドモンドソン氏が開発した7つの質問項目が、心理的安全性評価の基準として広く活用されています。

心理的安全性に関する質問票

      • このチームでは、ミスをしても責められることはない。
      • このチームのメンバーは、問題点や難しい課題を提起することができる。
      • このチームでは、人と違うことを受け入れることもある。
      • このチームでは、リスクを冒しても安全性が保たれる。
      • このチームでは、他のメンバーに助けを求めやすい。
      • このチームでは、意図的に私の努力を損ねるような行動を取る人はいない。
      • このチームのメンバーと一緒に仕事をしていると、私にしかないスキルや才能が評価され、活かされる。

これらの質問に対し、「強くそう思う」「そう思う」「どちらとも言えない」「あまりそう思わない」「そう思わない」の5段階評価などで回答してもらうことで、チームの心理的安全性の程度を把握できます。

この質問への解答で、メンバーがどの程度、心理的安全性を感じているかおおよそ把握することができるでしょう。しかし、エイミー・エドモンドソン氏は、スコアは決定的なものではなく、重要なのは現状との差異であると注意を促しています。アンケートに回答する人は、自分の期待と照らし合わせて意見を述べています。例えば「強くそう思う」と答えた場合、それは「こうあるべきだ」という考えと関連しています。

アンケートから得られた情報は、現状との違いも改善のポイントとなる点を考慮して、リーダーがチームの経験を振り返り、改善のために何を変えられるかを前向きに考える材料として活用することが推奨されています。

心理的安全性のよくある誤解

心理的安全性は誤解をまねきやすいフレーズです。
エイミー・エドモンドソン氏は心理的安全性によくある誤解として以下の2つを挙げています。

気配りが過剰になってしまう

表面的な優しさだけでは心理的安全性の構築には繋がりません。実際、互いに気を遣い合うものの、率直な意見交換ができない職場は少なくありません。このような職場では、過度な気遣いが逆に率直なコミュニケーションを阻害し、本音を言いづらい雰囲気を作り出してしまいます。「残念ながら、職場の『優しさ』が『曖昧な物言い』と同義になってしまっているケースは少なくありません」とエイミー・エドモンドソン氏は警鐘を鳴らしています。

快適さと心理的安全は同義ではない

心理的安全性とは常に快適さを伴うものであり、ミスを指摘するような発言は避けるべきだと考える場合、それは誤解です。失敗を受け入れること、ミスの指摘は、しばしば不快な経験です。弱点を見せることにはリスクが伴いますが、重要なのはそのリスクを取ることができる安全な環境、つまり人間関係に悪影響を及ぼさないと確信できる状況が整っているかどうかです。

個人でできる取り組み

エドモンソン氏は、チームの心理的安全性を高めるために個人にできる取り組みとして、次の 3 点を挙げています。

1.仕事を実行の機会ではなく学習の機会と捉える
2.自分が間違うということを認める
3.好奇心を形にし、積極的に質問する
・「仕事を『実行の機会』ではなく『学習の機会』と捉える」とは、仕事における目標を成果を出すことだけではなく、自身の成長や学びを得ることにも置く、という考え方です。
・「自分が間違うということを認める」ということは、完璧主義を捨て、自分の不完全さを受け入れるということです。しかし、それは単に「自分はダメだ」と卑下することではありません。自分がミスをする可能性を認識し、また、他者に対しても、同様にミスを犯す可能性がある存在として理解することが大切です。
・「好奇心を形にし、積極的に質問する」とは、未知の領域に踏み込み、積極的に学び、成長しようとする姿勢です。自分の知識や経験にとらわれず、新しい情報や意見を受け入れることで固定観念にとらわれない、自由な発想が生まれます。
心理的安全性を高めるには、難しい理論よりも、自ら積極的に行動し、失敗から学ぶ姿勢が重要です。現状に課題が多くても、一人ひとりが意識を変えることで、状況は必ず改善できます。

企業ができる取り組み

心理的安全性の高いチームを作るために、企業ができることは多岐にわたります。具体的な施策を以下にまとめました。

リーダーシップの強化

  • リーダーの意識改革: リーダーが心理的安全性の重要性を理解し、積極的に自己開示をし、メンバーの意見を尊重し、ミスを学びの機会として捉える姿勢を示します。 失敗を学びの機会と捉え、メンバーがリスクを取ることを奨励します。失敗を責めるのではなく、改善策を考えることに焦点を当てます。
  • リーダーシップ研修: リーダー向けに研修を行い、心理的安全性を高めるための具体的なスキル(コーチングやフィードバックの技術など)を習得します。

 コミュニケーションの促進

  • 定期的な1on1ミーティングやチームミーティングを行い、自由に意見交換できる場を設けます。メンバーが自由に意見を言える環境を作り、質問やフィードバックを歓迎する姿勢を示します。

制度・仕組みの整備

  • 評価を気にして思い切った意見を言えないメンバーもいるため、プロセスや貢献度を評価する制度を導入します。心理的安全性を評価項目に加えることも検討します。

心理的安全性の測定と改善

  • 定期的なアンケート調査: 心理的安全性を定期的に測定し、結果をチームにフィードバックして改善に向けた話し合いを促します。
  • 専門家によるサポート: 心理的安全性の専門家を招き、研修やワークショップを行い、組織全体の課題分析や改善提案を行います。

心理的安全性の向上は、組織内の小さなグループがいかにうまく機能するかにかかっています。これらの施策を組み合わせることで、心理的安全性を高めていくことができます。重要なのは、トップダウンだけでなくボトムアップの取り組みも進め、組織全体で心理的安全性について理解し、生産性を高める意識を持つことです。

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記事監修

精神科医専門医・日本医師会認定産業医。
川崎医科大学卒、1988年渡辺クリニック(2018年改称)を開設。
その後、厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の在り方検討委員会」委員、内閣府「自殺対策官民連携協働会議」委員、公益財団法人日本精神神経科診療所協会会長など歴任。
現在、医療法人メディカルメンタルケア横山・渡辺クリニック名誉院長、大阪大学医学部神経科精神科非常勤講師、一般社団法人日本精神科産業医協会共同代表理事ほか。
ストレスチェック法制化においても、厚生労働省「ストレスチェック制度に関する検討会」「ストレスチェック項目に関する専門検討会」「ストレスチェック制度マニュアル作成委員会」などの委員を務める。

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